061_研修所8 武器の特性
ナカムラさんによる午前中のスパルタ訓練で、私たちは早くもレベル20に到達した。
戦闘初心者グループの中で、最も早いのだそうだ。
午後からの訓練はこれまでの狼からレベルアップするという。
武器を持った人型の敵との闘い。
本格的に戦闘技術を磨く訓練に移行するという。
お昼ご飯のハンバーガーのお代わりをそれぞれ1回ずつ我慢し、腹八分目に抑えた。
あまり食べ過ぎると動けなくなって訓練に支障をきたすからだ。
きめ細かい小麦粉から作られた、極上のパンの間にお肉がとチーズとトマト、レタスとピクルスが入っている。
赤くてドロドロしたソースと黄色くてドロドロしたソースをお好みでかけて食べる。
付け合わせにポテトと呼ばれる黄色くて熱々のステック型の食べ物。
これはジャガイモを油で揚げたものだというが、ジャガイモがここまで美味しくなるのだろうか。
それに油で揚げるというのがよく分からなかった。
上げるためには大量の油が必要なはずなのだが、油はとっても貴重なものなのだ。
「これはヤバイ!!」
このハンバーガーにドハマりしたのがメビィ。
もう一個だけと言って結局3つも食べてしまった。
確かにすごく美味しかったけど、メビィの小さな体のどこに入るんだろうとセイソウさんが不思議そうにしていた。
午後の訓練。
「狼はいったん休憩で、今日はゴブリンと戦ってもらいます」
ナカムラさんが満面の笑顔で宣言する。
「ゴブリン?」
「聞いた事ある?」
リンシンとシュンリが顔を合わせて首を傾げる。
「君たちゴブリンは知らないのかい?」
私たちの誰も知らない。
ゴブリンってなんだろう。
「うーん、困ったな。まぁ、いっか。小鬼と言えばわかるかな?」
「小鬼ですか?」
「すみません、分かりません」
「武器を操る種族の中で最も弱い者のうちの一つだ。とにかくやってみよう。準備はいいかい?」
「はい!!」
全員武器を構える。
ベンライさんを前衛の中心にして、左右にメビィと私が展開。
セイソウさんがベンライさんと私のすぐ後ろでメイスを構える。
リンシンはメビィの後ろで槍を持ち、メイユさんは一番後ろで油断なく弓を構える。
「始め!」
ナカムラさんは扇子を取り出すと、それを開いてこちらに向けて風を送るようにして振った。
フィールドにつむじ風が舞い、そこに3体の人型が出現した。
背丈は人間より小さい。
一見すると人のように見える。
多分夜道や暗い場所なら人と見間違うだろう。
しかし明るい場所で見ると、それは人でないと一目で分かる。
くすんだ緑色の皮膚をした、醜い化け物。
口は人間よりも一回り大きく目もギョロっとしている。
簡易的な装備を身に付け、手には短剣を持っていた。
ゴブリンたちが獲物を見つけたと言わんばかりの顔で、こちらに向かって駆けてくる。
「行くぞ!!」
新しい化け物に目を奪われていたメンバーは、ベンライさんの太い声で我に返った。
すかさずメイユさんの矢が飛ぶ。
ゴブリンはそれを易々とかわして笑った。
「何!」
「油断するな!」
ベンライさん、メビィ、私がゴブリンと対峙。
セイソウさんとリンシンがゴブリンの側面に回り込む。
ゴブリンの1匹が私に襲い掛かって来た。
ゴブリンは大きな動作で剣を振り上げた。
これならいける。
私は胴を狙って切り込む。
刃がゴブリンのお腹に到達する前に、私のお腹に衝撃が襲った。
「ぐふっ」
女の子らしからぬ声が出てしまった。
お腹は痛いが動けないほどではない。
何が起こったのか一瞬分からなかった。
無様に地面に転がってから気付いた。
蹴られたのだ。
ゴブリンの剣での攻撃はフェイク。
大きな動きの隙を狙った私が、罠にはまり、見落としていた足に蹴られた。
ゴブリンはこっちを見て笑っている。
これは、強い。
ベンライさんの攻撃はほとんどがかわされ、メビィのナックルも当たっていない。
リンシンとセイソウさんの援護も、ゴブリンには見切られているようだった。
私はもう一度ゴブリンに突っ込んだ。
私の短剣は空を切り、ゴブリンに腕を切られた。
傷は深くはないものの、血が流れてくる.
