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世界改変 ~アップデート~  作者: 、、、、、
2 火国騒乱編
24/246

024_火国の女王3 火国の女王


 レイリンが待っている場所は、この町で一番大きな屋敷という名にふさわしく、城と言ってもいいような大きさだった。

 地主か貴族などの支配階級が住むような場所。

 周囲は物々しい空気に包まれていた。

 城門にいた兵士と雰囲気が違い、ずっと殺気立っていた。

 要人がいるからだろうし、こちらの兵士のほうが士気が高く、格上なのかもしれない。


 門兵に用件を伝えると、俺たちはすぐに中へと通された。

 屋敷の庭では兵士たちが訓練を行っていた。

 中にはまだ若く、男の子と言ってもいいような年齢の者までいる。

 見た目が17歳で、女子高生と幼女を連れている自分が言う資格はないのかもしれないが、子どもを戦力に使う戦争など、あまりよい状態とは言えない。

 反対に、ほとんど老人に差し掛かっている初老の者までいる。

 使える者は何でも使うか。

 相当に追い詰められているのだろう。

 彼らは新兵らしく、初歩的な動きの訓練を受けていた。

 

 庭を抜け、屋敷に入った。

 ひっきりなしに兵が行き来していた。

 一般兵を統率している道士が数人ほど。

 逆に、道士以上の力を持った者を見つけることはできなかったが、効いていたよりも道士の数が多い気がする。


 物々しい雰囲気の廊下を抜け、屋敷の一番奥にある豪華な部屋へと通された。

 そこは応接室だった。

 壁には山水画のような絵画が飾られていた。

 椅子やテーブル、机、花瓶など、調度品の一つ一つにお金がかかっているというのが誰でも分かる品ばかりだった。

 それら調度品に負けない手の込んだ装備を身に付けている者が数名、部屋にいた。

 そこにはレイリンもいたが、部屋の主は違うようだった。


 レイリンは直立不動で部屋の主の横に控えていた。

 その人は女性だった。

 見た目は二十歳そこそこだろうか。

 長い髪の、極めてセクシーな女性。

 町一番の美女コンテストとかがあれば、確実に優勝していて、もしかしたら全国大会でも勝てるだろう。

 その女性はどことなくレイリンに似ていた。


 チャイナドレスに似ている真っ赤な服は、ところどころに金の刺繍が入っていて上品だった。

 その人は椅子に腰かけ、すらりと伸びた足を上品な布の間からはみ出させている。

 あれだ。

 両脇の部分が何故か切れているやつだ。

 左足が真横に置いてある足置きの上に乗っていた。

 それはとても綺麗な光景だった。

 伸ばしている足の付け根が見えそうで、空気に触れている肌は艶めいていた。

 本来であれば煽情的な光景なのだろうが、ある1つの事実がそれを痛々しい光景にしていた。

 先端の足首部分が真っ白な包帯に包まれ、関節があらぬ方向に向いているのだ。



「これはこれは、わざわざおいでくださり、感謝する」

 美女はそう言って頭を下げた。

「そして失礼。先日の戦いで足首をやられてしまって。治らないのだ。この格好で失礼する」

 美女は再度、頭を下げた。


 胸元がチラリ。足の付け根もチラリ。

 すぐさま強烈な殺気が2つ飛んでくる。


 怖っ。


 横にいるというのに、俺の視線は読まれているのか。

 だとしたら大変なことだ。


「いえいえ、お気になさらず」

 ミイがニコニコして取り繕う。


「ラシル様、話し合いに集中できていないようですので、ブラインドネスの術をおかけしましょうか」

 怖い。こっちを見ていないのが怖い。


 そんなもったいないことをされてたまるか。


「あまりにもこの町の現状が悲惨なものだったのでな。冷静さを欠いていたようだ」

 うまくごまかせた。

 ミイがこちらを向き、年相応の無垢な表情で首を傾る。

