064_研修所11 休日
進化の実を食べてレベルアップした私たちは、強くなった力と武器に慣れてきたところで、その日の訓練を終えた。
武器を変えると戦いやすくなった。
なによりラシル様から与えられた武器なのだから、使いやすいし素晴らしいに決まっていた。
どの武器も一級品だし、火国の兵士の人が言うには、将軍級の軍人でさえ保有していないような武器だという。
そんな武器をナカムラさんをはじめ、神仙さまはポンポン出してくる。
私は短剣から通常の長さの剣に変えた。
もっと切れ味の良い短剣を両手装備にするのと、今よりも長い剣を片手で持つという選択肢があったが、私は後者を選んだ。
何より筋力も上がったし、長いリーチのほうが何かと戦いやすいというナカムラさんのアドバイスがあったからだ。
リンシンの元々持っていた武器は槍。
槍の刃の部分が長くて尖っているものが彼女の新しい武器になった。
スピアと呼ばれる武器だそうだ。
メビィは引き続きナックルで、大きさが3周りほど大きくなった。
敵に当たる部分が尖っていて、当たると打撃と同時に突き刺さるようになっている。
彼女らしい、とっても凶悪な武器だった。
戦闘服も変わった。
なんでも、ショシンシャクンレンヨウボディスーツというものから、チュウキュウシャクンレンヨウプロテクトスーツに変わった。
服のことは良く分からないが、私たちのファッションリーダーのリンシン曰く、ちょっとオシャレになったとのこと。
ナカムラさんは、完全防御力重視から、機動性を上げたものに変更したという。
良く分からないが、動きやすくなったのは確かだ。
私たちはいつも通り大浴場に行って、疲れを癒す。
明日からの2日間の休みで、何をしたいかぼーっと考える。
アムも同じように考えているようで、お風呂での口数は少なかった。
そして夕食。
今日のメインはミートパイ。
ビュッフェ会場の一角に、綺麗なきつね色に焼かれた巨大なミートパイがある。
大きなスプーンで1人前を掬って皿に盛る。
網目状の模様になっていて、その中にはギッシリとサイコロ状になった牛肉の切り身が入っている。
茶色いソースが何とも言えない。
ソースが余りにも美味しいので、料理の脇にある説明書きを読むと、グレイビーソースというものらしい。
外はパリパリなのに、中はしっとりとした極上の一品。
どうやって調理したのか分からない、ホロホロの牛肉。
私たちはジュース、男の人はいつも通りお酒を飲みながらみなで話す。
「これは酒に合うぜ」
ベンライさんがミートパイを頬張り、葡萄酒を煽る。
「最高ですね」
セイソウさんも次から次へとミートパイを口に運んでいる。
「これは中にハーブが入っていますね。しかしこんな上品な香りがするハーブとは、なんでしょう」
木国出身のモユウさんでも分からないハーブがあるらしい。
「それでね、私たち、料理を勉強したいと思うの」
リンシンとシェンリの二人だ。
さっきから一口食べるごとにアうっとりとした表情になっていた。
「ここの料理、とってもおいしいでしょう? 帰ったらみんなに食べさせたい。ラシル様の偉大さを知らせたいのよ。だから料理を覚えるために、手伝いたいの」とシェンリが熱弁する。
ここに並んでいる料理は、竜王城で龍人さまたちが作っているそうだ。
そこにお邪魔して、修行をするという。
アムとメビイは強くなりたいそうだ。
だから、明日から始まる部活というものに参加するという。
男たちの大半もそうだった。
共生ではなく、任意参加で、週末も訓練するという。
「ブカツって何するの?」
「純粋に戦闘技術を高める場所と聞いたぞ」とベンライさん。
「強い人の訓練も見学できるって聞きました」とセイソウさん。
「モンスターじゃなくて、人とも戦ってみたい」とメビィ。
自分の力を試してみたいのだそうだ。
「人とは戦いたくないけど、私、もっと強くなりたい」とアム。
戦術や対戦見学、対人戦闘もするようである。
ちょっとおもしろそうだ。
「メイユは?」
「私は……図書館の本を読みたい。たくさん本があるもの。ナカムラ先生にもおススメされたし」
「そう、それも面白そうね」
「うん、ラシル様の民や国のことをもっと知りたいから」
「ところで、フーリュは??」
「私は、どうしようかな。まだ決めてない」
