No.1
ふわりと思考が上昇する。
目を開けると大きな窓から
優しい光が差し込んでいる。
私は、昨日は仕事から帰ってきて…。
帰ってきて?そのあとはどうしたっけ?
お酒を飲んで…?覚えてないな、そのまま寝たんだろうな。
あっ、化粧そのまま…?やばいやばい
そんなまとまらない思考でベットから降りて
顔を洗おうと思い歩き出す。
そんなとき、視界の端に白くふわりとした物が見え自然と目線を向けると、
「えっ…?なに、これ。」
そこにあったのは鏡。
そう、彼女が目にしたのは、太陽に照らされきらきらと光る美しい白髪と紺青の瞳の綺麗な女性。
呆然として自分の頬にてを触れる。
鏡に写った彼女も頬にてを触れる。
自分だ、これは自分だ。
ぼやけた思考がはっきりとする。
そう、そうだ。
"私"はヘーゼル公爵家の一人娘
ヘーゼル・シャロン
目を見張り思わず床に座り込んでしまう。
「あっ、あ、私は…?」
刹那、部屋のドアをノックされて
メイド服を着た女性が入ってくる。
「お嬢様お目覚めで…!お嬢様!」
驚いた声をあげ、すぐに私の体を支えてくれる。
「お嬢様、大丈夫ですか…?お顔色が優れない様子ですが…。」
「あ、ぁ。えぇ。そうね、少し気が動転してしまって…。」
そう言うとメイドの彼女の顔が一瞬歪む。
「しょうがないです、あんなことがあったのですもの。」
「…?」
あんな、こと…?
まだ私はなにかを忘れている?
まって、そう言えばこの今の私の顔。
私は、"彼女"を"知っている"
そう考えたとき、記憶が鮮明によみがえる。
広い華やかなホール
冷やかで不快感でまみれた視線
そんな中心で自分の婚約者であろう人物と
怯えた表情でその彼に肩を抱かれている薄い桃色の髪の愛らしい女の子と婚約者の取り巻き…そして顔を歪めそれを見つめている。
「わっ私っ!ずっと怖くて!」
怯えた彼女が声をあげる。
その声に呼応したように辺りから「酷い」「最低」「やっちまえ!」なんて
私を責める声が聞こえる。
「大丈夫だ、アリス。俺が守ってやる。」
そして彼は彼女を自分に引き寄せた。
何を見せられているんだろうか。
見透かすかのように、彼が声を出す。
「ふん、何がなんだか分からないと言ったところだな?こんなときにも表情の変わらない」
冷酷女め
「そう、ですか。」
声を発したことにより皆が息を飲み
静まり返る。
「やっと声を発したと思ったらそれか!」
「謝罪の一言もないの?」
取り巻きが声をあげる。
「…何も、何もありませんわ。」
「なっ、何もないだと!」
顔を赤くして叫ぶ。肩を抱かれている彼女は、彼の服をぎゅっと掴みそしてそれに答える彼。
あぁ、そう。そうね。
「…殿下おめでとうございます。とだけ。」
「おめでとう、だと?」
「そうですわ。」
そうして美しい淑女の礼を見せた。
「それでは、ごきげんよう。」
そうしてホールの大きなドアへしずしずと歩みを進める。
後ろで「待て!話は済んでないぞ!」と聞こえるが無視をしてドアを開け出ていく。
そんなシーンが頭のなかで再生される。
そうだ、これは私が、"彼女"ではない"私"がかなり昔に遊んでいたゲーム、"キミに贈るセレナーデ"と言うファンタジー物の乙ゲーその物だ、と思う。
本当に記憶が曖昧すぎて確証は無いけど。
王道もののぬるげーだったはず。色々と好みじゃないから直ぐ飽きた記憶がある…。キャラとスチルはよかった、良かったんだよ…。
と、ちょっと待って、今断罪イベントを思い出して、メイドのあの発言…。
もしかして、もう、これすべてが終わってるんじゃ…私ライバル令嬢…?
えっ、よくある、このままじゃ私断罪されちゃう!回避しなきゃ!的なあれ…?えっ、終わってる…。断罪済み…?
確かこのゲームだとそのあと学園から姿を消して、その後は誰も知らない…?って言うとても適当なあれだった気がする。
プレイ当時はまあ、そんなもんかなって思ったけど、よくよく考えると適当すぎる!設定練れよ!
「お、お嬢様?」
暫く、黙っていたせいだろうか、メイドが話しかけてきた。
「あ、ごめんなさい。考え事をしていたわ…。」
「それならば、良いのですが…。此処のところ何もお喋りにならず、皆心配しておりましたから…。」
思わずめを見張った。
断罪と言う事件があったにも関わらず、
私は自分の家で過ごしていると言う時実にだ。
「やはりどこか具合が…?」
「そうね。起きたばかりだから少しぼんやりしているのかもしれないわね。」
そう言ってメイドに支えてもらいながら立ち上がり、レースカーテンをふわりと払い除ける。
ほわりとした日差しが心地よい。
「"サリー"今日はお外でお散歩でもしたいわ。」
そう言えば彼女は悲しそうに顔を歪ませる。
「お嬢様…。申し訳ございません。それは出来ないのです。」
「そう…。しょうがないわね。…それじゃ、サンルームでお茶が飲みたいわ…?良いかしら?」
「!畏まりました!とびっきり美味しいお紅茶とお菓子を用意いたします!」
そう言ってメイドのサリーはくしゃりとした笑顔で答えてくれた。
きっとこの時の私は、とても情けない顔をしていたに違いない。




