033_火国奪還戦3 研修生の受け入れ
重大な勘違いが起った。
この出来事は、異文化コミュニケーションの難しさと、その重要性を俺に突きつけた。
俺は確かに言った。
研修をするから、研修生を各村10名ずつ出してくれと。
その内訳は半分以上女性で、若くて美しく、魅力的な者が望ましいと。
研修に参加する者たちが、各村の村長や町長に連れられて来た。
何を勘違いしたのだろう。
若くて美しい女性が各村7~8名、美男子が2~3名。
どの人も整った顔立ちをしていた。
やっぱ異世界だからレベル高けーな。レイランも綺麗だし。
そんな他愛もないことを考えていた。
そこまでは良かった。
しかし次のセリフがマズかった。
村人達を連れてきた人の良さそうな村長達が、真っ直ぐ俺の方を見て「献上します」と言って深々と頭を下げてきた。
献上?
その言葉に疑問を抱き、選ばれた者たちを見ると、皆何か意を決したような、覚悟を決めた様な表情をしていた。
キラキラとした目で俺を見つめてくる、髪の長くて綺麗な女の人。
まだ幼く、成人していない、可憐な女の子は目に涙を溜めている。
連れてこられた半分以上の人が、俺のことを恐れているようだった。
怖がられている。
いや、待て。
人柱?
生贄?
貢物?
違う。
違う違う。
俺は悟ってしまった。
どういう意味合いで彼女達が選別され、連れてこられたのかを。
多分誤解もするだろう。
悪いのは全面的に俺だ。
こうして集まってもらったのは、彼らが誤解しているような、そういった目的ではない。
これでは俺が悪い人になってしまうではないか。
レベリングをして強くなる人間は若くて魅力的な女性のほうがいいと思った。
強くなれば身を守ることができる。
こんな世界、女性というだけでも危険なのに、若くで魅力的であればさらに危険だろう。
だからそんな思いを込めて、そういった者たち、つまり弱者を優先的に強くしようと考えたのに。
というか、美男子ってなんだ。
そっちの趣味だった場合も対応できます的なあれか。
一生懸命考えてくれた上で、まじめに献上されたのだから、どうにも具合が悪い。
そして非常に恥ずかしい。
とにかく全力で誤解を解いた。
純粋な訓練で、そういった目的も趣味もないと説明した。
村長達は俺の言葉に感心したように頷くものの、「いいんです、いいんです。ラシル様は救世主であらせられますから」と言ってなかなか納得してくれなかった。
もういいや。
結果で示そう、と諦めかけ時に、ふと思いついた事を問いかけた。
「あなたたちは、どうしてこういう風に考えたんですか?」
村長たちが顔を見合わせ、代表の一人が意を決したように口を開いた。
「それは、支配者とはそういうものですから」
なるほど。
更に説明を受けて、俺は納得した。
村長達は戦々恐々としていたらしい。
数万の敵兵を一瞬にして殲滅し、死体さえ残さない化け物級の仙人。
それだけの力を持った人の機嫌を損ねてはならない。
もし気に障るようなことをしてしまうと、後で大変なことになりかねない。
村が潰されて、跡形もなく消し飛ばされてしまう。
この世界での支配者というのは、傲慢で、欲望に素直な者が多いというイメージらしい。
領土的野心があったり、支配欲が強かったり、お金や財産への金銭欲が強かったり。
力を持っている人間ほど強欲で、強者ほどそういった傾向が強いらしい。
まぁそうだよな、と思う。
前にいた現実世界でもそうだった。
権力を握っている者は、みんなロクでもない。
すべからず皆、終わっている。
小さな社会の中で合法的に君臨している者。
その社会に所属しなければいけない自分の立場。
選べる、変えられるとは言われるものの、選択肢などはない。
ほとんど全てがそうなのだから。
そういう意味では、この世界も大して変わらないのかもしれない。
村長たちの弁明は続いた。
俺は既に火国を手にしている。
領土はもう差し出してしまったので、物理的に出せない。
武力も財力もありそうだから、あと残っているのは1つしかない。
それが美形の若い男女ということだった。
こうやって説明を受ければ、確かに合理的な考えかもしれないと半分納得してしまった。
