042_隣国侵略戦1 侵略準備
禁城の雰囲気は、さながら戦時のようだった。
戦争一色。
富国強兵。
情報収集、食力確保、戦力増強。
この3つを主軸に据えて、毎日が目まぐるしく動いていた。
まずは食料確保と事後処理について。
解放された火の国の民は酷い扱いを受けていたようで、水の術式による洗脳も受けていた。
対処は精霊術の扱いに長けているロメリアと白魔法使いのエアノワリス、その配下が全員のメンタルチェックを行い、洗脳を受けていた者を順次解除していった。
彼らの中にはエアノワリスの幸福感を増幅する魔法でも完全に拭いきれない、深い悲しみを抱いている者もいた。
完全に治ることなどないかもしれない。
時間が癒してくれるのを待つしかないだろう。
俺の支配下にいれば、もうこんなことにはならないのだから。
そのためにも強くあらねばならない。
レイリンがそういった者たちを選別して新たなプリースト候補の部隊を編成している。
増えた人口に対応するため、食料生産能力を再度引き上げ、解放した火国の都市、町や村に食料を配布している。
レイランの所の文官が現地の実情を踏まえて意見を取りまとめ、物量の調整などを担当し、ショウが監督している。
これも後々、火国人自身にやってもらおうと考えている。
食料を生産するための畑を耕すのは仙術である。
仙術以外にも魔法や他の力も存在するのだが、農業に関しては、仙術が最も適していた。
例えば、悪魔の使う黒魔法は欲望を叶えて世界を変化させるというのが基礎概念となっている。
天使の白魔法は願望と信仰を元に事象を創造するもの。
どちらも強力な力なのだが、あくまでも自然現象である農作物の生産には適さない。
一方で、仙術の力の源を突き詰めていけば、自然エネルギーを操作する術である。
仙術以外に農業は難しいのがこういった特性からくるものだった。
元からの禁城の住人は、今ではほぼ全ての者が神仙に到達していた。
誰でも農業ができるし、転移術を使える。
レベリングに意欲的で速い者に至っては、ジョブチェンジという進化をした者も数名。
2個目の属性を得ることをダブルと呼んでいる。
本人の希望と適性により、精霊種と悪魔種、天使種、龍種から選択することができる。
クラスの大まかな特性はこうだ。
精霊が自然エネルギーの増強。
悪魔種が黒魔法。
天使種が信仰系と神聖系の白魔法。
龍種が身体能力と物理攻撃力と各種耐性の大幅強化である。
黒魔法は欲望に基づいて世界を騙し、変化変質させる魔法なので、欲望と変化後の世界の想像力が必要となる。
白魔法は、信仰心、思い込みの強さが原動力となるため、純粋な願いの強度があるものが適している。
精霊種は、莫大な精霊エネルギーを上手く操り、抑える技術が必要だが、それを操作する仙人種との親和性は高い。
仙人種を習得した者が進化するのは比較的容易だろう。
個々人の資質と相性もあるのだ。
さて。
俺の修行も進んでいる。
今では修行場、訓練用フィールドとなったセシュレーヌの龍王城が俺の毎日の日課となっているレベリングの場所だった。
仙人種をカンストしたので、精霊種に進化している。
仙術と組み合わせれば精霊術になるし、後々習得予定の魔法と組み合わせれば精霊魔法にもなる。
そのもうすぐ精霊術もカンストする。
次の進化が待ちきれない。
ギルメン幹部のレベリングも順調だ。
ミイは恐るべき勢いで黒魔術のレベルを上げている。
現在150。上限は200である。
メルバコルとエアノワリスは競うように頑張っている。
ロメリアとセシュレーヌも種族レベルをカンスト。
ロメリアは次の進化に仙人種を選択し、30まで上げている。
セシュレーヌは悩んだ末に天使種を選んだ。レベルは現在40。
戦闘が一番苦手なはずのペッフィーは、戦闘レベル、悪魔種をカンストし、仙人種がようやく50になりそうなところだった。
みんなとても早い。
それは一度、ゲームの世界で通った道だからかもしれない。
情報収集のほうも捗っていた。
まずは水国。
水国王とその周辺の4つの都市。
現水国王の出身国である北の町は主戦派で、王と共にこの戦争開始を推し進めた。
この度の侵略戦争の半分が水北都市の兵士だ。
迷うことなく敵国認定。
水西都市と水東都市は王に従う様子を見せている。
しかしその内情はどうも違うようで、主戦派と反戦派に分かれているようだ。
水東都市は主戦派で、都市をまとめ上げている代表が欲深い者らしい。
当初は現王と対立していたが、利害関係の一致で懐柔され、共闘関係となっている。
水国から出ている兵のもう半分はこの都市が受け持っているようだ。
火国の奴隷や略奪品が最も多く流れており、戦争のおかけで経済成長が著しいという。
敵国認定決定。
水西都市は表面上、王に従うそぶりを見せている。
都市の代表は10歳とまだ幼く、都市の各分野の権力者が元老院的な会議を開いて意思決定をしているのだという。
