023_火国の女王2 火南都市
村で狼たちを駆逐し、他の拠点との繋がりが復旧してから数日後。
今まで以上に忙しくなった。
レベリングは元より、食糧問題が浮上したのだ。
ギルメンは皆、食べるようになっていた。
モリモリモリモリ。
生物であれば当たり前の話なのだが、全ての拠点の末端までの配下の食料をどうにかしなくてはならなくなった。
そこで白羽の矢が立ったのがペッフィーだった。
魔女のペッフィーは研究者であり、技術者でもある。
彼女は一種の天才だ。
物理法則、仙術、精霊術、黒魔術、白魔術、様々な力を理解、研究しつつそれを再現することは彼女にとって造作もない。
彼女は学問の探究者であるが、兵器鋳造からアイテムの創作までが守備範囲に入っているのである。
彼女に造れない武器やアイテムなどない。
それを彼女に言うと、そんな事はありませんといつも謙遜する。
とんでもない人材だ。
はっはっは。
という訳で、現在禁城の住民である仙人たちにさせている各系統の術式を使った農業を見せ、それを簡略化できるようにするアイテムを作ってもらっている。
ペッフィー曰く、今まで食の必要がないからこういった研究はしてこなかったらしい。
でもそんなに難しくはないので数日もあれば可能だとのこと。
続いて畜産と水産。
畑から取れるものは野菜や穀物、果物といった農業品である。
足りないのは肉と魚。
牛や豚、鶏をベースにした亜種のようなものがゲームの世界にはあった。
それらは金貨を消費することで召喚できる。
現在その方法で肉を確保しているのだが、それではずっと金貨を使い続けることになってしまう。
それでもいいのだが、大量の肉となると、どこかで畜産に手を出したほうがいい。
禁城の周りで放牧するとか。
これはみんなに要相談だ。
魚も同じである。
海に面しているのはエアノワリスの第三拠点。
たぶん魚は取れるだろう。
しかしどうやって? というのが問題だ。
これも方法論から確立していく必要がある。
金貨の製造も急務だった。
金貨は精製することができる。
魔術の一部である錬金術と仙術を駆使して、地中の鉱物に変化を加える。
そうすれば金ができるのだ。
しかしエネルギーが沢山必要なため、ギルメンがレベルアップしてから出ないと着手できない。
そしてレベルアップアイテム。
仙人種であれば仙桃、天使族であればリンゴといったように、進化の実の栽培にも着手しなければならない。
十分に在庫はあるのだが、何が起こるか分からない。
減っていくものは増やせる公算を立てなくてはならない。
全ての幹部とその配下にはレベリングをさせている。
それとは別に、ペッフィーには食糧問題解決のためのアイテム製造を任せている。
メルバコルには全員のレベリングの管理を任せた。
悪魔族は召喚魔法を使えるので、レベリングには欠かせない。
セシュレーヌも龍種になってくれれば、竜族召喚ができるようになる。
あとは精霊女王ロメリアも精霊召喚を使えるようになれば、レベリングは一気に進むだろうと予想される。
たくさん考えなければいけないことを考え、レベリングをしているうちに、火国の都市へ行く日になった。
レイリンとの約束通り、俺たちは火南都市に来ていた。
先行したニボシによってここまでのマッピングはされていたので、転移で簡単に来ることができた。
火南都市は城壁で囲まれている。
2メートルほどのそんなに高くない城壁。
どこかに攻められるとかそういったことを想定していたのではなく、モンスターからの防御という側面が強いようだ。
もしかしたら、頑強な城壁を作る技術や財力がないのかもしれないが、それは分からない。
城壁を乗り越えようと思えばできるだろう。
風化や浸食によって、古い石が欠けたり削れたりしていた。
気休め程度の、人が住む町と草原を隔てる境界線。
この都市が人間同士の争いに巻き込まれたらひとたまりもないだろう。
城壁の外側には無数のテントがあった。
テントはみんなボロボロ。
細くて今にも折れそうな木の棒きれに、ボロボロの布をかぶせただけのようなものがほとんどだった。
雨風は凌げないだろう。
いったいいつからこんな生活をしているのだろうか。
テントに入れなかった人々は天との外で座り込んでいたり、寝転がっていた。
怪我をしている者も沢山いた。
衛生状態も極めて悪い。
「これはひどいですね」
ミイは無表情で呟く。
酷い状況を見て、怒っているわけでも感傷に浸っているわけでもなく、無感動に観察していた。
食料も行きわたっていないようで、このままいけば餓死者が出るだろう。
「戦争だからな」
「ふむ」
クゥも鋭い目をあちらこちらに向けながら、つぶさに観察していた。
俺たちは唯一テントもなく人も座り込んでいない城門へと続く道を歩いた。
