045_昔の拠点
火国関連の戦争が終結した。
水国王をはじめ、火国の敵対都市をことごとく殲滅し、奴隷を救出。
これでようやく一段落ついた。
とはいっても、まだまだ事後処理が沢山残っている。
救出した火国人のケア、一気に領地が増えた事に生じる食糧問題、今回同盟に加わった水国や木国、土国の都市との関係。
考えなければならないことは山ほどある。
それでもこれまでよりは楽になる。
もう時間を気にする必要は一先ず無くなったからだ。
早急に救出しなければならなかった、火国人の救出はもう済んだのだ。
あとは比較的ゆっくりでいい。
細々としたことはショウに任せ、ミイは半日だけ休日を貰い、久しぶりのゆっくりとした時間を過ごしていた。
本当はこの時間もレベリングに励みたい所なのだが、ラシルが禁城地下の例の場所へと行くと言ったので、同行してきた。
一緒に行きたいとかそういうわけではなく、護衛が必要だと思ったからだ。
禁城には地下が3階まである。
地下一階は、禁城の動力源である、各種精霊石の集積地兼動力炉。
ベッフィーが開発した色とりどりの石が、色別に山のように積み重なっている。
精霊石の中に精霊術や仙術、魔力を吸収させたものだ。
元の時代で言うと、石炭のようなもの。
ただし石炭よりも莫大な力を秘めている。
術式まで練り込んでいるので、高度な技術で造られた人口物だ。
部屋全体が動力炉の構造となっているので、使用される精霊石は自然と床に溶けていき、消費される。
中身のエネルギーのみ消費されて、空になった精霊石は別の場所に出てくる仕組みになっている。
地下二階回には、進化の実である仙桃の木が大量に植えられている。
全ての木にはラシルの仙術が込められていて、限界までレベルアップと成長促進がなされている。
桃、青、黄、赤、虹色の全種類の木が育っており、収穫できるまで十分に実ると、自然に落ちる。
床に落ちる寸前に転移術が作動して、アイテムボックスの中へと自動で送られる。
なので実質何もしていなくても、アイテムボックスの中の仙桃が増えていく仕組みとなっている。
他の拠点でも同じような構造で、それぞれ進化の実の栽培を始めている。
そして今回の目的地である地下三階。
特定の人間以外、転移魔法は一切できないようになっていて、6階にある執務室の奥の扉からしか入ることができない。
ここは一部のギルメンしか知らない秘密の場所だった。
秘密といえば、ミイには秘密が結構ある。
例えば最近できた秘密でいうと、洗っていないラシルのシーツと下着を保管している事や先日エアノワリスと共にプロポーズを受けた事。
秘密を作るのはNPCらしくないとエアノワリスやクゥに言われるのだが、それは違うとミイは思っていた。
ラシルへの愛がそうさせるのだ。
ミイとラシルは秘密の場所にいた。
その場所は竹林に覆われていて、一見ただの雑木林に見える。
しかしよく見ると、竹林はある一定の範囲に1本植えられており、管理が行き届いている。
明らかに、庭と呼んでいい類の場所だった。
竹林を少し進むと、突然石畳の道が現れる。
その上をさらに歩いて行くと、奥にそっそりと家が建っていた。
昔の日本家屋のような、二階建ての家。
裏手に縁側がある。
ミイはその家を見て懐かしさを覚える。
きゅーっと胸が締め付けられるような、思い出が鼻腔から入ってきて、頭の中を昔の記憶でいっぱいにするような、そんな幸せな感覚になる。
ミイは昔、ラシルとここに住んでいた。
ここは最初の拠点だった。
今はもうない、昔の拠点、第1号。
お金がそれほどなかった時代、一戸建ての庭付きの家を買うのが精いっぱいだった。
ミイが仲間になり、2人になったことでせっかくギルドが出来たのに住む場所がない。
そんなんじゃいけないと言ったラシルが借金して購入したのだ。
ミイはラシルの仲間になり、ゲームの世界をずっと旅していた。
その間は野宿をしたり、宿に泊まったり。
ラシルがログアウトしている間、ミイは一人だった。
旅の途中の知らない町で一人。
それはとても心細かった。
いつラシルが戻って来てくれるかもわからないまま待った。
そんな時期を経て、ついにラシルが『ラシルの帰りを待つ家』をミイにくれたのだ。
家はお風呂と露天風呂があり、縁側があり、二階にはバルコニーがある。
庭を使ってみんなで戦闘訓練をした。
一つ一つの部屋に思い出がある。
楽しい、楽しい思い出だ。
この頃が一番楽しかったかもしれない。
家を買って少ししてから、メルバコルとエアノワリスが仲間になった。
みんなまだ小さかった。
セシュレーヌなんて、小さい生まれたてのドラゴン体だった。
メルバコルは気弱で引っ込み思案、エアノワリスはハキハキしていてちょっとヤンチャだった。
クゥは悪戯好きで、ベッフィーは本が好きで、ずっーと縁側で本を読んでいた。
仲間になった順は幹部の拠点管理者でいうと、次にクゥとセシュレーヌが仲間に入り、次がロメリアで最後がベッフィー。
ロメリアは仲間になったが、自分は拠点を離れられないからという理由で精霊たちを召喚してくれた。
五大精霊プラス2だ。
彼らは今もいる。
確かその後ショウが加わって、同時期に拠点を移動した。
この禁城に。
ここに住んだのは5年くらいだろうか。
ラシルの背中に付いていき、縁側の方に回ると精霊たちが歓迎して寄って来た。
「久しぶりに来ました」
「やっぱり落ち着くな。禁城の豪華な部屋もいいけど」
「はい。私もここがとても恋しかったです。ラシル様との思い出がたくさん詰まった場所ですから」
ラシルは古き日の思い出に浸るように立ち尽くしていた。
「ここに住まわれますか?」
「そうだな。別荘で使うよ。週に1回くらい」
「畏まりました。では私が掃除等の管理を承ります」
「前にも言ったけど、みんなを呼んでゆっくりお茶でも飲みたいね」
「そうですね。あの頃のように。落ち着いたらそうしましょう」
「いいんだよ。ミイ。昔のように接してくれても」
「……」
ミイは照れた。
「それはさすがに。ただ一つお願いがございます」
「なんだい? 言ってごらん」
「私の悪魔種としてのレベルが100を超えました」
「そうか。ヴァンパイアとしての力を取り戻したんだね」
「はい。というわけで、その……」」
「血だね」
「はい……」
恥ずかしそうにミイは俯いた。
「君は昔から甘えん坊だったからね。好奇心旺盛なのに泣き虫で」
「ラシル様。その話はそのくらいで、それよりも」
「ああ。いいよ」
ラシルは振り向いて、肩を出した。
「では、失礼します」
カプ。
ひと噛み。
ラシルに痛みは無い。
吸われていく感覚があるだけのはずだ。
「舌がくすぐったい」
ラシルはミイの頭を優しく撫でる。
ビクッとして、一瞬ミイの吸う力が弱まったが、また再開した。
それからしばらく、ミイは血を吸い、ラシルは血を吸われ続けた。
なんか長くないかとラシルが思ったのは気のせいだろう。




