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057_研修所5 決闘大会



 朝起きた。

 フーリュは眠たそうな目を擦り、何度か瞬きを繰り返した。

 ベッドは快適で、夜中に1度も目が覚めなかった。

 訓練で体を動かして疲れていたということもあるし、お腹いっぱいご飯を食べたのも理由としてあるだろう。

 この気持ちの良いベッド上にずっといたかったのだが、そうも言っていられない。

 名残惜しむようにしてベッドから降りると、無言で身支度を整える。

 支給された服は、訓練用の服に礼服、そしてもう1着、ジャージという服がある。

 基本的に何を着てもいいが、戦闘の際は戦闘用のコスチューム、式典や正式行事には礼服と決まっていた。

 礼服と訓練用の服がそれぞれ1着ずつ、ジャージは2着支給されている。

 下着など、服がない人は申告すればもらえる。

 こんな高価な服を全員に配布するのだから、凄まじいとしか言いようがない。

 

 礼服を着るのは面倒くさいし、戦闘服でご飯は食べられないので、ジャージを着た。


「なにこの生地、伸びる」


「動きやすくて着心地もいいね」


「うん」


 私はアムと話をする。

 他の国の子とはまだギクシャクしているからだ。


 みんなジャージに着替え終わり、朝食へと向かう。

 昨日出たような豪華な料理はもう多分食べられない。

 きっとあれは特別で、初日だったからなのだ。

 これからは毎日パンにスープが付けばいいほうだ。

 一生に一度でもあんなご飯を食べることが出来たのだから、感謝しなければならない。


 名残惜しさを捨て、質素な食事に覚悟を決めて食堂へ行くと、また予想を裏切られた。

 もちろんいい意味で。

 お肉がある。

 昨日あったソーセージ。

 カリカリに焼かれたお肉はベーコンと書かれていた。

 肉をミンチ上にして、香辛料と一緒に固められた料理。

 パンやサラダはもちろん、具沢山のスープも何種類かある。

 そして卵まであった。

 茹で上げられたものがボールに山になっていた。

 そのまま焼いたものには目玉焼きと書かれている。

 混ぜて焼かれたものは2種類あり、スクランブルエッグと卵焼きと書かれていた。

 どれも美味しそう。

 卵なんて久しぶりだ。

 何年前に食べただろう。

 5年くらい前の誕生日だったか。

 村に数匹しかいない、鶏から取れる貴重な卵。

 本当は売り物になるはずのものをお父さんが頼み込んで1個だけもらい、私に食べさせてくれた。

 それが今目の前に大量にある。

 驚き過ぎて、過去の記憶に現実逃避するしかない。


「ぇ、うそでしょ???」


 他の降りてきた人も呆然としていた。

 みんな同じように考えていたはずだ。

 昨夜の夕食は特別なもので、もう食べられない。

 これからはずっとパン。スープがつけばいいなという淡い願望。

 それがお肉まである。

 高級品である卵まで。

 牛乳もある。


「嘘、、だろ???」


 続々と食堂に到着しては、驚いて固まっている。

 先に到着した人はその光景にもう見慣れたのか、何事も無かったかのようにパクパクとご飯を食べている。


 まさかこれがスタンダードだというのだろうか。

 ずっと続くのか。


 いやまさか。


 席は自由だということで、私たちは何となく別れて座った。


 アムの表情は明るかった。


「ねぇ、このサラダの中にもお肉が入ってるよ。鶏さんの肉かな。すごいね」


「ホントだ」


「私、太っちゃうかも」


「卵も食べようよ」


「うん」


 私たちはパンと卵とサラダ、ソーセージとベーコンも持ってきた。

 

「ちょっと取り過ぎちゃったかも」


 料理が置いてある所の一角には、「おススメの食べ方」と書かれたカードがあり、何人かが真似をしていた。

 もちろん私たちも。

 書かれていたのと同じ食材を取って来たのだ。

 

 まず丸くて半分に割れたパンを用意する。

 その中にベーコンを何枚かと縦半分に切ったソーセージと目玉焼きを敷く。

 サラダを入れて味付けに赤くてドロドロとしたソースを掛ければ出来上がり。

 

 アムがパクっと一口頬張る。


「んーーー!!!」

 

 私も一口。


「んーーー!!!」


 私たちはお腹いっぱいになるまで夢中で食べた。




 素晴らしい朝食を終えて、一旦部屋に戻り、戦闘服に着替えを済ませると1階のロビーに集合した。

 今日は訓練の前にやることがあるという。

 昨日のグループメンバーが集まると、みんなで転移術で移動した。


 連れてこられたのは巨大な闘技場のような場所だった。

 セシュレーヌ様のお城の敷地の一部。

 真ん中に広い空き地があって、その周りをぐるっと囲むように観客席がある。

 席は段々になっていて、前の人の席よりも少し高く、そのまた後ろは少し高い。

 みんながちゃんと見えるように計算された建物だった。

 何人くらい座れるだろう。

 向いに座っている人はとても小さくて、表情まで見えない。

 迷ったら終わりだから気を付けないと。

 私たちは観客席に座った。


「昨日はよく眠れた?」

 話しかけてきてくれたのは、隣に座ったセイソウさんだった。


「はい、ぐっすり眠りました」


「僕もだよ。あんな柔らかいベッドで寝たことがないよ」


「凄いですよね」


「うん。ベッドもお風呂も食事も。何から何まで想像以上だ」


「私も、まだ現実なのか疑っているんです」


「きっと誰もがそうだよ」


「ラシル様って偉大なんですね」


「うん。僕も認めざるを得ない。正直言うと、最初は疑っていたんだけどね」


「私もです」


「強くなるとか、衣食住の保証とか、上手く理解できなかった」


「私も狼と戦わされて殺されるんだって思ってました」


「ははっ。実際に体験させられると、信じるしかない」


「あとは、昨日のような喧嘩とかがなくなればいいなって」


「それは無理だよ。いくらラシル様でも」


「そうですよね……」


 チリンチリン


 会場全体にベルが鳴った。

 