 クゥにはジト目で見つめられる。


「ゲフン、ゲフン」


 大きな咳払いで誤魔化して、話し合いが始まった。



 まずは自己紹介。

 名前の交換は大事だ。

 美女はレイランと名乗った。

 薄々感づいていたとおり、レイランはレイリンの姉だった。

 そしてなんと、レイランは火国の王だった。

 聞いてはいたが、こうして実際に見ると驚かされる。


 レイランとレイリンを交互に見比べる。

 レイリンは若くて利発的な女の子。一方でレイランは妖艶な雰囲気があった。


 レイランから村を救ってくれたことへのお礼が述べられた。


「この度は我が国の民を救っていただき、心から感謝を申し上げる」

 レイリンはまた頭を下げた。


「そんなに頭を下げないでください」

 苦笑交じりに言うと、相手はもっと苦笑して言った。


「私は火国の王であるが、力が無い為にこんな不甲斐ない状況になっている。私にはもう頭を下げることしかできない」


「姉上、そんなことはありません。まだ負けていないではありませんか!」

 レイリンが必死の形相で叫んだ。


 こんなに悲観的で、さらに王様がここにいるというのはあまり良い情勢ではないようだ。

 状況確認のために聞いておくとしよう。


「それで、あなたがここにいるということは」


「ええ。首都が落ちました」

 レイランとレイリンは揃って顔を伏せた。




 仙界と呼ばれる国家群。

 火国、水国、土国、木国、風国の五大国。

 他にも雪国、山国、海国などの小国がある。

 王国とは別に、圧倒的に勢力が上の帝国というものが存在する。

 白虎、朱雀、青龍、玄武という4帝王の座する国だ。

 その4大帝国よりも更に上、この仙界を支配しているのが桃源郷に住むという皇帝。


 仙界の中の5大国の1つがレイランの国だという。

 これらの勢力は日々覇権を争っている。

 それは仙桃確保という目的のため。

 仙人種へと進化できる仙桃は、中央の桃源郷が生産し、管理している。

 各国には仙桃の生産技術などがないため、全て中央頼みなのだそうだ。

 中央の皇帝の気分次第で、国が繁栄するか衰退するかが決まる。

 仙人種に進化できれば、普通の人間よりも莫大な力を得られる。

 それはつまり軍事力だ。

 仙桃の割り当てが多いところは、沢山の兵士を仙人種へと進化させることができて、より強い国家となる。

 逆に少ないところは他国に攻められやすくなり、発言力やプレゼンスが低下する。

 皇帝は争いを推奨している。

 切磋琢磨して競い合って、より強い存在が現れることを望んでいるのだという。

 強い勢力になれば仙桃が得られ、また軍備を増強できる。


 諸勢力が存在すれば、協力関係や安全保障のための同盟関係が自ずと発生する。

 火国でも、風国とは盟友関係にある。

 その強固な同盟関係も、恵まれない地理的要因によってあまり意味をなしていないのが現状なのだそうだ。

 火国は仙界の最南端に位置し、風国は北に位置している。

 今回のように戦争が起きても、助け合うことはできなかった。

 

 歴史を遡れば、火国は戦争自体が少なかった。

 先代の国王である火国の王は覇権争いには積極的に参加していなかった。

 火国の使命は、山脈のモンスター退治だと考えられていたからだ。

 危険なドラゴンや強いモンスターがいる山脈方面の警備。

 仙界に侵入してこようとするモンスターを食い止める役割がある。

 それを使命と定め、誇りを持って国の基本指針としていた。


 しかし、その方針というか、情勢がここ数年で急激に悪化した。


「我々は後ろ盾を失った。同じ火属性の術を得意とする朱雀帝と決別したのだ」

 レイランが苦々し気に言った。


「朱雀帝は覇権を求めている。そのれを追及する一つの手段として、我々火国を併合しようと画策していた。我らの父はそれに抗った。それだけならよかったのだが、父は風国の姫と結婚をしてしまった」


