053_研修所1 入所
研修所への受け入れが始まった。
目的はレベリングによる防衛力の強化。
基本的にラシルは世界を制覇しようとか、征服しようなどとは考えていない。
だったらそんなに強くならなくてもいいのではないか。
軍拡に邁進しなくてもいいのではないかという疑問が出てくる。
しかし、それは愚問である。
この世界は武力が物をいう世界。
弱い者は強い者に従うしかない。
そういう世界で暮らしていくには、ごく当たり前の帰結として、自分も武力を持つしかない。
元の世界のバランスオブパワーという概念はこの世界では通用しない。
元の世界では寿命というものがあったため、どんな腐敗した権力も、世代交代によって変化が起こる。
この世界ではで、ある一定の強さに達すると寿命がなくなる。
権力の世代交代は起こりにくい。
そのため、権力を持った支配者階級は固定され、権力は更に大きいものへとなっていくだろう。
だから。
なるべく権力を持たずに、誰にも害されない集団とならなければならない。
暮らしぶりが豊かになり、経済的な結びつきが深まり、相互理解が進めば、必ず平和になる。
争うメリットよりも争わないメリットが上回れば、争いなどは起こらなくなる。
たとえそれがね人間と人間以外であったとしても。
そのためには圧倒的な武力、軍事力と生産力、経済力が必要なのだ。
まずは必須の軍事力。
元の世界では一個人が持てる戦力など高が知れている。
武力や軍事力というものは権力の上に成り立っているものだからだ。
その常識は通用しない。
この世界では、個の努力によって圧倒的な差をつけることができる。
軍事力を高めるためにはレベリング。
レベリングでそれを為しえるのであれば、ひたすら効率的にやっていけばいい。
徹底的な効率化。
軍事力が高まり過ぎても悪いことはない。
もし反乱とかが起っても、力の供給を止めればいいのだ。
誰もが進化する時に食べる実にそういった制限が掛かっている。
なろうと思えば容易に独裁者になれる、とても便利な力だ。
支配領域をどうこうするつもりもない。
奴隷制度などそういったものは止めさせるが、基本的には自治を促す。
立場の弱い女性などもレベリングに参加させるため、不平等がなくなる。
完全に無くすことはできないかもしれないが、今よりもかなり暮らしやすくなるはずだ。
食料は圧倒的な生産力で供給できる。
後々、家や服など、そう言った衣食住すべてが向上する。
平和も享受できる。
それでもし気に食わないのであれば、別に支配下から抜けてもらってもかまわない。
その時は力は返してもらう。
それだけである。
というわけで、研修所というのは、ラシルにとって極めて重大な位置づけにあった。
ミイをはじめ、他の幹部も理解を示してくれている。
研修所に入所してもらう前に、フィールドに集めて訓示をする。
フィールドに集まったのは3500名。に加えて竜族が約250。
講師陣を加えて約4000人が集結していた。
火国、水国、木国、土国人たち。
男女比は半分ずつ。
兵士も1000名程度いるが、残りは民間人である。
募集をかけたけど、なかなか集まらなかった。
新たな王、ラシルというのに不信感を抱いている者が多かった。
圧倒的武力で争いを鎮圧。
長い間虐げられてきた火国を滅亡から救い、敵対都市を滅ぼした。
それだけでも恐怖なのだ。
ラシルという存在は、いったいどうしようというのだろう。
圧倒的な軍事力。
そしてその後の食料支援。
感謝するが、不気味すぎたのだ。
それに訓練は水の国や他国と合同で行う。
今まで争ってきた相手だ。
火国人を捕まえて、奴隷にしていたもの達は全員死んだと聞くが、そしれでも同じ国の人というだけで、心にしこりは残っている。
木国や水国、土国にしても同じだ。
噂では聞くが、本当に強いのか?
何かされるんじゃないかいった不安があったのだ。
ラシルは無理に参加させたくない、本人の意思を尊重するといったが、各国の王たちからすれば死活問題であった。
もし自国の参加者が少なければ、その分の席を他国の参加者に奪われる。
そうすると同然、その分だけ他国が強くなってしまうのだ。
王たち各国の上層部は、ラシルの力の強さ、物資の豊かさ、そして先に訓練を始めた火国人たちのレベルの高さに目を剥いて驚愕していた。
だから王たちも参加している。
ドラゴン達もここ数日で全員戦闘レベル100になり、龍に進化していた。
一緒に訓練に参加させるつもりだ。
フーリュは不安だった。
先の戦争で両親は殺された。
自分も奴隷にされていて、最近ようやく解放された。
生まれ故郷の村にようやく帰れると思ったら、研修に行きなさいと言われた。
村長からは、女王様直々のご命令だと言われた。
そんなもの、奴隷だった村娘に断るなんていう選択肢はない。
村長はどうしてもというのなら他の人にするといってくれたけど。
断れば死罪になるに決まっていた。
村に帰ってこれたのは数日間。
すぐに火国の首都である火府に移送された。
両親が死に、奴隷になって辛く苦しい思いをした。
自分の人生にまた何かが起こるのかとうんざりする気持ちが半分。
もうどうにでもなってしまえという気持ちが半分。
火府に到着したフーリュはすぐに女王様に呼ばれた。
初めての火府は村とは比べ物にならないほど栄えていて、建物も大きかった。
村長から選別で、火府に行っても恥ずかしくないように、村で一番高価な服を貰って着てきたのだが、まったくの無駄だった。
