019_村の異変3 村の異変
さて、どしたものか。
村が戦闘に入ろうとしている。
というか、襲われようとしている。
狼の軍勢に囲まれ、臨戦態勢。
いまにも戦闘が始まろうとしていた。
これはニボシの報告通りだった。
転移術で村へと転移してきた俺たちは、この世界で初めて見る村のありようと知的生命体の行動に興味を惹かれつつ、情勢を把握していた。
村にはマウンテンウルフの群れが押し寄せている。
その数およそ120匹。
今の俺たちでは問題にならないレベルである。
モンスターを操っていた者は既にニボシが押さえている。
5名の道士。
全員水の術式を使うようだ。
ここで問題なのが、どういうアプローチ方法でいくかだ。
1、モンスターを全滅させてから挨拶。
2、全滅させる前に挨拶。
3、倒しながら挨拶
「妾は1がいいと思うのじゃ」
戦闘大好きっ娘だけに、まずは敵の殲滅を優先させるという思考である。
「主様の強さと偉大さを愚か者どもに見せつけた後に登場したほうが、主様の恰好の良さが伝わるというものよ」
ふむ。それをカッコいいというのはクゥの主観が多分に入ってる。
苦戦しながらも奮戦している勢力に対して、敵対者を壊滅させるというのは、カッコいいというより恐怖が勝ると思う。
怖がられるほうが強いと思うので却下。
「私は2ですね」
ミイは理知的に説明する。
「先に通してしまうと、誰が倒したかわからないではないですか。まず私がこれから倒しますよと宣言してからのほうがいいと思います」
とても手順を踏んだやり方であるというのは認めよう。
しかし、怖くないか。
「あら、困っているんですね、では私が全て滅しましょう」と言って実行する。
これでは神か何かかと思ってしまうのではないだろうか。
自分たちができないことをする人間というのは怖い。
その恐怖をどう薄めるかが大事なのだが、それを煽り立ててどうするというのだ。
という訳で3で行く。
全滅させてからでは遅いし、その前に挨拶とかちょっと不気味すぎるし。
たまたま通りかかった冒険者が倒しましたよ。お力添えをしましたよという体でいく。
はっはっは。
どうだ。
とても自然だろう。
打合せは済んだ。
では行動開始。
その少し前のこと。
俺たちはどんどん強くなっていた。
毎日決まった時間に起き、レベリングをして、決まった時間に寝るという、とても規則正しい生活を送っていた。
レベリングという行為は、本来であれば厳しい修行や特訓のはずなのだが、俺たちは嬉々としてモンスター狩りを続けていた。
強くなることに必要と喜びを感じ、それに邁進していた。
洞窟に潜り、ドラゴン退治に勤しみ、毎晩のステータスの変化を楽しみ、検討し、もっと強くなりたいという気持ちを膨らませた。
草原や森のモンスターはほぼいなくなったのに、洞窟のモンスターだけ数の減りが少ない。
それは一つの特異点であり、考察しなければならないことであったが、目下、レベリングのほうが重要であった。
モンスターがいるなら倒せばいい。
もっと湧いてくるならもっと倒せばいい。
そんな思考で俺たちはどんどんやったのだ。
配下のレベリングにも力を入れるため、パーティを変更した。
俺、ミイ、クゥ、ショウ、ニボシをリーダーとした組を作り、それぞれ下に5名ずつ付けてレベリングをしたのだ。
我々指導者の元、数日で瞬く間に配下のレベルが上がり、最も低い者で真人に到達。仙人も数名出てきた。
俺たちのレベルも上がり、幹部全員が仙人種レベル100を突破。
もう少しで大仙人レベルに到達しようとしていた。
もちろん幹部全員転移術を使えるようになってたいた。
青仙桃で真人になっていた俺たちは、仙人種レベル40に到達し、黄仙桃で仙人へとランクアップ。
それに伴って使用できる仙力もアップ。強大な力を得た。
ノウハウを知っている俺たちは、重力属性と空間属性を進化統合させ、転移術が可能となった。
