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011_周囲の探索7 森の壁


 エリアボスを撃破し、他の個体も片付けた。

 キングはこの世界に来て遭遇した中でも一番の難敵だった。

 倒すのが困難だったということは、比例して得るものも大きい。

 これでニボシもレベル30は固いだろう。


「みんなよく頑張った」


「頑張ったのじゃ!」

 クゥはもっと褒めて欲しいと言わんばかりに尻尾をブンブンと振っている。


ミイが胸に手を当て、俯いていた。


「どうした? ミイ」


「ラシル様がお怪我をしないかとハラハラいたしました」


「ミイ様、それはラシル様に失礼では?」

 すかさずショウがツッコミを入れる。


「あらショウ、ラシル様にもしもの事があるというのは絶対に許されない事だわ」


 愛が強い。


「ですが、ラシル様は最強なのですから、もしもの事など起こりえないのでは?」


「確かにラシル様は最強。それはみんな分かっている事なのだから、わざわざ前に出て戦わなくてもいいはずよ」


 よくわからないが、自分が争いの種になりかけている。

 なんとかフォローしなければならない。


「ミイ、ショウ」


「はい!」

 二人同時に返事をした。


「俺は最強じゃないよ。少なくとも今はミイの方が強いし」


 黙ってしまうミイとショウ。

 尻尾振りを止めたクゥとニボシは様子を見ている。


「ラシル様、私とラシル様が戦うことなどありません。すぐに自害いたしますので、結果的に私より強いラシル様が最強です」


 …………ん?


「一理あるのぉ」

「さすがミイ様」

「そうですね、そうなりますね」


 ミイの発言に対して3人は一様に納得して、もっともな意見だと頷いている。


 いや、待て。

 ちょっと待て。

 みんな納得しているようだけど、おかしいと思うのは俺だけか。

 俺が間違っているのか。


 彼らにとってのラシルというのは最強で、同時に守るべき対象なのだ。

 そんな尊い存在と戦うというのはもってのほか。

 

 うん、ロジックはわかるけど。


 最強だけど守るのか。

 なんか矛盾していないか?

 いや、していないのか。


 うん?


