054_研修所2 訓練開始
ドアを開けると驚愕の光景が広がっていた。
最初に目に入ってきたのは大きな窓。
この部屋はちょうどグラウンド側に面しているので、訓練風景を一望できる。
次に大きなベッド。
腰を掛けてみるとびっくりするくらいフカフカだった。
これに慣れてしまうと、他のベッドでは眠れないかもしれない。
6人分のベッドとその脇には机があった。
他に服をいれるクローゼット、トイレ、お風呂がある。
でもお風呂だけは建物の最上階にある大浴場を使ってほしいという神仙さまの説明だった。
質素な部屋だが、機能的。
所々、見たことのない素材でできていた。
そして一番驚いたのが、壁にあるスイッチ。
これを押すと部屋が自動で綺麗になるらしい。
訳が分からない。
ここはきっと王様が住むような場所に違いないとフーリュは思った。
私がここで暮らすのではなくて、ここに住んでいる人にお仕えするんだ。
そう思ってしまうのが自然なほど、この部屋の作りはよくできていた。
しかしここが今日から私たちの住む家だという。
一緒に部屋に入ってきた女の子たちと相互に自己紹介をした。
同じ火国出身の子、アム。
水国の子、メイユ
木国の子、リンシンとシェンリ
土国の子、メビイ
アムとはすぐ仲良しになった。
同じ火国出身どうしだからだ。
アムの住んでいた村は北部の水国との国境沿いに近く、私の村とは少し離れているけれど、それでも同郷というのは心強かった。
アムも水国で奴隷にされていたそうだ。
私は土国。
土国では奴隷というほど、そこまで酷い扱いは受けなかった。
洗脳もされず、単純な労働力として鉱山で働かされていた。
一方で、アムは酷い目にあっていたという。
だから、同じ部屋に他国の子がいるのが、とても不安だという。
それでもアムは、言うのだ。
「ラシル様がいらっしゃって、私を奴隷にしていた水国人をすべて綺麗に消してくれた。ラシル様は神様に違いない」
そのラシル様が研修所に来て強くなれと言うのだから、そのご命令に従うのは当たり前のことだと言っていた。
反対に、木国の子たちも怯えていた。
リンシンとシェンリは木国が戦争を仕掛けたことで、報復にいじめられたり殺されたりするんじゃないかと。
水国の子、メイユも一人で所在なさげに、不安そうにしていた。
土国の子、メビイは平気そうだった。
話を聞くと、土国は国というよりも、都市の集合体だから、他の都市のしたことは自分の都市に関係ないという意識なのだという。
ラシル様と各国の王たち、神仙さまから、争いやいじめはご法度と言われている。
どんな理由があるにせよ、それが発覚すれば厳しい罰が待っていると注意をされている。
簡単な自己紹介が済んだ私たちは、部屋でベッドに寝転んだ。
準備をして、1時間後に下に集合することになっている。
集合時間にはまだ少し早かった。
「すごーい」
ベッドのフカフカ具合に感動しているリンシン。
「なにこれー」
シェンリも寝そべって幸せそうにしている。
「本当にここに住むの??」
懐疑的なのはメビイだった。
「大丈夫なの? 私たち。今だけいい思いをさせて、明日には殺されちゃうとか」とリンシンがいう。
「それ、あるかも」とシェンリ。
荷物を置いて、着替えを済ませた。
着替えのために容易されていた服は、今まで見たことのない形状の服だった。
ちょっと変なのと心の中で思ったが、口には出さなかった。
これは戦うときのコスチュームだそうだ。
これから厳しい訓練が待っている。
頑張らなければと気合いを入れ直す。
準備が整ったので、下に降りる。
エントランスホールには、もうほとんどの訓練生が集まっていた。
チーム割が張ってあるから見るようにと言われ、見に行く。
エントランスホールの大きな掲示板に、紙が張り出されていて、名前と班が書いてあった。
「あった。私の名前」
「別々になっちゃったね」
アムが不安そうに呟いた。
同じチームになったのは、木国出身のリンシンと土国出身のメビィ。
