020_村の異変4 ファーストコンタクト
転移術を使って村に転移。
予想通りマウンテンウルフの群れが村を襲っている。
襲われている村の方は、少しでも視界を広げるために火を焚いて明るくしていた。
村を囲っている脆弱な柵の間から、兵士たちが槍を突き出し、一生懸命に狼を追い払っている。
ミイを連れて、村にいる一番強い相手に向かって歩き出した。
仙術を使えるようになれば、ある程度のレベルを見抜くことができる。
相手が自分より強いのか弱いのか。
自分より弱い相手のレベルであればほぼ見抜ける。
しかし、自分より強い相手になれば、強いということが分かっても、レベルまでは見抜けない。
引き締まった表情をして、大きな声で指示を出している若い女性の前に現れる。
「こんばんは」と声をかける前にそれは起こった。
ぷぉぁ―――――――――
各所で炎柱が出現した。
目の前の女の子が絶句している。
クゥのやつ、全力を出しやがって。
それでも俺はめげない。
「こんばんは」
声に女の子が我に返った。
「お前は」
女の子からの敵意。
当たり前だ。
現在進行形で敵襲があり、予想外の事態が起こり、目の前に見たことのない者。
この状況で警戒しないほうがおかしい。
「あ、その、助けに来ました」
極めて真面目に、フレンドリーに話しかけた。
「村が大変なことになっているみたいなので。俺たちは通りすがりの冒険者です」
完璧だ。
「冒険者?」
女の子は訝し気な表情をする。
しまった。
冒険者という概念はこの世界にはないのかもしれない。
しかし、それ以前に最も懸念していたことが杞憂で終わった。
言葉が通じるのだ。
理由は分からないが、これでコミュニケーションが取れる。
「ぁ、その、旅人です」
オーケー。
なんとか誤魔化せたはずだ。
でもやっぱりこの世界の常識を理解していないと厳しいな。
後ろで転移術の気配がする。
お面を顔の横に被った、可愛らしい巫女装束の女の子が転移門から出てきた。
クゥだった。
クゥは急いで俺の横へと駆け寄ってきた。
褒めてほしいと言わんばかりにキラキラとした目を輝かせている。
「ぬしさま・・!!」
クゥの口を慌ててミイが塞ぐ。
「な、転移術!!」
一瞬遅れて、女の子は転移術に驚いている。
ミイが何事かクゥに耳打ちをしている。
「ぬ、ぬ、ぬぅしさま、いや、ヌァシゴレン様、そう、ナシゴレン様!! モンスターは片付きました」
設定が狂った。
クゥが一番偉いという設定でいこうという話だったのに。
「様」付け。
そして謎のナシゴレン・・・・。
失敗だ。
俺は天を仰いだ。
「もういいよ。設定はナシでいこう」
俺はミイに耳打ちをした。
何故か顔を赤くさせミイが小さく頷き、「後は私が」と言って前に出て説明する。
「こちらにおわすのは、我らが主人である」
俺は少し胸を張った。
どうしていいかわからない時は、堂々とするのが一番。
目の前の少女が片膝をつく。
「転移術を扱えるのは、この仙人界に多くはありません。その方の主人ともあれば、名のある方とお見受けします」
そしてミイが一通り説明をした。
近くに住んでいること。
住んでいることにしなければこれからの話の辻褄が合わせられないということで、現時点で旅人の設定を廃止し、方針転換。
散策していたところ、たまたま通りかかり、モンスターの気配がした。
なので村へ寄ってみた。
そうしたら村がモンスターに襲われている。
自分たちで倒せそうだったのでモンスターを片付けた。
「誠に、ありがとございます」
女の子はそう言って深くお辞儀をした。
その後、俺たちはこの村で一番立派な建物の中へ入り、村の置かれている状況を詳しく聞くことになった。
ここまでは順調。
テーブルを挟んで真ん中に俺、ミイ、クゥの三人。後ろに護衛が数人。
相手は女の子を真ん中にして、左に初老の男性、、右に20代くらいの比較的若い男性。
俺は17歳の時の姿だし、ミイは18、クゥは幼女である。
圧倒的にこちらが若い。そして怪しい。
それでも相手は狼を駆逐してくれた俺たちに敬意を払ってか、上座を譲ってくれた。
「この度は本当にありがとうございました。私は火国の道士、レイリンと申します」
レイリンと名乗った女の子は深々と頭を下げ、それに追従して両脇に座っているレイリンの部下の男たちも感謝の言葉を述べ、頭を下げた。