 みんな雑談を止めて、注目する。


 闘技場に4か所あるゲートのうち、向かい合わせの2つのゲートが開いた。


 そこから男たちが出てきた。


 一方は50人くらいでもう一方は100人くらいいた。


「あれは……」


「昨日、喧嘩していた人も混ざってませんか?」


 それは昨日怒りをぶちまけていた人たちだった。

 彼らは武器を持ち、完全武装していた。


「それではこれから決闘大会を開催します。ルールは何でもあり。勝利条件は相手を戦闘不能にさせるか、降参させることです。なお、今回は先の戦争で遺恨のある方々に集まっていただきました。火国とその他の国に分かれた集団戦です」


 他の研修所でも問題を起こした者がいたらしく、そういう人たちを集めたのだった。

 それにしても、火国のほうが人数的に多い。約2倍だ。

 やはり加害者よりも被害者のほうが遺恨があるのは当たり前。


「そっちのほうが多いじゃねーか!! ズルいぞ!!」


「そうだそうだ!!」


「参戦したい方はその場で起立してください。参戦を認めます」


 会場で次々と起立する者がいた。

 起立した者から順番にその場から消えていった。

 転移術で下まで移動させられたのだ。

 彼らの足元には武器があり、各々それを拾い上げていた。


「やったろうじゃねーか!!」


「殺してやる!!」


 下のアリーナでは生きのいい罵声が飛んでいた。


「アム、行かなくていい?」


「大丈夫。見てる」


 アムは真剣な顔をして頷いた。


 参加者が締め切られた。

 火国側300人ほどに対して、他国連合が200人。

 数でいえば、火国の方が有利だ。


「それでは、始め!!!」


 会場のアナウンスが開始を宣言した。


 席に座って傍観している者がほとんどだ。

 戦いに参加しない人たちも、それぞれ心の内に思うところはあるのだ。

 みんなこの戦いの行く末がどうなるのか、食い入るように見つめていた。


 フィールド上にいる人たちは、昨日与えられた武器を持ち、敵に襲い掛かっていく。

 親の仇だと叫んでいる者もいるし、純粋に死ねーと言ってきりかかっているものもいた。


 壮絶な戦いだった。

 戦闘の技術や戦術などはない。

 荒々しい感情のぶつけ合い。

 お前が悪い。お前のせいで。お前らさえいなければ。

 各所で恨み言が聞こえる。

 憎たらしい相手を、ただひたすら殺す為だけの戦いだった。

 でもきっと、こういうことでしか感情をぶつけられないのだろう。

 感情の持っていき場、それがない。

 急に仲良くしろと言われても、どこかで破綻が来る。

 我慢していたそれが、一気に爆発した。


 殴り殺されたり、切り殺された者は転移でフィールドの端に寄せられる。

 そこにはバリアが張られていて、中に入ることが出来ないようになっていた。

 致命傷は治っていて、また立つことができる。

 一度死んだ者は選択肢を与えられる。

 バリアの中で終わるのを待っているか、再度戦うか。

 バリアは中に入ることはできないが、内側からは自由に出られるようになっていた。

 ほとんどの者が再び戦いに戻って行く。

 終わりのない戦い。

 決着など着かない。


 虐殺が繰り返され、30分ほど経った頃だろうか。


 四方の空間に歪みが生じた。


 その歪みの中から、次々と黒い影が姿を現した。

 狼たちだ。

 総勢で数百体はいるだろうか。

 狼は一斉に無差別に襲い掛かった。


 うぁーーーと逃げ惑うもの。

 応戦するもの。


 人間体人間の争いが中断された。


 しかしウルフは昨日戦ったものとは比べ物にならないくらい強い。

 そして大きかった。


 フィールドは一気に恐慌状態になる。

 観客席はバリアがあるので安全。


 その内に狼たちの蹂躙が始まった。

 腕にか噛みつかれて腕を無くす者。

 頭を持っていかれる者。

 押し倒されて、内臓を食い破られる者。


 必死に剣や槍を振り回しても、狼たちには効かない。

「助けてくれ」という叫び声は、すぐ聞こえなくなる。


 誰も、一匹も倒せない。


 死亡した者はフィールドの隅で復活するが、今度は誰もバリアから出ようとはしなかった。


 全員死亡し、フィールドは狼だけになった。


 そこのフィールドの中央に、火国の女性兵士が現れた。


 綺麗な女性だった。

 彼女がおもむろに右腕を上げる。


 次の瞬間。


 炎がフィールドを包み込んだ。


 狼が成すすべなく燃え、灰になっていく。

 一瞬にして全滅。

 その死骸さえも焼き尽くした。


 争っていた者たちは隅の方で座り込んだままだ。


 観客席にいた誰もがその光景に驚愕した。


 男たちが戦って全滅した狼を女性一人がたったの一撃で全滅させたのだ。

 傷一つない。

 レベルというか、次元の違う強さだった。


「お前たち」


 火国の女性は言った。

 闘技場全体に響きわたるように、拡声されていた。


 誰もがその強さと、美しさに圧倒され、言葉を発することが出来なかった。





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