それは婚礼の際に着る衣装で、どこか別の民族衣装のようだった。
火府には戦争の混乱で、家のない孤児が溢れていた。
でも衛生状態は良く、みんな元気そうな顔をしていた。
村からここまで送ってくれた牛飼いさんが後で教えてくれたのは、食料が行き渡っているからなのだという。
戦争が終わったばかりなのに、不思議だった。
フーリュは女王様と謁見した。
がちがちに緊張し、最初は
顔を見ることなんてできず、ずっと下を向いていた。
女王様は仰った。
この国は神にお仕えすることになったと。
ラシル様という方にお仕えする。
その方がこの国を救ってくれた。
これからもお導きいただくと。
全然、理解できなかった。
フーリュにとっては女王様も神様も話すことのない、一生関わることのない人だと思っていた。
よくわからないけど、強くなるのだという。
女王様が言うには、ここで厳しい訓練をしなければならない。
それは火国のためだという。
どうして兵士の人じゃなくて私が強くなるんだろうと思ったが、そんな疑問は口に出せなかった。
他の村から来た人たちと一緒に、研修所まできた。
みんな一か所に集められ、ラシル様の兵という方がいらっしゃって、不思議な術をかけてくれた。
瞬きをしたら研修所たる所にいた。
びっくりした。
何人かは腰を抜かしていた。
これからまたここでラシル様という方にお仕えして、奴隷のように働かされるのだろうか。
他の国や都市から来た人もみんな大きなお城の前の空き地に集められた。
セシュレーヌ様が管理している龍王城というお城の、訓練用地。
通称グラウンドというそうだ。
そこに集められ、ラシルのお言葉を聞いた。
「君たちには強くなってほしい。強くなった後、国防に就くのもよし、転生してより強くなる道を選んでもよし、もちろん自分の住む町や村に帰ってそのまま暮らしても良い。だけど俺の構想としては、この研修所を大きくしていきたい。15歳前後の子供たちを集め、教育し、ここで強くなってもらいたい。自分たちの身を自分たちで守れるように。それ以上は特に望まない」
ラシル様は一度言葉を切り、集まった者たちを見渡した。
「この研修が終わった後、ここで後進の育成に従事してもらう先生も募集したいと考えている。研修所は最高のものを用意したので、暮らしは快適なはずである。様々な者と交流を深め、意義深いものとしてほしい。なにより、楽しんでくれたまえ」
その後、この研修所の所長であり、龍王城の城主である、セシュレーヌ様からも挨拶があった。
フーリュは不安と疑問でいっぱいだった。
強くなることは厳しいし難しい。
自分のような、何の取柄もない村娘にできることではない。
モンスターと退治するのは怖い。
それを普通の民にできるのだろうか。
選ばれた他の民たちの顔も暗い。
家族と会えなくなり、訓練に参加させられる。
2か月から3か月程度だといわれているが、ラシルの気分一つで帰れなくなる。
ずっと、それこそ死ぬまで戦わされ続けるのではないか。
それに研修所が快適だとは、いったいどういうことだろう。
これから待っているのはの辛く厳しい日々。
また、部屋割りはランダムで、同じ国出身の民のみということはないようにすると言われた。
それも不安だった。
いままで争っていた他の国や都市、侵略国の人との共同生活。
火国の中には私のように奴隷にされていた者も多い。
そう言った人たちと暮らさなければならないのだ。
奴隷だったからと目を付けられ、この研修に参加させられる自分は不幸だ。
訓示が終わり、研修所という施設に案内された。
中は最大で500人くらいが収容できるという。
王様など一部の者には個室が割り当てられているが、原則として各部屋のベッドは6つで、6人が一部屋になる。
火国の女王や他国の王たちも一緒に参加しているそうだ。
割り当てられた研修所に、他の人たちと一緒に入った。
エントランスは解放的で明るかった。
ここでラシル様の兵の神仙さまから説明があった。
2階と3階がカフェテリア件食堂。
ここで食事をするらしい。
4階は図書室、アクティビティールームと談話室。
5階からが寝室となっていて、それが17階まで。
1部屋6名で7部屋。
18階が大浴場という場所。
その上に屋上がある。
地下にはレベルとステータスを確認するレベルの泉があるらしい。
16階建てというのが意味がわからなかった。
そんな建物見たこともない。
2階建て以上の建物なんて、村にはない。
3階建てはごく一部の都市にある。
小さな建物ならともかく、4階5階建てが限界のはず。
どう考えても分からなかった。
説明が終わると、部屋に案内された。
部屋に行くには、エレベーターという乗り物がある。
小さい箱型の部屋に入り、扉を閉めて、行きたい階の番号を押せば、そこに行けるという。
エントランスには12個の箱型ボックスがあった。
そんなばかなと思ったが、同じ階に行く何人かと一緒にボックスに入り、ボタンを押すと、本当に着いた。
レイランの階は15階。
つい一瞬前までボックスにいたのに、今は15階の真ん中に立っていた。
鍵は1人1つ。
腕輪型になっている。
部屋の前で一緒の部屋の人と合流した。
勇気がなくて、誰もまだ試していないらしい。
フーリュはもうどうにでもなれという思いで、ドアの取っ手に手を伸ばした。
手を掛けると、ロックが外れて、ドアが開いた。
みんなで恐る恐る部屋に入る。
なっ……!!!




