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世界改変 ~アップデート~  作者: 、、、、、
2 火国騒乱編
36/246

036_火国奪還戦5 水国の状況


 火国の首都から見て北北西、国境から馬で20日ほど進んだところに大きな湖がある。

 湖の水に不純物は少なく、綺麗で澄みきっている。

 魚をはじめとした生き物が多く生息している。

 天気が良く、風のない時間であれば湖の底まではっきりと見ることができだろう。

 そんな風光明媚な湖を囲むように、東西南北それぞれに都市がある。

 湖の真ん中にはちょこんとした島があり、そこにも建物がある。


 この湖は水国人の間では、血の絨毯と呼ばれていた。

 その語源は、水国の王の住まう、王座の間にひかれるレッドカーペットを指している。

 新たに王座に就こうとする者は、必ずレッドカーペットの上を歩いて行かなければならない。

 それは決して比喩などではない。


 水国では、新たな王を決める際、決まって争いが起こる。

 水国に王家などという考え方はなく、相続や後継の制度もない。

 王になるためには、単純明快で絶対の基準がある。

 それはつまり、最も強い者が王となる。


 王が死ねば、新たな王を選ぶための争いが勃発する。

 東西南北それぞれの都市が争い、その戦いに勝利した都市が新たな王を決める権利を獲得する。

 その争いは毎回、壮絶を極め、多数の死傷者が出る。

 戦いで命を落とした者が沢山の死体となって湖を埋め尽くす。

 一時、湖は赤く染まり、巨大な血の水溜まりとなる。

 それはまるで、湖の上に敷かれた赤い絨毯。

 新たな王は敗者の血で彩られた絨毯の上を進み、湖の真ん中の島にある城へと入城する。


 水国をはじめとして、それぞれの国には国民性というものがある。

 全ての国民がそれに当てはまるというわけではないが、それでも大まかに分類すると当たっている。

 水国人はそれほど好戦的ではない。

 どちらかというと火国人のほうが好戦的で、純粋な戦闘行為を好む傾向がある。

 寛容で堅牢である土国人ほど大人しくもない。

 土国人は頑固であるが、争いは好まない。

 攻められたら戦うが、滅多に攻撃はしない。

 水国人は、木国人ほど自由ではない。

 では水国人の特徴とはなにか。

 それはプライドり高さである。

 自尊心の塊。

 それが水国人について、他国人の一致する見解である。


 では、最も水国人の自尊心を満足させる状態とはどういう状態か。

 それは他人よりも優れていると、自他共に認める時である。

 どういった分野に優れているのが良いのか。

 水国人にとって、それは強さであり、軍事。

 強さがものを言うこの世界で生まれたが故の宿命なのかもしれない。

 技術が優れていたとしても、人柄が優れていたとしても、どうせ強者には敵わないのだ。

 

 水国人は本質的に戦闘は好まないものの、政治闘争や権力争いを好んだ。

 誰が1番か。それが重要であった。

 1番になったものは、全てを手にすることができ、その他の者をいかようにも扱うことができた。

 敗者はゴミとして扱われた。

 水国での権力や序列といったものは、他の国と比べて絶対的で、かつ、下の者に対して容赦のないものだった。

 美しい湖畔を囲む町。

 そんな、穏やかな風景とは裏腹に、水国は定期的に血で血を洗う争いを続けてきた。



「それで、状況はどうなっている?」


 王座から苛立たしげに声が投げられた。

 その声の主はまだ若い。20代といったところだろう。

 整った顔立ち。

 背が高く、短く切りそろえられた黒髪。

 頭に王冠を載せ、いかにもダルそうに肘をつき、相手を見下すように詰問していた。

 彼こそが数年前に王となった男である。

 何度も王を輩出している北の都市出身。


「申し訳ございません。まだ情報が入りません」


 謝罪とともに恭しく頭を垂れたのは40代くらいの男。

 全盛期の耀きをまだ残した、精悍な顔立ちをしている。

 落ち着いた様子で、内面の感情を極力表に出さずに、事務的に対応していた。

 彼は南の都市の領主であり、現王と王の座を争い合った者だった。


「もう10日も経つのだぞ」

 お前は馬鹿なのかという声音だ。


「どんなに早く馬を走らせても、火国の国境から20日はかかります」


「それは通常の手段であろう。お前の持っている情報伝達網であればもっと早いだろう」


 火国の国境からこここまでは20日かかる。

 それは常識だ。

 しかしその常識とは、通常の旅、つまり1日8時間馬を走らせた場合にのみ適用される。

 もし、8時間ごとに交代で走れば?

