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068_研修所13 龍王城の料理人


 知らないうちにショウにによって命を救われていたフーリュ。

 当の本人は放心状態にあった。


 ラシルと屋上で出会い、ラシルとは知らずにたくさん生意気なことを言ってしまった。

 本人の前で、本人が怖いなどと口走ってしまった時のことを思い出すと顔が青くなり、鳥肌が立つ。

 また、その後の指輪を下賜された時のことを思い出すと顔が真っ赤になる。

 他の事など考えられず、屋上での記憶がさっきからずっとループしていた。

 顔が青くなったり赤くなったりを繰り返す。


 ブカツから帰って来たアムたちと合流し、一緒にお風呂に入っている時もずっと一人ボーっとしていた。

 アムやメビイからどうしたのと聞かれても、上手く答えることが出来なかった。

 何から、どうやって伝えたらいいか、まだ記憶の整理が出来ていなかった。 

 放心状態のまま、アムの後をついて行き、お風呂に入った。

お風呂のリラックス効果もあったせいか、ポカーンとなっていた。

アムとメビイが今日の出来事を興奮気味に話しているのも、全然頭に入って来なかった。

 アムに言われるがまま浴槽から出て、体と髪を洗い、また湯に浸かって、お風呂から上がった。


 部屋に戻って一息つき、夕食に向かう頃にはだいぶ落ち着いてきた。

 冷静な心で、ある一つの事を決めた。

 ラシル様との話をみんなに伝えよう。



 いただきます。

 これは龍王城から戻ったリンシン達が広めた言葉だった。


 龍王城へ料理を習いに行きたいという人はかなりいたらしく、各研修所を合わせて総勢100人程度にのぼったそうだ。


 昼食の時間に研修所に帰って来なかったリンシン達は、そこで昼食をご馳走になった。

 ドラゴンナイト様たちと一緒に食べる時に、教わったのだそうだ。

 食事をいただく前に、神であるラシル様に祈る。

 その終わりに、食べ物に対して感謝を込めて発する言葉。


 それがいただきます。


 他のテーブルでも、祈りの言葉といただきますが聞こえた。

 この風習はどの研修所でも広まっているだろう。


 ご飯を食べ始めるとすぐに今日の出来事の報告会になった。


「リンシンとシェンリは今日どうだった?」とメビイ。


「ヤバかった」


「龍王城?」


「龍王城もだけど、全部」


「へぇー」


 リンシンとシェンリは今日あったことを話し始めた。



 リンシン達は龍王城へ連れて行ってもらった。

 外見と同じで中も広くて豪華なお城だった。

 龍王城内は原則転移が禁止されているので、キッチンに辿り着くまでに時間がかかった。

 しかしそのお陰で城の中を見学することができたのでみんな嬉しかった。

 案内された先には広大なキッチンがあり、ドラゴンナイト様が料理を作っていた。

 その巨大なキッチンは全部で10個もあるのだそうだ。

 見たこともないような、ピカピカの金属や何十種類とある包丁、形や用途の違う鍋や笊。

 料理を覚える前に調理器具を覚えるのが大変そうだとシェンリは思ったという。


 訓練の時と同じように、いくつかの班に分かれての行動。

 班の人数は5人。

 ドラゴンナイト様や神仙様が先生となり、調理の見学をした。

 彼らは料理の腕に誇りを持っている。

 ラシル様の御口に入るものだから、品質や味、全てが最高のものでなければならないという考えなのだそうだ。

 食べたいものを聞かれたリンシンたち。

 1週間のメニューを振り返り、色々と話し合ったが、結論は出なかった。

 ここの料理であれば何でもおいしいので、逆に先生が一番おいしいと思う料理を食べてみたいという意見で一致した。

 先生に聞くと、先生は天婦羅定食と答えた。


「テンプラテイショクですか?」


「うん。肉料理も好きなんだけど、やっぱり天婦羅かな」


「ではそれをお願いします!!」


 リンシンたちのお願いを聞き入れてくれた先生は、さっそく料理を開始した。

 何もない空間からどんどん材料を出していく。

 出てきたのは主に野菜、主食の米ともう一つは見たことのない食材だった。