本当はベッドでゴロゴロしたいなんて考えていた。
だけどこの場でそんなことは言えない。
みんな目的意識が高い。
「明日楽しみねだねー」
「うん」
「それじゃあまた明日」
そして週末が来た。
ゆっくり起きて時計を見ると10時になっていた。
訓練所のいたるところに時計という不思議なアイテムがあり、時間を知らせてくれる。
今までは太陽の動きで大体の時刻を把握していたけれど、時計があれば正確な時刻が分かる。
とても便利だ。
もうこの時間になると、みんな起きて部屋にはいない。
おそらく木国の2人は竜王城、アムとメビイはブカツというものに参加し、メイユは図書室にいるはずだ。
さて、私はと。
歯を磨いて制服に着替える。
ジャージでいいかなと思ったが、一応は部屋から出るので、ちゃんとした格好をしておきたい。
食堂へ行き、少し遅めの朝食。
私のような怠け者は1人もいなかった。
みんなどこかで何かしらの活動をしているのだろう。
食事の時間とずれているので、ビュッフェコーナーには食べ物がない。
しかし、ボタンを押して注文するとすぐに転移されてくる。
それも一瞬で。
超便利。
一体この仕組みはどうなっているのか不思議だ。
焼いた食パンとベーコン、半熟の目玉焼きにサラダ、そしてミネストローネスープ。
自分でも少し欲張りだと思うが、すぐにお昼ご飯を食べるので、軽めにした。
食パンの上にベーコンを載せ、その上に更に半熟の目玉焼きを載せる。
塩コショウを振り、ケチャップを掛ければ出来上がり。
ハムっと一口。
んー、美味しい。
何度食べても、何を食べても美味しい。
リンシンとシェンリが料理を習いたいと言い出す気持ちが良く分かる。
もしこの研修終了後に村に戻されて、元の食生活に戻るとなったら、ここでの食事が恋しくて発狂するかもしれない。
食べながら今日の予定を練る。
私にはこれといって目標はない。
まだないといったほうが良いのか。
それともこれからも見つからないのかは分からない。
休んでいいと言われても、他のみんなのようにそんなに動きたいとは思わなかった。
色々あり過ぎて疲れたのかもしれない。
今までと全く違う生活だから、その反動が来たのかも。
肉体的にではなく、精神的に。
うーん。
それも違う気がする。
何もしないでぼーっとしていてもいいけれど、それだとやっぱりもったいない。
みんなに置いて行かれるのも嫌だ。
これは見学して回ろう。
他の人が何をしているか見て回ろう。
面白そうだったら一緒にやればいい。
そうと決まればすぐに行動だ。
食パンの最後の一口を詰め込み、ミネストローネで流し込む。
テーブルの下にあるスイッチを何秒か長押しする。
そうすると空の食器が乗ったトレーが消え、テーブルも綺麗になる。
転移でどこかへ行ってしまったのと、部屋にあるスイッチと同じ不思議な術式でテーブルの清掃が完了したのだ。
まずは図書館に顔を出した。
図書館は4階にある。
ボックスで転移すると、そこには沢山の本があった。
本棚は天井と接しており、本は上までぎっしりと詰まっていた。
棚は中心から外に伸びるようにして配置され、中心と外側のちょうど半分の所が空いていて通路になっていた。
読書や勉強のスペースは一番外側の窓際にあった。
試しに1冊手に取って見る。
表紙には『キンカクジ』と書かれていた。
紙がとても薄いのに驚いた。
滅多に見たことのない紙は、厚くて高価なもの。
ほとんど大きな都市にしかないもので、大事な契約や、王様からの勅令などの時に使われるくらいだ。
そんな紙が大量に。
盗まれないだろうかと心配になる。
ペラペラとページをめくってみたが、文字ばっかりだった。
うーん。
ちょっと難しい。
まずはメイユを探さないと。
棚の表示を見ると文学と書かれていた。
本を元の位置に戻し、外側に向かって歩き出す。
これだけ大量の、それも多種多様の本があるは見たことがないので、新鮮な気持ちだった。
知識欲のある、それこそ勉強が好きな人や研究者にとってはここは天国じゃないだろうか。
窓際を歩いてメイユを探す。
読書スペースには様々な種類の椅子があった。
ただ単純に腰掛けるための木の椅子。
長いベンチ。
ベッドのようにフカフカな椅子。
背もたれがない四角い椅子。
卵のような形をした椅子。
