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062_研修所9 ホブゴブリン


 次の日もゴブリンとの戦に明け暮れた。

 ナカムラさんは鬼畜、もとい、とても生徒愛溢れていてる方で、様々な武器と特性を持ったゴブリンを召喚してくれた。

 私たちは次々に戦わされ、じゃなくて戦い、戦闘技術を学んでいった。

 

「よーし。今度は混ぜていくよ」


「何をですか?」と、リンシンが首を傾げる。

 

 何と何を混ぜるのだろう。

 ナカムラさんが混ぜるものは危険な物しかできない。

 みんなそう直感していた。


「召喚してのお楽しみ」

 ナカムラさんは、フフフと笑い、扇子を軽く振った。


 つむじ風が起こって、召喚されたのは……


 ゴブリン10体にウルフが20匹。


「いやいやいやいや」


「ちょっとちょっと」


 ドン引きしているメンバーたち。


「頑張って」

 ナカムラさんが扇子で口元を隠して言った。

 きっとにやけているんだろう。

 性格の悪い人だ。


 モユウさんは一目散に逃げだした。

 言い方は悪いが、それは距離をとるためだ。

 弓使いのモユウさんに、接近戦で勝ち目はない。


 私とメビィも攻撃と離脱を繰り返した。

 狼ならもう眼を瞑っていても攻撃をかわせる。

 それは言い過ぎかもしれないが、そんな感じにまで成長している自分に驚いた。

 

 狼はゴブリンと連携を取って攻撃してきた。

 召喚主が同じだったらモンスターも連携するんだという知識が、漠然と身に付いた。


 ベンライさんとセイソウさんが背中合わせで戦っている。

 彼らは場所を移動せずに、一か所に陣取って戦っていた。

 さすがだなと思う。


 私たちはなんとかゴブリン狼連合の撃破に成功した。


「次、行くよ」


 ナカムラさんが今度はゴブリンのみを召喚した。

 数は3体。


「あれ?」

 少ないぞ。

 そう思ったのもつかの間。

 みんなこのパターンはもう知っている。

 ナカムラさんの優しさだと騙される人はいない。

 個体数が減少したときは、個の力が上昇しているのだ。

 どちらかというと、同じ強さで数が増えるほうが楽。

 こんな戦闘狂のような思考、自分でもちょっとおかしいと思うけど、素直にそう思えてしまう。

 今までより強い敵は最も警戒しなければならない。

 

「ホブゴブリンだよ」


 ナカムラさんがニヤリと笑った。


 なみなみとした筋肉に、たくましい体格。

 ベンライさんと同じかそれ以上。

 背も高くて持っている武器も強そうだ。


「強いんだろうなー」

 リンシンが目をキラキラさせている。


「絶対倒す」

 メビィも闘志をむき出しにしていた。


 あれ?

 この子たちいつからこんな性格になったのだろう。

 つい先日まで狼を見て悲鳴を上げ、不安そうにしていたのに。

 私たちはか弱い村娘だったのに。

 そういう私も結構ドキドキしていた。

 戦えるのが楽しみな自分がいる。

 どんな強敵なんだろう。


「ツーマンセルでいくぞ! 女の子は1人で対峙しないように!!」

 ベンライさんが指示を出す。


「了解!!」


 男性のベンライさん、セイソウさんが1匹ずつを相手にし、私とメビィで1匹を引きつける。

 敵の引きつけ方も上手くなったものだ。

 リンシンはセイソウさんのバック、モユウさんはベンライさんの後衛についている。


 メビィが待ちきれないと言わんばかりに特攻をかます。

 その後ろに私が続く。

 メビイの攻撃があたり、ホブゴブリンがよろけた。

 私の短剣も右足の腿に刺さった。

 そして離脱。


「なんか手ごたえがない」


「倒せるかも」


 私たちが余裕ぶった発言をすると。


「さて、どうかな~」

 ナカムラさんだ。


「ぐぅおぉおぉぉぉ」


 ホブゴブリンが咆哮を上げた。

 

