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065_配下のレベリング5 セシュレーヌの場合



「それでは皆さん。これよりエキシビジョンマッチを開催いたします」


 闘技場内にアナウンスが入る。


「予告どおり、龍王セシュレーヌと魔王メルバコルの試合となりますが、ここでは少々手狭なので、フィールドを使用したいと思います。というわけで、皆さんには移動してもらいます」


 大規模転移術が発動し、全員が瞬時に消える。

 出場者はフィールドへ。

 観覧席にいた者はそれぞれの研修所の屋上へと転移した。

 フィールドの上空には大きな絵が四方に現れた。

 観戦するためのモニターだ。

 各地でどよめきが聞こえる。


「この試合はこの拠点の管理者、龍王セシュレーヌと魔王メルバコルの試合になります。なお、予定を一部変更してお送りしています」


 アナウンスでルール説明がなされる。

 チームはそれぞれ3人ずつ。

 リーダーの他に2人参戦が可能となる。

 それぞれのチームが召喚術でモンスターなどを召喚し、相手チームはそれを倒す。

 試合開始後、召喚を次々と行う。

 どちらか一方の召喚モンスターが一時的にでも全滅してしまえば負け。

 出場選手への直接攻撃はNG。

 攻撃はあくまでも召喚モンスターに対して。

 ただし、召喚モンスターに攻撃を仕掛けたところ、選手にあたってしまうのはOK。

 戦闘不能になった選手は退場。

 制限時間は60分。

 決着が着かなかった場合、召喚モンスターを倒した数で勝敗が決まる。



「セシュレーヌ様~!!!」


 会場のいたる所でセシュレーヌに対して声援が飛ぶ。

 そのほとんどが女性。


 研修所の責任者であり、龍王城の主であるセシュレーヌは困っていた。

 このマスコット的な扱いに。

 セシュレーヌはメルバコルと共に火国人に訓練を施していた。

 その教官っぷりは人気で、可愛いらしい見た目からファンが多数出現した。


「負けられない」


 セシュレーヌは鋭い眼光で相手を睨みつけた。

 セシュレーヌは勝負にこだわるたちではない。

 それはメルバコルも同じ。

 拠点管理者の中で勝負事に燃えるのはクゥとエアノワリスくらいだろう。

 しかしセシュレーヌには負けられない理由がある。

 ファンの研修生が見ているからではない。

 属国となった各国の王族が見学しているからでもない。

 セシュレーヌが気にする相手はただ一人。

 ラシル様がご高覧されている。

 そんな試合で負けるわけにはいかない。

 もちろん、メルバコルもそう思っているはずだ。


「私たちにお任せください」


 自信満々な顔をしているのはセシュレーヌの部下の中でのトップ二人、闇龍と光龍だ。

 闇龍ダーク、光龍ライト。

 昔、セシュレーヌが生み出した竜たち。

 仲間を作ってみてはというラシルの提案で、いろんな属性の竜を召喚した。

 火属性や水属性、土属性など、どんどん生み出していって、気付いたら色とりどりのレンジャー部隊ができあがっていた。

 光龍と闇龍は他の属性よりも強く、優位に立っている。

 そのため、セシュレーヌの副官を務めていた。

 性別は男。

 黒髪と白髪の優男。

 顔の整ったイケメン2人。

 極めて頭がよく、料理も上手く、戦闘も強い。

 優秀な人材であるのだが、何点がただ一つだけあった。

 プライベートの仲が良すぎるのである。


 今も「ライトを傷つけるのは僕の特権だ」とか、「ダークには指一本触れさせない」とか二人でやり合っている。

 ミイやエアノワリスなんかは、「どう見てもイチャイチャしているようにしか見えない」と言う。

 クゥなんかも、「あの二人、できておるのぉ」と言う。

 セシュレーヌにはよくわからないことなので、黙認している。

 仲が良すぎても悪いことはないからだ。


「二人とも、ラシル様の御前だよ。負ける訳にはいかないからね」


「もちろん」

 

 ダークとライトはじゃれ合いを止め、鋭い目つきになった。



 頭上のスクリーンに映し出されている数字がどんどん少なくなっていく。

 カウントダウンだ。

 もう残り30秒を切っている。

 試合開始後、1分間の召喚タイム。

 その後に攻撃開始だ。

 召喚術の準備は完了している。


 5、4、3、2、1……


「それでは、試合開始!!」


 セシュレーヌは一気に大規模召喚術を展開。

 発動させた術式は眷属召喚。

 ありったけのMPを使って、強力な竜を何十匹も召喚する。


 フィールドにちりばめられた魔法陣の中から、竜のかぎ爪や翼が現れる。


「一気に決める。作戦どおりに」


「了解!!」

 白と黒の2人の龍人は空を飛び、相手陣地に特攻する。


 