机とセットになっているものもあった。
背もたれのあるほとんどの椅子が窓の方を向いていた。
景色を楽しむためだろうし、気を散らせないための配慮だ。
本を探している人を見なくて済むようにしたのだろう。
何人か読書をしている者たちに混じって、メイユがいた。
メイユはフカフカの長い椅子に腰かけ、一生懸命本を読んでいる
とても集中しているが、同時にリラックスしているようだった。
「ヤッホー、メイユ。楽しい?」
私が小声で名前を呼ぶと、メイユが私に気付き、読書の手を止めた。
「フーリュも読書しに来たの?」
「違うよ。いや、でもあってるか」
メイユがちょっと不思議そうな顔をした。
「メイユは何の本を読んでるの?」
「自然についての本。ショウガクヨネンセイリカっていう本だよ」
「面白いの?」
「うん、面白い。とても興味深い」
「そう。よかったわね」
「私も何か読んでみようかな」
メイユの本を見ると、所々に絵もついているが、どう見ても学術書の類に見えた。
もっとこう、簡単なものはないかなと歩き回ってみた。
「文学、政治、哲学、科学…………マンガ?」
何やらカラフルな文字の背表紙が沢山並んでいるコーナーあった。
表紙には絵。
顔立ちが良く、細くてスタイルの良い男の人が、比較的筋肉質の男の人の上に馬乗りになっている。
どうして筋肉質だと分かるかというと、その人は上半身裸だった。
スタイルの良い男の人は服を着ているのに。
多分戦闘方法が書かれた本なのだろう。
タイトルは「ガチムチマッチョノタオシカタ」と書いてあった。
やっぱり。
筋肉質の力の強い人を素手で倒すための接近戦格闘術の本だ。
可愛い女の子の絵が書いてある本を手に取り、中を確認する。
絵がメインの本で、所々吹き出しがあり、セリフが書いてある。
これだったら読めそう。
本を持ってメイユの椅子へと戻る。
メイユの邪魔をしないように読み始めた。
15分後。
「うぅ、ぅぅ……」
「フーリュ? どうして泣いてるの?」
フーリュは顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。
メイユはとても心配になった。
「お腹とか痛いの? 神仙さま呼んでこようか?」
「違うの。あのね、あのね、この子が、この子が」
「本?」
ぐすんと鼻水をすすったフーリュは立ち上がり、何か大事なことを決意したような顔になった。
「今度は何? どうしたの?」
「続き読まなきゃ」
フーリュはそう言ってスタスタと歩いて行った。
そして戻って来た時にはさっき読んでいた本のシリーズだろうと思われる本を10冊持ってきていた。
「フーリュ、そ、そんなに読むの?」
「うん。読む。メイユも後で読んでみて。絶対おススメ」
「分かった。フーリュがそこまで言うのなら読んでみるよ」
その後もフーリュは泣いたり笑ったりしながらマンガを読んだ。
笑い声や泣き声が大きくなりすぎて、メイユに何度か変な顔をされた。
それでもフーリュは気にしなかった。
マンガが面白過ぎたからだ。
キーンコーンカーンコーン
お昼を知らせる鐘が鳴った。
「フーリュ、お昼行かない?」
「今いいところなのになー」
「私行くよ?」
「行く、行く行く!」
フーリュは読んでいたマンガを置き、深いため息をついた。
「まだ読み終わってないんだったら借りたら?」
「え、借りれるの?」
「うん」
フーリュはメイユから本の貸し出しについての説明を受けた。
借りたい本はそのまま自室に持って行っても良い。
期限は1週間で、持ち出して1週間経つと自動的に本が転移して元の場所に戻る。
5巻まで読み終えたフーリュは6巻から借りていくことにした。
一旦自室に戻り、メイユと一緒に食堂へ行った。
食堂にはアムとメビイがいた。
先に座って席を取っていてくれたようだった。
「今日のお昼は何?」とメイユ。
「なんかね、ドンブリらしいよ」とメビイ。
「ドンブリ?」
「カツドン、オヤコドン、テンドンの3つから選べるんだって」
「へぇ~」
「取りに行こう!」
「うん!」
フーリュはテンドン、メビィとアムはカツドン、メイユはオヤコドンを選んだ。
4人で一緒にご飯を食べる。
「あれ? そういえばリンシンとシェンリは?」
フーリュは一番大きな具を取り、口に運んだ。
何これ!