「あれ? 切れた?」


「怒らせたかも」


 ボブゴブリンの武器は斧。

 それをめちゃくちゃに振り回して襲ってくる。


「これ、当たったら受け止めきれないよ」


「注意していこう」


 私たちは二手に分かれる。

 メビィがホブゴブリンの正面、私は後ろ。

 ホブはメビィ目がけて突進。

 メビイがかわしきれずにナックルで斧を防ぐ。


「ぅぁ!!」


 メビィが吹っ飛んだ。


「メビィ!!」


 私は追撃しようとしているホブの後ろから切り込む。


 ホブの背中にかすり傷を負わせた。

 痛みに反応して振り返ったホブの斧が私に迫る。

 何とか短剣で受け止めるも、力に押されて私も吹っ飛ばされる。


 先に吹っ飛ばされたメビィが起き上がって私の所まで走って来た。


「これは、キツイね」


「うん。一発受けたら即死だと思う」


「どうする?」


 ホブは私たちを吹っ飛ばして怒りが収まったのか、私たちを睨みつけている。

 正式に敵と認識したようだ。


「知性もあるみたい」

 メビィが冷静に敵の様子を見て言った。


「やっかいだね」

 私も同意。


「うん」


「頑張れー」


 私たちは手を振っているナカムラさんを睨みつけた。


「とにかく、隙を作るしかない」とメビィ。


「でも攻撃は通じないよ?」


「どんな敵にも弱点はあると思う」


「弱点かー」


「やっぱりあそこかな」


「あそこだね」


 私とメビィは頷き合い、行動を開始した。


 さっきと同じようにメビィがホブの前面、私が後ろ。

 冷静になったホブは舐めるようにメビィを見ている。

 チャンスかも。

 そう思った私はホブに襲い掛かる。

 急にホブが後ろを振り向き、ニヤリと笑う。


「危ない!!」


 メビィの声に反応するように、私は攻撃を中止。

 バックステップを取ろうとするが、間に合わない。

 ホブの斧がもの凄いスピードで体に近づいてくる。


「ぐぉ!!」


 大けがを覚悟した私の耳に届いたのはホブの悲鳴のような声。

 ホブの肩を見ると、矢が刺さっていた。


「モユウさん!!」


「油断しないで!!」


「ありがとう!!」


 ホブが肩から矢を引き抜いている。


「今!!」


 その隙をメビィは逃がさない。

 私も再度突っ込む。

 弱点を目がけて。 

 

 私に気付いたホブは蹴ろうとして足を上げる。


 私は足をかわすようにジャンプして、ホブの弱点である顔目がけて短剣を振る。

 でも届かない。

 メビィがなぜかホブの股の下をくぐっている。

 どうしたのだろうと考える間もなく、股を通過したメビィはクルっと振り返って腕を突き出した。

 メビィが狙ったのはホブの股間だった。

 ホブが悶絶して座り込む。


「フーリュ!!」


「分かってる!!」


 私は駆け出し、モブの顔を狙って短剣を突き出す。

 それはモブの目に突き刺さった。

 あまりにも深く突き刺さったので抜けない。

 仕方ないのでそのまま離脱。


「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!」


 メビィが断末魔の悲鳴を上げているモブの顔に強烈な一撃を加え、モブを倒した。


「やったね」

 メビィとハイタッチ。


「それにしてもメビィ、弱点ってそこだったんだ」


「当たり前でしょ。思った通りやっぱり雄だった」


「私は顔だと思ったのに」


「顔まで届くわけがないでしょ」


「まぁ、そうだね」


 そんな会話をしていると、他の2体も撃破したようだった。


「みんな大丈夫?」

 リンシンが心配そうに駆け寄ってきた。


「ベンライが腕を壊されて。こっちは苦戦したよ」

 

「すげー痛かった」


「うぁ、ベンライさん腕ヤバイですね」


 労いあっていた所へナカムラさんがやって来た。


「はい、次いくよー」

 

 そう言って扇子を揺らし、つむじ風が起こった。

 同時にベンライさんに治癒術式もかかったようだ。

 腕が元通りになっている。


「もうですか!」


「敵は待ってくれないからね」

  

