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√トゥルース -007 バレット村



 ラバに乗り、バレット村へと伸びる小道~~~と言うのも憚れる細道~~~をゆっくりと進む俺たち。

 ほぼ週に二度、町まで買い出しに村人が通るから、迷わない程度には道の体を成してはいる。しかし結構な量の石がゴロゴロしていて、足場はすこぶる悪い。そんな心許ない細い上り道であるのと、ラバに積めるだけ食材を積んでいるのでスピードは上げられない。


 ったく、頬をぶたれたシャイニーは災難だったな。でも通り掛かっただけでこの騒ぎだ、この先が思いやられる。バレット村に行くには今後もあの町を通る必要がある。ベテラン勢は別のルートを通っているみたいだけど、一体どこを通ってきているのかサッパリだ。会ったら聞き出してみよう。


「ねぇ、ルー君。本当にこの道で良いんだよね?ウチ、こっちの方には来た事が無いから...」

「ああ、この道で大丈夫。ほら、見えてきただろ?あれが村の入り口の門だ」


 後ろを振り返っていたシャイニーに、前を指差して見るよう促す。それは結構遠くからも視認出来る、とても大きくて立派な門だった。


「す、凄い...」


 本当に道なのか疑いながら進んだ先に突然姿を現す巨大な門。その立派さは門の前に立てば、より迫力を増す。ハッキリ言って装飾を含め城門クラスの造りだ。

 口を開けて見上げるシャイニーを余所に、ミールから降りた俺は門の脇にある詰め所へと行く。



「...帰ってきたのか、トゥルース」

「ええ。でも用が終れば"直ぐに出ていきます"よ。中に入れて貰えますか?」

「...お前は良いが、あの女は入れられないぞ?」

「ええ。直ぐに済ませてくるので構いません。厩舎で休ませても良いですよね?」


 未だ門を見上げるシャイニーに使って良い厩舎を教え、ちょっと行ってくると声を掛けて門の中に入る。


「...まさか初っ端から女連れとはな。偉くなったもんだ」

「彼女はそんなんじゃないですよ。只の旅仲間です」


 シャイニーもここまで連れてきたのは、あの町に留ませる訳にもいかないし、食材を運ぶにはシャイニーの言う事しか聞かないラバで運ぶ必要があったからだ。とは言え、たったこれだけのやり取りでこの様だ。滞在する気が失せたので、石を仕入れ終わったら直ぐに出よう。

 門番にブツブツと嫌味を言われつつ、中に入ると門から一番近い家屋へと向かう。そこが俺の実家である。我が家は村で採れる商材を販売する、謂わばこの村の窓口役なので、この位置取りだ。



 バレット村の特産品、それは世界でここでしか採れない宝石の原石である。


 レッドナイトブルー


 それは日中は赤く見え、陽が暮れると青く見える変色石であり、世界三大変色石のひとつでもある。

 バレット村出身者にしか卸さないという事もあり、流通する量は非常に少ない。自ずと稀少性が出て価値が上がる。これは産出量が少なく一般の者にも売るとなると供給が追い付かなくなったり、あっという間に採り尽くされ兼ねないからだ。なので、石の発掘から販売、警備まで村人だけで行っている。宝石としての価値で見てもすこぶる高い物なのだ。




「ただいま」

「...トゥルースか。ちょっと待ってろ」


 チラッとこちらを見た後、そう言って商談中の相手に視線を戻すのはターフネイト・バレット、俺の父さんだ。口数は少なく、仕事に真面目な人である。

 って、あれ?この商談中の人の後ろ姿は...


「師匠?」

「おう、トゥルース。久し振りだな。元気だったか?」


 大きな背中を向けていたその人物が、俺の声に振り返って声を掛けてくる。

 彼はターラー・バレット。俺の叔父で、師匠でもある。村の中で孤立していた俺に、身を守る為のレクチャーを帰ってくる度に施してくれた。お陰で王都へ行く途中、盗賊に襲われ掛けたのを、エスピーヌの商隊の護衛だったサフランたちと撃退出来たのだ。


「はいっ!おかげさまで!」

「その格好...もしかして、行商に...王都に行ってきたのか?」

「はい。行って帰るのに、二ヶ月掛かりました」

「...そう、か。おれは運が良かったみたいだ。それにしても二ヶ月で往復って事は、全く寄り道しなかったのか、それとも馬とかの足を手に入れたのか?」


 流石師匠。中々鋭い問い掛けだ。


「行く途中で馬車に乗せて貰ったのと、あちらで馬とロバの掛け合わせのラバを安く譲って貰いました」

「ほう...ラバか。また珍しいものを。で?そのラバは?表にはいなさそうだが?」

「門の外で見て貰ってます。あ、そうだ。父さん、連れがいるんだけど、門の中に入れさせて貰っても良いかな?」

「...駄目だ。村の決まりは守って貰う」

「そうか...仕方ないな。じゃあ食材を沢山持ってきたから、誰か取りに行かせて欲しいんだけど」

「...分かった、手配しよう。お~い!門まで誰かを荷物の受け取りに行かせてくれ!それとオジキを!」


 父さんが奥に大きな声でそう言うと、は~い!と懐かしい声が帰ってきた。元気そうだな、母さん。

 それにしても相変わらず余所者には厳しい。門の外にいるシャイニーは入れて貰えそうにないな。

 その後師匠は大きな石を選んで何か書類にサインし、商談を終えた。


「トゥルース、今夜は泊まっていくんだろ?久し振りに稽古を付けてやろう」

「う~ん。付けて貰いたいのは山々だけど、連れが中に入れて貰えないから今日中にある程度山を下りて泊まれる所を探さないと」

「あぁ、やめとけやめとけ。もうじき雨が降るぞ。雨の中を下りれると思うか?」


 げ。雨が?