城門の兵士に用件を伝える。
俺たちが来ることは伝えられていたらしく、程無くして中に通される。
併設されている兵舎をちらりと見たが、憔悴している兵士が多かった。
戦いの厳しさもあるだろうが、それよりも負け続けていることに疲れているようだった。
勝てる見込みが無いという事実が辛いのかもしれない。
都市は大きかった。
高い建築物はほとんどないが、昔からずっとこの町に住んでいる民がいるのだろう。
どの建物も、風化していたが、綺麗にされ、丁寧に使われてきたのだなという印象がある。
民度の高さが伺えた。
それでも町の空気は悪い。
城壁の外と同じく、通りは人で溢れ返っていた。
元から住んでいた者たちも多いのだろう。
推察するに、城壁の外の人たちはいわゆる他の都市から来た難民で、城壁内にいる者のほとんどはまだ戦禍に直接巻き込まれていない者たちだ。
外よりも比較的、ほんの少しだが顔が明るい者が多かった。
それでも、活気があるという表現には程遠い。
路地に座り込む者の顔は暗く、目の輝きを失っていた。
この都市は町としては小さいほうだとレイリンは言っていた。
商人はほとんどいない。
露店なんかも無く、店も閉まっている。
品ぞろえも、売り場面積に対して10%あるかないかくらい。
どこもスカスカだった。
物流が滞っているのだろう。
この都市は火国の南の領土を主に守っている。
現在の守り主はレイリン。
火国の南はまだギリギリ安全地帯であるという話だから、ここに逃れてきた者が多いのかもしれない。
でもこれは思ったより酷いな。
寂れてて、廃れてはじめていた。
これから攻められて、戦闘に巻き込まれ、破壊される。
町全体がそんな運命を迎え入れる気配があった。
抵抗したくても、どうしようもない。
もう結果は分かっている出来事。
火国はもう終わり。
そこらじゅうで囁かれていた。
戦争末期の敗戦間際。
ここはもう、他国に飲み込まれる国なのだ。
そんな中、俺とミイとクゥは歩く。
ニボシが護衛で来ているが、姿は目視できない。
別行動で距離を取りながら、町周辺と町の中を警戒している。
純粋な戦力としては、ミイ一人で十分だが、クゥも来たいと言って聞かなかった。
「ミイ、この状況をどう見る?」
歩きながら、何気なくにミイに問いかけた。
「はい。おそらく戦争中か、敗戦後かと」
ミイは油断無くあたりを警戒しながら続ける。
「傷ついた者がたくさんおります。衛生的にも村のほうがいいかと。それに、人が多すぎるように感じます。負けて落ち延びてきたような、そんな印象を受けます。でもそれは少しおかしいのです。」
「どこがだ?」
「もしかしたら、首都が落ちたのかもしれません」
なるほど。
それほどまでに人が多すぎるか。
「首都が落ちたのならもっと人がいてもおかしくはないんじゃないか?」
「申し訳ございません。まだ推測の域です。ただ、あまりここの者たちと深くかかわらないほうがよろしいかと。争っているのであれば、その争いに巻き込まれてしまいます。」
ミイの言うことはもっともだ。
「クゥはどう思う?」
クゥは周囲へ鋭い視線を向けたまま、問いに答えた。
「主様、ここにいる者たちは、兵士も含めて妾の敵ではありません。誰一人として強者はいないようじゃ。」
いや、そういう意味で聞いたんじゃないんだが。
「クゥ、そんなことはわかりきっていることよ。ラシル様よりも強い者なんていないのだから」
いや、それも違うと思うのだが。
二人は俺の思いを無視して会話を続けた。
「ふん、それこそ当たり前のこと。妾が言いたいのはそういうことではないわ。」
「どういうこと?」
「もちろん主様も、ミイも、ニボシの部下の中で一番弱い者でさえ、この者たちを軽く全滅させることができるということじゃ」
「だから、それは当たり前の話でしょう」
「そうなのじゃ。だからじゃ。敗残兵がおるということは、この者たちの敵はこの者たちと強さがさほど変わらぬということじゃろう」
そうだ。
敵はこの火国の民たちを完全に滅しきれていない。
もし仮に敵が圧倒的に強ければ、こんな状況にはなっていない。
廃墟となっているか、建物さえも無くなり、ただの荒地になっているかのどちらかだ。
この国と敵対関係にある勢力。
その国は同じ能力で数が多いか、ここにいる火国民よりも、俺たちの感覚でいえば少し強いというくらいだろう。
そうであれば、火国は数で負けているか、戦略次元で負けているかのどちらかという事になる。
敵がそれ以上に強ければ、そもそも生きていることがないからだ。
観察で分かることもあるが、やはり直接話を聞くのが手っ取り早い。
俺たちは真っすぐ、この町で一番大きな館へと向かった。
そこにはレイリンが待っているはずだ。




