040_火国奪還戦9 事後処理
情報収集が甘かった。
まぁ情報収集したとしても、首都や都市の解放は決定事項だったので、行動に変わりはなかったのだが。
それでも、奴隷として連れ去られている人がいたというのは前もって知っておくべき情報だったと思う。
一部の火国人は水国と木国へ移送さている。
水の術者は精神干渉が得意なので、精神支配を受けている者もいるだろう。
城にいた者たちのように、わざと精神支配をせずに抵抗を楽しむという趣味もあるようだから、なんとも言えないが。
それでも自我を奪われていたり、いなかったりしても、自由意志に基づかずに他人の支配下にあるということには変わりない。
そこは今回の反省点だ。
戦闘後の混乱が収まった後に会議を開いた。
事後処理を手伝っているロメリア、エアノワリス、ショウ以外の幹部を集めた。
火国のこれからについて話し合うためだ。
町や村は、神仙になった配下数名ずつで護衛を任せている。
ニボシが偵察に出て調べさせているが、火国領内に敵がいないことを確認している。
そのまま国境線の警備を任せることにした。
会議室には拠点管理者と火国のレイラン、レイリンその他数名がいた。
入室すると、皆が一斉に立ち上がる。
そういうの、いいってといっているのだが、やめてくれない。
沽券に関わるのだそうだ。
しょうがないので、最近はそういうプレーだと思うことにした。
「みんなお疲れ様。レイラン達は忙しいのにわざわざ来てくれてありがとう。それじゃあ会議を開始します」
ミイがジト目で俺を見る。
会議の開会宣言は私の仕事だとでも思っているのだろう。
俺はミイを見ない。
気付かないふりをしている。
「この度は、我らを救っていただき、誠にありがとうございました」
レイラン達の一同が跪き、頭を垂れた。
こういう跪く系のプレーもやめてほしいのだが、やめてくれない。
されているこっちとしても、とても恥ずかしくなるのだ。
恥ずかしくないと思う人がいるのなら、想像してみればいい。
自分の知っている人間が自分の前で跪くのを。
恥ずかしくないだろうか。
多分、現実世界でこういうイベントが発生しうる場所は、ラブホでしかない。
俺はそう断言する。
「うん、それで俺たちの支配下に入るという気持ちは変わらないかな」
「はい。まだ数多くの火国人が囚われておりますし、それは私たちでどうにもできません。全てが解決した後も、忠誠を誓う所存です」
レイラン達がが決意した表情でこちらを見てくる。
「そうか」
いいんだよ、抜けても。
敵対しなければ別に。
という本音はとりあえず心にしまっておく。
「事後処理は任せる。ショウと連携して進めてくれ。食料援助など、必要なものがあればどんどん言ってくれ」
「ありがとうございます」
レイラン達が頭を下げる中、一人だけこちらを見つめてくる者がいた。
それはレイリンだった。
「どうした、レイリン」
「はい。恐れながら申し上げます」
「恐れなくていいから、何?」
「ラシル様に一つお願いしたい儀がございます」
「ぉ、何々?」
ちょっと興味深い。
これまでずっと素直に言うことを聞いてきた彼女が、初めて自我というか、お願いを見せる。
「奴隷にされていた者の中には、洗脳を解かれても、エアノワリス様やロメリア様に癒していただいても、完全に心の傷が癒えない者もおります」
「そうなんだ」
そりゃそうだよね。
俺だってクソ見たいな会社でクソみたいに働かされていた、あの時のあの気持ちってまだ残ってるもん。
やりきれないというか、イライラするというか、どうしようもなさ。
奴隷にされていたのであればもっとその傷はエグいよね。
「決してエアノワリス様の治癒術が効いていないということではありません。エアノワリス様の治癒は素晴らしいものです。非常に大きな幸福感に満たされ、それは今まで味わったことのないようなものです」
すげーな、エアノワリス。
後で俺も治癒をかけてもらおうかな。
心の中のメモ帳に書き加えた。
「ただ、記憶からくる苦しみや、やるせなさ、憎しみが残っています」
「それで、お願いというのは?」
「はい。私たちをエアノワリス様の元で修行をさせていただけませんでしょうか」
「それは、どうして?」
「エアノワリス様の元にはプリースト様たちがいると伺いました。彼女たちは唯一の絶対の神であらせられる、ラシル様に毎日祈りを捧げるために生きていると」
ちょっとヤバいかも、その集団。
「私たちも、ラシル様に祈りを捧げて、ラシル様のために生きていきたいのです」
つまり、信仰の対象が欲しいということだろうか。
縋るための対象。
自分を正当化するためのもの。
自分よりも、より大きな意思の一部とみなすことで自己を相対化する。
そうすれば気持ちが楽になる。
国という大きな枠組みにさえ裏切られたというか、見捨てられた人たちには必要な心の支えなのかもしれない。
「わかった。いいよ。後でエアノワリスに言っておく」
「ありがとうございます。既にエアノワリス様には了解をいただいております。傷の深い者たちは元の生活に戻っても、かえって混乱したり、上手くいかない者ばかりです。私ともども、よろしくお願いいたします」
「ぇ、レイリンも?」
「はい。私もラシル様が唯一絶対の神だと確信いたしました。今後はラシル様のためだけに生きていきます」
いや、ちょっと。レイリンは心の傷とかそんなにないはずだし、奴隷とか経験してないよね?