 拠点を沢山つくり、そこに馬を大量に置き、リレー方式で昼夜問わず走り続けさせれば?

 情報の伝達速度は3倍になる。

 なので実質20日かかるといっても、本当は7日で情報が入ってくる。

 それが水南都市の領主が苦労して築いた情報網だった。


「この度戦端が開かれたのは火国の首都である火府。国境から距離もあります。もうあと数日すれば情報が入ってくるでしょう」


「もう下がれ」


 王はぞんざいに手を振った。あっちへ行けという合図だ。


「かしこまりました。何か情報が入りましたらすぐにお知らせいたします」


 水南都市の領主は恭しく、丁寧にお辞儀し、王座の間から辞した。


 湖の真ん中、中央島にある水国一番の城。

 ここが水府と呼ばれる首都であり、王がいる。

 防衛面で考えると、この中央島は鉄壁の防御を誇る。

 他国に攻められた時には四方の都市、どれか一つが即応する。

 すぐに他都市からの増援も容易だし、万が一、都市の一つが陥落したとしても、この中央島だけは落ちない。

 何故なら中央島は水に囲まれているからだ。

 ここは水の国。

 水の術者が多数いるこの国で、近くに水があるということはそれだけで戦闘がとても有利になる。

 


 中央島を背にして、南へと向かう船が一艘あった。

 ついさっきまで王に謁見をしていた男。

 名前はオキサイド。

 先程までの有能さは影を落とし、その表情はどこか疲れ切っていた。


 現在の水国の王彼の興味は覇権。

 どこまで強くなれるか、どれだけ強い手駒を集めるか、それが彼を動かす原動力だ。

 王の座を勝ち取ってから全力で軍備を増強し、勢力拡大に努めてきた。

 そして、火国に戦争を吹っ掛けた。


 欲望に忠実な水東都市の領主は、王座を争った時は敵対していたものの、今では最も協力的な勢力になった。

 水西都市の領主はまだ幼く、成人すらしていない。

 水西都市は歴史的に見ても、政治闘争を好む土地柄であり、武力闘争は好まない。

 この火国への侵略戦争に対しても、表面上では協力を表明しつつ、兵を出し渋っている。

 水北都市は言うまでもなく王のお膝元。


 そしてオキサイドが領主をしている水南都市。

 商業都市として栄えており、覇権争いからは一歩引いている。

 戦争や覇権争いはあまり得意ではない。

 というよりも、そもそもそういうものに興味を示さない人間が多かった。

 興味はなくとも、それは自分たちの日常に大きな影響を与えるということは知っている。

 それゆえに、得意分野は情報収集。

 いち早く情勢を察知して優位なポジションを確立するのが得意だ。

 この度の戦争においても、その役割を担っていた。


 オキサイドは王から与えられた情報収集という仕事をこなしつつ、自分が支配する都市を守るという使命もある。

 そしてもう一つ。

 先代の火国の王との同盟だ。


 商人とは信用が大事である。

 これは水南都市でよく言われる事だ。

 いわゆる金言というやつだ。

 信頼関係がではなく、信用。

 情ではなくビジネス。

 人の気持ちや心は裏切ってもいいが、ルールは裏切らない。

 これが身を守る術であり、結果的に多くの人間を幸せに導く方法論だと考えられていた。

 オキサイドもその例に漏れず、物事を損得で考える。


 現在、オキサイドが仕える王の最終目的は実にシンプルである。

 それは皇帝の座を奪うこと。

 そのためにはまずは四帝の一角を崩さなくてはならない。

 四帝と並ぶには他国より抜きん出なくてはならない。

 火国を攻めているのも、その一環であった。

 火国を手中に収めて、洗脳して奴隷にできれば、戦力が上がる。

 その後、その力でもって同盟相手である木国を隷属させる。

 そして次は土国。

 このプラン通りに進み、強くなれば白虎帝も認めてくれるだろう。

 皇帝から更なる進化の実を入手できれば、四帝にも手が届く。


 では現状といえば。

 木国の南の都市とは共生関係にある。

 木南都市の木人は、隣接する火国を恐れている。

 火国は木国を焼き払うことのできる脅威であり、恐怖だ。

 対等な関係など築けるはずもなく、関係を築くときには隷属しかありえないと本気で信じている。