 一方の端っこが赤くて、透明な身はブヨブヨしていた。


「これ、何ですか?」


「エビ。海の生き物だよ」


「海!!」


 火国、水国、木国、土国、どの国も海に面しておらず、誰も見たことのない場所だった。


「テンプラは一度か二度、研修所の食事で出たんじゃないかな」


「どういうものですか?」


「黄色い衣につつまれた、サクサクのやつ。たしか天丼で出てた気がする」


「あ! あれですね」


 何人かがピンときたようだった。


 先生はまずお米の下ごしらえから始めた。

 笊に入れたお米を水で洗い流す。

 ただ洗い流しているだけではなくて、お米を磨ぐという作業なのだそうだ。

 鉄のボールに移したお米に水を入れ、蓋をして火にかけた。

 次に野菜を切っていった。

 切った断面はとても美しかった。


 別の鍋でお湯を沸かし、そこに切った野菜の一部を入れて煮る。

 しばらくして、茶色くてべとべとした食材を入れて、お湯に溶かした。

 ミソというらしい。

 ミソ汁が完成。

 エビや野菜に衣を付け、油でいっぱいのボールに入れていく。

 油は高温で、入れるとすぐに料理が終わった。

 温度と時間が大事なのだという。

 

 炊き立てのご飯、熱々の味噌汁、そしてテンプラがあっと言う間に完成。

 それをまた何もない空間に収納していく。


 お昼にはまだ時間があるのでもう一品作るという。

 先生は貴重な卵を取り出してボールに割り、混ぜ始めた。

 次々と白い材料を加えていく。

 さらさらした白い砂のようなものやミルクのような白い液体。

 それを熱したり冷ましたりしながら掻き混ぜていった。


「何を作っているんですか?」


「秘密」


 先生は楽しそうに笑った。


 先生は専用の容器にそれを分けて入れた後、大きな箱の中に閉まった。

 あとは待つだけだという。


 料理が出来るのをまっている間、私たちは先生に沢山質問した。

 料理人になるためにはどうしたらいいかとか、どうすれば美味しい料理を作れるようになるかといったことだ。

 先生は料理に必要なのは愛情だとおっしゃった。

 もちろん食材や料理に関する知識も必要だけど、そういうのはやっていれば身に付く。

 それよりもやっぱり気持ちの問題なのだそうだ。

 美味しいものを食べたい、そして食べさせたいという想い。


 先生はこれからのことやシステムについても話してくれた。

 ここで料理を学びたいのであれば、訓練が終わった後、部活という形で料理教室をやっている。

 夕方から夜まで学びたい人は学びに来れるようにするという。

 また、土日もこういった形で料理教室を開催するので、参加できるとのこと。

 訓練期間中にいくつかの簡単な料理の作り方を学んでもらう。

 仙術が使えるようになれば、訓練のメニューに農業も入って来る。

 食材作りから調理までを学べるようになるそうだ。


 そして更に興味がある人は訓練期間終了後、引き続き今度は料理の訓練という形で龍王城に住み込みで働くことができるとのこと。


「リンシン」


「シェンリ」


 二人は名前を呼び合い、見つめ合って頷いた。

 明確な目標が出来た瞬間だった。


 また、料理人にはランクがあり、それは胸についている星の数で決まるという。

 料理には種類があり、作ることができる料理の種類によって星の数が決まるそうだ。

 先生の星は4つだった。

 幹部の方に出す食事は3つ星以上のシェフが。

 星が5つ以上になって試験に合格すると、ラシル様が召し上がられる料理を作ることができるのだという。


「面白いシステムですね」


「料理の世界は奥が深いからね。私もまだまだ勉強中さ」



 お昼ご飯の時間になった。


 先生は空間にしまっておいた料理を取り出して、みんなの前に並べた。

 これは収納という術で、本来はアイテムなどを入れておく術だという。

 ナカムラ先生も同じ術を使って武器を取り出していた。

 この術が優れている点は、閉まっている間は時間の経過を止めることができる。

 つまり、料理をしまっておけば取り出したときは熱々の作りたてになるという。

 

