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067_女性幹部会議3 指輪の件


 ショウは多忙だった。

 戦争終結後の事後処理。

 一言で言ってしまえばこんなものになるが、その業務は多岐に及んだ。

 各国への食料援助から治安維持、戦争被害者の救済事業に至るまで、ショウは全ての案件に関わっていた。

 

 ラシルから「よろしく頼む」と言われ、直属の上司であるクゥから「全て任せる」と投げられた。

 ミイは非常事態ではないという理由から手伝ってくれない。

 毎日壮絶なレベリングに励んでいる。

 他の幹部もレベリングやアイテム作成といった業務に従事しており、手すきの幹部でこういうことに向いているショウが選ばれた。

 元々はゲームの世界で王族をやっていたのだから、ちょうどいい人材だとも思われている。

 政治と行政、この二つの役割を1人で務めるのはショウの優れた対応力と処理能力をもってしてもいささか難しかった。

 なっといってもここは異世界。

 文化も常識も、ルールもゲームの世界とは違う。

 もっと泥臭くて、非合理的な知的生命体の跋扈する場所だ。

 それに輪をかけて厄介なのが、統治する国が一つではないという点だった。


 火国、水国、土国の一部、木国。

 これらの国にはそれぞれ王や代表がいるのだが、彼ら彼女らは全員研修中。

 そしてその全員が、ラシルに委任統治を依頼したのだ。

 戦争処理か面倒くさいという理由もある。

 しかし、ラシルに任せれば国は発展するという考えと、自分たちも強くなりつつ、先進的な暮らしを享受したいという思惑があった。

 良くも悪くも賢くて聡明な彼らは、ラシルの提案する事業に参加者として加わる道を選んだ。

 それは自らが権力を行使して得られるよりも、もっと大きなものを得られるからでもある。


 各国の行政官から上がって来る報告だけでは不十分なので、神仙を派遣してその監督をさせている。

 例えば食糧援助事業では、必要な分量を渡すだけで終わりではない。

 小さな村にまで食料が行き届いているか、行き届いていたとしても個人にまで到達しているか。

 一個人が独占したり、備蓄に回されたりしていないか。

 こういった監視やケアまでも必要なのである。

 

 毎日大量の報告書に目を通し、指示を与え、決裁していくという多忙な日々を送っていた。

 セシュレーヌから緊急招集がかかったのはそんな折だった。

 夜8時。

 そろそろ遅い夕食にでもしようと思い、料理の注文をするために部屋の外にいる部下の神仙に声を掛けようとした時だった。

 セシュレーヌからの思念伝達での呼集。

 一大事だという。

 一大事という回答をセシュレーヌから受けたショウは、沢山ある仕事をすぐに投げ出した。

 ラシル様を守るための護衛の兵の派兵の準備、どのくらい戦力が必要かセシュレーヌに問い合わせた。

必要ないとのこと。

 内容を聞いたが、来てから説明するとの一点張りだった。

 極秘事項なのだろう。

 大変な事態が起こっている。

 ただし優先レベルは3。


 命令系統には優先レベルというものが設定されており、作戦行動のアルゴリズムに用いられている。

 それはラシルへの脅威度を大まかに数値化したもので、全部で7段階ある。

 5~7は緊急事態。

 4でさえも、ラシルを害する勢力が進軍活動中という状態だ。

 それよりも1段階落ちるものの、3ともなれば自体の推移を見守る必要がある。

 ショウよりも位の高い、拠点管理者からの呼集である。

 拠点管理者が3と認定するほどの事態なのだ


 集合場所に指定されたのは龍王城の会議室。

 基本的に緊急時以外、禁城の中は個人の転移術が禁止されている。

 ショウは速足で禁城の廊下を進みつつ、今後の対応を考えた。


 発生している事象を知らなければ、対処のしようもない。

 それでもどんな事態になっているのか、頭を巡らせる。

 セシュレーヌの拠点での発令。

 これは龍王城で発生していると考えて間違いないだろう。

 ではどんな事態か。

 セシュレーヌ配下による裏切り?

 いや、それは考えにくい。

 セシュレーヌのところにいるのは彼女自身が生み出した竜ばかりだ。

 研修生の反乱?

 セシュレーヌ領は現在研修所としての機能がある。

 訓練によって力を付けた研修生が一斉蜂起したとか?

 いや、違う。

 その場合も力を奪うだけで済むし、そんな脅威になるようなレベルにある者はいないはずだ。

 では外部勢力の介入?