 よって、木南都市は裏切ることがない。

 極めて強い同盟関係だ。


 土国の3つの都市国家との同盟も強固だ。

 土国には大小8つの都市があり、そのうち4つは中立、2つは火国と同盟関係、2つは仲が良くなかった。

 水国の誘いに、仲が悪かった2つの都市が乗り、中立にあった1都市が火国侵攻の話に乗った。

 領土を広げられ、奴隷を使役できるという水国王の提案に乗ったのだ。 

 もともと土人は争いを好まない。

 そのはずだったのだか、水と木の同盟による圧倒的武力を見せた結果、便乗してきたのだ。


 肝心の四帝の動きはというと。

 白虎帝からは、争い合うことを推奨されている。

 弱者が淘汰され、強くなるからだ。

 朱雀帝は火国と関係が悪化している。

 他の2帝は地理的に距離が離れすぎているため、介入の心配はない。

 桃源郷はいつも通り、高みの見物を決め込んでいる。


 周りの状況は完璧だった。

 王はとても冷酷で、頭が良い。

 考え方も合理的だ。

 しかし、合理的思考とは、目的がはっきりしている時に用いるものである。

 それは時として、目的以外の全ての事柄を切り捨てることになる。

 正直なところ、オキサイドはそれに付いて行けなかった。

 むしろ、嫌悪感さえ覚えている。


 一番の理由は、王の野望は最終的に、絶対に上手くいかないことが分かっていた。

 生涯をかけて頑張れば、なんとか四帝まではたどり着けるかもしれない。

 しかし、皇帝は無理だ。

 圧倒的な力の差がある。

 軍事力においても、そもそも仙桃を独占されている時点で他の勢力が束になっても勝ち目はないのだ。



 それでも王は、ここまで優秀だった。

 現在の状況を把握し、好機を的確に掴んで火国に攻め入った。

 もちろん、根回しは完璧だった。

 白虎帝は勝ち残ったほうを待つとして手を出さないと約束したし、過去に火国の盟友であった朱雀王の後ろ盾は無くなっていた。

 火国の王は桃源郷に顔を出さないため、中央とも心理的な距離が遠い。

 同盟国である風国は今はそれどころではない。


 王は戦を仕掛けるにあたり、近隣諸国の都市と同盟を結んだ。

 恐怖を煽ることで木国を巻き込み、火国と国境を接しているいくつかの土国の都市を懐柔した。


 満を持しての戦い。

 王は期を見誤ってはいなかった。

 むしろ、完璧といってもいい。


 オキサイドはそもそも戦争を回避させたかった。

 今は亡き火国の王との密約があったからだ。

 自分が仕えている水国の王にバレるわけにはいかないため、表立って動くことは出来なかった。

 信頼できる少数の部下を派遣して、火国の王に情報を流した。

 水国の戦力や開戦時期、内部と兵の動きなどである。


 しかしオキサイドの努力は、結果的に水の泡となった。

 火国は攻勢に対して激しい抵抗を見せたが、水は火に勝る。

 それに加えて、土国や木国も同時侵攻したのがまずかった。

 火国の防御が間に合わず、開戦と同時に次々と村が落とされた。

 昨年行われた北都市攻略戦で火国の王と妃も追い詰められて殺害された。


 火国攻略はあと一手のところまできたのである。

 火国は風前の灯。


 オキサイドもただ手をこまねいていたわけではない。


 火国前王の娘である現王のレイランだけでも救おうと努力した。

 しかしレイランは密約の事を詳しく知らない。

 また、火国ではまた王を失うわけにはいかないという理由から、レイランの所在隠蔽が徹底されていた。

 風国に使者を送りレイランの保護を求めた。

 水国や土国の、火国と同盟関係を結んでいる都市が動くのは危険だったからだ。



 オキサイドは火国人を保護していた。

 奴隷にされる前の火国人を可能な限り自領に集めて、大量に保護している。


 それは、火国人は参戦している都市では極めて酷い扱いを受けているからだ。

 最もマシなのが土国に送られた奴隷。

 鉱物採取などの肉体労働の労働奴隷として扱われている。

 次が水東と水北の都市。

 洗脳されて兵士として戦力にされたり、召使や性奴隷として扱われている。

