√真実 -035 舞う男
本日4話目です。
よろしくお願いします。
「えっ!?おまーりさん!?」
リーダーの男の警棒を持った腕を捻り上げていたのは師範の兄の昭一さん、(俺の中で)通称おまーりさんだ。そうか、道場の人たちと一緒に来ていたのか。私服姿を見て理解した。仕事中ならこの人は制服の筈。
「おい、ぼうっとしてるなよ。逃げられるじゃねぇか」
「えっ?あっ!!」
拘束していなかった下っ端二人が、分が悪いと見るや逃げ出す。
しかし、立ちはだかる人たちがいた。
「あら。私たちの可愛い弟弟子に手を出しておいて、そんな簡単に逃げられると思ってるの?」
「な、なんだよ、姉ちゃんたちは!怪我したくなかったら引っ込んでな!!」
「そういう訳にはいかないわ。あんた達はやり過ぎたのよ。大人しく捕まりなさい」
えっ!?道場のお姉さんたち!?ちょっ!危ないって!!
下っ端男達がお構いなくお姉さん方を無視して通り抜けようとする。が、一人目は腕を掴まれ捩じられたかと思ったら、そのまま振り回され足を引っかけられて倒された。更にもう一人が倒れた男の上に下駄で乗っかった。あらま、浴衣姿でなんてはしたない。見物客の男性たちの一部がそれを見てデレッとする。更に一部から、ご褒美じゃないか!代われ!と言う者まで現れた。何言ってんだ?あいつら。
二人目の男がそれを見て激高し、あろう事かお姉さん方に殴り掛かった...が、その場に崩れ落ちた。股間を押さえて。脇にいたお姉さんが蹴りを入れたのだ。股間に。大半の男性客たちが股間を押さえていた。俺も思わず股間を押さえてしまった。
「うわ~、気持ち悪~い。思わず蹴っちゃったけど、大丈夫よね?正当防衛よね?だってか弱い女性に手を上げてきたんだも~ん」
男性客たちから、どこがか弱いって?と疑問の声と、女性客たちからは、カッコ良~い!お姉さま~♥と黄色い声が聞こえてきた。
「何か嫌な感触が残りそう」
「後からみんなで飲みに行こう!」
「そうよ!飲んで忘れなさい!」
「よ~し、今夜は飲み明かすぞ~!」
「どっかに良い男はいないの~?」
「良い女が一緒だから良いじゃん!」
「そうそう。中学生が襲われてるのに助けに入らない男なんて大した事はない!」
「そうね~。でも串焼きを手に威嚇していたオッチャンはちょっと良かったかも♪」
「あ。串焼き食べたくなっちゃった。オッチャン、串焼き一本、いや、二本ちょうだい」
「あ、私も~。私も二本ね~」
あは、あはははは。流石はお姉さん方。流石は姉弟子たちだ。
下っ端の男二人の腕を俺が引き受けて通りに出ると、見物客たちから拍手が沸き上がった。え?ナニコレ?恥ずかしいんですケド!
しかし、その見物人の中に意外な人物を見付けた。あの俺を虐めていた三人組と、いつも一緒にツルんでいる女子三人組だ。六人ともポカンと口を開けて俺を見ている。うわぁ、変な所を見られたな。男は男同士、女は女同士で固まっている所を見ると、ここまでカップルで来ている奴をおちょくりに来ていたのだろうか。少なくとも世間で言うダブルデート、トリプルデートとは何か違うような印象を受けた。
そうだ、光輝は?お姉さん方に聞いても、自分たちはおまーりさんの後を追っかけてきたから一緒じゃなかったと言う。無事...だよね?おまーりさんの方を見ると、通りの先を見てニヤリとした。わ。何か悪い事企んでないか?
「って、ああっ!!」
何とおまーりさんが、あろう事か掴んでいたリーダーの男の腕を離してしまった!ちょっ!何してんの!!
これはラッキーとばかりに男が逃げ出すが、何故かおまーりさんは慌てず、あ、放しちゃった...とすっとぼけて声を上げた。
「みんな~、危ないから避けろ~!お~い、欣二ぃ!そいつ捕まえろ~!」
えっ!?師範!?
男が逃げた先には、師範と身重の瑞穂、おまーりさんの奥さんの優真さんと息子の翔真、それにミサと光輝の六人がいた。そして男に気付いた瑞穂が声を上げる。
「あっ!キンちゃん!あの男よ!あの男がわたしを襲おうとしてマー君をボコったのよ!」
「なぁにぃぃぃぃぃぃ!!あの男がミーちゃんを襲おうとぉぉぉぉぉ!!」
瞬間湯沸かし器よろしく、それまで軽く目がつり上がっていた師範の顔が真っ赤に染まる。赤鬼だ!赤鬼が出たぞ!赤鬼が周囲の者たちに声を掛け、離れさせた。いや、声を掛ける前にみんな離れてたけどな。
「ミサ君、光輝君。よく見ていろよ?実戦的な投げ技は...」
邪魔だ!どきやがれ!と、男が師範を払おうとしたところを、その腕を掴んで投げる。
「こう!!そして!トドメは...」
流石にアスファルトの上だ、派手に宙に舞った男だったが、腰や頭を打ちつけないよう配慮はしている。が、その後は熾烈だった。
「こうだっ!!!」
男が倒れたのと同時に自分も中に舞い、男の鳩尾に肘鉄を、ほぼ全体重を乗っけて打ち込んだ。うわぁ...師範、男たちが身重の瑞穂を襲ったのを相当怒ってたからな。それにしてもあれ、いろんな意味で無事なのか?過剰防衛にならないのか?