抗えない権力があって、村という守るものがある。
生き延びるためには権力者に媚びる。
搾取される前に捧げる。
なんとも嫌な生き方だ。
前の世界と全く一緒。
突き詰めればどちらも合法的な搾取だ。
ただ、前の世界では破壊するべき邪悪の根源が村社会だったのに、こっちでは村社会は守らなければならないものになってしまった。
奇妙な逆転現象だ。
それにしても。
どうしたら俺にはそんな大それた性欲が無いと理解してもらえるか。
少し考えた後、良いアイデアを思いついた。
ミイとエアノワリスを呼び、両脇に立たせた。
ミイは綺麗系、エアノワリスは可愛い系。
どちらも美人だ。
それに加えて、この場にはクゥやロメリアもいる。
レベルの高いお姉様方。
トドメにメルバコルを呼んだ。
彼も言わずと知れたイケメン。
ここで不本意ながらも、一言。
「そういうのも間に合っている」
俺は宣言した。
差し出そうとするものを、ポケットから取り出してもう持っている。
こう言えば納得してくれるという作戦。
こちらとしては、あなた方から搾取するつもりはないですよというアピールに受け取って欲しいのだが。
村長たちは放心し、次第にオロオロし始めた。
「それでは我々は何を差し出せば…」
そんな声も聞こえる。
「今のところ、あなたたちに差し出せるものはない。あるとすれば、強くなってから少しばかり、本人同意の元、人的資源が欲しい」
「畏まりました」
村長たちは揃って深くお辞儀をした。
理解されたかどうかはわからないが、一先ずはこれでいい。
ふと隣を見ると、ミイは顔を赤くして俯き、エアノワリスは上気した顔で、こちらをキラキラとした目で見つめてくる。
メルバコルは恍惚とした表情を………ではなく村長達に負けず劣らずオロオロとしている。
おっと。
これはまずい。
3人とも賢い。
空気を読み、自分たちがどういう状況に置かれたのか理解したようだ。
物みたいに扱ってしまった。
後でフォローしておかないと。
村人達の受け入れが終わり、レイランとレイリンが率いる、火国の幹部が合流した。
これで対象者が全員揃った。
研修生たちには禁城の隣にある、行政棟に寝泊まりしてもらう。
禁城より機能的な作りだが、温泉もあるし居心地はいいと思う。
改めて彼女たちに研修の趣旨を説明した。
責任者はセシュレーヌ、副責任者としてメルバコル。
講師陣にニボシとその配下数名。
医療班にエアノワリス配下のカトリーナ。
これでいくら怪我をしても治癒してくれる。
無茶し放題だ。
研修生を3つの集団に分けた。
レイランとレイリン、火国将軍リャンエン。
この3名は既に仙人種に進化している。
2つ目の集団は火国の兵士たちが10名ほど。
戦闘レベルがある程度ある者。
最後の集団はその他全て。
戦闘レベルが皆無な者。
村から来た者や、レイランの侍女も含まれていた。
集団ごとに分かれて研修開始。
部屋に荷物を置いて来てもらい、着替えてもらった。
レベルに応じた例のスーツに。
やっぱりちょっと異様な集団に見える。
レイランとレイランは互いの姿をマジマジと見ている。
火国の一部の兵士たちは、この装備の素晴らしさに気づいてたようで喜んでいた。
村人みんな物珍しそうに他の人の装備を見ている。
説明もそこそこにセシュレーヌの領地へと集団転移。
戦闘の前に武器の選択から始めた。
火国の兵士たちが持っている武器は比較的良い武器なのだが、それでもこちらで用意したものの方が質が良い。
各々、好きな装備を選んでもらう。
村人たちは武器を持ったことも触ったこともないそうだ。
剣、槍、弓、棒、斧。
一つ一つ手に取って試してもらい、この中から自分に合いそうな、使い易そうな武器を見つけてもらう。
武器を決めたら素振り。
使い方の前に、まずは馴染んでもらう。
レイラン達には武術指導を主にしたレベリングの後、貝宝を使っての戦闘をしてもらうことにした。
仙術の基礎基本についての知識も必須だ。
他の者達はまずは初期戦闘レベル100までのレベリング。
5人の小隊を組み、モンスターと対戦だ。
同じ村の者ではなく、横の連携を強めるために違う村の者同士と組ませた。
素人の村人たちは必死だった。
村を代表して来ているのだ。