 あそこは山脈地帯になっている。

 ラシル様が周囲に住む竜の勢力を取り込んだが他にも何らかの勢力がいて、攻めてきているとか。

 分からない。


 ショウは禁城のエントランスホールにある転移装置で龍王城へと転移し、すぐさま会議会場へと向かった。

 会議室に入り、席に付つくと、もう招集された全員が着席していた。

 みんなそれほど急いできたのだろう。

 ざっと出席者の顔を見渡すと、皆真剣な顔をしていた。

 メンバーは、ミイ、クゥ、ロメリア、セシュレーヌ、ベッフィー、セデナ、ナスカ、そしてカトリーナ。


 ん?


 ショウは嫌な予感がした。


「さて諸君」

 出席者が全員揃ったところで、セシュレーヌが口を開いた。


「大変なことが起った」


 ショウはごくりと唾をのみ込み、次の言葉を待つ。


「ラシル様が研修所の女の子に指輪を下賜された」


「なっ……」


 その言葉の意味を瞬時に理解したミイが絶句する。


「そしてその子は何を思ったのか、指輪を左手の薬指に嵌めた」


 エアノワリスの眉間が有り得ないほど皺くちゃになり、ミシリという音が翼付近から聞こえた。

 ロメリアは笑顔を浮かべたまま表情が変わらない。

 クゥの目つきは人を殺しそうなほど鋭くなり、ベッフィーは目をぱちくりさせている。

 セデナは血が出るほどの勢いで下唇を噛んでおり、ナスカは今にも泣きだしそうになっている。

 カトリーナはブツブツと何かに祈り始めた。


 セシュレーヌの詳細説明を聞きながら、ショウは頭の中を整理した。

 ラシル様はたまたま研修所の女の子と仲良くなった。

 その女の子と話すにつれ、この世界での統治や、現在進めている事業についてのアドバイスになった。

 女の子の存在は有意義だと思ったラシル様は、その子に指輪をあげた。

 その指輪はラシル様と通信できるアイテムである。

 何かアイデアを思いついたり、直接話したい事があったら使えばラシル様と直接お話できる。

 ラシル様は持ち運びやすさなども考えて小さな小物の通信アイテムにした。


 ……


 ………………


 くだらない。


 現地住民とのハートフルな交流ではないか。

 ショウは体の力が一気に抜けていくのがわかった。

 しかし他の会議の出席者はそうは思わなかったようだ。


「なんということだ!!!」


「そのおなご、抹殺しなければならない」


「すぐに排除するべき」


「指を切り落とすべきか」


「腐らせるほうがいいかも」


 過激派だ。

 過激な意見がどんどん飛び出す。


「あの、もう帰ってもいいかな」

 ショウが恐る恐る、自身にとって最善の提案をする。


「何を云う、お前の意見が聞きたいのだ」

 当然のようにセシュレーヌに却下された。


「はぁ」


 ショウの溜息を他所に、議論は加速度的にヒートアップしていく。


「ラシル様を監禁すべきでは」との意見が誰からともなく提示された。


「止むをえまい」


「この世界には防壁では防ぎきれない新種の神経毒のようなものが蔓延しているのかもしれない」


「その影響を受けたと?」


「それは、防ぎようがあるの?」


「監禁するとなると、鎖が必要ね」


「ラシル様に首輪……ぁぁ、なんと罪深い」


「いっそのこと薬漬けにして……」


「なんだかゾクゾクしてきたわ」


「私の城なら北の方にあるから空気も綺麗なはず。そこへ連れて行けばあるいは……」


「精霊の里の空気は浄化されています。そこならきっと……」


「そんな抜け駆けは許さないのじゃ」


 ショウの目の前でラシル監禁計画が立案されて現実味を帯びていく。

 ショウが途方に暮れている傍らで、既に場所の選定に入っていた。


「師匠の監禁は反対だよ? そもそもみんな束になったところで可能なの?」


 全員の視線がショウを貫く。


「いや、その……それって反乱でしょ?」


「……」


「みんな師匠に嫌われるよ? いいの?」


 ショウの言葉によって、会議室は沈黙が支配した。

 暑くないはずなのに、良く分からない汗がショウの額を伝った。



「その罪深い女子の村を壊滅させてはどうでしょう。神を誘惑するなど不敬の極みです」


「するべきだろう」


「やはり指を切り落として、なかったことに……」


「私もまだもらっていないのに」


「立ち直れないわ」


「うぐっ、うぐっ」



 カオス過ぎた。

 悲嘆にくれる者。

 女の子を抹殺しようとする者。

 ラシル様を監禁しようとする者。


