029_女性幹部会議1 チャイナドレスの件
女性幹部による女性幹部のための会議。
それが女性幹部会である。
メンバーはゲーム内の旧ギルド幹部の女性。
もちろん今でも変わらず幹部である。
ミイ、エアノワリス、クゥ、ロメリア、セシュレーヌ、ベッフィーの6名の拠点管理者。
それに副官が数名加わる。
エアノワリスの副官の修道女カトリーナ。
この場にいないメルバコルの副官であるサキュバスのセデナ。
ロメリアの副官のナスカ。
計9名がメインメンバーであった。
そしてなぜかオブザーバーにショウが呼ばれている。
さっきからショウはずっと1人ソワソワしていた。
女性ばかりの中に1人だけの男。
重要な話し合いがあるからと言って呼ばれたのだ。
そして来てみたらこの場違い感。
ミイはエアノワリスに何か相談しているし、クゥとセシュレーヌは盛り上がっている。
ロメリアとベッフィーも話が弾んでいるようだ。
副官のカトリーナ、セデナ、ナスカも副官どうしで固まっている。
話し相手がいないショウは完全に浮いていた。
クゥの副官としてクゥの話に混ざるか、副官の3人の元へと行くか、それともここで1人じっとしているか。
判断ができないまま時間だけが過ぎていく。
ひとしきりの雑談タイムが終わり、会議が始まった。
この会では様々な重要議題が話し合われる。
ここで決定したことについて、強制力はない。
強制力は無いが、出された方針は尊重される。
メルバコルを除く拠点管理者の全てが揃うため、この会での決定事項はそのままラシル配下を代表した決定事項となるのだ。
ラシルは結構、というよりかなり部下の意見を尊重する。
そのため、ここは知る人ぞ知る、裏の意思決定機関となっていた。
この会の発起人はミイとエアノワリスである。
ゲーム世界時代、ラシルが各拠点に立ち寄らないことについて、ミイは深く悩んでいた。
その悩みをエアノワリスに打ち明けて色々と相談をした。
他の女性メンバーはどう思っているか聞いてみようということになり、一人一人聞いて回った。
すると同じ悩みを持つ者や、主人であるラシルについてもっと話したい、もっと知りたい、情報共有したいといった声が上がった。
基本的にみんなお喋り好きであるというのと、熱烈にラシルを想っているという共通点があった。
ではみんなで集まって話し合おうという流れになり、自然発生的にこの会は発足したのである。
ゲームの世界にいた時は定期的に、月に1、2回程度開催されていた。
ほとんどはお喋りをするための会であった。
日々の業務とレベリングの合間に集まった彼女たち。
この世界に来てから初めての会合である。
ミイは集まったみんなを見渡し、随分と久しぶりだなと思った。
ゲームの世界から転移してきた直後は、それぞれの拠点が孤立し、連絡が取り合えなかった。
ラシルによって各拠点がリンクされた後も、レベリングや火国での出来事があって、なかなか時間を取ることができなかった。
この会は昔とは違う。
重要度が格段に上がった。
それはラシルがこの世界から出れなくなってしまった事に端を発する。
ずっと一緒にいられるというのは本来であれば喜ぶべきこと。
しかしここは異世界。
喜ぶ前にしなければいけないことがある。
それは安全保障。
敵が存在して、自分たちは滅ぼされる可能性がある。
何より、親愛なるラシルが失われる可能性があるのだ。
ギルドにとって一番大事なのはラシル。
ここはみんなで一致団結しなければならない。
メンバーの一人一人は、それぞれ固い決意があった。
どうして僕は呼ばれたんだろう。
ショウは居心地が悪かった。
とっても。
当たり前の話だ。
自分以外、他に集まったのは女性だったからだ。
こういった会があり、開催されているというのは薄々知っていた。
それでもオブザーバーとして呼ばれたことなど1度もなかったのだ。
なぜ今になって呼ばれたのだろう。
ここは自分ではなくて、拠点管理者のメルバコル様が呼ばれるべきではないか。
そんな考えがショウの中でグルグルと渦巻いていた。
「それでは会議を始めたいと思う」
司会はもちろんミイだった。
「皆、当初の混乱から多少は落ち着いたのではないかしら」
レベリングも順調だし、以前の力とまではいかずとも、あとは時間さえあれば取り戻せる。