 山の上のこの辺りは雨の降り方が読み難い上、かなりの量が降る事が多いのだ。そんな中、山を下りていこうとすれば、下手すれば簡単に遭難してしまう。


「雨、か...師匠、どの程度降りそうか分かりますか?」

「そうだな、何となくしっかりと降りそうな気がする。さっき見た空の様子だと、もしかしたら雷を伴って荒れるかもな。気付かなかったのか?」

「ええっ!?じゃあ簡易の雨避けじゃ全く役に立たない?いや、もし大荒れならただじゃ済まないぞ?父さん、門の中が駄目なら厩舎なら良い?隅っこで良いから!」


 山の天気は荒れやすい。甘く見ると手痛いしっぺ返しが待っている。

 特にこの地は近くに国境となっている険しくて高い山脈が連なっており、風向きひとつで一気に天候が急変するのだ。


「おいおい。外の厩舎じゃ風が吹き込むから、荒れたら役に立たないぞ?なあ兄貴。条件付きで入れてやったらどうだ?ほら、緊急時の例外事項に当たるだろ。それにオッチャンも直ぐに来るだろうから相談できるだろ?」

「...そう簡単には許可は出んぞ?それよりトゥルース。石を仕入れに来たんじゃないのか?」

「...むう、トゥルースじゃったか。意外や早よう帰ってきたの。元気じゃったかの?」


 仕事を優先しようとする父さんだったが、そこに立派な髭を蓄えた年配の男性が入って来た。

 この村の村長、カルバーテ・バレットだ。


オジキ(カルバーテ)、トゥルースが帰って来たから、アレを決めたい」

「そうじゃの、ターフ(ターフネイト)。村の決まりじゃしの。トゥルースよ、初めての行商の旅の事に付いて色々と聞かせて貰うぞ?」


 父さんと村長が揃って俺に詰め寄る横で、師匠がやっぱりな、という顔をする。一体何を決めるんだ?

 それから主に行商で得た石の売却額を聞き出された俺。旅の内容というよりは、餞別代りに渡された石がいくらで売ったのかの方が重要なようだ。村を出発する際の俺の見積もりでは、全部売って600~800万ウォルかな?と思っていたのが、最終的には1500万を超えた上、ラバ二頭を格安で手に入れる事が出来た。


「思ってたより高く売れたな。残らず全部売ったのか?」

「いや、売り易そうな屑石をほんの少し残してる。ええっと、これだけだね」


 そう言って石の入った袋を取り出す。

 二人はそれを見て、まぁ誤差の範囲だな、と顔を見合して議論を始める。一体何を?そう首を捻っていると、様子を見ていた師匠が話し掛けてきた。


「この二人が高く売れたって言うくらいだから、結構頑張って交渉したのか、それとも良い商会に当たったのか...トゥルース、一体何処で売ったんだ?」

「ああ、それはザール商会って所で。王都に行く途中でザール商会の商隊の人たちと出会って、あれよあれよという間に...」

「ザール商会って、あの?もしかして王都の本店まで行ったのか?」

「はい、王宮の目の前の。そこの商会長さんに良くして貰って」

「ほう、そうか。そうそう、アガペーネの姉ちゃんは元気にしてたか?」

「え?アガペーネさん?勿論元気でしたよ?商会長ってあの人の事ですよ」

「何?そうか。あの姉ちゃんが今も商会長か。見る見ると大きくなっていったから、別の人に代わったのかと思ったが...立派になったものだな」

「師匠、アガペーネさんを知ってたんですね」

「おう、おれも初めての行商であの姉ちゃんに色々と世話になったぞ?夜も含めて、な。あの時におれも女を知ったんだよな」


 うっしっしっ!とニヤける師匠。おおう、突然生々しい話になったぞ?

 王都に本店を構えるザール商会は国内随一の商会で、国外にも進出している大きな商会だ。その商会の商会長であるアガペーネには持っていた石を纏めて高値で買い取って貰った。が、アガペーネにはある意味厄介な呪いが掛かっていた。関わった若い男に色目を掛けてくるのだ。過去には何人もの新人店員や客が餌食になったそうだ。


「もしかして、トゥルースも世話になった口か?ん?どうなんだ?」

「い、いや、俺は言い寄られはしたけど、周りの人たちに助けられて何もされてません」

「な~んだ、じゃあまだ童貞なのか?折角だから世話になっときゃ良かったのにな。何を隠そう、兄貴も世話に...」「おいっ!ターラー!」


 うわぁ。下な話、それも親の話は聞きたくなかったなぁ。ってか、みんなザール商会に世話になってたのか。

 と考えていたら、ドアがバンッと勢いよく開いた。


「あ~な~た~?何を世話になったって~?」

「うっ!マーシャ...な、何でもない!何でもないからなっ!」

「...そう、何でもないのぉ。ターラー(くぅん)?」

「ひっ!ひゃい!!」

「何の話だったか教えてくれるわよねぇ?」

「そっ!それはっ!!」


 入って来たのは俺の母さん、マーシャマーシェ・バレット。どうやら外から帰って来る際に先程の会話が耳に入ってしまったようだ。こぇ~。

 って、あれ?その後ろから...シャイニー!?


「な、何でニーが村の中に!?」

「あら、ルース(トゥルース)。久し振りに会ったのに、あたしには挨拶は無し?」

「か、母さん...ただいま。元気そうで」

「ん、おかえり。でも、それは後。先に解決しとかないといけない事があるわ。 あ、な、た?」

「ひっ!!」


 この後、修羅場を目にしたとか何とか...くわばらくわばら。





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