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02:光を求めてどこまでも



__________________

_____________

______






「……ぎゃあああぁあああっ!!!」






 眩しさから一転、今度は身体が落ちていく。絶叫マシンの天辺から落下するときの、あの内臓が宙に浮くような感覚に襲われている。だけどそれは、一瞬の出来事に過ぎなかった。



 _______ドンッ!



 全身に強い衝撃が走る。首が後ろへ逸れて、ぐぎっと不穏な音がした。加えて危うく舌を噛みそうになる。



「……っ、うぅ………痛ったぁ」



 首に手を当てながら、ぎゅっと瞑っていた目を開けた。今さっき強烈な光を見たせいか、まだ世界が真っ白に見える。


 ……そういえば、毛玉がめっちゃ光ってた。目玉が光るとかまじ恐怖でしかない。あれは間違いなく夢に出る。


 それから、あの落ちる感覚は何だったんだろう? 道路が陥没しちゃったとか? その割には何かが壊れるような音はしなかった。身体だって別に怪我とかしてるわけじゃない。首は一瞬もげたかと思ったけど、ちゃんと付いている。それに何だかここは、さっきの街中の喧騒が嘘みたいに静かな場所だ。


 あれこれと考えているうちに、だんだんと身体のこわばりだけは解けていく。すると、力強く私の身体を支えるぬくもりに気付いた。


 まるで誰かに、抱きしめられているような。……ような?



「えっ?」



 焦点が定まると、金色の瞳と目が合った。真っ白になった思考回路は、とりあえずとばかりに分析を開始する。


 歌舞伎にでも出ようものなら売れそうだなと、彼を見た瞬間に思った。何故なら日本人の最高級パーツを選別したのかと、勘ぐってしまうような顔だからだ。……おでこ辺りに4本の角が生えていることが、だいぶ気になるところではあるけれど。

 切れ長の目元には、つけまじゃないばっさばさの睫毛。艶々で背中まであるストレートの黒髪は、サイドを残して一つに結んである。絶妙な高さの鼻筋。ほんの少しだけ厚さのある薄紅の唇は、大人の色気っていうやつか。


 

 ____そして私は今、そんな彼にお姫様抱っこをされている。





「……え、えええぇぇぇぇぇえええっ!?!?!!?」


「ふむ、なかなかに元気のよい娘だな」



 驚いている私を見ながら、感心したように彼は何度か頷いた。そしてゆっくりと優しく、ソファーへと座らせてくれる。

 その時彼の髪が、私の頬を少しだけかすめた。私もショートカットだけど、彼と同じストレートの黒髪だ。だけど非常に悔しいけど、あちらの方がお手入れの結果が著しい。……羨ましい、CM出たらいいのに。

 だけど一つだけ、彼には悪いけど残念だと思ったことがある。



 ____なんで、その繋ぎの作業着選んだの? 



 しかもどういうわけか、彼はド派手な黄色をチョイス。あまりの眩しさに、周りにいる人の目が悪くなりそうだ。顔に光が反射して、写メとかプリは綺麗映えしそうだけど。

 その胸元には【TC⚡︎事業推進部】と黒で刺繍されている。もしかすると、仕事服なのかもしれない。よく見ると、厚みがあって堅そうな黒い靴を履いている。



「雷獣よ。彼女の報告と経歴を映し出せ」


「きゅっ!」



 あのコの本名”らいじゅう”っていうのか。見かけによらず男前な名前してる。らいじゅう、ライジュー、……頼銃? あれなんか急にスナイパー感出てきた。



 あれこれ漢字を当てはめているうちに、黒髪は隣の一人掛けソファに座った。ふんぞり返って頬杖をついている様子は、なかなか偉い人に見える。……これならビジュアル系バンドの衣装の方が似合いそう。

 らいじゅうは私が座ってる横に飛び乗ると、黒髪に向き合った。するとまた、どんぐり眼が発光し始める。



 そして今度は全身発光しないで、目からビームが出た____!



「えぇえっ!!!?!」



 まさかのスナイパー正解!? って思ったけど、彼にそのビームは当たらなかった。目の前で止まって変形したからだ。

 ビームは30センチぐらいの四角い窓ガラスみたいになって、文字みたいのが浮かび上がっている。……まじ何その未来感。SF映画? 少し不思議どころの騒ぎじゃない。



「ゴメンなさいねぇ、大変だったでしょお~?」


「えっ?」



 急に向かいから声が聞こえて、慌ててそっちに視線を向ける。どうやらここは、どこかの応接室みたいだ。テーブルを挟んだ向かいにもソファーが置かれている。そこには気付かなかったけど、2人の外国人男性が座っていた。彼らもあの、ド派手な黄色い繋ぎの作業服を着ている。



 1人は褐色の肌をした、エキゾチックとでも言うような顔立ちだ。垂れ目の二重で、瞳は宝石みたいな緑色。髪はくるくるしてて濃い紫色をしている。作業着の下には白のパーカーを着て、足元は黒の編み上げブーツ。見た目は私と同じぐらいの年齢っぽい。