もちろんこれは知識がないと術として成り立たない。
俺たちはもうすでにゲーム世界で使っていて、その概念や使い方も知っているのだ。
仙人進化により禁城の設備を一部復旧した。
元いた世界でいうところの、電気設備が復活。
念願のお風呂に入ることができるようになったのだ。
長かった。
ここまで来るのに。
本当に大変だった。
楽しかったけど。
小規模ではあるが、拠点のバリアを張ったりもできる。
ただ、禁城の全面運営は仙人の次の進化系である大仙人まで待ちたいところである。
レベル80以上で真人に到達したものは、レベリングの他に仕事も与えた。
土属性の仙術で近隣に畑を耕す。
仙術で土を盛り上げ、混ぜて攪拌させる。
同時に仙術で土の栄養分も増やす。
木属性の仙術で耕された土地に食物の種を植え、発芽させる。
更に仙術を込めると成長が早まる。
その後、水属性の仙術で水分を与える。
短時間のうちに十分に育った作物を、風属性の仙術で巻き上げるようにして収穫する。
通常の手作業や機械でするよりも、ずっと早く収穫できる。
高度な風の仙術で力を加減しながら実行するので、傷もつきにくい。
術者の集中力と技術が必要とされるが、この方法でやれば数日で食べ物が収穫できる。
とても便利なのだ。
最後に仕上げとして火属性の仙術で収穫後の蔓などを焼く。
これがいわゆる焼き畑農業になる。
更に土の養分が増すことにもなるし、土地をリセットすることができる。
とても画期的な手法だった。
他にも、火属の術式を使って料理もできるようになった。
そもそも禁城やその周辺の建物には現代日本の調理場が完備されている。
そのエネルギーは仙術や魔力で賄われているので、専用の石に仙術さえ込めれば起動するのだ。
食事が必要となり、新たに発生した需要がある。
それは食器だった。
土属性の仙術が得意な者を集め、彼らが陶器を作った。
それを焼いて食器を作らせた。
食料確保と設備の起動により、ご飯の類が充実した。
温泉も入れるようになり、みな喜んでいる。
暮らしぶりが充実するのはやはり励みにもなるのだ。
レベリングへの意欲も一層高まった。
これで大仙人までランクアップする者が出れば、禁城の完全復活も近い。
ダンジョンもかなり地下深くまで到達した。
探索範囲が広がり、より上位のモンスターの出現が確認された。
竜は戦闘レベル50程度で止まっているが、スケルトンアーミーもスケルトンパラディンやスケルトンジェネラルと言った上位個体が確認された。
この世界に来て2週間ちょっと。
俺たちは非常によく頑張った。
俺やミイがもうすぐレベル120の大仙人の大台に到達しようとしたところ、事件は起こった。
レベル100の仙人に到達したニボシとその配下に、夜の斥候を命じたのだ。
これで24時間の監視体制が構築できると思った矢先。
村に異変が起こったのは夜の斥候を命じた初日だった。
優秀なニボシは村の監視と同時に、マウンテンウルフの監視も継続して行っていた。
昼間は死んだように眠っていたマウンテンウルフの集団が目を覚まして村の方角へと移動を始めた。
その場には複数の術者が確認され、マウンテンウルフに何らかの術を施した模様。
このままいけば、あと10分ほどでお狼の群れが村へと到達するとのこと。
村、狼、そして術者の監視を継続させた。
村には火が焚かれ、昼間は見えなかった兵士のような恰好をした者が警戒に当たっているらしい。
狼を差し向けた術者は狼の群れの後ろから付いて行っているという。
会議を開いた。
「私は助けるべきではないと思います」
ニボシからの報告をまとめたミイが口を開いた。
ニボシは転移して来て報告した後、さらに監視を継続するように命じて戻らせた。
「妾は戦ってもよいと思うぞ」
クゥがワクワクを隠しきれていない。
クゥは戦闘が好きだから、それによって人間を助けることが嬉しいのだろう。
だって戦闘が正当化されるのだから。