「あなたたち、いえ、あなた様方はいったい。護衛の者でさえ、私よりも位が上のように見受けられます」
レイリンの国の、最も位が高い国王でさえ、道士。
仙人種には、低い順から道士、真人、仙人、大仙人、神仙というランクがある。
純粋な力でも、真人は道士の2倍。仙人は真人の2倍、というふうに仙力が倍々となるシステムになっている。
そしてラシル達はみんな最低でも仙人の域に達していたのだ。
「俺たちは最近この辺りに住むようになったのです。身の上の話は今はあまり詳しくお話しすることができませんが、この村の状況を教えていただけますか?」
「これは、大変失礼いたしました」とレイリンは恐縮そうに謝罪し、状況を説明した。
山脈よりも北側、森よりも西側に仙人界という領域がある。
仙人界の中にはたくさんの国があり、レイリンが所属している集団も、その国の中の一つである火国という国家体なのだそうだ。
火国はこの辺り一帯を領地にしている。
現在近隣諸国と戦争中であり、劣勢である。
多くの町や村が奪われ、現在ここから北にある町、それよりも更に北にある首都、その周辺の村以外は敵の手に落ちている。
比較的安全な火南都市の守護を任されていたが、狼による襲撃が頻発して被害が大きくなっている村の救援に来た。
二週間ほど前から着任し、今いるこの村を含め、現在近隣の3つの村を狼の襲撃から防衛している。
狼がなぜ村を襲撃してくるのかは不明であるが、おそらくエサとなる食料を求めてのことだろうと推測している。
しかし、草原に出現する狼と異なり、山脈をねぐらにする狼はレベルが高くて知能も高い。
山脈の狼は進化の種を使って進化した兵士でなければ、その相手は厳しい。
どの村が襲われるかわからずに3つの村に戦力を分散させている。
そして道士はレイリン一人しかいない。
「なるほど」
「拙い説明で申し訳ございません」
「いえいえ、状況は分かりました。一つ訂正させてください」
「なんでしょうか」
レイリンが可愛く首を傾げた。
気品というか、品性がある。若くして女性でここの指揮官ということもあるのだから、きっと有能なのだろう。
もしかしたら高貴な生まれなのかもしれない。
ラシルはそう思ったが、口に出すのは憚られた。
「狼が村を襲っているのは、食料が目的ではありません」
「それはどういうことでしょうか」
「狼は何者かの術式によって操られていたことが分かっています」
レイリンは驚き、両脇に座っている男たちも表情を硬くした。
「そしてその何者を我々は捕らえることに成功しました」
「なんと!!」
左に座っていた初老の男が驚いて立ち上がった。
「バイウン、客人殿に失礼ですよ」
レイリンが窘めたバイウンと呼ばれた初老の男は頭を下げで座る。
「道士レベルが5名。どうやら水の術を使うのが得意な者のようです」
「失礼。その、それは本当なのでしょうか?」
レイリンの右に座っていた若い男が初めて口を挟んだ。
「ええ、本当です。狼たちに水の術式を混ぜ込んだエサを与え、操っていたようです。その者たちは全員捕らえました。別の場所にいた狼も含めて、操られていた狼たちもこちらで全て処分しました」
「そんな… 色々と信じられないのですが」
「レイリン様、こちらの方の技を見ましたが、見たことのないような強力なものでした。
「その者たちの処遇ですが、これからいろいろと情報を引き出そうと思います。そちらへの引き渡しなど要望されますか?」
「いえ、捕らえられたのはあなた様方です。私たちが口を挟めることではありません。それに狼たちに掛けられていた術ですが、私たちにそれを検証する術もありません」
「そうですか。では有効活用させていただきます」
捕らえた者たちを自由にしてもいいという。
そのお礼というのもおかしな話だが、俺は善意で回復薬を渡した。
回復薬はこの世界で貴重なようで、とても感謝された。
レイリン達は連日の戦闘により憔悴している様だったので、詳しい話はまた後日改めてすることにした。
もう狼たちに襲われる脅威がなくなったことで、レイリン達も火南都市に戻るという。
色々と、火国や国際情勢についての話を聞きたいと申し出ると快諾された。
「もちろんです。正式にお礼もしたいですし」
数日後に、ここから北にある火南都市にお邪魔することにした。




