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060_研修所7 特訓


 ナカムラさんと竜との圧倒的な戦闘を目の当たりにした後、訓練に戻った。

 恨みや強い思い、やり場のない憤りを抱えていた人たちは、呆然としていた。

 心神喪失状態といってもいいかもしれない。

 誘導されるがままに転移し、武器を取って狼と対峙した。

 さっきのような強い狼ではなく、レベルが低い、戦闘初心者でも倒せるような狼と。

 少なくとも、誰も暗い顔はしていなかった。

 明るいくはなかったかもしれないし、将来の展望なんて見えている者はいなかったけど、少なくとも皆前を向いていた。


 昨日の続き。

 今度は6人に対して6匹のウルフ。


 戦い慣れてきているとはいえ、戦術と連携が必要だった。

 1対1で戦うのは無理。

 後衛で支援専門の弓に1匹を任せるわけにはいかないので、1人2匹を受け持つ人が必ず出てくる。

 槍も遊撃として取っておきたい。


 前衛が狼と接触する前に、モユウさんがが素早く射撃。

 何匹かのスピードが弱まる。

 そのタイミングで前衛が攻める。

 メビイがすかさず前に出て、2匹を相手にする。

 ベンライさんはの方には3匹ついて、残りは私に。


「フーリュ、1人で行ける?」


 リンシンの確認に、私は自信を持って答える。


「うん!!」


「ベンライさん、加勢します!!」

 リンシンがベンライさんの後ろに付いた。


「助かる!!」


 私は突っ込んできた狼をかわす。

 まだ避けるだけで精一杯。

 すれ違いざまに一撃とかはまだ無理。

 初手をかわされた狼は勢いを緩め、ゆっくりと横に歩き出した。

 私も狼の動きに合わせて距離を縮めていく。


 剣を握る手が強くなった。

 少し向こうではメビィが2匹相手に立ち回り、モユウさんの援護を受けている。

 もう一方ではベンライさんとセイソウさんが盾役に徹し、リンシンが援護している。

 私は一人。

 さぁ、かかってこい。


 狼が跳びかかって来る。

 私はまたかわし、今度は狼が着地する前に反撃に転じる。

 胴を狙った突きはかわされたものの、足にかすり傷を与えることができた。


「フーリュ、回避行動は最小限で」

 ナカムラさんの声が響いた。


「はい!!」


 再度、狼の跳びかかり。

 もう3度目。

 狼の起動は分かる。

 今度の私は違う。

 牙と爪にだけ注意。

 横を向き、後ろに小さく跳ねるようにして、突き。

 私の剣が狼の脇腹に突き刺さる。


「追撃!!」


 ナカムラさんの声に反応した私は、今度は狼に跳びかかり、切りつけていた。

 狼が決死の回避を見せるも、腹に剣が深く吸い込まれる。

 狼は一瞬ビクンとなって絶命した。


「ふぅ」


「フーリュ、凄いじゃん!」


「良い動きだった」


 メビィがモユウの二人だ。


 他の3人の戦闘も終わるところだった。


「昨日とは動きが違うね。いい変化だ」


 ナカムラさんがニコニコしながら近づいてきた。


「ありがとうございます。さっきのナカムラさんの戦闘が忘れられなくて」

 槍を胸に抱えたリンシン。


「あぁ、あのドラゴンね」


「はい、見たことも無いような強そうな竜でした」とメビイ。


「ははは、でも僕はラシル様のギルドの中でもかなり弱いほうだから」


「そんなことはないと思います!!」とリンシン。


「僕なんか全然だよ」


「本当なんですか?」とリンシン。


「本当なら恐ろしいですね」とセイソウさん。


「うん。今度幹部のセシュレーヌ様やメルバコル様がレベリングするから見学するといいよ。スケールが違うから」


「それは楽しみだな」とベンライさん


「お喋りはこの辺にして、ちょっと数を増やすよ」


「はい!!」


 みんなの調子の良い返事は、次の瞬間悲鳴に変わった。


「じゅ、十二匹~!?」


「さっきの倍じゃないですか!!」