同国出身のアムとは別の班に振り分けされていた。
他に男の子も3人いて、全部で6人。これで1チーム。
もう一つのチームは同じ部屋の女の子3人、火国のアム、水国のメイユと木国のシェンリに加えて他の男の人達。
先生はラシル様の配下の男の人。
先生の名前はナカムラさんというらしい。
厳しい訓練だと聞いたので、とても怖い人なんじゃないかと想像していたけど、違った。
笑顔が素敵な、とても優しそうな人だ。
訓練は2組12人で行うそうだ。
「みんな揃ったね。グラウンドに行く前にトイレとかは大丈夫かな?」
みんな顔を合わせて、無言で頷いた。
「では、行くよ」
きっとナカムラさんが何かをしたのだろうとしか思えない。
瞬きした次の瞬間にはグラウンドにいた。
「それじゃあ武器を選んで」
ナカムラさんは何もない空間から様々な武器を取り出した。
剣、槍、弓、ナックル、メイス、斧、棒。
剣一つとっても、刀やソード、短剣、バスタードなど様々だった。
私は短剣を選んだ。
普通のソードは重くて持てないし、槍も長すぎて扱えない。
弓も上手く射ることができる自信がなかったし、斧は女の子としてちょっとと思った。
短いけど、扱いやすい短剣。
私には選択肢が無かった。
メビイはナックル、リンシンは槍を選んだ。
同じグループの他の男の人達は斧と弓とメイスを選んだ。
まずは武器の使い方。
ナカムラさんはシャドウソルジャー、通称SSを12体召喚した。
真っ黒で影をそのまま具現化させたような人型の兵士。
夜に会うとかなり怖い。
召喚とかよく分からなかったけど、私たちのほとんどはもう驚かなくなった。
12体のSSは私たちの選んだ武器と全く同じ武器を持っていた。
「SSが武器を使って見せるから、同じように真似をしてみて」
ナカムラさんにそう言われ、SSを観察する。
私の選んだ短剣を持ったSSは小柄だった。
片手で剣を持ち、ワンステップで素早く切り込み、すぐに離脱。
これを繰り返した。
私も同じように真似をしてみたけど、SSのように素早くできない。
ナカムラさんが1人1人回ってアドバイスをしてくれる。
私へのアドバイスは、重かったら両手で持ってもいいということと、最初は切るのではなくて突くことを意識するようにというものだった。
剣は切るためにあるのだけれど、切って腕を横に振る動作は突く動作よりも時間がかかる。
確実に相手の隙を付くことが出来ると思った時、ここだという時に切ればいいのだそうだ。
なるほど。
私は突く動作とステップを中心に練習した。
「では実践に入ります」
ナカムラさんが何でもないことのように宣言した。
早っ。
「実際に戦ってみたほうが早いからね」
ナカムラさんは予備動作なしで狼を2体召喚した。
「それぞれ6人1組のチームになって戦ってください。たくさん怪我をしても大丈夫だから」
ナカムラさんが恐ろしいことをサラッと言う。
こちらの準備のことなどお構いなしに、狼が全力で襲ってくる。
灰色の化け物。
住んでいた村では、狼を見たらすぐに逃げろと教わった。
足が速いので、後ろを振り返らずがむしゃらに全力で。
戦闘に慣れている人じゃないと狼は倒せない。
それに1人に2匹以上であれば、まず勝ち目はない。
戦闘経験のない私のような女の子だと、一度捕まったら助からない。
狼はとても怖い生き物なのだ。
私は怖くて尻もちをついた。
リンシンは武器を捨て、悲鳴を上げて逃げ出し、メビィは固まったまま動かない。
土国出身のベンライさんという男の人が咄嗟に斧で応戦。
狼は斧にかみつく。
「俺が押さえているから早く!!」
ベンライさんの叫びに我に返った男の人たちが応戦する。
「死んでも大丈夫だから!」
ナカムラさんは恐らく親切心で言っているのだろうが、私たちにとっては気休めにもならない。
必死に応戦している男の人たちを見て、私も覚悟を決めた。
メビィも深呼吸している。
リンシンは顔を赤くして、恥ずかしそうに槍を拾った。
