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03:深海魚が空を舞う






「素晴らしい景色であろう? ここが我らのいる天界だ」


「うん、すっごく綺麗……」


「……ねぇ? どうせなら空中散歩してみたぁい! って思わない?」


「えっ、空中散歩?」


「そうよぉ。とってもステキなんだからぁ! いざ行かん、空の旅ぃ~!!」



 赤髪はそう言うと、私に向かってウインクをした。……わぁ、生まれて初めての体験だ。オネエだけど、そういう仕草は様になる。



「お゛るぁああぁっ!!!!!」



 ちょっとキュンとしてると、突風が吹き荒れた。どなた?ってぐらい赤髪が男らしい唸り声を上げて、何かを片手に振りかぶったからだ。


スローモーションのように、放たれた物体が目に映る。彼は何を血迷ったのか、勢いよくバルコニーの外へと




らいじゅうをぶん投げていた___!





「ちょっ、ええええぇぇぇぇえええっ!!?!!!?」



 ヤバい落ちる!って思ったけど、らいじゅうは空中でピタッと止まった。それどころか、その場でふよふよと浮いている。



「きゅっきゅういきゅっ!」



 らいじゅうが気合い(?)を入れると、今度はぷるぷると震え出した。むくむくと成長して、どんどん大きくなっていく。



 ______ポンポンッ!



 かなり大きくなったらいじゅうは、最終的に分裂して3匹になった。……まじらいじゅうって何者? ツワモノ?



 3人はそれぞれらいじゅうに飛び乗った。それからほぼ同時に、私に向かって手を差し伸べてくる。……え、なに急にハーレム展開?

 


「早く我の手に掴まれ」


「ほらほらぁ、一緒に行きましょうよぉ~?」


「……やめとけバカ。そっちのやつら荒いから酔うぞ」

 

「えっ……?」



 急に近づいてきた紫髪の人が、私の手をパシッと取った。それから強引にらいじゅうへと引っ張り上げる。



「うわぁっ!?」



 彼はその場に胡坐をかくと、私の腰を引き寄せて座らせた。急に密着されて、大いに焦る。少しでも距離を取ろうと身じろぎすると、さらに引き寄せられてしまった。


 ……近すぎだしなんか男らしくていい匂いするし顔熱すぎるしとにかくいろいろヤバいから!

 


「大人しく座っとけ。生身の人間が落ちたら、さすがにシャレになんねーから」


「わ、わかった………」



 さらにこれ以上、耳元で話されたらヤバすぎる。私はいい子に大人しく座っていることにした。

 




 _______ビュンッ!


 _______ビュンッ!




 黒髪と赤髪が乗るらいじゅう達は、ロケットのように滑り出していった。あっという間に急降下すると、花畑近くを真っ直ぐに進んでいく。彼らの作った追い風が、弾けるように花びらを舞い上がらせている。


 私たちが乗ったらいじゅうは、その後を追うようにゆっくりと降下していった。カラフルな花吹雪の道は、まるで結婚式のライスシャワーみたいだ。


 ここの花々は、どれだけ咲いていてもあまりきつい香りはない。むしろ華やかで安らぎを与えてくれるような、微かな香りを放っている。



「………あ」



 遠くの方で、2人のらいじゅうが宙返りしたのが見えた。


 ……あのスピードで宙返りとは恐ろしい。しかも立ち乗りだし。どうやら随分自由に乗り回せるようになっているらしい。

 一方こちらは、自転車に乗ってるぐらいの速さだ。ふらつきもしないから、恐怖心も出ないし酔うこともない。


 ___もしかして、かなり手加減してくれてる?



「……何」


「ううん、なんでもない……。あ、ごめんやっぱうそ」


「あ?」



 私は、彼の髪に手を伸ばした。くるくるの髪に付いてた、ピンクの花びらをつまむと彼に見せる。さっきのライスシャワーもどきで、引っかかったみたいだ。



「ほら、花びら付いてたよ」


「…………………………そりゃどーも」



 彼は一瞬面食らった顔をして、その後視線を逸らした。わかりづらいけど、どことなく頬と耳朶が赤い気がする。……なんだこのめっかわ感は。ぼそっとだけど、ちゃんとお礼言ってくれるし。それにささやかな仕返しも出来たようで何よりだ。



 らいじゅうは、そのまま森の中へと入っていった。きらきらと差し込んだ木漏れ日の空間は、新緑の匂いに満たされている。

木々の合間をぬって飛んでいくと、りすや小鳥などの小動物が様子を窺うように顔を出す。絵本やおとぎ話の世界みたいだ。



 森を抜けると、らいじゅうは空へと向かっていく。



「いい眺め!」



上空から見下ろすと、山がなくて緩やかな丘が続いているのがわかる。ピンクの塊は桜かもしれない。

森の緑や鮮やかな花の色は、もう言葉では言い表せないぐらい圧倒的に綺麗だ。



エメラルドグリーンの湖へ近づくと、少しずつ降下していった。透き通った水は、眩しいぐらいに光を反射して輝いている。遠くの方に、喉を潤しに何頭かの鹿がやってきているみたいだ。