 一方、メルバコルの陣地。



 メルバコルが楽しそうに口元を緩めた。


「僕が召喚、セデナは攻撃、ブッシェルは遊撃」


「はい、作戦どおりに」

 ブッシェルが恭しくお辞儀をする。


「セデナも頑張ってね。良いところを見せればラシル様の気を引けるかもしれないよ」


「はい、メルバコル様」

 セデナが妖しく笑う。


 相手はセシュレーヌ。

 竜族は一般的に物理攻撃が得意で、防御力も高い。

 セシュレーヌの副官の二人は上位属性であるため、魔法攻撃も強い。

 レベルがリセットされた後、相手の副官二人は竜族種をカンストした後、悪魔種を選択したから、魔法も使用可能となっている。

 さぁ、どんな手を使ってくるか。

 作戦は立てた。

 入念にシュミレーションもした。


 メルバコルは予想していた。

 セシュレーヌは恐らく一気に決着を付けに来るだろうと。

 力技が得意な龍族。

 同族召喚で大量の竜を召喚し、強力な物理攻撃重視で攻めてくる。

 この試合のルールはシンプルだ。

 召喚されたモンスターを全て倒せば勝ち。

 召喚するためにはMPが必要で、それを温存させなければならない。

 物理攻撃と防御力が強い竜族を召喚すれば、MPを無駄に消費せずに済む。

 その戦術はある一定の合理性がある。

 極めて優れていると言ってもいいかもしれない。

 セシュレーヌなら全力で攻めてくるだろうという予想は的中した。


「やっぱり一気に来たね」


 メルバコルは予め準備していた術式を展開。





 そして、1分が経過し、召喚タイムが終わった。



「なっ……」


 セシュレーヌは絶句した。

 メルバコルは悪魔だからもちろん召喚は悪魔種のモンスターだと思っていた。


 悪魔種の攻撃はMPを消費する。

 逆に、MPを消費しなければ、悪魔種は協力な攻撃が出来ない。

 変幻自在、多種多様な攻撃方法に秀でた悪魔種の全ての攻撃は、そのMP値に立脚している。

 MPを消費させさえすれば、セシュレーヌの勝ちは見えていたのだ。

 そのはずなのに。


「精霊種、だと……」


 メルバコルのやつ、いつの間に精霊種をレベリングしたのだろう。

 精霊種は龍種との相性が悪い。

 打撃を始めとした物理攻撃な得意な龍種にとって、物理攻撃の効かない精霊種は一種の天敵と言ってもいい。

 精霊種の巨大エレメントが30ほど。

 竜の攻撃はほとんど効かない。

 仕方なくそれぞれの竜の属性攻撃を魔法で行うしかない。

 

 そしてこの縛り対戦では最悪だと言ってもいい。

 ファイアードラゴンが火を噴くと、木のエレメントは逃げるように退いていき、代わりに火と水属性のエレメントが前に出てくる。

 火のエレメントは攻撃を吸収し、水のエレメントは余剰攻撃分を相殺する。

 つまり、MPを吸収されてしまうのだ。


 攻撃はMPしか効かず、反対属性の攻撃は吸収されてしまう。

 ズルい。

 メルバコル、ずるい。

 そんなズルい戦闘が各所で行われていた。


 闇龍と光龍もエレメントに何度も攻撃を仕掛けるも、得意な物理攻撃が封印されているので、苦戦していた。

 


 セシュレーヌが驚き、焦り、手をこまねいている間に次の準備が整った。


「メルバコル様、準備が整いました」


「よし、発動だ」


 メルバコルは頷き、術式発動の許可を出す。


 ブッシェルの大規模魔法がフィールドを包む。


 巨大な青い魔法陣が次から次へと模様を変えて展開される。


 一部を除く、ほとんど全ての竜が意識を失い、眠りに落ちた。

 空を飛んでいた竜は次々に落ちていく。


「セデナ、頼む」


 セデナも術式を展開。

 意識のない竜に次々と魔法を掛けていく。

 魔法の固有名称はドミニオン。

 メルバコルの副官であり片腕の二人。

 実力はラシルギルドの魔族最強である。

 効果はすぐに表れ始めた。

 セデナの支配下に入った竜たちは次々と目覚め、同士討ちを開始した。

 セシュレーヌが直々に召喚した、様々な耐性が極めて強い竜でもこの有り様。

 完全に自我を乗っ取られた竜たちは、セデナの支配下に入っていない竜を襲う。


「くっ!!!」


「セシュレーヌ様、我々も本気を出します」


 ライトとダークが突っ込む。

 ライトは光属性。

 支配下に入った竜たちを覚醒させるため、竜が入り乱れて戦っている場所へ。

 ダークは闇属性。

 光属性よりも精霊に対して攻撃効果が高いので、防御陣形を張っているエレメントへ。



「ブッシェル」


「準備はできております」


 杖を掲げたブッシェルが少し首を傾げて笑った。

 

 ライトとダークの進行方向前方。

 魔法陣が出現。


「追召喚か!!」


「油断するな!」


 それでもダークとライトは速度を緩めない。

 龍種である2人は物理耐性も強い。

 拠点管理者レベルが立ち塞がらなければ、最悪体当たりしたとしても、押し負けない自信はあった。

 出てくるのは召喚獣。

 エレメントだとしてもダメージは限られる。


 そう思った。


 ぶぅぅぅぅあぁぁぁぁぁぁん!!!!