 ニコニコしたナカムラさんの前に現れた狼たちが一斉に駆け出す。

 すぐにこっちに到達しそうだ。


「怪我とかしてもいいからねー」


 呑気なのはナカムラさん1人。


「ど、どうする?」


「モユウは距離を取れ、あとは全員突撃だ!!」


 ベンライさんの指示を契機に、モユウさんを除く全員が特攻を開始した。


 3匹の狼に囲まれる。

 1匹が飛び込んで来る。

 牙を何とか回避したところへもう1匹の爪。

 短剣を当て、弾き飛ばす。

 バランスを崩した狼を追撃して、切りつける。

 重症を負わせた。

 そして忘れていた3匹目。


「フーリュ!!」


 横から跳びかかってきていた狼が、槍に遮られる。


「リンシン、ありがとう!!」


「お礼なんていいから、集中しよう」


「分かった!」


 私は重症の1匹にトドメを刺しつつ、他の人の状況を見る。


 リンシンが2匹相手に奮闘。

 ベンライさんとセイソウさんのペアが1匹を倒した所だ。

 モユウさんの弓も2匹に重症を負わせていた。

 メビィが5匹に囲まれて、必死に攻撃をかわしている。

 即座にメビイの方へ走る。


 メビイを囲っていた1匹の後ろから切り付け、その勢いで正面にいたもう1匹に襲い掛かる。

 その間にモユウさんの弓によって1匹ダウン。


「サンキュー!! やり易くなった!」


 メビイの拳が煌めく。

 下からのアッパー。

 大胆な攻撃で狼の顎が砕けた。

 最後の1匹はモユウさんの矢がお尻に刺さっているちょっと可哀想なやつ。

 私が切り付け、メビイが脇腹にナックルをめり込ませて終了。


 リンシンも2匹倒したようだ。

 ベンライさんセイソウさんペアも制圧完了。


「いいねいいね、どんどん行くよ」

 

 ナカムラさんの嬉しそうな声が聞こえ、この訓練が午前中いっぱい繰り返された。



 午前中の訓練が終わる頃、私たちはナカムラさんはドSだという見解で一致した。

 パニックになったり慌てている姿を見て喜ぶのだ。

 狼の強さに変化は無かったものの、召喚される数が1匹ずつ増えていった。

 比較的簡単に倒すことができるようになったといっても、狼は怖い。

 最終的には30匹まで増やされた。

 流石に無傷という訳にはいかず、腕を噛まれたり、引き裂かれたりという傷を負った。

 私も3回噛まれて、5回爪で肉を抉られた。

 戦闘が終わる頃にはボロボロになったが、「このくらいなら僕でも大丈夫」というナカムラさんが治癒をしてくれ、その都度全快した。


 お昼のためにいったん研修所に戻った。

 私たちは少し期待し、いや、結構期待していた。

 まさかとは思ったが。


 今日のお昼はカレーライスというものだった。

 白米にルーという茶色い液体をかけて食べるのだそうだ。

 香ばしいなんとも言えない匂い。


 アムとも合流し、みんなで食べる。

 スプーンで一口すくって食べたメイユは絶句していた。


「どうしたの?」

 シェンリが不安そうに尋ねる。


 メビイも絶句している。


 食べた者は無言になり、まだ食べていない者は戦々恐々とするという変な光景になっていた。


「私も」


 ついにアムが行く。

 アムが行くならついて行かなければならない。


!!!


「美味しい!!」


「凄い!!」


「ちゃんとお肉も入ってる」


 そうか、みんな初めて食べた味に衝撃を受けたんだ。


 結局メビイは2回もお代わりをしていた。

 ベンライさんとモユウさん、セイソウさんなんて3回も。

 そういう私とアムも1回お代わりした。

 食後のアイスクリームまで食べて、私たちはお腹をさすりながら午後の訓練へと向かった。


「カレーライスはどうだったかな?」とナカムラさんに問われた私たちは「最高でした」と答えた。


 食事を堪能した私たちは、午後の訓練に入った。


「次は狼のレベルを少し上げるよ」と言ったナカムラさんはいきなり3匹召喚した。


 狼は一回り大きく、牙や爪も鋭かった。

 

