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√トゥルース -005 出会った切っ掛け?



「おはようございます」

「...おはよう」


 俺とシャイニーが起きて、泊めてくれた食堂のおばさんに挨拶をすると、何か言いたげな顔で返事を返された。


「あなたたち、結婚はしてないのよね?」


 ああ、やっぱり。寝ている俺たちの様子をこっそりと見たんだろう。

 若い男女がくっついて寝ているだなんて、余程の仲でなければ有り得ないだろう。しかし俺たちは只の旅仲間である。そう答えるが、やはり簡単には信じて貰えない。


「俺は最初、当然別々に寝るものだと思っていたんだけど、ニーが一緒に寝れば雨避けがひとつで済むからと言ってきたんです」


 勿論この二ヶ月、何の間違いも起こってない事を付け足す。そしてこれから先も何も無いだろう、と。


「ルー君はとても良い人だから。信じられる人だからっ!でなければ付いていきませんっ!」


 いや、シャイニーさんや。どうしてそう言い切れるんだ?俺ってそこまで良い人じゃないと思うんだけど...

 今まで間違いが起こらなかったのは、二人とも寝具に入ると直ぐに寝てしまうという、ある種の呪いとも言えるものが原因でもある。もしそれがなければ、いよいよ俺も自信はないのだ。実際、くっついてくるシャイニーの温もりや柔らかさが心地よくも感じているのだから。

 てか、シャイニーは俺に対してちょっと油断しすぎじゃね?



「ウチ、以前にルー君に会ってるの」

「...え?」


 俺が以前にシャイニーに会ってるだって?覚えがないんだけど。


「一年くらい前に買い出しの荷物持ちとして連れ出された時に...八百屋の前で沢山のお芋を持たされて、その重さにふらついてお芋を落としてしまったの」


 一緒に行っていた孤児院の職員に、グズ!のろま!と罵られ蹴られながら落とした新ジャガを拾おうとした時に、同じく八百屋に連れられてきた俺がその芋を残さず拾った上、八百屋のおばちゃんに別の袋を貰って手ぶらだった職員に持つよう押し付けたと。


 そういやぁ、そんな事があったような気がする。

 だんだん思い出してきたぞ?確かあのオバサン、支払いが終わった後にそのまま手ぶらで帰ろうとしてるのを見てたから、すっげぇムカついたんだよな。顔が隠れるくらいの大きな袋を小さくて細い子に持たせておいて、自分は手ぶらだなんて。その上罵倒し蹴りつけるだなんて、奴隷を認めていないこの王国では有り得ない事だ。八百屋のおばちゃんも顔を顰めてその様子を見ていたので、俺が袋を要求すると快く出してくれた上、そのオバサンに苦言を呈してくれた。若い俺が言うと角が立つから、年配のおばちゃんが言ってくれて助かったものだ。

 因みに俺も、村の人と共に買い出しに来ていて同じ目に遭いそうだったけど、それが予防線になったんだよな。


 って、あれがシャイニーだったのか。顔が隠れていたから全然知らなかった。


「あの時、こんなウチにも優しくしてくれる人がいるんだって、涙が出そうになったの。その時の八百屋のおばちゃんにも、最初はウチの顔を見て良い顔はされなかったし。でもね、再会したルー君はウチの顔を見ても嫌な顔はしなかったし、追い出した孤児院の人たちを睨み付けてくれたの。その時、この人ならって...」


 そんな事があったからだったんだ。どうして俺に付いてくる気になったのか、一度は聞いて見たかったんだよな。でも、たったそれだけの事で判断するって、本当に博打だよな。その博打に勝ったのか負けたのかは、まだ結論を出すには早いだろう。


 すると、話を聞いていたおばさんが溜め息を吐く。どうやらおばさんはシャイニーの主張に折れたみたいだ。


「...はぁ、分かったわ。本当はうちでシャイニーを引き取れれば良かったんだけど...くれぐれもシャイニーを宜しくね?あ、そうだ。シャイニー、あなたを孤児院に預けていった方と今も連絡を取っているんだけど、その連絡先を教えておきましょうか?」


 その連絡を取っている人がシャイニーの親ではないようだけど、手掛かりにはなる筈だと言う。親でもない人がお金を送ってくる?そんなの親でなくとも関係者に決まってるだろう。

 手渡されたメモを二人で見ると、この国から離れた国外である帝国の住所が。何故こんなに遠くに?赤子の内に預けられたと言うから、少なくとも乳の出る母親か乳母が同行していたと思われるし、途中にも別の国があるのに...


 そんな申し出にシャイニーは戸惑う。一度捨てられた身であるので、少なくとも親に良い印象はない。しかし今まで十数年もの間、信頼出来そうなこのおばさんにお金を送って来ており、結果的に孤児院に寄付されている。


 捨てておいて寄付するという矛盾。

 単純に考えればシャイニーの顔にある火傷のような痕が原因だろう。恐らく我が子のあまりにも醜いその痕にシャイニーの両親は堪えられず捨てたのは想像に難くないが、その行動には疑問が残る。



「帝国...か。遠いな。でも...」


 それを受け取るのも躊躇っていたシャイニーの代わりに預かっても良いか、お伺いを立ててそれを受け取る。遠くはあるけど、行けなくはない。ただ、巧く立ち回らなければ、行けたとしても帰ってくる頃には資金が心許なくなっている可能性がある。そんな距離だ。

 全ては俺の立ち回り方と、扱う商材の市場価格の変動次第だろう。それと、この後に行く俺の実家で肝心の商材をどれだけ仕入れられるかに懸かってくる。状況によってはもう一度率の良さそうな所で売って再度仕入れに戻ってくる事も考えなければいけないかも知れない。


「...誰かから情報が得られれば楽なんだけどなぁ」

「...ルー君、もしかしてそこに行こうとしてない?」


 どうやらシャイニーは俺の考えている事が分かったみたいだけど、あまり乗り気じゃないみたいだな。でも...


「なぁ、ニー。別に無理に会わせようって訳じゃないんだ。どんな人なのか、それにどうしてこんな手掛かりを残したのか。知りたくないか?」


 それにこの王国では、俺の商材は直ぐに飽和状態になって値崩れしかねない。ここまで来る間に色々と考えたけど、同じ国ばかりにバラ撒いてちゃ駄目だと思い至った。王国を出なくちゃ。それにこの大陸一の規模を誇る帝国なら多くのバレット村出身の売人が入り込んでいたとしても、余剰供給は有り得ない位の市場規模が見込まれるし、距離があるから王国で売るより高く売れるだろう。全ては俺の予想だけど、行って損はしないと思う。


「...ルー君。ウチはルー君から離れる気はないから。もしウチの親が見付かっても、ウチ会うつもりもないし」

「...いや、そこまで親を毛嫌いしなくても...って、俺が言えた義理でもないけどな。ま、帝国ならラバでも行ける距離だろうし、それなりの売り上げも見込めるからな。そのついでだ、気楽にしてれば良いし、もしニーの気が変わったら、その時はその時さ」


 そんな俺たちのやり取りを見てか、おばさんの顔が少し緩んだ。どうやら俺を認めてくれたようだ。

 さて、じゃあ行くとしよう。





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