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世界改変 ~アップデート~  作者: 、、、、、
2 火国騒乱編
41/246

041_配下のレベリング4 ミイの場合


 ミイは会議に満足した。

 自分の案が全て採択されたからだ。


 次の戦闘は1週間後。

 火国の奴隷の件もあるので、あまり期間を空けずに侵略し、速やかに制圧して救出する必要がある。



 情報局を動かす。

 これが決定されたのは、ミイにとって大きかった。

 もちろんラシルであれば、ミイのお願いは聞いてくれると信じて疑わなかった。

 しかしそれでも、直接ラシルの口から「いいよ」と許可をもらえれば、それは嬉しいものなのだ。


 情報局というのは、ミイが独自に作り上げた機構だ。

 心血を注いで作り上げだ組織。

 ラシルのためだけを考えて、ラシルのためだけに作り上げた集団。

 ミイの手足となり、ミイの思想を体現した組織だった。


 ラシルを崇拝する組織であれば、エアノワリスがいる。

 武力であればメルバコルの悪魔勢やセシュレーヌの龍人たちがいる。

 開発や研究はベッフィー。

 アイテムや武器、防具の製造などはロメリアやクゥの配下がいる。

 では何が必要か。

 他に足りないもの。

 ミイにしかできないものとは。


 ミイにとって、ラシルとは最も大切な存在である。

 命に代えても守るべき対象であり、自分以上に大事な存在なのだ。

 そんな主であるラシルを守るためにどうすればいいか。

 どういう組織が必要か。

 ミイは真剣に、それこそ必死で考えた。


 もちろん自分が常に隣にいればいいのだが、そしてミイはそれを望んでいるのだが、現実的にそういう訳にもいかない。


 発端はとてもシンプルな事実だった。

 ゲーム内でラシルは自分を連れていくことが少なくなった、というものである。


 もしかしたら自分に飽きたのかもしれない。

 それでもいいと思った。

 このゲームの世界の中に、自分と同じ世界にいてくれればそれで満足だった。

 ミイはラシルにゲームを楽しんでほしかった。


 不快な思いをさせたくなかったし、しかし同時に、ラシルの安全も確保したかった。


 自分が知らない場所でラシルがログインし、死んでしまう。

 嫌だ。

 それは嫌だ。

 それではラシルがゲームを楽しむことができない。

 そんなことは許されなかった。

 もちろん、ラシルは強いので、ミイの考えではラシルというのは最強の存在なので、やられるということはないだろう。

 しかし、絶対にも万が一ということもある。


 だからミイは考え、決断した。

 ラシルを守るための組織を作ろう。


 その為に必要なのは、情報と、戦力である。

 特に情報が大事だ。

 守るためにはどこにいるのか把握していなければならない。

 ミイはそう考えたのだ。


 ラシルへの脅威は主に2つ。

 仲間の裏切りと、外敵。

 この二つの要因である。


 この世界で、仲間というのは裏切ることができるようになっている。

 それはNPC達の自由を高めるためであり、プレイヤーにただの道具として使用させないためである。

 また、不確定要素で面白くするためという意味合いもあった。

 それに、そもそも仲間というのは裏切る可能性もある存在だというのが運営の考え方であった。


 プレイヤーはNPC達に雑な扱いをすると裏切られる。

 本当の人間のように接してほしい、キャラクターを愛してほしいという製作者側の思いも込められていた。


 もちろん、裏切ると進化の実である仙桃をはじめとして、NPCの力が奪われるような構図にはなっている。

 簡単に裏切れないように、裏切れば大きなデメリットが発生してしまうようになっている。

 それでもルール上、それは可能なのだ。

 NPCたちの権利としてそれはある。


 幹部たちの裏切りはそんなに心配していない。

 ミイをはじめ、幹部たちはラシルとの強い絆があり、ラシルを崇拝し、忠誠を誓っている。

 まずもって裏切りは考えられない。

 しかし、その配下はどうか。

 イレギュラーがあるかもしれない。


 不満があったらどうか。

 他の勢力からの浸透に対応できるか。

 考えればキリがない。

 どれも絶対にあり得ないとは言い切れないからだ。


 そういった事態に対応するために、ミイは特に忠誠心の高い者や特殊能力に長けたものを抽出し、選抜した。


 内部の裏切りを防ぎ、監視し、裏切りがあればそれが行動に移される前に迅速に処理するための組織。

 それを目的とした秘密警察。

 外部の情報を探り、敵対勢力等を発見、情報収集に努める諜報員を育成した。

 そのうちに収集した情報を分析・解析したり、対策を立てたりする部署も必要となった。

 組織が大きくなったので、新な人材を引き抜き、教育する部署も必要となっていった。


 組織は大きくなり、力をつけていった。

 その結果、ラシルがログインした時には迅速に位置情報を把握し、すぐにバックアップを派遣することが可能となった。


 ミイの組織に所属する者は種族を超えた、エリート集団である。

 しかし、彼らはこの世界でまだ活躍していなかった。

 理由は、レベリングである。

 レベルがリセットされ、大変なことになった。


 圧倒的に足りていないのは情報。

 その情報を最も効率的に確実に入手できるのは自分たち。

 こういった不測の事態に最も迅速に動かなければいけないという自覚があった。

 部下たちは必死で頑張った。

 一刻も早く以前の力を取り戻そうと頑張った。


 ミイはこの世界に来たことを一番喜んだ人間、いや、悪魔かもしれない。

 なぜなら、ラシルとずっと一緒にいられるからだ。


 ごく当然のことだが、今まで、ラシルはゲームからログアウトすることがあった。

 ログアウト。

 これほどミイに恐怖を与え、追い詰めたものはなかった。


 次にログインするのはいつだろう。

 明日? 明後日? 3日後?