「それは君たちの…」


「母親になる。風国は青龍帝との結びつきが強い国。その国の姫を迎えことが朱雀帝の怒りを買った」


「どうしてそれが怒りを買うことになるんだ?」


「四帝はそれぞれ互いに牽制し合う仲。朱雀帝の影響領域下にある火国の王が、青龍帝の下についている風国から妃を迎え入れることは、朱雀帝に対する反逆と捉えられたのだ」


「火国にそういう意図はあったのか?」


「ない。風国とは元々仲が良く、私の父と母も中央で知り合い、自由恋愛の末に結婚したと聞いている」


「なるほど。覇権を狙う朱雀帝からすれば不安定要素が増えたというか、面白くないわけだ」


「朱雀帝は我儘な方だ。意に沿わないのならば後ろ盾にならないと公言されし」


「それで戦争か? でも朱雀帝とは直接争っていないのだろう?」


「朱雀帝との軋轢に乗じて、遺恨のあった水国や木国、土国に攻め込まれている」


「すごいな。周りはみんな敵か」


「私が15歳になった頃に大規模攻勢が始まった。最初は水国から。その一国であれば何とか抑えることができたのだが、その数年後に土国が横から攻めてきた。そして火北都市を奪還され、その防衛戦で父と母は亡くなった」


「前王はこういった状況になることを想定していなかったのか?」


「考えてはいたようだ。朱雀帝は気分屋なところがあり、味方になったり敵になったりする。朱雀帝の権威にばかり頼るというわけにはいかないことなど知っていたさ。だから他の国とも同盟関係を築いていた。水国の水南都市、土国の北に位置する2つの都市、北方の木国の都市」


「それでも戦争は避けられなかったと」


「そうだ。水国の王が代替わりしてな。その王が好戦的で野心的だった。大規模攻勢をかけてきた。それでも火国は負けることなどなかった。確かに水は火に強いというのは誰でも知っている。しかし近くに湖や川などの水源が無ければ戦闘において火の優位性は動かない」


