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√真実 -034 ピンチ

本日3話目です。

よろしくお願いします。




「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、あっ!」


 屋台の並ぶ通りを一人、カラカラと下駄の音を響かせて注目を浴びながら走っていると、歩き慣れてさえいない下駄の先が路面に引っ掛かり躓きそうになって、慌てて手を突く。派手に転ばなかったのは良かったけど、変に目立っちゃった。でもっ!今はそれどころじゃないの!

 この周りの人たちに助けを求めれば良さそうに思ったけど、必ずしも助けてくれるとは限らないし、説明する時間も勿体無い。なら、事情を知っている道場の人たちに助けを求めた方が良い。近くにいれば良いんだけど...早く見付けて助けに行かないと、また真実くんが怪我をしちゃう!急いで立ち上がったところで声を掛けられた。あっ!いた!!


「あら、光輝ちゃん?どうしたの?そんなに慌てて」

「よ、陽子さん!真実くんが!真実くんがまた怪我をしちゃう!あの人たちが!」

「えっ!?ちょっと、落ち着いて?光輝ちゃん、何があったの?」

「神社にあの人たちが!瑞穂さんを襲おうとした人たちが!今、真実くんが一人で足止めしててっ!」


 そうウチが口にするや、一人が駆け出した!あれは!?

 それと同時にその神社の方で悲鳴のような声が聞こえて徐々に騒がしくなった。


「聞き捨てらんないわね...私たちも行きましょう!」


 すると、話を聞いていたらしい常連のお姉さんたちも駆け出した。えっ!?えっ!?途端に置き去りにされちゃった!


「あなたが光輝ちゃん?前の話は聞いてるわ。よく知らせてくれたわね。偉い偉い」


 ぽかんとしていると、スッと横に立った浴衣姿の綺麗な女性に声を掛けられ頭を撫でられた。ふぇ!?


「えっ!?あ、あの...」

「あ~ごめん、ごめん。あたしは今走ってったあの人の妻の優真(ゆま)よ。初めましてだね、よろしくね。あら、光輝ちゃん、手を怪我しているじゃない。救護テントに行きましょうか。あっちはうちの旦那たちに任せておけば良いから。この先でうちの子が欣二君たちと金魚すくいで引っ掛かっているから、手当てして合流しましょ?」

「で、でもっ!真実くんが!」

「あの子なら大丈夫よ。一度はそいつらを投げ飛ばしてるんでしょ?欣二君の指導はそんなヤワじゃないわ。それにうちの旦那が向かったんだから安心なさい。あたしは旦那を信じてるわ。だからあなたも好きな人を信じてあげなさい。それより今はその手の手当てよ。傷まみれの手で真実君を迎えちゃ、余計に心配させちゃうわ。直ぐそこだし、ね?」


 ...好きな人を信じる。ウチは真実くんを心配するあまり、真実くんを信じる事が出来なくなっていた?今、ウチが戻ったとしても何も出来ないどころか足を引っ張るかも知れない。なら、ウチは真実くんを信じてここに留まる方が良いのかも。ウチは優真さんの言う通り、手当てを受けに後ろ髪を引かれながら歩き出した。

 ...好きな人って///何で分かっちゃったの!?







「のわっ!」「どわっ!ってて。くそっ!何してん...どわっ!!」


 向かってくる一番前に出ていた男の腕を取り、勢いを利用してぐるっと回し、リーダーの男に向けて手を離す。ぶつかった二人は足がもつれていた最初の男に重なる様に倒れた。加えてもう一人もよそ見をした隙を突いてその二人の方に回し投げる。男三人のサンドウィッチの出来上がりだ、おぇ~。

 てかさ、このリーダーの男、他の二人が足を引っ張ってるって気付かないのかな?たぶん自分の言う事を聞く便利な兵隊だと思ってるお山の大将なんだろうけどさ。そのお山が庭先に作った観賞用の小さなお山だって気付いてないのかな?自分の命令に対してアラホラサッサーとか言われて天狗になってるんじゃ?


「おめぇら邪魔だ!どけっ!!」


 わわっ。やっと気付きやがったか?

 二人を突き飛ばしたリーダーの男は、腰から一本の棒を取り出して手に握ると一振り。ジャコンッと鈍い音と共にその黒光りする棒が伸びた。げっ!凶器かよ!しかもあの音は金属製だ。


「もう容赦しねぇ...足腰立たなくなるまでボコってやるからなぁ。覚悟しろぉ!?」


 これだけ暗くても目が血走っているのが分かる。やべぇ。ちょっと馬鹿にし過ぎたか?二人の男も突き飛ばされた事に対して非難しつつも、やべぇよと少し引いている。良かったよ、俺だけが今の状況を非常に不味いと思っている訳じゃなくて。

 ここは距離を取るべきか?それとも...既に光輝は神社の敷地を出ている。このまま俺も逃げても良いけど、こいつをこのままお祭りの真っ只中に放り込んでしまうと他の人にも危険が及ぶ。それはよろしくない。それに、何とか俺一人で耐えれば近くには道場の連中がいる筈だ。うまい事、光輝が師範を見つけ出してくれれば、師範が駆け付けてくれる。頼むぞ、光輝!

