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055_研修所3 大浴場


 私たちはナカムラさんによって召喚された狼を次々に倒していった。

 戦闘技術が上達し、剣で切り付けると必ず当たるようになった。

 力の入れ方や動きも覚えてきた。

 扱い方も分かってきたので攻撃力も少しは上がっていると思う。

 上手くいけば致命傷も負わせられるようになるまで成長した。


 次第に、1匹倒すまでに1分もかからないようになってきていた。


 再度休憩。


「ふぅ」と荒い息を整える。


 休憩しながらチームでミーティング。

 このミーティングの時間も貴重だった。

 どういう攻め方をすれば効果的で、誰がどんな動きが得意かが分かってきたからだ。

 逆に、どんな動きが苦手なのかも徐々に分かってきた。

 それが使っている武器の特性から来るものなのか、その人個人の癖や特性に由来するものなのかも、なんとなく感じることができた。


 それを踏まえて、私たちは前衛と後衛の概念を明確にした。

 メビィのナックル、ベンライの斧、私の短剣が前衛。

 私を含めた女の子たちは、狼に対する恐怖はもう完全に無くなっていた。

 私とメビィは前衛でも攻めを担当。

 ベンライさんの斧は最前衛での守備を担当。

 頭が良くて、全体を見渡せるセイソウさんのメイスと、リンシンの槍が中衛。

 モユウさんの弓が後衛。


 そして何度目かの休憩の後、ナカムラさんが狼を2体に増やすと宣言。


「やってやろうじゃないか」

 ベンライさんが息を荒くする。


「余裕ですね」

 セイソウさんが妖しく笑う。


「俺の矢でトドメを刺してやる」


「それは私のナックルが」


 みんないい意味でライバル心をむき出しにしている。

 私も負けていられない。


 2体同時。

 私とメビィが1匹を受け持ち、ベンライさんがもう1匹。

 私たちのほうの中衛はセイソウさんで、ベンライさんの方にはリンシンが付く。

 モユウさんは全体を見ながら援護する。


 狼の数が増えた事で、一人当たりの戦闘時間が多くなった。

 それでも私たちは余裕で対処できた。

 狼の攻撃を受けることなく、数回の攻撃で倒せるようになっていた。

 