その様子を見ていた俺の拘束している下っ端の男二人が、へなへなとその場にへたり込んだ。自分たちもアレを受けるのではないかと思ったようだ。
「おい!!刑事課の!!いるんだろ!?どこだ!!男たちを現行犯で確保したぞ!!」
おまーりさんが周囲に向けて叫ぶと、少し離れたところからネクタイ姿のスキンヘッドな、見た目ヤバそうな四人程が駆けてきた。あ、あの人、病室に聞き取りに来てた人だ。更にその後ろから例のハイテクプリンタを持ってた女刑事も追って来ていた。
「す、済みません、非番なのに。尾行の途中で見失ってて探してました。あ、君は飛弾君?また君が?」
何か、またでスミマセン。何で謝ってるんだ?俺は。拘束していた二人を刑事さんたちに引き渡す。また後日、調書を書かされるんだろうな。女刑事さん、よろしく手加減お願いします。
「真実くん!!」
「よくみんなを呼んできてくれたな。少し危なかったけど、助かったよ。光輝のお陰だ」
ホッとした途端、駆け寄ってきた光輝に飛び付かれた。俺の胸の中で嗚咽を漏らす光輝を抱き寄せて頭を撫でる。ちょっと注目を浴びてる気がするんだけど、今は何より光輝を誉めてあげたい。
「坊主、怪我はしてないだろうな?」
「うん。大丈夫だよ、おまーりさん。まともには受けてないからね」
「そうか。流石に三人とも警棒を手にしていたのを見た時は肝を冷やしたぞ」
「...それで終わり?昭一。負傷者一名を出してんのよ?ちゃんと確認なさいよ!」
「何!?それは本当か?優真。誰が怪我を?酷い怪我なのか?」
「光輝ちゃんよ!乙女の繊細な細指に擦り傷を作って...ホントあいつらどうしてくれよう!」
って、えっ!?光輝が怪我を!?自分の事でイッパイだった!
「ちょっ!光輝!?怪我って...」
「うっぐ。大丈夫...手当てして貰ったし...大した事はないから」
「...見せてみ?光輝」
少し躊躇した光輝が、おずおずと手のひらを差し出す。両手とも絆創膏だらけだった。俺はその手を両手で包み込む。
「いつの間に...痛かったろ。本当によく頑張ったんだな。偉いぞ、光輝」
「いや、これは...ウチが転びそうになって手を突いただけで...」
そんなのは関係ない。浴衣で走り難いのに、それでも走らせた俺のせいだ。もう一度抱き寄せると、ありがとう、本当にありがとうと声を掛けた。
刑事が周囲に神社で何か被害に遭った人はいないか聞いて回ったところ、二組の中学生カップルが名乗り出ていた。一組はこの学区の。もう一組はうちの学校のらしかったけど、チラッと聞いた名前に覚えはないから気にしない事にした。
後日聞いた話によると、市内の痴漢がお盆を境に極端に減ったそうだ。へー。何か対策でもしたのかなー。(棒読み
「どうして?いや、いつの間に?真実君...」
「あら、ミサはまだ諦めてなかったの?あんた、マー君と六つも歳が違うんだからいい加減諦めなさいよ。少なくともマー君はミサの事は嫌ってはないけど、出来のあまり良くないお姉さんくらいにしか思ってないと思うわよ?」
「そんなぁぁぁ~。瑞穂先輩~」
「ま、結構前からこうなるかもって思っていたけどね」
「ええっ!?そんなぁぁぁ。先輩ぃぃぃ~」
「ミサ、あんしんしろ。ぼくがいるからさ。ぼくがけっこんしてあげるから」
「コラ、翔ちゃん。ミサお姉さんでしょ?」
「なんでー?ミサはぼくのカノジョだからミサでいいんだよー?それよりさっきのオッチャン、すごかったなー、バァーンって。こうクルッとしてバァーンって。とんでたよね?ぴょーんって!」
翔真が一人興奮した様子で騒いでいた。ここだけ異空間のようだった。
第二部 完
第三部に続く
カスブレ第二部を長らくお読みいただき、ありがとうございました。
続きは
カースブレイカー ~俺の夢は夢なんかじゃない! なんて事はないよな?~ (第三部 少年飛躍編 旧Bi-World) にてどうぞ。
これからもよろしくお願いします。