 先に飛んで行った2人が、湖のほとりに立っているのが見える。どうやら私たちの到着を待ってくれていたらしい。



「空の旅はどうだったかしらぁ~?」


「すっごく楽しかった!」


「あらぁ! なぁんて素直で可愛い感想なのぉ~!?」



 らいじゅうから降りようとしてた私を、彼は満面の笑みでがばっと勢いよく抱きしめた。そのまま軽々と、彼の片腕に乗せるように抱き上げられる。ムッキムキのボディは、見掛け倒しではなかったらしい。



「うわっ、ちょっとぉっ!!?!」



 ……逞しいのはわかったけどやめてほしい! 慌てていると、黒髪が声をかけてくれた。くくくっと笑っている表情は、穏やかで優しい。



「降ろしてやれ。我らが姫君は困惑しておられる」


「あらぁ? ウチのお姫様はずいぶん照れ屋さんなのねぇ」


「ひ、姫君とかお姫様って……。恥ずかしいから普通に名前で呼んでよ」



 ……こうやって子供みたいに抱き上げられるのも恥ずかしい。だけどその呼び方はもっと恥ずかしすぎるから!



「ほう、ならば衣乃里(いのり)と呼ばさせてもらおう」

 

「うん……って、え? そういえば名前言ってたっけ?」


「そなたのことはもう粗方知っている。__何せ我らは”神”だからな」


「……その格好で?」




 ……思わず突っ込んでしまった。


確かにここが天国っていうのは、信じていいのかなって思う。神様とか天使がいてもおかしくないのかもしれない。だけど繋ぎの作業着っていうのが、どうも信じる要素をかき消している。


 赤髪から降りた私は、疑問を抱きつつ神々と向き合った。




「左様。我らは、いずれも雷を司る雷神である」


「そうそう! そんでもってこの格好はぁ、あれこれ動くのに丁度いいからなのよぉ」

 

「ふむ、しかし迂闊であったな。いまだ我らの事を話してはおらぬかったとは」


「俺ら完全に不審者じゃん」


「シィ~! いいからアンタは黙ってなさいよぉっ!」






 黒髪は微笑みながら、自分の胸に手を当て会釈した。美しいこの人にふさわしい所作だ。



「我が名は鳴神(なるかみ)。この赤頭がトール、もう一人の男がトラロックである。以後、お見知りおきを」




「うふふ。堅っ苦しい名前ばっかりだから、アナタの好きなように呼んでちょうだいね」


「ふうん、わかった」



 ……好きなように呼んでいいなら、そうさせてもらうことにする。特にトラロックだなんて、言いにくくてしょうがない。



「トールをトオルちゃんで、トラロックをトラさんって呼ぶ」


「あらぁ、親しみがあっていいじゃなぁい!」


「……俺渋くね? なんか柴又の人みてーじゃん」



 トラさんは気に入らないのか、ぶつぶつ何かを言っている。だけど某有名な主人公の名前なんだからいいと思う。……ロック=氷室さんor矢沢さんっていう候補もあったけど。さすがにこのお2人から、どちらか1人は選べない。



「それじゃあ、鳴神はなんて呼ぶつもりなのかしらぁ?」


「マロ」


「「…………ん?」」



 2人とも、見事なぽかん顔になった。






「鳴神は、___マロ(・・)って呼ぶ」









「「ぎゃははははははっ!!!!!」」




 トオルちゃんもトラさんも大爆笑だ。2人とも涙目になってる。……笑うとかヒドイ。これにはちゃんと意味があるのに。



「ダッセェー!!! 俺の方がまだマシじゃん!」


「なっ、なんでよりにもよってマロなのよぅ!?」


 

 もしかして本人も嫌だったりする? そう思って鳴神の顔を窺うと、彼は嫌がるどころか朗らかに笑っている。




「______気に入った!」



「「…………は?」」





「そなたは現代の若いおなごにしては、なかなかに情緒があるではないか。気に入った! これからは我を”マロ”と呼ぶがいい!!」



「「はあぁぁぁぁああ!?!!?!」」

 




 ……どうやらマロには意図が伝わったらしい。さすが角生えてるだけはある!

 感心してると、急に膝ががくっとなって視界がぶれた。空が見えたと思ったら、マロの金色の瞳と目が合う。___あれ、デジャヴ?



「これ以上の話は、部署へと戻ってからにするとしよう。衣乃里よ、帰路は私と共に行くぞ」


「はぁっ!? えっちょっと待ってっ!! 無理無理無理無理あのスピードとかまじ無理だからぁっ!!!」


「遠慮するではない」




「そーゆーことじゃないからぁぁぁあああぎゃああぁぁぁぁあっ!!?!?!」





 高らかなマロの笑い声と私の断末魔の叫び声が、不協和音のこだまとなって天界に響き渡った。





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