「土国や木国は?」


「土国のいくつかの都市と木国の木南都市を戦争に参加するようにたきつけたんだ。同盟関係にある都市は反対したが、それでも戦争は避けられなかった」


 その後も戦争までの経緯と世界情勢を詳しく聞いた。

 現在劣勢で、もう3年ほど戦争している。

 たくさんの村を失い、都市を奪われ、つい数日前、最後の砦であった首都が陥落首都も奪われた。

 その時に足をやられ、なんとかこの町まで逃げ延びてきた。

 奪取された首都や他の都市の火の国の民は奴隷としての扱いを受けている。

 将軍たちも殺され、残りはあと1人しかいない。

 国はすべてにおいて疲弊しきっている。

 笑えるような劣勢だった。


「我々はこんな状況だ。それでもともかく、民を救ってくれてありがとう」


「事情は分かった。もう少しだけ話を聞きたい」


「民を救ってくれた方だ。かまわない」

 だがその前に。


「足を見せてもらえるかな」


「足?」

 訝し気にレイランはこちらを見る。


「まぁいいさ」


 レイランに近づこうとすると、兵士の一人が前に出ようとした。

 これ以上近づけさせるのがはばかられたのだろう。


「よい」

 レイランの一声で兵が下がった。


「好きなだけ見てくれ。自慢の足だ」

 レイランは自嘲気味に笑った。


 美しい脚ですねとか、ここで反応すると後が怖かったので、俺は無視して足に触れた。


 変な術はかかっていない。

 ただの骨折の類だ。

 アイテムボックスから回復薬を取り出す。

 奇妙な液体の入った瓶にレイランは興味津々だった。

 栓を抜き、ためらうことなく患部に振りかける。


「これは!!」

 変な方向に曲がっていた足首が、みるみる元の形に戻っていった。

 包帯の上からでもその変化が分かった。


「ここまでの話のお礼だ。もう立っても大丈夫なはずだから、立ってみてくれ」


 レイランは言われるままに立った。


「なっ・・・」

 レイリンが驚愕で目を見開いている。


 足が治った本人は驚き過ぎて言葉が出ないようだった。

 歩いたりジャンプしたりして、違和感がないことを一通り確かめる。


「感謝する」

 レイランが深々と腰を折った。


 その後も色々と話を聞いた。

 とても興味深い内容だった。


 まずはレベルの考え方。

 概ねゲームと同じようだ。

 各国の仙力は道士が最上限であり、国王は真人レベル。

 四帝になれば、その上の仙人がいるという。

 皇帝の強さは不明。しかし四帝を凌ぐという。

 それ以上は知らないとのこと。

 最低でも大仙人レベルと見るべきだろう。


 次にお金の話。

 この世界には通貨がある。

 物々交換ではないらしい。

 貨幣の種類は4種類で、貝、銅、銀、そして金だそうだ。

 貝10枚で1銅貨、銅貨10枚で1大銅貨。

 10大銅貨で1銀貨、10銀貨で1大銀貨。

 10大銀貨で1金貨、10金貨で1大金貨

 だそうだ。


 銅1枚1円とすれば金貨1枚10万円といったところか。

 賃金は1日2~3銅貨。

 兵士は1大銅貨。


 進化アイテムである仙桃の話もした。

 貴重なものであり、中央の桃源郷が生育管理している。

 どの国も喉から手が出るほど欲しいが、その生育方法は不明。

 桃源郷でしか育たないと言われている。


 なるほど。


 農作物は大変貴重。10年に1度程度の頻度で、飢饉が発生している。


 最後に兵力について。

 村には道士がいない。

 町には道士1人か2人。

 町の規模によって増えていき、大都市になれば道士が数十人はいる。

 首都には道士が100人程度だそうだ。


 ああ、ビジネスの匂いがする。

 農作物や仙桃など、いくらでも供給できる。

 戦力もある。

 これはやりようによっては、この世界で大成功を収められるのではないか。


「ありがとう、まだまだ聞きたいことはあるが、これくらいにしておこう」


「うむ。何の持て成しもできないが」


「いいさ。それより、そろそろお客さんたちが到着する頃ではないかね」

 外が騒がしかった。


 町の外に偵察に出しているニボシの配下から集めた情報によると、もうすぐ火国の敵勢力と思われる大軍勢がこの町に到着する。

 兵士の数、約5万。その内、道士が100人。

 現在の火国にとっては、圧倒的な戦力差だ。


「そうだ。最後の決戦だ。こちらの兵力は道士が20人にまでに減っている」


「負け戦か」


「最後に一矢報いてやるさ。足も治ったことだし」

 レイランは不適に笑うと、位を正した。


「あなた方にお願いがある」


「聞くだけ聞こう」


「私の妹、レイリンをあなた方と一緒に連れて行ってはくれないだろうか」


「姉上!!」


「それはどういう意味だろう」


「レイリンは私の妹であり、火国を継ぐ立場にある。私がここで死んだとしても、妹さえ生きていれば安心できる。何かがあった時には風国に亡命させる盟約が交わされている。どうか少しの間でもかくまってくれないだろうか」


「私も姉上とともに戦います!!」


「よく聞け、レイリン。これは火国の為なのだ。お前が生きて種火となっている限り、火国は滅びたりしない。わかってくれ」


 レイリンは唇を噛み締める。


「この通りだ。あなた方には感謝してもしきれない。どうか最後の願い、聞き届けてくれないだろうか」

 レイランは切実な声で訴えた。


 ふむ。

 

 少しの間、考えた。

 レイリンを見て、レイランを見る。

 ミイとクゥを見る。

 二人とも何事もなかったかのように平然としていた。

 多分興味がないのだろう。

 俺たちに何らかの害がない限り、この世界の他の勢力がどうなったところで関係ない。


 よし。 


 俺は決断した。




「お断りする」



 レイランの顔が失望に染まっていった。





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