 水東の領主は、特に綺麗な火国の女性をたくさん囲っており、そこの火国人女性はむごい扱いを受けている。

 最も酷いのが木南都市。

 木南都市では、火国人は戦力にも労働力にもされない。

 ただただ、虐められて殺される。

 使役する火国人が反乱を起こすと止めることが出来ないからだ。

 今まで受けていた恐怖を返すように、火国人は悪辣な虐待を受けて殺される。


 この火国人の状況についても、オキサイドを悩ます種だった。

 奴隷制など、碌なことがない。

 敗戦国の手見を奴隷して扱うのであれば、自分たちも敗戦した際に同じ扱いを受ける覚悟が必要だ。

 オキサイドにはその覚悟がない。

 もし仮に、武力で全てを解決することができるのであれば、我々は皆、皇帝の奴隷なのだ。


 オキサイドの水南都市では保護を、水西都市は関わり合いを避けるように火国人の流入を禁止していた。


 そういった各都市の動きがありつつも、戦況は変化する。

 つい先日、火国首都である火府が落ちた。


 オキサイドは天を仰ぎ、自分の無力さを呪った。


 必死で情報を集め、もしレイランが生きているのであれば、誰よりも先に見つけようと奮起した。

 そして見つけたならば、大きなリスクがあっても少数を派遣して保護しようと決意していた。



 そしてここで、誤算が生じた。

 誤算というより、不可解な出来事だった。

 情勢が著しく変化したのである。

 オキサイドにして、有り得ないほど。

 どんな推測や憶測、分析も、その情状況の変化を正しく把握しているとは言い難かった。

 説明もできず、理解できなかった。


 事の発端が、火府侵攻後の情報が途絶えたのである。

 首都攻略に向かい、攻勢を開始するという報告の以後、報告が途絶えた。

 人を多く使い、1日に2回報告が来るようになっていたのにも関わらず。

 それが全く来ないのだ。

 考えられる最も現実的な原因は、火国攻勢に加わっている情報伝達員が次の中継地まで到達していないというもの。

 その場合は、前の中継地から人を出し、情報収集をすることになっている。

 しかし、それさえも無い。


 その前に、気になる報告が1つあった。

 最南部の村をモンスターに襲わせていた部隊との連絡が途絶えたのだ。

 王に報告すると、鼻で笑われた。

 モンスターの制御術式を誤り、襲われて自滅でもしたのだろうという見解だった。


 オキサイドの見解は違う。

 1度にモンスターを操る人数は決まっており、全員ということはない。

 必ず何名かは離れたところで状況を観察しているのだ。

 しかし、それらの者とも連絡が取れない。

 つまり、きわめて例外的な何かが起こった可能性が高い。

 その推測をオキサイドは王に伝えない。

 王は他人の意見を聞かないし、事実以外の推測の発言をすると、その者を厳しく叱責するからだ。

 それに火国の首都である火府を手に入れた今、後ろでのかく乱作戦などどうでもよいことだった。


 このすぐあと、オキサイドには新たな情報が届く。

 その情報により事態が更に混迷を深め、オキサイドを悩ますことになる。

 それは、元火国都市や村の全ての拠点に対して届いた書簡である。

 内容は、極めて形式的で、占領下にある町を解放せよという最終通告でだった。


 それと同時に届いた情報が、火南都市を攻めていた大軍が行方不明となり、火南都市は健在というものであった。


 これはいったい何なのだ。

 火国に強い者は残っていない。

 戦況をひっくり返せるような要因はない。

 オキサイドの知る限り、全く存在しない。

 皇帝や他の四帝が介入したのか?

 そんな考えがよぎったが、オキサイドはすぐに否定する。

 ありえないと。

 木国はまた攻める用意をしているし、土国の参戦していない他勢力にも動きはない。

 白虎帝も相変わらず高みの見物を決め込んでいる。

 朱雀帝の兵にも動きはない。



 なんだ。


 

 一体なんだというのだ。



 情報と分析に翻弄される、オキサイドの眠れぬ日々が続く。





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