「これからの火国を支えていくために、レイリンがいないと困るんじゃないか?」
「私どもはラシル様の忠実なる僕。それについては大丈夫でございます」
ここでお姉ちゃんであるレイランが口を挟んできた。
「そ、そうか。レイランがそう言うのであれば」
「ありがとうございます!!」
レイリンが嬉しそうに叫んだ。
その後、火国の各拠点の速やかな統治と食糧援助、治癒を約束し、詳細を詰めた。
レイリンはプリースト志望の者を選抜するという。
俗に言う、集団出家みたいな現象か。
うちは新興宗教だけれども。
レイラン達には退室してもらい、会議室には、俺、ミイをはじめとした拠点管理者と副官が勢ぞろいした。
さて。
「みんなお疲れ様~」
「ラシル様のために働くのが、私共の喜びです」
ミイ、こんな感じだったっけ?
昔はもっとフランクだったのにな。
まぁいいや。それは置いておこう。
「みんな。俺たちは巻き込まれてしまったようだ。これが良かったか悪かったかはわからないが」
「ラシル様の決定に間違いなどございません」
ミイがすかさずお世辞を述べ、みんなも当然だとばかりに頷く。
「今後の方針を検討せねばなるまい。ミイ、頼んだ」
ふっふっふ。最近覚えたこの技。
究極の呪文。
固有名称「丸投げ」である。
「はい」
ミイが一礼して説明を始める。
「まず第一に、我々はさらに強くなる必要があります。この世界では、侵略行為、武力衝突が日常的に行われていることから鑑みても、当然のことです。より盤石に、何者にも害されない力をつける必要があります。これが最優先かと」
他のみんなも異論がないようだ。
「次に、ラシル様が決定した火国の保護と支配下に入れるというもの。火国人についても強化が急務です。ラシル様の民となったからには、簡単に他国に侵略されたり害されたりするというのは、ラシル様の権威に関わります。これが考え方の軸となるでしょう」
俺はもっともらしく頷く。
そうか。
そうなのかと内心では思っているが、表情には一切出さない。
ブラック企業で経験した処世術がここで生きている。
表情で感情を出した人から負けていくのだ。
「では続いて、それに基づいた今後の行動指針です。現在火国人は、敵対国である水国、木国、土国に囚われています。これらの国からの民の救出をする必要があります」
「また戦闘だな」
「情報が各国の首都に到達するのはこれより最短で10日後。情報が伝わり、火国人が殺害されてしまう可能性も考慮し、実質的に1週間。その間にできる限りの情報収集と、増強が必要かと思われます」
ミイは会議室のテーブルの中央にワールドマップを展開させた。
「特に情報収集が重要です。火国王、レイランが言うには、火国の統治体制は絶対王政。1人の王が権力を掌握する形ですが、他の国はどうも違うようです」
ワールドマップに各国の位置関係と情報が書き込まれていく。
「水国は4つの勢力が王の座を争うものとされていますし、木国は細長い領土で、南部、中部、北部に分かれています。また、土国は各都市の力が強く、小国家群が1つの国を形成する体制を取っているようです」
ワールドマップには国境と首都が記載され、大まかな政治体制の情報まで加わった。
「水国は4つの勢力がありますが、意見の不一致による衝突が激しいようです。火国は水南都市とは同盟関係にある、もしくはあったというレイランの証言もあります。また、木国で戦争に参加しているのは南部だけという噂もあり、中部と北部の都市とは友好関係にあったと聞きます。土国でも戦争に参加していない都市があり、そこも元々は火国との同盟関係にあったと」
「それならなぜ戦争が勃発したんだ? 火国は同盟が結構あったようじゃないか」
「現在調査中ですが、どうやら水国で新たに王になった者が画策したようです。タカ派で国力拡充、覇権主義の思想を持ち、王に就任した段階から動いているようで、結果を見ると無能ではないようです」
「なるほど」
「しかし、どの勢力もどうやら一枚岩てはないため、勢力図の把握、敵対勢力の洗い出し、内情の把握が必要です」
「そうだな」
「そこで、私の部下を使おうと思います」
ラシルは背筋がぞわっとした。
ラシルが作った組織というか、そうではないというか。
情報収集系の部隊の設立にあたり、ラシルが直接関わったのは、ニボシ率いる隠密部隊と、メルバコルの副官である精神支配が得意な悪魔であった。