 2匹相手の戦闘を何回か繰り返した後、ナカムラさんが今日のの仕上げだと言って、3匹の狼を召喚した。


 前衛が押さえ、押されそうになると弓と槍が応戦。

 数分で難なく撃破。


 訓練が終わる頃には、私たちは驚くほどの経験値を得ていた。



 ナカムラさんの転移術で、研修所に帰ってきた。

 まだ今日の日程は終わらない。

 研修所の地下に連れて行かれた。

 そこでレベルの泉の説明を受ける。


 今日倒した狼たちはみんなレベル3だという。

 レベルの泉を覗くと、レベルが4になっていた。

 他の人も、それぞれ何体か倒したのでみんなレベル4~5になっていた。

 午後の半日だけでこれだけの成果だった。



「私、強くなってる」

 メビィが感動したように言った。


「すごいね、こんな私でもレベルが上がってる」

 リンシンは嬉しそうだ。


 他のみんなもそれぞれどぶんが強くなったことを確かめ合っていた。


 ナカムラさんが懐から取り出したベルを鳴らしてみんなの注目を集めた。


「ラシル様がぜひ大浴場を使うようにと仰っている。その後、晩ご飯を兼ねた親睦会があるので2階に集合するように。今日はご苦労様」


 ナカムラさんがこれからの予定を伝え、チームメンバーの男の人たちと別れた。


「ねぇ、私、今日初めて狼を倒したよ!」

 部屋に戻ると、アムが今日の狼の討伐話を嬉しそうに自慢した。


「私だって、すごく強くなったんだから」


「もう村に帰って狼が出ても大丈夫だね!」


「そうだね」


 私たちはそんな会話をしながら笑いあった。


 部屋の女の子たちと一緒に最上階にあるという大浴場へ行った。

 部屋のある階から別の階へ移動するのはとても簡単だ。

 各宿泊階に2つずつあるボックスに入って、行きたい階のボタンを押すだけで転移できる。

 そのうちの1つに乗り込み、最上階のボタンを押すと次の瞬間には目的地に着いていた。

 とても不思議だ。

 何回かやったけど、まだ慣れない。


 大浴場の入口には沢山の人がいた。

 多分この研修所に泊まっている全ての人がここに押し寄せているのだろう。

 大浴場の入口は2つあり、それぞれ青い暖簾と赤い暖簾があった。

 見たことのない文字かマークのような絵が書いてあったが、意味は分からない。

 入口にいる神仙さまの説明を受けてから中に入っていっているようだった。

 私たちは近くにいた神仙さまを捕まえ、説明を受けた。


 お風呂での主な注意事項はこうだった。

 走らない。

 体を洗ってから湯船に入る。

 この2つは厳守らしい。

 他にもサウナという部屋の使い方とドライアーと道具の使い方についての説明を受けた。


 赤い暖簾のほうが女性用で女湯、青いほうが男湯だから間違えないようにと促され、私たちは赤い暖簾を潜って大浴場に足を踏み入れた。

 暖簾を抜けるとすぐに履物を脱ぐ場所があったので、他の人と同じように下駄箱に入れる。

 下駄箱のすぐ横に布を受け取る場所があった。

 そこで手ぬぐいという長くて小さい布と、バスタオルという長くて大きい布を受け取った。


 脱衣所で服を脱ぎ、ガラス張りの入口の前まで行くと、なんと自動で扉が開いた。

 左右に開くタイプで、入る人と出る人が扉にぶつかったりしないような仕掛けだった。


 全身が水蒸気に包まれる。


「すごい。湖の霧みたい」

 メイユが呟いた。


 すごい。

 すごい。すごい。


 体を洗う場所と、水を溜めた場所がいくつかあった。


 神仙さまに言われた通り、まずは簡単に体を洗った。

 体を洗う場所には鉄のような素材でできた蛇口状のものと、顔のない蛇のようなものがあった。

 大きなボタンを押すと、蛇の先から雨が降って来た。

 

「あれ?」


「どうしたの? フーリュ」


「これ、水じやないわ。お湯よ」


「うそ」


「すごい! なにこれ!」


「水の術式と、火の術式かしら」


 私たちは簡単にお湯で体を流した後、いよいよ浴槽へと向かった。


 私は今まで水浴びしかしたことがなかった。

 熱いお湯など、それこそ少量しか作り出せないので、料理で使うくらいだった。

 それなのに。

 大きな大理石でできた大きなお風呂が5つ。

 一番大きなお風呂は透明なお湯で階段のように段々になっていた。

 外の景色が一望できる。

 

「気持ちいいー」


「なんか疲れが溶けていく感じがする」


「これ、どうやってお湯にしているのかしら」


「これだけの量を温めるなんて」


「分からない。火国の術者の方でも無理だと思う」


 なんて気持ちがいいのだろう。

 こんなにたくさんの人がいるのに、お風呂が多くて広いので、全然混んでいる感じがしない。


 お湯に浸かりながら、今日あったことをアムと話した。

 アムはメイスを武器に選んだのだそうだ。

 剣はちょっと怖いし、矢のような飛び道具も無理でナカムラさんに、「じゃあ殴ってみたら?」と言われ、メイスにしたのだそうだ。

 最初は戦うことや狼が怖かったが、モンスターと戦っているうちに楽しくなってきたとのこと。


「私ね、5回もトドメを刺したんだ」


「すごーい! 私は3回なのに!」


 また、一緒に戦っているうちに少しづつ奇妙な連帯感も生まれ始めたのだそうだ。

 アムはバリバリの前衛だったらしい。


「最初はね、やっぱり怖かったのよ。でも慣れちゃった」


 アムの方が適応能力が高いんじゃないかとフーリュは思った。


「他のお風呂にも入ってみましょうよ」

 メビィが白く濁ったお湯の方を指差して言った。


 私たちは白濁の湯に移動した。


「なんか甘い匂いがするー」


「頭がポワポワする」


「リンシン、ポワポワって何?」


「なんかね、フワフワして気持ちいい感じ。私の国ではそう言うの」


「いや、言わないと思うけど」

 シェンリが苦笑いしている。


 お風呂から上がり、体と髪の毛を洗った。

 3つのボトルがあり、そこにはそれぞれ人のマークが描かれたもの、髪の毛の絵が描かれたもの、星のマークがいくつか描かれたものがあった。

 体を洗う時に使う液体と、紙を洗うときに使う液体だ。

 神仙さまに受けた説明のとおり、ボトルの頭の部分を何度か押して手ぬぐいの上に垂らす。

 手ぬぐいをこすると雲のような白い泡がもくもくと発生した。


「なにこれー!!」


「雲みたい!!」


「いい匂いもするー!」


 それで体を洗うと凄くピカピカになった。

 髪のボトルの液体は手に掬い、それで髪を洗った。

 仕上げは星のマークのボトル。

 同じように手に掬い、髪にもむように付けていく。

 トリートメントというものだそうだ。

 最後に洗い流して、もう一度お風呂に浸かり、私たちは風呂から上がった。


 ドライヤーというものを使った。

 風の術式が込められているらしく、ボタンを押すと発動して髪を乾かしてくれる。


 私たちは上気した顔で部屋に戻った。


「気持ちよかったねー」


「大浴場って凄いね」


「あのお湯には体力回復の術も込められているそうよ」


「私、大浴場大好き」


「もうすぐ時間よ。そろそろ下に降りなくちゃ」


 ナカムラさんが言っていた、親睦会の時間が迫っていた。

 私たちは支給された、礼服に急いで着替えた。


「この服、すごくかわいい」

 シェンリが感嘆の声を漏らした。


「木国では見たことがない。エルフの服もこんなに上質じゃないと思う」


「きっとすごく高いのかも」


「それは後にして、早く行こう」


 服に関心している暇はない。

 集合に遅れるなんてことはできない。

 罰を受けたり、初日から目を付けられるなんて嫌だった。

 その気持ちはみんな同じ。

 すぐに支度をして、私たちは慌てて部屋を出た。


 ボックスに入り、2階のボタンを押す。


 すぐに視界が一変した。




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