 

 もう1人は、ムッキムキでかなり大きい人。作業服が何だかはち切れそうだ。髪は燃えるような赤色をしていて、撫でつけるようにオールバックにしている。対象的に、瞳の色は静かな海のような深い青色。ヨーローパ系の彫が深い顔立ちで、30代ぐらいに見える。

 さっき私に声をかけてきたのは、どうやら色々ド派手なこの人らしい。彼は頬に手を当てて困り顔をしている。



「雷獣ちゃんはお話できないものねぇ。急にすっ飛ばされて、アナタ驚いたんじゃなぁい?」


「……はぁ、まぁ……」



 ____あなたのキャラにも驚きましたが。




 襟とかポケットについてるのがフリルに見えたのは、私の錯覚じゃないらしい。


 ……もういろいろ起こりすぎて、何がなんだか分からない。だけど人間は驚きを通り過ぎると、もはや冷静になるんだろうか。それとも単純に、頭の整理が追い付いていないからなのか。

 とりあえず私は、今までの出来事を振り返ってみることにした。



毛玉を追いかける

毛玉が発光

どこかに転落

オネエに話しかけられる。




 あれ、これはもしかして……?










「私、地獄に落ちたっぽい……?」


「「はぁ?」」



 目の前の2人が、同時に呆れたような声を出した。

 確かに地獄にしては、私ぐっつぐつに煮込まれたりしてない。地獄なんて一度も行ったことないから、ただのイメージだけど。



「お前バカか? 何でよりにもよって地獄だなんて思うんだよ」


「ホントよねぇ、失礼しちゃうわぁ~」



 くくくっと、私の右側から笑い声が聞こえだした。いつの間にか、らいじゅうビームは終わっていたらしい。らいじゅうはペタンと伏せて、まんまるが半球ぐらいになっている。

 黒髪は寄り掛かっていた身体を起こすと、ゆったりとした口調で話し始めた。



「どういう発想をしたかはわからんが、ここは地獄ではなく天界だ」


「えっ………てんかい?」


「天国にある世界で、天界とでも言えばわかるか?」


「てんごく……って、天国!? 私死んだってこと!?」



 いくら学校が窮屈に感じていたからといって、さすがに死にたいとは思ってなかった。それなりに友達もいるし、楽しかったこともある。17歳で終わりだなんて、いくらなんでも早すぎる。

 私が絶望的な顔をしていると、黒髪は苦笑しながら首を横に振った。



「いや、そなたは死んでなどおらん。我々が強制的に天界へと呼び寄せたのだ。少々、頼み事をしたくてな」


「…………」



 ……なんか胡散臭い話になってきた。急に頭が冷静になってくる。と言うことは、さっきまでの私はそれなりに動揺してたらしい。

 よく考えたら、この人たちは知らない赤の他人だ。いくらここまで来るのに不思議な体験をしたとはいえ、言ってること全部信じるのはどうかと思う。



 私は本当に生きているの?


 ここが天界っていう証拠は?


 頼み事って何させるつもり?


 そもそもこの人たちは何者?









「……あぁん、もぉっ!」


 ぐるぐると考えを巡らせていると、赤髪が急に声を上げた。彼は人差し指を頬に当てて、黒髪に向けて首をかしげる。



「いきなり交渉だなんてアンタ野暮ねぇ。とりあえず堅っ苦しいお話は後にしてぇ、天界を案内するっていうのはどうかしら?」


「賛成。どうせお前が黙ってるってことは、コイツで決まりなんだろうし」


「……さすがだな、よくわかっている。それならば、さっそく出かけるとしよう」



 3人とも立ち上がると、大きな窓辺に向かって歩き出した。らいじゅうもソファから飛び降りると、そのあとに続いていく。綺麗な花模様が描かれたその窓を開けると、広めのバルコニーが現れた。






 柔らかい日差しが、部屋に広がっていく。


 それから一呼吸置いて、穏やかな風が私の髪を掬うように撫でた。それは花のように甘い香りと、葉擦れの音も運んでくる。


 懐かしい、と思った。心が満たされるような、この不思議な感覚を。





「どうした? 早くこちらへ来い」


「…………うん」


 誘われるままに、私は立ち上がった。眩しさに目を細めながら、バルコニーへと足を踏み入れる。それから柵に両手を乗せて、景色全体を見回した。



「わぁっ………!」






 そこには隔てる建物が一切ない、広大で豊かな自然と花畑で彩られていた。赤、青、白、紫、黄など咲き誇る花々は、まさに百花繚乱。

 広がる空は、どこまでもどこまでも青く澄み渡っている。



 ____……あぁ、思い出した。これって、春が来た感覚だ。毎年来るのに、どうしていつも忘れちゃうんだろう。






 自然が全力で春の訪れを満喫している。窓の外は、綺麗で優しい光に包まれていた。






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