 ショウは頭を抱えた。

 そして必死で頭を働かせた。

 この場を収めるために。


「うん、その……」


「なんだショウ、何か言いたいことがあるなら発言してくれ」


「師匠がその子に与えた目的というのは、師匠と通信するためのものだよね?」


「そうだ」


「だけどほら、ちょっと考えてみなよ。僕たちはいつでもと師匠と通信できる。そんなものが無くてもお話できる立場にいる」


「あたり前じゃ」


「つまりさ、ほら、僕たちのほうが上ということじゃない?」


「上ですか……」


「立場的にも、距離的にも。そうだろう?」


「でも指輪を下賜されたということは、やっぱりそういうことじゃないのかしら」



 うん。

 だよね。

 そうだよね。

 そう受け取られても仕方ないよね。

 何をやっているんですか、師匠。


 ショウは考える。

 一生懸命考える。


「師匠の世界では、指輪は2回あげるものだと聞いたことがある」


 苦悩した後、ショウの頭の中から出てきたのはこの言葉だった。


「2回?」


「それは初耳」


「本当か?」


「う、うん。婚約指輪と結婚指輪。婚約指輪というのは男性からの贈り物で、結婚指輪というのは交換するものなんだ」


「ほぅ」


「それに指輪はラシル様がその子の手に嵌めたのではなく、その子が指に自分の意思で嵌めたんだよね」


「だから指を切り落とさなければいけないのではないの?」


「落ち着いて。女の子が自ら嵌めたということは、純潔を守るという証だよ。その子はそれを証明したに過ぎない」


「その子の純潔を散らしてしまえば……」


「そんな鬼畜な意見はいいから!」


「しかしそれでも……」」


「少し想像してご覧よ。ラシル様から贈り物をいただいた。さて、どうする?」


「嬉しいわ」


「もしそれが指輪だったら?」


「迷わず薬指にはめるわ」


「ほら」


 ???


 ショウは出席者の顔を見回したが、誰もピンと来ていないようだった。


「いいかい、もしその女の子をどうこうしたとしても、次が無いと言い切れるか?」


「言い切れないわね」

 ミイが悔しそうに言った。


「ラシル様が指輪を沢山の人に下賜したとしよう。その人達の指も全員切り落とすの? どこのカルト教団だよ」


「それもそうね」


「もっと言うと、女の子じゃなくて、男の子ならいいの? どうする? 指輪をもらった男の子が目をウルウルさせて左手の薬指にはめたら」


「事態はもっと複雑になるわね」


「でしょ?」


 ショウはここが畳みかけるポイントだと決めて勝負に出た。


「指輪くらいなんだよ! セシュレーヌ様、あなたは師匠が指輪を下賜される所を見たんだよね?」


「ええ、見たわ」


「師匠はその子に対して愛の言葉とか囁いてた?」


「……いなかったわ」


「ほら! 指輪くらいいいじゃないか! 大事なのは師匠の気持ちだろ! あなたたちは師匠の愛情を物で計るのか?? あなたたちのラシル様に対する想いはそんなに安っぽいものなの?」


「そんなことは!!」


「断じて」


「違う」


 よし乗って来た。

 ショウは胸の内でガッツポーズを決めた。


「師匠はすでに多くのものを我々に与えてくださっている」


「その通りだ」


「それは目に見えない物であり、とても大切にすべきだ」


「うん」


「あなたたちは物で示されないと、愛されていないと、本当にそう思うの???」


「そんなことはない!!!」


「見方を変えれば、その子は可哀想な子だよ。物を貰って初めて愛情を感じたのであれば」


「はっ、そのとおりだ、ショウ」


「われらは違うぞ」


「その通り」


「流石だな」


「師匠はまだ誰の薬指にも指輪を嵌めちゃいない。そういうことさ」


「それはそうだ」


「いいことを言う」


 なんとか場が収まった。

 さっきまで殺気立っていたのが嘘のように、会議室の空気は和んでいた。


 ショウは溜息をついた。



 会議がお開きになり、ショウは禁城へと戻った。

 残っていた仕事はもちろん明日に回した。

 あまりにも疲れたので、晩ご飯を食べずに床に就いた。

  

 僕がいなければ、この会議はとんでもないところに着地する。

 そして、ろくでもないことになる。


 頼みますよ、師匠。


 ラシルに祈りながら、ショウは目を閉じた。




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