美味しい!!
「あっちで食べてるんじゃない?」
メビイもカツドンを一口。
顔が幸せそうな表情になる。
アムも隣で蕩けている。
「龍王城で?」
「この料理を作っている所でしょ。わざわざお昼に戻ってこないと思うよ」
「そっかー。話聞きたかったのにな」
「夕飯は流石にこっちに帰って来るだろうから、その時聞けばいいじゃん」
「そうだね。そっはどう? 部活は楽しい?」
「うん、すっごく」とアム。
メビィも饒舌になる。
「聞いてよ、凄かったんだよ! 火国の女王様と新しく水国の王様になった人が戦ってさ」
「え! そうなの???」
「オキサイド様が?」
水国と聞いてメイユも食いつく。
「どっちが勝ったの?」
「引き分け。何といっても水の術式は火に対して有利だからね。火国の女王様といっても中々勝てるもんじゃないよ。でもそれで互角にやるなんて凄かったんだ」
「へぇ~」
「その後、ドラゴンと戦う火国の兵士たちを見学して」
「へぇ~」
「私たちも次の進化後に小さなドラゴンと戦うみたいだからね。勉強になったよ」
「そうなの??」
「うん」
「で、どうだった? 勉強になった?」
「そりゃもう。すごかったよー」
「へぇー、見たかったなー」
「私も、興味ある」とメイユ。
「フーリュもおいでよ。午後も面白い対戦が見れるらしいよ。メイユも一緒にどう?」とアムが興奮気味に言った。
「いやー、読みたい本があるんだよねー」
「そーなの? 夜読めばいいじゃん」
「フーリュ、行こう。本はいつでも読める」とメイユ。
「そ、そうだよね」
「午後の試合は? 誰と誰が戦うの?」と興味津々なメイユ。
「午後はね、セシュレーヌ様と他の幹部の方がレベリングするんだって。2人ともラシル様のぎるどの大幹部らしいから、凄い戦いになると思うよ」
「じゃあ決まりだね」とメビイ。
「うん、楽しみ」とメイユ。
「13時半かららしいから、まだ時間あるよ」とアム。
「そういえば、フーリュ達は何してたの?」とメビィ。
「図書室で本を読んでた。マンガっていう本が凄く面白くてね、後で二人も読んでみるといいよ」
「本かー。私読み書きが苦手なんだよね」とメビイ。
「大丈夫。絵がメインのマンガっていう本だから」
「へぇ~」といいつつも、あまり乗り気ではないメビイ。
「メイユも読書?」とアム。
「うん、神仙さまに聞いたら、仙術を覚えるときに勉強も必要になってくるんだって。それを先に覚えようと思って」
「え、そうなんだ。だったら読まないと」
「そうだよメビイ。強くなるためだよ」
「でも頭を使うのは、私ちょっと……」
「メビイの意外な弱点発見だね」
メビイ以外の3人が笑った。
ドンブリとお喋りを満喫した4人は、レベリングを見学するべく、エントランスホールにあるボックスから闘技場へと転移した。