まぁ、戦闘時に情報収集もする部隊も必要だろうという軽い見立てで作ったのだ。
それはあくまでも、短期的な情報収集であり、戦闘時、もしくはその前後に活躍するという前提があった。
そして最後のミイの部下というのは、ラシルが意図して作った組織ではないのだ。
その組織は謎のベールに包まれている。
ラシルは知ろうと思えばマスター権限で知ることができるのだが、怖くなって途中でやめたのだ。
現在7つ存在する拠点は、実は本来、6つしか存在しなかった。
禁城、教会城、魔王城、精霊の里、龍王城、魔女の館、この6つが元々想定していた拠点であり、ミイはあくまでも俺のパーティの一員であった。
しかしそれではミイが可哀想だと思った。
ミイはギルドの最古参で、最初にギルドに加わってくれた仲間だったからだ。
一国一城の主人になりたいだろう。
ミイは最初はそんなものはいりませんといっていたのだが。
その拠点は、とある理由からその城の所有権を有することとなり、ミイにゆかりがあったことから、ミイを城主に設定した。
そこでミイは独自の組織を作り上げた。
他の6つの拠点では通常、それぞれの城に住む者はその地にゆかりのあった者や、ゲーム内でのイベントで仲間となった者たちだった。
しかし、ミイの拠点は少し異なる。
もちろんその地にゆかりのあった者もいるのだが、大半が他拠点からの引き抜きなのである。
俺はミイの好きにさせた。
可愛い子どもなのだから、自立してほしいという願望もあった。
やっぱり自由が一番。
NPCの自主性を重んじようということで、他の拠点もほとんど拠点守護者に好きにさせていたのだから。
各拠点にはそれぞれコンセプトがある。
例えば、一番特化しているのはベッフィーが管理する魔女の館。それは研究施設という側面が強い。
メルバコルの管理する魔王城はその名の通りのコンセプトで戦力を重点に置いている。
エアノワリスの管理する拠点は、教会城というもので、何処かの国にある、超かっこいい海に浮かぶ建物をそのままパクったものだ。
それぞれの拠点に即したコンセプトはあるものの、基本的には管理者の自由だ。
そこで自由を手にしたミイは、恐るべき組織を構築しはじめた。
ミイはまず、情報部という組織と、近衛部隊を組織した。
ミイに聞いたら、
ラシル様のために有益な情報を集める部隊と、ラシル様をお守りする部隊です。
と、いい笑顔で回答された。
実情はわからないが、まぁいいんじゃないかと軽く肯定した。
それがマズかった。
その後、情報部がさらに2つの下部組織を有するに至った。
内事情報収集室と外事情報収集室。
さらに内事の方に秘密警察、対策課、などが設置された。
月日が経って、内情と外情は部に昇格した。
外事には、諜報課、情報分析課、方面対策室。など。
その他に育成課、採用係など。
多種多様な、それっぽい組織ができていた。
続々と変化し、更新されているようで、正直恐ろしかった。
最終的には情報戦略局となっていた。
内務と外務、総務に分かれている。
その構成員も多種多様で、他拠点から人材をリクルートしてきている。
他拠点に所属している者の中で、個性的な者、普通のNPCとしての生活に満足できない者を積極的に受け入れた。
いわゆる、優秀であるが問題児として認定されていた者たちだ。
その中には恐るべき能力を持った者や、思想的に危ない者、特殊能力に秀でた者が多数いた。
ミイは様々な仕事を用意し、あっという間に組織をまとめ上げた。
ミイの配下の何人かは、諜報員やエージェントという見たことのない、意味不明なジョブになっていた時は、怖くて聞けなかったものだ。
最も恐ろしいかったのは、ゲームにログインしてから1時間以内に俺を発見・補足する能力だった。
NPC達には、マスターであるプレイヤーがログインしているか否かしかわからないはずなのだが、彼らは自前の情報網でどこにログインしたのかを割り出す。
怖っ。
俺はその理解不能な組織力にゾッとした。
その時から、深く詮索することをやめたのだ。
「許可するよ」
「ありがとうございます。レベリングは鋭意継続中ですが、これで皆のモチベーションも上がります」
「そうか、それは良かった」
「問題児ばかりですので」
ミイはそう言って、くすくすと嬉しそうに笑った。