 今度はホブ2体にゴブリン5体。

 私たちは戦い続けた。

 ゴブリンに気を付けつつ、ホブを倒すのはなかなか大変だった。

 その後もどんどんと数が増えていき、最後はホブ6体、ゴブリン20体に加えて狼15匹に大きな狼5匹。

 圧倒的に不利で、かなりカオスな戦場になった。

 それでも一度は倒したことのある相手。

 私たちは苦戦しつつも、何とか撃退した。


 レベルの泉で現状の強さを確認した私たちは驚いた。

 全員がレベル30に到達していたからだ。

 お父さんの話では30年かかるというのに、一週間でなれてしまった。

 確かに訓練は厳しい。

 いや、実際楽しいのだけれど。

 ナカムラさんは少しずつ、一歩一歩先へ行けるように召喚モンスターを手配してくれている。

 普通のモンスター退治だとこんなに早くレベルアップできないはずた。

 モンスターと遭遇するのは1ヵ月に1度あるかないか。

 その時は村人総出で倒すのだ。

 それも弱い狼を2匹とか。

 レベル1つ上がるのに1年かかるのは当然の話だ。

 私なんてもう狼が10匹いたって怖くない。


「明日は進化の種を食べるかどうか、君たちに選択してもらう。ラシル様のギルドに入るということになるから、今日はゆっくり休んで各自考えるように。では解散」


 ナカムラさんの話が終わり、私たちは一旦部屋へと戻り、その後大浴場へ向かった。

 大浴場は何度か体験したから驚かないけど、別の驚きがしみじみと湧いてくる。

 神仙さま曰く、この大浴場にはいつでも入れる。

 訓練の終わりだけではなくて、もし望むのであれば、早朝早起きして入ることもできるし、深夜に入ることもできる。

 よく意味が分からないのだけれど、24時間営業なのだそうだ。


 温泉は疲れも取れるし、何より気持ちがいい。

 わざわざ大量に温めたをお湯をずっと張っている。

 どんな技術が使われているのか皆目見当もつかないし、多分すごくお金がかかっているのだと思う。

 なんでも、大浴場はラシル様のこだわりなのだそうだから、よほど力が入っているのかもしれない。


 私はアムと柚子湯に浸かり、あったことを話した。


「いい香り」


「癒されるー」


「今日も疲れたねー」


「うん、いっぱい戦った」


「フーリュはたちはもうレベル30になったんだって?」


「どうして知ってるの?」


「この研修所で一番早いって噂だよ」


「へぇー、そうなんだ」


「私もあともうちょっとなんだけどな」


「いまいくつ?」


「27」


「もうすぐじゃん」


「そうだね。でもどんどん強くなるのがわかるよね」


「うん。戦い方も分かって来たし、連携も取れてきたし」


 他の人の特性が分かるだけで、戦いがとても楽になる。

 フォローしてくれるし、こちらがフォローに入るときがある。

 欠点を補いあって、長所を生かして戦う。

 そうすれば簡単に倒せるのだ。


「それにしても、ナカムラ先生ってすごいよね」

 アムが屈託のない笑顔で言った。


「すごいっていうより、ヤバイと思う。私たちの訓練の仕方も異常だし」


「フーリュ、そのおかげで強くなってるんだよ? 私たち」


「そうだけどさ。あの闘技場での戦闘が忘れられなくて」


「ああ、ナカムラ先生強かったね」


「強かったっていうレベルじゃないよ、あれは」


「火国の女の人も私たちと年は変わらないのにね」


「うん」


 フーリュは17歳。

 アムは18歳。

 どちらも、今頃村にいたらもうそろそろ結婚相手を決める年齢だった。


「それも村出身って言ってたよね」


「どこの村だろうね」


「あの強さになるとさ、チームワークとか、そういうレベルじゃない」


「うん、凄かった。数百体の強化ウルフでしょ? あれを一瞬だもんね」


「そしてそれよりもナカムラ先生」


「うん」


 なんというか、次元が違ったのだ。

 ナカムラ先生が一人いれば、火の国は簡単に壊滅するだろう。

 いつもの笑顔で扇子を振ってモンスターを大量に召喚してもいいし、フーリュたちが知らないような大規模術式で一気にやることもできるだろう。

 そこに何人の火国の兵士が束になってかかって行っても、障害物にすらならないだろう。

 そのくらいなのだ。


 ナカムラさんのような人が、ラシル様のギルドにはあと何人、いや、何百人いるのだろう。

 ナカムラさんは一般市民だって言っていた。

 戦闘専門の兵士は別にいて、さらにそれより強い人たちがいて、幹部がいる。

 そしてラシル様の力となると……

 それはフーリュの想像できる範囲の外にあった。


 そして恐るべきことに、ラシル様はそれでもまだ満足せず、軍備増強に力を入れているのだ。

 それが私たちである。


「私ね、やっぱりラシル様のお力になりたい」

 アムが思い詰めた顔をして言った。

「ラシル様から受けた恩をお返ししたいの。その為にいっぱいいっぱい強くなりたい」


「アム、私も同じ気持ち。ラシル様の為に何かしたい」


 決意を決めた二人はお風呂から上がった。




 夕食の時間。


 今日は特別な日ではないのに、ビュッフェには食べ切れないほどの豪勢な食事が並んでいる。

 毎日ビュッフェなのだが、内容は少しずつ違った。

 今日は魚料理のお皿が多かった。


「これが毎日食べられるなんて、まだ信じられない」

 シェンリは白身魚のバター焼きを頬張りながら言った。


「ほんと、夢みたい」

 リンシンは白身魚のクリーム煮を食べて、うっとりしている。

 メビィとベンライは焼き魚を頭からいっている。

 アムは鮭という赤身魚を生で食べている。

 柑橘系のいい香りを漂わせている。


「私はラシル様の民、その自覚を持とうと思う」


「メイユ、どうしたの?」とシェンリ。


「そんなにお魚が美味しいの?」とリンシン。


「いや、そうじゃなくて」


「メイユは水国出身だもんね。お魚料理は食べ飽きてるかな」とシュンリ。


「いや、水国のより全然美味しいよ。だからそうじゃなくて」


「そうなの? 水国より美味しいの?」リンシン。


「全然美味しいよ。こんな料理、水国王でも食べたことないと思う」


「へぇー」とシュンリ。


「そうよね、流石はラシル様」とリンシン。


「だから私は、ラシル様に全てを捧げようと思うの!」


「全て? メイユ、大胆」

 焼き魚を頭と骨まで食べてしまったメビィが参戦。


「私も」とアムが同意。


「アムも大胆」とメビィ。


「いや、だから、その……」

 メイユは青を赤くして俯いてしまった。


「俺たちも同じ考えだよ」

 葡萄酒を片手に談笑していたベンライさんたちが話に入ってきた。

 みんな考えの結論は出たようだ。


「明日の進化、楽しみだね」


 アムがレモンソースを口の端に付けたまま、にっこり笑った。


「アム、ついてるわよ」



 たくさんご飯を食べて、どんどん強くなるんだ。





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