 私たちは苦戦し、怪我をしつつも撃破していった。

 同じように狼の数も1匹ずつ増やされていく。

 連携も取れてきた。

 誰もが1対1なら負けない。

 1人で2匹までなら相手にできる。

 メビイやベンライさんはもっと凄くて、3匹を相手にして倒すことができる。

 その訓練を何回も繰り返した。


 10匹を超え、15匹に到達。

 メビィとペアになって退避し、距離を取りつつ乱戦。

 敵が片付いてくるとどっちかが他の人へ加勢。

 リンシンは切り込みつつ、全体を見てフォローに入れるようになった。

 日がくれるころには20匹に到達。


「今日の最後の仕上げだよ」

 ナカムラさんは何をトチ狂ったのか、狼を100匹召喚。

 内訳はレベルの低い狼が70匹。

 高い狼が30匹。


「無理だーーー!!」と叫びながら私たちは退避るも、すぐに追いつかれる。


 弱い狼は無視。

 時間があれば撃破していく。


 ベンライさんとセイソウさんが背中合わせで大量の狼に囲まれている。

 そういう私たちも逃げ回りながら1匹ずつ倒すという器用なことをしている。

 モユウさんが死ぬ気で矢を射っている。

 リンシンは槍を上手く使い、狼を近寄らせないように戦っていた。


 15分後。

 

 荒い息をしながら、私たちは地面に座り込んでいた。


「や、やったんだな」


「やりましたね」


「強くなった気がします」


「疲れたー」



「はい、みんなよく頑張りました」

 ナカムラさんが一人だけ嬉しそうだ。


 研修所に戻り、レベルの泉へと向かった。

 レベルのチェックは大事な作業。

 自分の現在の強さを確認するのはとても重要なことだ。


「やばい、私強いかも」


「メビィはヤバイ武器使ってるんだから、そりゃ強くなると思うよ」


「そういうリンシンこそ、槍使いはなかなかのもの」



「フーリュ、私信じられない」


「アム、私も」


 私たちのレベルは15前後になっていた。

 1日でこんなに上がるのだろうか。

 確かパパが言っていた。

 レベルは毎日努力して、1年に1ずつ上がるもんだって。

 あれは嘘だったのだろうか。

 いや、訓練が異常なのだ、多分。


 一旦部屋に戻り、私たちはこの世の楽園である大浴場に向かった。

 昨日と違って、もう赤と青どっちの暖簾に入ればいいかなんて知ってるし、ドライヤーの使い方だって知っている。

 温泉に浸かり、今日一日の疲れを落とす。

 頭と体をキレイに洗う。


 幸せな気分になった後は食堂で晩ご飯。

 また今日もブュッフェ。

 またとか言ったら怒られてしまうかもしれないけど、良い意味だ。


 何処に座ろうか迷っていると、私たちを見つけたベンライさんたちが手招きしている。

 アムと頷き合ってそのテーブルへと向かう。

 ベンライさんたちはもうできあがっていた。

 紫色のお酒を飲んでいた。


「大浴場ってのは最高だな」


「このパイは絶品だ」


「俺、もう村に帰れないかもしれない」


 そんな会話で盛り上がっていた。


 私たちも料理を取って来て話に加わる。

 もちろんまだ未成年なので、お酒は飲まない。


 美味しいご飯を食べ、今日の戦闘の反省会をする。

 メビィは先走り過ぎだとか、リンシンは槍を振り回しすぎだからもっと敵を見ろとか、私はもっと積極的に攻めろとか。

 正論を言われて私はなんだか嬉しかった。

 私のことをみんなが見てくれ、フォローしてくれる。

 私ももっと頑張らないと。

 そう強く思えた。



 そういえばそう。

 この時、みんな悟っていたのだ。

 ラシル様は奴隷を解放し、奴隷を囲っていた者たち全てに死を与えた。

 復讐は実質的に済んでいる。

 また、食糧生産などで労働力が必要なくなるのだという。

 ラシル様がいくらでも力を授けてくれるので、仙桃のために争ったり、侵略戦争をする必要がなくなった。

 つまり、ラシル様は戦争する理由までも根本的に無くしてしまったのだ。

 ラシル様の元で、誰もが豊かになり、強くなる。

 争い合う必要はない。

 あとは外敵に備えればいい。

 なんて恵まれた環境なのだろう。


 気持ちは簡単に整理できない。

 納得できないこともある。


 でも時間が解決することもある。

 ラシル様は、信じるに足る。


 昨日と今日で実感した、食事の質と量。

 先生たちと火国の女性が示した圧倒的な力。


「俺たち、頑張らないとな」

 葡萄酒を煽ったベンライさんが力強く言った。


「ああ」


「まだ実感がないけど」


 強くなろう。

 今は必死に。



 そしてみんな、ラシル様の言葉も忘れていなかった。


 楽しんでくれ、と彼は言った。


「ラシル様の言う通り、楽しまないとね」


 そうアムが言い、その言葉を受けたみなの心に歓喜が沸いた。




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