 出てきたのは大量の黒い何か。

 モーター音のような、小さくて速い一定の音が、大量に聞こえる。

 小さい粒のようなものが体中に当たり、視界が奪われる。


 ダークもライトも予期しない事態にスピードを緩めて止まってしまう。


 黒くて小さい物体は生き物だった。

 その正体は大量発生した蠅。

 本来その召喚に特化した固有の悪魔がいるのだが、ブッシェルの召喚も中々ものだった。

 黒い塊となり、ライトとダークを飲み込んでしまっている。

 これではいくら物理攻撃最強といえども、大量の蠅が相手では意味がない。


「はっはっは。無視できませんな、虫だけに」

 


 …………


 ……………………


 これは、ギャグなのか。

 発言者のブッシェルを見ると、赤い目をした羊が頭をもたげているのと目が合った。

 メルバコルはすぐさま視線を外した。

 想像を絶したのは彼の魔法ではなく、その発言だった。


 一度冷静になる。

 こちらが召喚したのはエレメント。

 完全物理防御で反対属性MP吸収効果。

 一方で相手は物理攻撃特化の竜。

 その内半分はドミニオンでこちらの手中。

 セシュレーヌの副官のライトとダークは蠅によって動きを封じられている。

 完璧な流れ。

 相手の作戦を全てへし折っている。


 ここで最後の一押し。


「僕も出る。一気にケリをつける」


「行ってらっしゃいませ」

 と、満足そうなブッシェル。


 何に満足しているのか。

 メルバコルは一瞬、深く考えてしまいそうになったが、切り替える。

 あとはセデナと2人で残りの竜を退治すればいいだけ。

 セシュレーヌのMPも召喚で使ってしまってもうないだろう。

 妨害されたとしても、問題はない。



 高速で飛来し、竜の首を刎ねる。

 竜の防御力か高いと言っても、龍人に進化していない竜など、メルバコルの相手ではない。

 あと5匹。

 もう勝ちは確定。

 セデナとどっちが多く倒せるか競争でもしようと提案しかけたその時だった。


「負けないっ!!!」


 セシュレーヌは可愛らしい小さな両腕を、目一杯大きく振り上げた。

 フィールド上空に光の幾何学模様が出現。


「ん?」


 メルバコルとセデナ、ブッシェルの動きが止まる。

 新しく現れた魔法陣がどのような魔法で、どのような効果をもたらすのかを分析しようとして。

 しかし解析できない。

 魔法知識の造形が深い3人のうち誰も、どんな術式なのか理解できない。


「これは、まさか……」



「うりゃ!!!」


 セシュレーヌが腕を振り下ろす。


「信仰系魔法……」

  

 光の粒子は合体して巨大な手に変換された。

 蠅でも叩くかのように、会議室のテーブルに異議を申し立てるかのように、空の上から白いマジックハンドは振り下ろされた。

 

「勝者、龍王セシュレーヌ!!」


 冷静に審判をしていた神仙がセシュレーヌの勝ちを宣言した。



「馬鹿な……」


 メルバコルは唖然とし、セデナは下唇を噛み、ブッシェルはギャグを考えた。


 セシュレーヌのレベリングは進んでいた。

 ミイやメルバコルがレベリングで先行していることは知っていた。

 自分も置いて行かれないように、ラシル様の役に立たなければならないと3種族目の天使種に手を出していた。

 秘密特訓していたので、

 メルバコルにもその情報はバレていなかった。

 信仰系魔法はかなり滅茶苦茶だ。

 強く願えば叶ういうのがその基本原理で、MPを消費しないものもある。

 原則として召喚系はないが、かなり役に立つ。

 ラシル様への純粋なる愛と信頼、そして信仰の賜物だ。


 この土壇場で思いついたのは、召喚のキャンセル。

 相手の召喚術を全てキャンセルしたのだ。

 精霊も、蠅もいなくなり、セシュレーヌが所管した竜たちは正気に戻った。

 その結果、メルバコルの召喚モンスターがゼロになったため、決着がついた。



 セシュレーヌの勝利が確定してから数秒遅れで歓声が上がった。

 拍手とセシュレーヌコールがフィールド全体で巻き起こる。

 セシュレーヌが声援に応えて手を上げる。

 メルバコルは肩を落としているセデナを励ましながら退場。

 どうにも腑に落ちない表情をしていた。


 火国や水国の王族を始め、戦闘好きな者たちがセシュレーヌの最後の攻撃について論じ合っている。

 あれは一体なんなんだと推測し、ああでもないこうでもないという議論になっていた。




 この日を契機に、サモン対決では信仰系魔法の使用が禁止されることになった。





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