どうすればいい。
どうすればいい。
私は頭を働かせた。
私が出した答えは実直なものだった。
「メイユさん、援護を頼みます。足を狙ってください!!」
「了解した!!」
私はもう一度ゴブリンに向かって襲い掛かった。
メイユさんの矢がちょうどいいタイミングでゴブリンの足元の地面に突き刺さる。
ゴブリンが慌てて足を上げる。
私は短剣を大きく頭上に振りかぶってゴブリンに切りかかった。
バランスを崩しているゴブリンがさらに慌てる。
私の攻撃を受けようと、顔面の上で剣を横にして構えた。
かかった。
私は剣を振り下げるように見せかけて、ゴブリンのお腹目がけて強烈な蹴りを見舞った。
「ぐぷぁ!!」
ゴブリンが口から泡を吹いて後ろに倒れ込んだ。
今がチャンス。
すかさず追撃。
地面仰向けになっているゴブリンのお腹に短剣を突き立てる。
ゴブリンの口の泡に青い血が混じり、私は容赦なく首を掻っ切った。
「フーリュ、容赦ねぇな」
まだゴブリンと戦っているベンライさんがこっちを見て苦笑いをしている。
私はすぐに苦戦しているほう、メビィとリンシンのヘルプに回る。
「フーリュ、早い!」
リンシンか驚いたように言った。
「頭を使って戦うのよ、この場合、リンシンが前に出たほうがいい」
「わかった」
そう言ってメビィが下がる。
「私も前衛デビューね」
「リンシン、油断しない!」
「はい!」
私の檄にリンシンが気を引き締める。
「私、どうすればいい?」
「リンシンはいつも通り攻めて。メビィはよく見て、相手の隙を狙って。私も手伝うから!」
「わかった」
リンシンは槍で突きを繰り出す。
スピードは遅く、練度は低い。
所詮は、ついおとといまで武器など持ったことのない村娘。
でもゴブリンは槍の攻撃をかわし続けなければならない。
ゴブリンの短剣はリンシンに当たらないからだ。
リンシンの槍の攻撃をかわし続けたゴブリンのフラストレーションが一定に達し、ゴブリンが攻撃に転じる。
「今!!」
私の叫び声にメビィが動く。
ゴブリンの側面からの顔面を狙ったパンチ。
見事に右ストレートが決まる。
ゴブリンが殴られて倒れたところにリンシンがすかさず槍を突き立てる。
「ナイス!!」
ベンライさんたちのほうを見ると、彼らももう終わる所だった。
戦闘終了。
「いやー、初めてにしてはよく頑張ったね。特にフーリュ」
ナカムラさんが近づいてきて褒めてくれた。
知らない間に腕の傷も完治していた。
いつ術をかけたのだろう。
ちょっとゾッとした。
「ありがとうございます」
「私たちも、フーリュのアドバイスが無ければ倒せませんでした」とリンシン。
「俺たちもモユウの弓で隙をつくことを真似したからな」
ベンライさんが頭を掻きながら照れくさそうに言った。
「さて君たち。ゴブリンは強かったかな」
「強かったです。狼と全然違いました」
メビィがちょっとへこんでいる。
思うようにいかなかったからだろう。
「君たちは驚くかもしれないけれど、今まで戦ってきた狼とこのゴブリンのレベルは同じだ」
「え!!」
「嘘ですよね?」
「本当さ」
「へこみますね」
矢が当たらなかったモユウさんが寂しく笑っている。
「単純に、攻撃力だけで言えば、狼の方が高い」
「でも全然違う強さに思えました」
「うん。レベルというのはあくまでも数値。体力だったり、素早さや攻撃力、防御といったものだ。では狼とゴブリン、違いを決定づけているのは何だと思う?」
みんな黙って考えた。
「武器、でしょうか」
メビィが発言する。
確かに、今までの狼たちは武器など持っていない、いわば丸腰の連中だった。
例えば人でも、純粋な戦闘力に武器が加われば、グッと強くなる。
ナイフを持った人は危ないと一発でわかるくらいに。
「おしい。でもちょっと違う」
「人型だから?」とリンシン。
リンシンは天然の気があるのかもしれない。
ナカムラさんはリンシンの方をみてニコっと笑う。
やっぱりこの人、ドSだ。
「うーん。レベルが同じだとはどうしても考えられません。強いて言うなら装備ですが、それではメビィの考えと一緒ですね」とセイソウさん。
「他に思いついた人はいるかな?」
「私は、賢いと思いました」
「ほう」
「フーリュ、それどういう意味?」
メビィが鋭い目つきでこちらを見ている。
「戦闘の最初、ゴブリンは大きく剣を振りかぶったんです。私は攻撃力のある脅威は剣だけだと思っていたので、チャンスだと思って胴に切り込んだら、ゴブリンに蹴られました。狼との戦闘の時は、牙と爪だけに注意を払っていたので、このゴブリンの攻撃は私にとって衝撃でした」
「うんうん。で、君はどうしたんだい?」
ナカムラさんが促した。
「足の攻撃を潰そうと思って、モユウさんに足元に矢を射ってもらい、その後でゴブリンにされたことと同じことをしました。大きく振りかぶって攻撃する振りをして、足で蹴る」
「見ていたよ。素晴らしい攻撃だった」
「ありごとうございます」
「フーリュの言うことでほぼ正解なんだけれど、つまりは知性だよ」
「知性ですか?」
「そう。狼でレベリングしていた時、君たちは無意識に今の話のゴブリンと同じことをしていたのさ」
「どういうことですか?」
「前衛と後衛に分かれたり、チームで連携したり」
「あぁ、なるほど、そういえば私たちも戦術を練っていました」
「その通り。さっきのゴブリンの場合も同じ。これも立派な戦闘技術の1つだよ。そこも踏まえて、どうすれば勝てるのか考えながら戦うといい。だけど考え過ぎてもいけない」
「難しいですね」
「簡単だよ。数をこなすんだ」
ナカムラさんは笑って扇子を振った。
私たちは殺気と全く同じ、3匹のゴブリンと戦った。
今度はスムーズに戦うことができた。
相手の動きをよく見て、隙を伺い、仕掛ける。
1対1だとちょっと苦しいけど、なんとかフォローしあった。
「ちょっと趣向を変えてみるよ」
ナカムラさんの「次、言ってみよう発言」は悪い予感しかしない。
「あれ?」
ゴブリンの数は同じ。
体格も強くなってもいない。
でも一つだけ違うものがあった。
それは武器だった。
短剣ではなく剣を持っているのが1体。
剣の代わりに槍を持っているのが1体。
メイスを持っているのが1体。
「これは……」
セイソウさんが眉をしかめた。
「やりにくそうですね」
モユウさんの顔も険しい。
「始め!」
ナカムラさんの号令で戦闘が開始された。
私の方に槍を持ったゴブリンが来る。
槍が突き出される。
長い!!