 もしかしたら、ログアウトしたまま帰ってこないのではないだろうか。

 ラシルが現実での仕事の都合で、1か月ログインしなかった時は、気が狂いそうになった。

 1週間に最低でも必ず1回はログインするラシルが、1か月も自分たちを放置したのだ。


 1週間たって、ミイは激怒し、

 2週間目で泣き出し、

 3週間目で絶望にかられ。

 4週間目でエアノワリスの拠点へ行って、寝る間も惜しんで祈った。

 これはラシルには秘密だった。


 1か月と3日後。

 ラシルがログインして帰ってきた時には歓喜にかられ、涙した。


 そこから本格的に、ラシルのログイン時にはすぐに場所を特定できるようにしようと本気になったのだ。

 こっちにいる時くらいは、ずっと一緒にいたい。

 それが叶わないのなら、ずっと見守っていたい。


 現実の世界に、自分はどうしても付いていくことができないのだから。

 せめてゲームの中にいるときだけでも、ラシルのそばにいたかった。


 ラシルにとって魅力的なものは何か。

 ゲームの魅力や、自分の魅力はどうにもできない。

 ラシルに飽きられるかもしれない。

 ゲームを辞めるかもしれない。

 それはミイにとってこれ以上ない恐怖だった。


 でも今、ラシルは自分と一緒にいる。

 ここはゲームの世界ではない。

 どこか別の世界。

 自分の知らない、ラシルさえ知らない世界。

 未知から来る不安で押しつぶされそうになる。

 だって、死ぬ可能性があるから。

 自分たちよりも強い存在がいると考えて当然だし、それに支配されてしまう可能性もある。


 それでも。

 これほどうれしいことはあるだろうか。

 だって、ずっと一緒なのだ。

 現実に帰れないラシルには可哀想だが、NPC達は皆、役に立てる、ラシルと一緒にいられると喜び、奮起していたのだった。


 あとは、強くなるだけ。

 強くなって、強くなって、誰にも害されない勢力になる。

 これが目下の最優先事項だった。


 ミイの配下もレベリングの成果が出てきて、使えるようになってきた。





 深夜。

 会議が終わり、ラシルが眠りについていた。

 護衛は禁城所属の神仙5名が表向きの警備。

 陰にはミイの部下5名が付いている。

 本当は自分が一番近くにいて護衛をしたかった。

 出来るのならば同じベッドの中で。

 ミイはそれを想像し、涎が出そうになる下品な顔を戻した。


 意識のないラシルを残し、今日もミイは自分の拠点に来ていた。

 ラシルの匂いの付いたベッドで惰眠を貪りたいという気持ちを抑えつつ、これからのための行動を起こす。



 ヴァンパイア城。

 地理的にはこの世界で最も北のほうにある。

 その証拠に気温は低く、平均気温は氷点下を軽く下回っている。

 城の周囲に広がるのは氷の世界。

 元々あった岩肌の上に雪が固まり、氷となった。

 拠点の魔法の影響で、周囲の気温は更に下がり、吹雪が視界を遮っている。


 この極限状態の中で、動き回る影があった。

 ミイの配下達だ。

 視界を遮られた中での遭遇戦。

 召喚された狂暴な悪魔たちが蠢いている。

 ラシルの護衛を交代で務める者が10名、それぞれ離れた場所でレベリングに励んでいる。


「私のところにも頼むわ」


 ミイはテレパシーで副官である男に伝える。


「かしこまりました」


 落ち着いた、老練な声が返ってくる。


 すぐに悪魔が数十体召喚された。

 ミイはそれを難なく感知する。


 このフィールドは五感が効かないようになっている。

 圧倒的な寒さと視界の悪さ。

 もちろん匂いもしないしも音も聞こえない。