私たち3人は互いの顔を見て頷きあった。
倒さなければならない。
3人の心は一致したと思う。
私は狼の後ろに回り込み、短剣で突いた。
狼のお尻に少しだけ刺さったが、狼は無反応。
前方にいるベンライさんたちに集中しているようだ。
「私も!!」
メビィが叫んで、狼の脇腹に一撃を入れて、すぐに離脱。
すかさず、狼の脇腹に矢が刺さった。
木国出身のモユウさんが放った矢だ。
怯んだ狼に、リンシンが槍で突く。
狼がバランスを崩したが、致命傷には至らない。
そこにメイスが狼の頭を襲う。
水国出身のセイソウさんだ。
あともう少し。
私はここだと思い、短剣で切り裂く。
「キャウン!!」
悲鳴を上げた狼にベンライさんが斧でざっくりとトドメを刺した。
「やった!!」
「やったね!!」
「うん!」
ようやく倒した私たち。
リンシンメビィと集まってハイタッチ。
あの狼を自分たちの手で倒したんだ。
これは誇ってもいいかもしれない。
すごく嬉しかった。
もう一組のほうも終わったみたいだ。
「さぁ、どんどん行くよ」
ナカムラさんはニコニコしながら、また狼を召喚した。
「え、もうですか!」
リンシンが驚いているが、ナカムラさんと狼には通じない。
「頑張って」
ナカムラさんは爽やかな笑顔を見せた。
狼が走って来る。
さっきのように取り乱したりはしない。
ベンライさんが前に出て、正面から狼の相手をする。
メビィとセイソウさんも積極的に攻撃に出る。
リンシンと私は後ろからアプローチ。
後ろに回り込まれて槍で突かれた狼が堪らずにジャンプして距離を取る。
そこにすかさずモユウさんの矢が襲う。
矢に怯んだ狼を見て、私は前に出て短剣を振った。
さっきよりも深く切れてる。
セイソウさんのメイスが狼の胴に入り、メビィのナックルが狼の顔面を直撃する。
メビィは牙が怖くないのだろうか。
「えぃ!!」
トドメの一撃はなんとリンシンだった。
喜ぶ暇もなく、新たな狼が出現して走って来る。
それから立て続けに10匹の狼を倒した。
5匹くらい倒したあたりから、もうみんなの狼に対する恐怖心はほとんど消えていた。
リンシンもメビィも積極的に攻撃を仕掛けている。
だんだんとチームワークのようなものが芽生えてきた。
誰も協力しようなんて考えていたわけではない。
戦闘を重ねるにつれて、どうすれば早く倒せるかということを意識したり、やりやすいように少し工夫しただけだった。
それが互いが互いの動きを意識することに繋がり、チームワークと呼べるものが見えてきた。
セイソウさんとベンライさんが押さえて、私とメビイが切り込む。
狼が後退したところモユウさんが弓を打つ。
リンシンは遊撃。
お互いのフォローもできるようになってきた。
すごい進歩。
武器の扱いにも、少しずつ慣れてきたところ。
私の短剣は正面からだとまだ回避されるけど、横とか後ろからの攻撃だと当たる。
リンシンの槍は良いけん制になっているし、メビィの回避は早くなってきている。
ベンライさんとセイソウさんが前にいると安心できるし、モユウさんの矢は高い確率で当たるようになってきた。
ここで小休憩。
「私、狼を倒したの初めて」
「私も」
リンシンとメビィが感動したように共感しあっている。
「私だって」
「それにしても、こんな短い時間で武器を使いこなしている君たちは凄いよ」
「俺の村にはこんな勇敢な子たちはいない」
セイソウさんとモユウさんが褒めてくれた。
「俺は何回か狼を倒しているが、君たちに抜かれそうだ」
ベンライさんは苦笑して言った。
それから私たちはチームで雑談をした。
といっても、もっぱら戦闘の話だった。
あの時のアシストは良かったというものや、あの行動は危なかったといったもの。
狼がこういう行動を取ったら次はこうしようという打合せをしていると、ナカムラさんが休憩の終了を告げた。
ついさっきまで恐怖や不安ばかりだった私たちは、戦闘を純粋に楽しんでいた。