そしてやりにくい!!
槍だけに。
私は一人で恥ずかしくなり、顔が赤くなった。
「大丈夫!?」
リンシンが顔の赤い私を心配して声をかけてきた。
「大丈夫! 大丈夫!」
こんな寒いこと、口に出さなくてよかった。
今は戦いに集中しよう。
それにしても防戦一方たった。
ゴブリンの槍のリーチが長い。
攻撃範囲も広く、うかつに近づけなかった。
私の短剣では太刀打ちできない。
攻撃に転じようとしても、攻撃が届かないのだ。
「フーリュ、さっき私に言ってくれたこと思い出して!!」
メビィが叫んだ。
メビィに言った事は……
相手をよく見て隙を作る。
うん。
でも難しい。
私は考えた。
ゴブリンの槍をかわしながら。
何度か攻撃をかわしているうちに、ある事に気付いた。
リンシンの戦い方と同じだ。
リンシンは敵を近づけさせないようにして戦っている。
その理由は……
そうか!
私は槍を左にかわすと、相手に踏み込んだ。
今まで優位だったゴブリンは、ちょっと焦った顔になった。
槍の長さより、短い間合い。
これが鍵だ。
この間合いなら、相手は攻撃を仕掛けてこれない。
ゴブリンは後ろに引こうとする。
でもそうはさせない。
私が何か仕掛けようとしている意を汲んでくれたのだろう、そこにちょうどよく矢が飛んでくる。
モユウさんの援護だ。
有り難い!
ゴブリンのバックステップが止まる。
私は一気にゴブリンに近づき、切りつける。
腕で防がれても、次々と攻撃し続ける。
ゴブリンは私が近すぎて、槍を振ることができない。
そして突き出されるゴブリンの足。
そう来ると思った!
私は片足になったゴブリンに体当たりを仕掛けた。
ゴブリンがすっ転び、短剣を突き立てる。
「過激ね!!」
リンシンが笑っている。
他のみんなも決着が着いたようだった。
ここで小休憩。
「危なかったー」
「武器って面白いね。戦術の幅が一気に広がる」
「うん、相手に同じことをされて初めて分かった」
相手の特性を見て、自分に有利な戦い方をする。
また一つ覚えた。
「大切なことに気付いたようだし、どんどん行くよ」
ナカムラさんがニコニコ顔で通告する。
あの恵美は悪魔の笑みにしか見えない。
休憩後、ゴブリンが増やされた。
今度は4体。
そのうちの1体は弓使いだった。
「燃える」
モユウさんが怖い目をしながら弓使いゴブリンを睨んでいた。
「ダメだよモユウさん。弓使いが弓使いと戦ったら意味ないよ」
リンシンが窘める。
「そうだな、リンシンの言う通りだ」
ベンライさんも頷く。
「分かってるさ」
どこかしょぼくれたモユウさん。
「行くぞ!!」
何故かセイソウさんが燃えている。
私たちは苦戦しながらも撃破。
その後もナカムラさんの悪意、いや、私たちを強くさせようとする思いで、ゴブリンの数が1匹ずつ増やされて言った。
私たちは同数の様々な武器を使うゴブリンと戦った。
短剣6体、槍使い6体、弓使い6体、ナックル6体、メイス6体。
それぞれ違う武器1体ずつ。
そしてその後数の増加。
最後は10匹にまで増やされた。
私たちはクタクタになって研修所へと戻った。
レベルの泉を覗くと、23になっていた。
ゴブリンのレベルが低い分、レベルの上昇値はそんなに高くなかったが、成長したという意識はとても高かった。