 いつでも料理が食べられるように、先生方は作り置きを沢山する。

 料理を専門につくるシェフの方々が、ラシル様の民の方々、ギルドメンバーの調理を任されている。

 沢山作っておいて困るものではないので、朝から晩まで働いているという。

 研修所で提供される料理も、沢山作り置きをしていたもの。


「いただきます」


 先生から祈りの言葉を教えてもらい、食事が始まった。

 お箸を使っての食事。

 いままで何度か使ったことがあるものの、みんなあまり上手に使えない。


「美味しい!! これ、美味しいです!!」


「サクサクで、味が面白い!!」


「このテンツユってなんですか?」


「秘伝のタレみたいなものだよ」


「塩もいいですけど、私はテンツユのほうが好きです」


 昼食は大いに盛り上がった。

 食後にはデザートが出てきた。

 アイスクリームだった。


「これが先生の言っていた、もう一品ですか?」


「そう。スイーツだよ」


「これも研修所で食べたことがあります。とっても美味しい!!」


「スイーツ専門のシェフもいるんだよ。私はまだあまり得意じゃないんだけど」


「へぇ~」


 スイーツを満喫して少し休憩を挟んだ後、実習に移った。

 先生が来ていた白い服と白い帽子をそれぞれもらい、私たちはそれに着替えた。

 卵焼きというオムレツのような料理を一人で作る。

 まずは先生がお手本を見せてくれた。

 手順は簡単で、とてもシンプルな料理だった。

 

 一人一人作っていったが、誰一人として先生のように上手くできなかった。

 リンシンも少し焦がしてしまったし、シュンリの作ったものは味が薄かった。

 作ったものをみんなで試食して、先生からアドバイスをもらった。


「手順は簡単なんだけどね、難しいのさ。火加減に注意するといいよ」


 再度、先生のお手本を見た。

 最初の時よりも、みんなの見る目は真剣になっていた。

 先生がどのタイミングで溶いた卵を入れ、どんな火加減かをチェックした。

 また一人ずつ作ってみると、最初の時よりも上達していた。


 楽しい実習が終わり、その後は帰る時間まで先生方の調理現場を見学した。

 先生方はチームになって機敏に動き、次々と料理を完成させていった。

 それはまるで魔法のようだった。

 見学者たちは目をキラキラと輝かせ、その作業に見入った。



 話し終えたリンシンとシェンリの顔は上気していた。


「それでね、これから毎日料理を学べることになったの」とリンシン。


「明日も行くんだ」とシュンリ。


「それは凄いね。研修所の料理も早く作れるようになるといいね」とメビイ。


「無理だよー。覚えなきゃいけないこと沢山だもん」とシュンリ


「でも楽しかったんでしょ?」とメビイ。


「うん。すっごく楽しい」とリンシン。


 二人は料理人になることを決め、研修所での訓練が終わった後も、修行をするためにここに残ると決めたそうだ。


 それからアムとメビイがブカツの話になった。

 セシュレーヌ様とメルバコル様の試合の様子や、その後の戦闘訓練の内容を詳しく聞いた。

 メイユが図書室で読んだ本の話も興味深かった。

 ある一定の強さになると、戦闘技術よりも知識が必要になると神仙さまに言われたのだそうだ。

 仙術を使うにあたっての法則を理解しておく必要がある。

 メイユは時間がある時は、図書室で読書と勉強をするという。


 みんな少なからず目標や目的といった、進みたい方向を見つけ始めている。

 フーリュは自分はどうだろうかと振り返った。

 まだ明確ではない。


「それで、フーリュは? 今日一日どうだった?」

 リンシンが無邪気に聞いた。

 

「うん……」


「どうしたの?」


「お風呂の時から元気がないんだよね」とメビイ。


「そうなの?」


「みんなに話さなきゃいけないことがあるんだ」


「何? どうしたの? 改まって」


「私ね、セシュレーヌ様とメルバコル様の試合の後、屋上に一人で残って少し考え事してたんだ」


「それで? 何か見つかったの?」


「見つかったと言えば、見つかったかな。その時にね、ある方が屋上にたまたまいらっしゃって、その方とお話をしたの」


「どんな話?」


「研修所のこととか、訓練のこととか、これからどうするかとか」


「へぇー。で、その方って誰なの?」


「その方はね、屋上まで飛んでいらっしゃったの」


「あー、じゃあナカムラ先生?」


「違う……」


「他の神仙さま?」


「……でもない」


「誰さ。もったいぶらないで早く教えてよ」


「驚かないでね?」


「驚かないよ。もうここの暮らしで驚くことばっかりだから慣れちゃった」


 うんうんと他のみんなも頷く。


「言うよ?」


「うん」


「……ラシル様」


「えーーーーーー!!!!!」


 フーリュを除く、5人の上げた悲鳴に近い大声によって、食堂は静まり返った。





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