自分たちが粗相をしてしまうと村に大変なことにが起こるかもしれない。
それに国王直々の命令でもある。
普通に村で暮らしている者など、レイランに会ったことさえない。
雲の上の存在でもあるレイランよりも偉いラシルの命令である。
これで必死にならないわけがなかった。
武器の選定が完了し、戦闘に移る。
お馴染みのウルフさんから開始。
最初は何も教えない。
戦いに慣れてもらうのが大事だからだ。
戦闘では創意工夫も必要だ。
まずは戦闘行為の雰囲気から。
少しずつ戦い方を身に付けていってほしい。
それぞれ5人がかりでなんとかウルフを1匹退治。
それを数度繰り返すと、徐々に戦闘がどういものか理解してきたようだった。
今日はここで終了。
ゆっくりお風呂で汗を流して、夕食はビュッフェ。
村から来た者たちは感動しすぎて放心していた。
「研修中も温泉とビュッフェを食べれるのですか?」
レイランから信じられないといった風に聞かれた。
「もちろん」
体を動かした後はリラックスしたいだろう。
研修参加者がゾロゾロと集まって来て、「このご恩は生涯忘れません」と大変なことになってしまった。
これをスタンダードにしたいと考えているので、ご恩とか言われても困る。
夜は会議。
火国の幹部もメンバーに入ってもらい、今後の方針を決める。
火国には未だ外国に占領されている土地がある。
解決していない外交問題。
占領された都市や町を取り戻さなくてはならない。
レイランの持っている情報を元に、現状のすり合わせをした。
具体的には、戦力分析と地理の確認、人口の確認などを。
他の国々は火国よりも道士が多く、大きな戦力を有しているが、俺たちには到底叶わないそうだ。
レイランの意見も踏まえて今後の方針が決定。
まずは水国、木国、土国に書簡を届けさせる。
宣戦布告である。
10日以内に領土を明け渡し、火国の人民を解放せよという内容だ。
仙術で確実に相手に届くように手配した。
明日の朝には内容が伝わることだろう。
手紙が届いたとしても、多分、彼らはそんなに聞き分けがよくない。
無視するか、激怒するだろう。
こちらの戦力を知らないのだから仕方がない。
侮られて本気にされないのがオチだ。
でもそれでいい。
宣戦布告は大事な作業。
近代国家となるためには欠かせない行程。
武力行使前の話し合いと、それが決裂した時の最終通告はしなければならない。
戦後に待っているのは食糧援助と心のケア。
各都市の防衛力に関しては、仙人レベルが数名いれば大丈夫だろう。
食料も最初はピストン輸送で、ゆくゆくは現地に派遣する仙人に作らせる。
転移術も使えるようになるので、緊急時にも対応できる。
次々と決定事項が積み重なっていき、最終的に奪還作戦の内容が固まった。
時期は10日後。
今日から10日後に火国固有の領土である各都市と町村の解放をする。
準備は万全にしなければならない。
会議の後、ミイに残ってもらい、エアノワリスを呼び出した。
2人に確認したいことがあったからだ。
「こんな遅い時間に悪いな」
「ラシル様がお呼びとあらば、即座に参ります」
エアノワリスが少しの間も空けずに即答する。
「むしろ、ずっとお側に控えていた方がよろしいかと思います」
ミイがにっこりと笑う。
「うん、ありがとう」
少しヤル気満々すぎる2人に苦笑する。
「火国の者たちもラシル様の配下となることができて、大変喜んでおります」
本当だろうか。
もし違ってたらただの恐怖政治だ。
「2人とも、レイラン達とはうまくやっていけそうか?」
「問題ございません」
ミイが即答した横で、エアノワリスが何かを言いたそうにしている。
「どうした?」
「あ、あの、ラシル様はレイランみたいな女の子がタイプなのですか?」
タイプか。
自慢ではないが、俺は女性を選り好みできる人間ではない。
「こら、エア。そんなことを聞くんじゃありません」
ミイとエアノワリスはこのギルドでも古株だ。
仲が良く、プライベートではエアノワリスはエアと呼ばれることが多い。
「ミーナも気になっているんだろ?」
エアノワリスはミイの事を本名のミーナと呼ぶ事が多い。
「それは、まぁ」
ミイがモジモジし始めた。
ちょうどよかった。