 自分をどう守るかを真剣に話し合い始めた3人を眺めつつ、少し真剣に考えてみる。


 誰が最初に自分の盾となって犠牲になるかの討議を始めだしたのでそれを止めさせ、先に進むと伝えた。


 出発前に抜かりなくイノシシの死体を回収。

 これはきっといい食料になる。


 奥へ行くと、木々が入り口よりも密集して生い茂り、更に薄暗くなった。


 しかし100メートルほど進んだところで、壁にぶち当たった。


 それは文字通り壁だった。

 精神的なものとか、抽象的なものではなく、強敵という意味でもない。

 物理的な壁。


 大きく切り出した石を積み上げて造られたもので、最近ではなく、ずっと昔に建造したもののようだ。

 その証拠に、所々色が変色し風化してる。

 びっしりと蔦が絡みついている箇所もある。

 石の壁はそれほど高くはないが、分厚い。

 上から見れば木々に隠れて見えないだろう。

 禁城の塔の上から見た時も見えなかった。


 その壁は、時間が経って経年劣化が始まっていても、その強度にはなんの問題もなかった。

 万里の長城を思わせるような石造りの壁。

 それは視認できる限り、左右にずっと続いている。


 木に登り壁の先に何が見えるか確認するようにクゥに命じた。

 嬉しそうに命令を受諾する返事をすると、クゥは飛び跳ねるようにして一瞬で木の上に到達した。


「壁の先に何が見える?」


「はい、主様。森が続いています」


「壁はどこまで続いている?」


「南の山脈途方面はその麓で切れてますが、北側はずっと続いています」


「他に見えるものはないか?」


「ありません」


「よし、もう降りてきていいぞ」


「はい!」


 この先にはずっと森が続いている。

 山脈方面はその麓まで壁が続いている。

 壁の向こうの森は、この森よりももっと深いようだ。

 うっすらとした気配でしか感知できないが、こちら側よりも強いモンスターが多そうだとクゥは報告した。



 俺たちは壁の近くで昼食を取りながら壁について話した。

 もちろん周囲の警戒は怠らない。


「……こういった性質の違いから、今いるこの森は、壁の向こうの森が浸食してきたものだと思うのじゃ」


 クゥの推察はこうだ。

 壁のこちら側とあちら側では森の密度が違う。

 あちら側のほうが背が高くて幹がより太い木が多く、密集している。強いモンスターの気配もする。

 この壁に薄っすらと結界が掛かっていたような気配もある。

 それはあちら側のモンスター、もしくは外敵から身を守るための壁を意味する。

 壁が造られた当初、森は壁の向こう側までで切れていた。

 気の遠くなるような長い年月をかけて、壁を越えて森がゆっくり広がってきたものだと。


 なるほど。



 しかしこの壁はなんのためにあるのだろう。

 もちろん防衛のために決まっている。

 クゥの言う通り、それしか考えられない。

 では何から守ろうとしているのか。


 壁とは何かと何かを隔てるものだ。

 この定義は元の世界でもこの世界でも、おそらくどの世界でもさして考え方は変わらないだろう。

 隔てるのは、物理的な、空間的な意味もある。

 なにより精神的な面が大きい。

 ここからは違う、別の人の領域ですよという意味合いである。

 他人の家の敷居をまたぐのと同じ感覚だ。

 よく知らない他人の家に入る時、人は精神的に緊張する。

 それは泥棒にも同じように適用される。


 とするとここから先は違う種族の領域ということか。

 人の住む家にも壁はあるし、部屋にもそれぞれ壁がある。

 個人のレベルから国家のレベルまで、誰しも入られたくない、越えられたくない一線というものがあるのだ。

 家族どうしでも同じ。

 着替えているところなど見られたくないし、裸になっているところなどもっと見られたくない。

 もちろん同じ町や村の者でももっと広い意味でそういうのは存在する。

 近代においては、プライバシーという概念が確立されているが、そういった概念が出てくる前からそういう意識はある。


 この壁の規模だと、有名なのは元の世界にあった万里の長城。

 何と何を隔てているのかは、今の時点でこれ以上は分からない。


 ではもっと構造物的な側面から考えてみよう。


 この壁は石でできている。

 結界のような力も多少であるが、働いているようだ。

 壁は分厚いが、レベルを上げれば壊せないこともないだろう。

 そして何より、この世界で初めて目にする人工構造物だ。


 人の手によって作られたものにはたくさんの情報がある。

 人工物は言うまでもなく、知的生命体が作ったものだ。

 例えば砂漠の中にスマートフォンが落ちていたとしよう。

 それは絶対に、自然に発生するものではない。

 必ず何物かが、何らかの目的を持って作ったものなのだ。

 そこから得られる情報は2つ。

 目的と、その目的を達成するための技術レベル。


 壁の目的はもちろん物理的な意味の境界線だ。

 コンクリートや核シェルターのような頑丈なものではないため、技術レベルも元の世界ほど進化しているわけではないようだ。

 ただし、仙術や魔法がある世界なので、一概に決めつけることはできない。

 別の技術が発達しているかもしれないからだ。


 また興味深いのが、この壁の規模である。

 南北に広がる壁は極めて広大で、数人とかの単位でできるものではない。

 こういった壁の結界は、仙術や魔法を使って創り出すことが可能である。

 だけどそういった手法で作った場合、このような手作り感がでている壁にならないのだ。

 もっと均一でのっぺりとした壁になる。

 様々な形状の石を同じ形に加工して作ったようにはならない。


 この壁はかなりの大人数で術式を伴わない方法で作ったということ。

 つまり、これは知的生命体の、それも大規模な集団の存在を示唆しする。

 村や町単位での話ではなく、国家と呼べるものである。

 大昔に造られたものなのだから、今もその国家体が存在するのかは断定することはできないし、断定するのは危険ではある。

 それでも、高くて頑丈な石の壁を大規模工事によって築き上げることができる、国家という組織が少なくとも過去に存在していたというのは、まず間違いないだろう。


 ではその国家に対して、別の種族、もしくは敵対するもの、脅威といったものが存在する。

 その存在を敵対関係にあるのも別の知的生命体の国と仮定すれば、まったく別の、行動様式や思想の違う国がこの森の先にあるはずだ。

 

 それを踏まえて、我々はどう行動するべきか。

 禁城の南には山、西側には森と壁。

 南と西は見事に寸断されている。



 壁は越えられないこともないが、ここでいったんこれ以上の森の踏破は終了することにした。

 禁城に戻る道すがら、レベリングをしながら戻った。


 

 レベルの泉でみんなのレベルを確認。

 俺、ミイ、クゥのレベルは40前後。

 ニボシはレベル30に到達。

 喜んで進化の種を受け取り、進化してレベルは34。

 他のギルドメンバーたちも、大隊の隊長格でもうすぐレベル30に到達しそうなものが数人。

 全員の平均レベルは15くらい。

 明日からは全員森でのレベリングを開始をしてもいい頃合だ。

 森を攻略した俺たちは別の方面へと向かうことにした。



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