ロメリアもセシュレーヌもランクアップして人型になっている。
皆に集まってもらったもらったのは他でもない。
火の国の件を話し合うためだった。
ミイは眉をひそめて現状を説明した。
ショウは首を傾げた。
火国の件ならば、ラシル様のいるところで、他の幹部と一緒に話せばいいのだ。
それぞれ各自で考えてみてほしいとラシル様は言ったが、女性だけで集まって話すような内容だとは思えなかった。
「火国の件を話し合うのであれば、他のみんなと」
「それは違うのよ、ショウ」
「そうじゃ、おぬしは黙っておれ」
ミイとクゥがそう言って、話を止めるなとショウを睨む。
ショウは首をすくめた。
そう言われると、黙って様子を見るしかない。
「…ここまではみんなの知るところだと思うが、ラシル様は女性に弱い」
ミイが改めて火国への介入の経緯を説明した。
そこでメンバーから横槍が入った。
「ラシル様はもちろん私にぞっこんなのだけれど…」とミイ。
「意義あり!! ラシル様の一番はこの私だ」とセシュレーヌ。
「いえ違います。ラシル様は私の旦那様です」とロメリア。
後ろに控えている2人の妖精たちが深々と頷く。
「ラシル様は私のような子がタイプなのよね」とベッフィー。
「ラシル様は私の神です。恐れながら、私が一番お慕い申し上げています」とカトリーナ。
「ふん、みんな馬鹿ね。ラシル様は私しか見ていないわ」とエアノワリス。
「なにを言っている。ラシル様はエルフ萌えだと聞いたぞ」とナスカ。
「私がラシル様を最も満足させることができるわ」とセデナ。
「主らいいかげんにせい。ラシル様は妾を一番に可愛がっておる」とクゥ。
いい加減にするのはお前たちだ、とショウは思ったが、口に出さなかった。
そこから議論が白熱する。
見当違いな方向に。
「ちょ、ちょーっとまった!!」
このままではまずい、というより話が終わらない。
ショウが慌てて止める。
みんなショウのほうを見た。
「で、結局何が問題なのさ」
フッ、なにをバカなことを言っているのという目をミイがする。
ラシル様はハニートラップに引っかかる恐れがあるのよ。
「そんなバカな」
「ありえないわ」
「ふん、そんな話・・」
今度は皆がミイをありえないという目で見る。
ミイは先の火国の女王の話をする。
女王との会談の際、ラシルが女王の色香にやられた件について。
「火国の女王、レイランは確かに美しい女性よ。一国の女王という地位、若さ、聡明さ、胆力、判断力、人並み以上に優れていると言わざるを得ないわね。さすがに私たちほど強くはないけれど」
「ラシル様はその女に恋をしたと?」
ロメリアが冷静に尋ねた。
「恋、というほどでもないわ。ラシル様はレイランの足にやられたわ」
「足、だと?」
「私だって足の手入れは欠かしていないわ」
「ラシル様は足フェチ…?」
「足ならば、勝機はある」
各々が好き勝手に発言する。
ラシル本人がこの場にいれば全力で否定するだろう。
「妾も見ておった」
クゥも沈鬱な面持ちでミイの話が本当だと証言し、有罪判決を下す。
ラシルが火国の女王の足をそういう目で見て、それが火国に加担するという判断に大きく影響を与えた。
遺憾ながら、これがこの場での共通認識として確立した。
「ラシル様が…でも足なら…」
ナスカは驚きを隠せない。
「その女王とやら、滅ぼさねばなりません」
カトリーナは意を決したように俯き、暗い顔をした。
「火国は敵国だったか」
セシュレーヌは眉をひそめる。
「サキュバスである私を差し置いてラシル様を誘惑するとはいい度胸ね」
セデナは不敵に笑う。
「火の精霊を遣って本当の火の国にしましょうか」
ロメリアはニコニコしている。
「ここは私の光魔法で地上から…」
エアノワリスは物騒なことを言っている。
「私の薬を使って女王姉妹を老婆に…」
ベッフィーが暗い笑みをこぼす。
話が火国と女王抹殺の方向に話が傾きかけ、ショウの頭痛が限界に達しようとしていた時だった。
「静粛に!!」
ミイの鋭い声が会議室に響いた。
全員の視線がミイに集まる。
「で、私は考えたのです」
ミイは何事も無かったかのように、もう結論は出ていると告げる。
「もし滅ぼして御覧なさい。ラシル様の怒りが私たちに向かうかもしれません」
主人の気に入ったものを知っていて、それを取り上げたり破壊したりすることは、配下にはできない。