聞きたかった事が聞ける。
恋バナの時間だ。
「それで、どうなんですか?」
はっきりとした性格のエアノワリスが回答を促す。
別に隠すこともない。
全然モテない人生。
人間関係が苦手だったリアル。
ここは素直に打ち明けるしかない。
「うーん。付き合ってくれる人なら誰でもいいよ」
あぁ、彼女欲しい。
切実なんだよ、こっちは。
「えっ」
エアノワリスがドン引きして固まっている。
マズかったか。
付き合ってくれるという女性なら誰でもいいというのは、ちょっとあんまりだったか。
急いで話題転換。
聞こうと思っていた話ともそう遠くないので、本題を切り出すことにした。
「2人とも、結婚したいとか、考えてる?」
「えっ」
今度はミイが固まった。
「もちろんです!!」
エアノワリスが食い気味に即答する。
「そ、そうなのか?」
「女性の憧れではないでしょうか。幸せな結婚とは」
感情の起伏と同時に、エアノワリスの羽が蠢いた。
「……でも、結婚という形ではなくても、好きな人と一緒にいたいというのは真理だと思います……」
か細い声で全部は聞き取れなかったが、ミイが言ったのは、こんな趣旨のことだと思う。
これ以上聞くとセクハラになる。
いや、もう遅いかもしれない。
「そうか、わかった。そうだよね、ありがとう」
「私たちに聞きたいことって、それですか?」
エアノワリスは可愛く小首を傾げ、キラキラとした目で問いかけた。
「まぁ、うん。気持ちというか、将来の展望を聞いておこうと思って」
「将来の、展望…」
ミイが顔を真っ赤にして俯いた。
「ちなみに、本当にちなみにだけと、他の女の子たちもそうなのかな?」
「もちろんです。みんな同じです。少なくとも拠点管理者と副官の子たちの意見は皆一致しています」
エアノワリスは残酷に言い切った。
そうか。
そうなのか。
結婚をせずに、ずっとこのギルドにいます!
とか、そんな風に考えてくれるかなーとか。
認識が甘かったと言わざるを得ない。
やっぱりみんな結婚して家庭を持ちたいのだ。
ゲーム世界のギルドでNPCだったし、この世界に来てもずっとギルドにいてくれるかなとか。
そう思ってくれていたらいいなーという甘い願望が打ち砕かれた。
少しの間、打ちひしがれて遠くを見つめた。
成長して旅立っていく彼女たちが見えたような気がした。
よし。
決めた。
時が来たら、彼女たちをちゃんと送り出そう。
幸せになってもらおう。
そのために、彼女たちの穴を埋める人材育成に真剣に取り組むべきだ。
それも早急に。
急に課題が見えた。
盲点だった。
いや、現時点で把握できて良かったと思うべきだろう。
これは収穫だ。
「君たちの気持ちは理解した」
「分かっていただき、とても嬉しく思います!」
エアノワリスが元気よく言った。
「なかなか気持ちを聞く機会がなかったから、聞けて良かったよ」
俺は強い心で2人に笑顔を見せた。
「私のような者の気持ちを理解していただき、ありがとうございます」
ミイが丁寧にお辞儀をした。
「いや、こちらこそありがとう。今日は遅いからもう寝よう。呼び出して悪かったね」
「いえいえ、いつでも参ります」
2人は丁寧にお辞儀をして、部屋から出て行った。
「早い者勝ちってことよ!」
閉まる瞬間にドアの外から何か聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。
それにしても。
女性の部下は大変だ。
早急に対策をしなくては。
いや、待てよ。
寿退社という考え方も古いのではないか。
女性は結婚したら家庭に入るという、旧時代の価値観に囚われてはいけない。
活躍してもらわなくては。
結婚して出産後にもまだ働いてもらえるかもしれない。
大変だ。
その可能性を失念していた。
また次の機会に聞いてみよう。
良い返事をしてくれるだろうか。
そのためには、この会社に魅力が無いといけない。
魅力とはなんだ?
ヤバイ。たくさん考える事がある。
それにしても侮れない。
自分は経営者なんだ。
ちゃんとしないと。
ラシルはそう自分に言い聞かせた。
まずは魅力の洗い出しから考えなければ。
ラシルの長い夜が、ここから始まった。