 ...師範ってこういう時、何故かタイミング悪かったような...近くにいながら、そういった場に出くわさないというか...頼むよ?師範。


 俺が躊躇していると、目の血走った男が警棒?を振り上げて俺に襲い掛かる。考えている場合じゃない!こいつが相手ならちゃんと目で追える筈!俺は逆に詰め寄って警棒の柄の部分を掴み取り、そのまま引っ張り込んで背に担ぐと投げ飛ばした。巧い事、背負い投げの様な形になったのだ。

 ガハッと男が息を吐く。が、砂利の上なのであまりダメージにはなっていないだろう。現に直ぐに立ち上がった。


「おめぇら、何してやがる!おめぇらもやらねえか!」

「「えっ!?」」


 えっ!?こいつらもあの警棒みたいなのを持っているのか!!

 言われた二人は躊躇しつつ、鈍く黒光りする棒を取り出すと、同じようにジャコンッとそれを伸ばした。やっべぇ!一人ならまだしも、三人がかりじゃこっちが不利に決まっている。漸くこの騒ぎに気が付いたのか、神社の外から女の人の悲鳴やら男の怒号やらが聞こえてくるが、流石に危ないからと中に入って来る事はない。ちょっ、誰か、(ホウキ)とかでも良いから持って参戦してくれないか!?一人で、それも素手でなんてどうしようもなく不利に決まってるじゃんか!

 二人の男も命令されて覚悟を決めたのか、棒を構える。そこはアラホイサッサーっていう返事はしなくて良いんだからっ!拒否すればいいんだからっ!


 ジリジリと詰め寄って来る男たちから距離を保ちつつ、奥へ行くのは危険だと判断した俺は、師範たちがいるであろう屋台の並ぶ通りに逃げ出す事も視野に神社の入口の方へと後退りする。すると通りにいた見物客たちも危険を感じたのか一斉に入口から離れていく。

 いや、屋台のオッチャンよ、威嚇するのは頼もしいけどさ、オッチャンが手に持っているのは串焼きだぞ?そっちのオッチャンは猟銃に見えるけど、それ的屋の空気銃だろ?お菓子の小箱すら倒すのがやっとじゃなかったか?


 女の人の悲鳴に視線を戻すと、男の一人が俺に向けて棒を振り上げていた。くっ!遅いとは言え、当たればただじゃ済まない。身体を捻ってそれをやり過ごし、次に襲い掛かってくる男の手首に手刀を当てる。三人目はリーダーの男だ。ヤバい、こいつは他の二人よりスピードが早い!体勢的に足しか対応できないからと振り下ろされる腕に蹴りで応戦する。当然男の腕を狙ってだ。

 が、勢いを殺すのがやっとだった。男の持つ棒が俺の顔を掠った。くっ!今のはヤバかった!こいつ、俺の頭を狙ってるぞ!!二人目の男が棒を取り零していたので、実質二人を相手にすれば良いのは救いだ。


 攻めるならここだろうけど、師範には自分から攻撃するのは禁じられている。いや、もうそんな事を言っている場合ではないのは分かる。リーダーの男は明らかに俺を仕留めようと動いているのだから。

 再度振り上げられた棒に、俺も覚悟を決めて構えた。また下っ端の方から攻撃してくるようだ。それはそうだろう、リーダーの男からでは避けられてしまえば下っ端が俺をどうにか出来るとは思ってないのだろう。だから下っ端はあくまで囮扱いだ。振り下ろされる警棒に、再度俺は距離を詰めて柄を押さえて反対の腕で下っ端男の鳩尾に肘鉄を見舞う。次に素手で襲い掛かってきた男の脇腹に蹴りを入れる。体勢が悪いから大したダメージにはならないだろうけど、時間稼ぎにはなる。

 が、俺の動きが止まってしまった!これでは格好の的だ!棒を振り上げたリーダーの男がニヤリとするのが見えた。やられる!!


 ガッ!!


 しかし、覚悟した俺を襲う衝撃はいつまで経っても来なかった。代わりに聞き覚えのある声が掛かった。


「詰めが甘いな、坊主。が、まあ上出来か。よく耐えたな」






本日複数話を投下中。

まだ投下予定です。


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