「僕はもう少し様子を見たほうがいいと思います」
ショウは冷静だった。
「どうしてじゃ?」
クゥが純粋な疑問を投げかける。
「勝てる敵相手に遠慮する必要はないと思うぞ」
「私たちは今、ゲームの世界にいるわけではないのよ」
ミイが冷静に説明する。
マウンテンウルフが村を襲うとまだ確定したわけではない。
もし村を襲うとしても助ける義理などない。
それに死んだら蘇生可能かどうかも分からないのに人助けなど愚の骨頂。
まずは自分たちが力を蓄えなければならない。
助けたとして、何かに巻き込まれる。
現在判明しているだけで最低でも2つの勢力がある。
どちらに義があるのかは不明。
もし一方に肩入れした場合、こちらその争いに巻き込まれる。
争いには損害が生じるリスクがある。
相手は弱い。
しかしどのような強者がいるとも限らない。
わざわざ将来の損害を呼び込むために、こちらが出ていく必要はない。
ミイの意見はもっともである。
これがたとえゲームの世界でなくて、現実だとしても、命は尊いものだ。
命に価値があることを認めよう。
しかし、命に価値があると認めた時点で、そこには付随して、もう一つ認めなければならないことがある。
価値には、高い低いがあるということだ。
価値があるものには、必ず価値の大小が発生する。
価値の大小が発生しない、平等なものは、そもそも価値という概念など無いからだ。
俺は、俺たちの価値を一番高いと評価する。
しかし。
それでも。
情報が欲しい。
この世界に来たからには、いずれ関わらなくてはならない、避けては通れない道なのだ。
見ず知らずの者たちを助けなければという考えはなくもないが、それは優先順位が低い。
彼らを助けるならば、自分たちが犠牲になる覚悟が必要なのだ。
そんな覚悟はできない。
しかし同時に、より多くの情報を得るためには、相手と接触しなければならない。
そしてこの場合、この状況を利用するのも一つの最善手だろう。
襲われている方を助けて恩を売るのがいいのかもしれない。
そうすればこちらに協力的になり、命の恩人には情報をベラベラと喋ってくれる可能性が高い。
それに、この状況にそもそも不快感を覚える。
悪質で陰湿。
自分たちは手を汚さず、モンスターをけしかけるというのは。
戦略的にアリなのかもしれないが、好きではない。
かといって、自分たちも同じような状況ならば策を弄して色々するかもしれないが。
襲っているより、襲われている方を助けたい。
これはたぶん日本人的な考え方なのだろう。
いや、俺はただ単にバランスを取りたいだけなのかもしれない。
「助けにいこう」
俺は笑ってそう言った。
「ですが」
ミイが止める。
「これは決定事項だ」
「妾が行ってまいります」
「それであれば僕が」
クゥとショウが自分が出ると言い出す。
「俺も行く」
「ですが」
「危険はある。が、お前たちでは対処できない事態になる可能性がある」
クゥの意見は戦術的には正しい。が、戦略的には考慮する余地がある。
俺たちは詳細を詰めた。
まず、俺は前面に立たない。
皆が皆、俺に危険が及ぶことを嫌ったのだ。
ミイはその点に関しては絶対に譲らなかった。
ただのモンスターであればいい。
しかし、そこに知的生命体である人間が関与すれば、何が起きるか分からない。
どんな事態になるか分からない。
ミイの進言を取り入れ、俺は矢面に立たないことにする。
では、村の人間と接触する時はどうするのか。
クゥが一番偉いということにする。
クゥはこの禁城の拠点管理者でもあるからだ。
「交渉は俺がする。そこだけは譲れない」
以上。
出撃。
メンバーは俺、ミイ、クゥに加えてレベル道士になった者を10人ほど護衛につける。
もっと少なくても良いといったら、ミイに睨まれた。
ショウには何かあったときのためにここの守りを任せる。
「承知しました、師匠。いってらっしゃいませ」