 それでもミイは五感以外の感覚で感知し、一番近くにいた悪魔の首を刎ねる。

 そして駆け出し、最短距離で次々と屠っていく。


「手ごたえがないわ」


「じゃあ僕が手伝うよ」


 通信に割り込んできたのは若い男の声。

 メルバコルだ。


「もうそろそろ来る頃だと思っていたわ」


「セシュレーヌのところでやればいいのに」


「あそこだと訓練にならないじゃない」


「レベルに関係があるのかい?」


「レベルは大前提よ。戦闘スキルを身に付けなければ意味がないわ」


「そういうものかな」


「そういうものよ」


「ふーん。じゃあちょっときついのいくよ」


 メルバコルが召喚したのは多種多様な悪魔。

 物理攻撃が効かないもの、物理攻撃しか効かないもの、異様に防御力が高いもの、異様に攻撃力が高いもの。


 ミイはそれを一人で次々と倒していく。


「もう少し強度を上げて」


「無理だよ。僕だってレベリングの途中だし」


 現在、ミイの総合レベルはメルバコルよりも高いのだ。

 メルバコルもかなりのスピードでレベリングをしている。

 しかし他の幹部たちの訓練にも付き合っている時間の方が長く、その時間の合間を縫ってセシュレーヌと相互にレベリングしているのだ。


 一方、ミイは日中ラシルと一緒にレベリングをしている。

 ラシルの全力のレベリングに付き合っているのだ。

 加えてそれとは別に、夜に自主練をしている。

 これで強くならないわけがない。

 ミイはラシルのギルドの中で、最もレベリングが進んでいる。

 だから当然のように、メルバコルといえども遅れを取ってしまう。


「これが今、僕が召喚できる全力だよ」


 メルバコルはボス級を召喚。

 悪魔種レベル150オーバー。

 これ一体あれば、火国くらいの規模の国家なら簡単に壊滅する次元の強さの化け物だ。


 ミイは無造作に攻撃を受け止め、必殺技を何度も決めて、あっという間に倒した。


「このレベルだともう訓練にならないわね」


「もう少しで龍種レベルがカンストする。そうすれば龍種召喚できるから、悪魔種との合成種もできるようになるよ」


「早めに頼むわね」


「わかってるよ」


「そうだ、そういえばベッフィーがこの世界についての考察をしているから、ラシル様に報告するように言っといたよ」


「知ってるわ」

 ミイは冷静に答える。

 既にベッフィーから直接聞いているのだ。

 ラシルと一緒に、ベッフィーの報告も受けている。

 アイテムや武器、以外にレベリングの仕組みやこの世界のことについて、意見交換会を定期的に開くという話にまでなっていた。


「え、そうなの?」

 

「一度ラシル様を交えて話し合ったわ。まだまだだ考察を始めたばかり。考えられる可能性を全て列挙した後で適切でないものを除外していっている過程だと言っていたわ」


「世界の成り立ちが分かればこの世界から脱出できるかもしれないね」


「そうね。そろそろその件も本格的に分析を開始しないといけないわね」


「元の世界に戻れたらいいね」


 メルバコルの何気ない一言にミイの心は痛んだ。


 もし、仮にこの世界からの脱出方法が解明されたとして。



「どうしたの?」


 メルバコルの問いかけに、ミイは黙ったままだった。


 ずっとこのままでいたい。

 ラシルと一緒にいたい。

 叶わぬのなら、ラシルの子を……


「なんでもないわ。忙しくなりそうね」


 ミイは一人、にっこりとほほ笑んだ。





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