もともと政治闘争は好きだが、武力での戦争は好まない土地柄らしい。
今回の戦争も、王の命令には従うが、実質的にほとんど兵は出さず、その代わりに火国の略奪品や奴隷を受け取っていないという。
我関せずといった感じか。
中立認定にする。
水南は穏健派。
どちらかというと商業都市になっている。
争いよりも、商売での利を好む。
この度の戦争においては、派兵に消極的な代わりに、情報収集や兵站を担当しているらしい。
都市の代表は有能な人材のようだという情報もある。
元々火国の同盟相手だったということもあり、開戦当初は反戦を主張したそうだが、事態が大きくなりすぎて断念したという経緯が知られている。
奴隷となった火国人の流入が多いが、酷い扱いを受けていないという噂がある。
真偽不明の情報が多いため、仮の中立認定。
都市の代表と会って話をし、一度確かめてみる必要があるかもしれない。
次に木国。
どうやら南部のみが参加している様子。
木央都市と木北都市は火国と良好な関係だったという経緯もあり、戦争に関与していないようだ。
地理的にも遠いため、派兵も現実的ではないというのがミイの分析だ。
木南都市は火国と国境を挟んでおり、距離的にも近い。
そのためなのかわからないけど、木南都市はずっと火国に対しての苦手意識というか、被害者意識があるらしい。
木の天敵は火。
火によって国が燃やされてしまうのではないかという恐怖にさらされているのだそうだ。
その反動からか、木南都市の火国人の奴隷の扱いは酷い。
奴隷を森に行かせて働かせるのは、森が焼けてしまうのが怖い。
閉じ込めておいたとしても決起されるのが嫌なので、少数にわけていくつかの場所で管理。
彼らが奴隷に対して求めたのは虐待相手だった。
動けないように縛り上げ、死ぬまで殴る蹴るの暴行、苦しめるという目的の為だけの拷問、性的虐待などなと。
虐めて鬱憤を晴らしている様子。
心情的に同情の余地はあるものの、これでは敵都市認定を免れ得ない。
滅ぼすことに決定。
次は土国。
都市国家が9つあり、それぞれが独自の勢力となっている。
一応中央政府のようなものも存在するが、9つの都市の合議制で運営されている。
9つのうち南部の3つが戦争に参加。
他の6つは反戦派、もしくは中立。
元々土国人は他国に関与することも、されることも好まない性質。
奴隷は南部3つの都市のみで確認され、その扱いは単純に労働力。
一か所に集められて、肉体労働に従事している。
敵都市認定。
こんな感じだ。
そしてどうも、敵都市認定した都市でも、戦争に関わりたくない者は移住しているらしい。
つまり、奴隷がいる都市にはほとんど戦争賛成派の人間しかいないということになる。
状況を確認できたので、具体的な動きを検討。
まずは水国の南部の都市と交渉かな。
同時に木国、土国にいる民の救出。
そして水国への侵略。
「そういえば、そもそもどうして侵略しようと考えるんだ?」
独り言のようにつぶやいた俺の問にミイが答える。
「それは仙桃でございます」
戦闘というのは仙人種の進化の実。
仙桃を食べなければ、上限レベルを突破してレベリングができない。
進化には段階がある。
道士から始まり、真人、仙人、大仙人、神仙という順番だ。
仙人種に進化して道士になるために最初の仙桃が必要となり、そこから4段階の進化のため、合計で5つの仙桃が要る。
5つ全て同じ仙桃ではなく、桃、青、黄、赤、虹とそれぞれ色分けされている。
「どういうことだ?」
「仙桃は各国で栽培されておらず、全て仙界中央の桃源郷から供給されています。皇帝は切磋琢磨して領土を広げた者には供給する仙桃を増やすと公言しており、それが各国が覇を競う原因となっております」
皇帝は仙桃の栽培を一括管理している。
では各国で栽培すればいいという話になるが、皇帝以外の国は仙桃栽培のノウハウがない。
そもそもどこから実が生るのかさえ知らないという。
レベルアップアイテムだけに、その入手方法が皇帝によって秘匿されているようだ。
それは多分、各国がいくらでも進化できるようになれば、皇帝よりも強くなる者が現れてしまう可能性があるからではないか。
「軍拡しないと他国が強くなるわけか。他国が強くなると侵略されたり奴隷にされたりするもんな」
「情報によると、水国の王は桃源郷の皇帝の座を狙っているという噂もあります」
「一番になりたいのか。迷惑なロマンだ」
「その通りかと。一番になるのはラシル様に決まっていますのに」
いや、それもどうかと思う。
ここはスルーしよう。
「では引き続き情報収集とレベリングに励んでくれ」
「畏まりました」
やることは決まった。
水北都市、水東都市、土の三都市と木南国都市からの火国人の奪還。
同盟関係にあった他国の都市の代表との会談だな。
それぞれの国に火国女王名義で手紙を出させた。
会談の申し込みだ。
無視すればそれでよし。