たとえそれが主人の為だとしても、犯してはならない重罪である。
「すべてはラシル様の御心のままにですから。それは下策です。私たちの好感度をわざわざ下げる必要はありません。」
それはそうだとみな頷いている。
「では、どうするのじゃ?」
クゥは全員を代表するように質問した。
「取り込むのです」
ミイは確信したように言い放った。
「そして、飽きるまで待つ!!」
ミイの案はこうだった。
目の前に2つの勢力があり、そのどちらか1つに肩入れをすることが決まった。
この決断はラシル様がなされたものなので、覆すことはできない。
肩入れした相手はこちらに恭順の意を示している。
それであれば、取り込むのが一番である。
敵にしたり、自分たちの勢力圏外に存在するよりも影響範囲内にいた方が都合がいい。
目新しいものなので興味を引いているが、そのうちに飽きるだろう。
その頃にはこちらに逆らえないし、こちらの戦力の一部となっている。
「そうか! 殿方は自分の物になったら執着心がなくなるということだな」
セシュレーヌがあたかも会得したように言った。
「それは名案だ」
「高等テクニック…」
ベッフィーが呟く。
「神よ、お優しい神よ。どうか我々だけをお導きください」
カトリーナが祈りを捧げる。
「ラシル様はこの世界でも神であらせられるというわけか」
ナスカが呟いた。
「私が正妻だということをしっかりと理解してもらわないと」
ロメリアが頷く。
「ロメリア、それは聞き捨てならないわね。ラシル様は私にぞっこんよ」
エアノワリスが横槍を入れる。
「火国の女王はどんな子? どんな服を着ていたの?」
「いい質問ね、ベッフィー」
「一瞬でもラシル様の興味を引いたのじゃ。妾たちも学ぶところがあるやもしれぬ」
「ラシル様が言うには、レイランという女はチャイナドレスという服を着ていたそうよ」
「チャイナドレスですか。それはいったいどういう服なのですか?」
「上半身は比較的普通の服ね。だけど下が凄いの」
「どう凄いんだ?」
「早く教えてくれ」
「構造的に言うとね、前と後ろに長い布を垂らしているだけなの」
「なん、、だと?」
「それはいったいどういう…」
ほとんどの者が唖然とした表情を浮かべた。
「普通に真っ直ぐ立っていれば何でもないのだけど、歩くと自然に足が見えるような構造になっているのよ」
「なんだと」
「それは本当ですか」
「危険な服だ」
「厄介な。視線を足に誘導するとは。格闘服か?」
「高等テクニック…」
「重力にそんな使い方があったとは」
「我々もそういった服を着るべきだろうか」
「主人様がそれをお望みならば」
チャイナ服の構造的な危険にショックを受けて打ちひしがれているのは1人や2人ではない。
ショウは呆然としていた。
この議論の中身の無さに。
なんて、なんてどうでもいいことを話し合っているのだろう。
ショウは忙しいのだ。
火国の食糧援助やけが人の治癒、防衛といった外交関係の仕事がある。
こんな会議に付き合っている場合などではない。
ショウとしては、火国を支配下に置くという結論だけ知ることができれば十分なのである。
結論は出た。
火国を属国として迎え入れる。
その判断は妥当なものだとショウも思った。
それさえ知ることができれば、今すぐ仕事に戻りたい。
後はいつ退出するか、その機会をショウは伺っていた。
「ではそういうことで、火国は支配下に置きましょう。自給自足と防衛をできるようにして、優秀な人材は引き抜くという方針で」
ミイの結論に異議は出なかった。
会議が終了し、ぐったりした様子のショウは執務室へと戻った。
火国を支配下に置く。
恐らくそうなるだろう。
そうすれば、またたくさん仕事が出てくる。
どのくらい火国に介入するのか。
それはラシルが決めること。
決めた後でもいいのだが、主人がどんな選択をしてもいいように準備を整えておく必要がある。
その時に速やかに実行できるように。
食糧と防衛と、レベリングと。
ショウは大まかな計算を始めた。
そこでふと、自動的に情報を処理していた脳が、未来のある可能性を示唆する。
「ああ、チャイナドレスが流行るかも知れないな」
ショウは無意識に漏らした独り言に唖然とした。
そして頭を振り、また仕事を再開した。




