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√トゥルース -037 王都再び-2 (商会の三階)



 夕方の王都中心部は賑やかだった。仕事帰りの男たちに、それをもてなそうと買い物から帰るご婦人、外食へと出掛ける様子の男女...まるで田舎のお祭りの時の様な喧騒だが、これが王都中心部の日常だ。

 そんな中、俺たちは再びザール商会の本店へと足を運んでいた。目的はフェマの衣服。


「おい、坊。これはどういう事じゃ?おい、坊?坊ーーー!!」


 暫くの間、お婆さんと田舎暮らしをしていたせいなのか、着ている服はどことなく古めかしい色合いの物で...あれってお婆さんのお古を仕立て直したんじゃね?

 なので二階にある服売場に強制連行して放り込んだ。見覚えのある売り場のお姉さん方がわらわらと集まり何着もの服を試着室前に並べている様は既視感(デジャヴ)を感じるが、気のせいでは無いだろう。身に覚えのあるシャイニーは離れたところでプルプルと震えていた。おおう、トラウマになっちまってたか。でも今日はサフランがいないからまだマシだと思うぞ。


 先程、入口の案内で聞いたのだが、常務兼商隊長のエスピーヌと護衛のサフランは共に買い付けの旅に出ており、商会長のアガペーネは夏の長期休みで療養地へと行っているらしい。ちょっとガッカリだけど、突然の訪問&僅か一ヶ月ちょっとだったからな。仕方ない。その代わり、売り場のお姉さんたちが張り切ってフェマを着せ替え人形と化していた。予算と枚数だけ伝え、シャイニーと三階へと向かった。そこには俺もここでしか見た事のない大きさのレッドナイトブルー(・・・・・・・・・)が展示されているのだ。前回来た時はシャイニーは今のフェマと同じく着せ替え人形化していたので目にはしていなかったから、一度それを見せようと思っての事だ。

 果たして、シャイニーは目を丸くする。流石にその大きさは目を(みは)るものがあるようだ。暫くして我に返ったシャイニーは周囲に人がいないのを確認してから胸元に隠している首飾りを取り出すと、それと見比べた。


「これ、同じ石なのよね?形も違うし大きさも...それに少し色合いも違うのかな?」

「ああ、そりゃそうさ。俺が作った方は元々は規格外で売り物にならなくてその辺に転がってた石が元だし、そっちのは王族向けに仕立てられた物らしいし」


 そもそも石を研いだのは素人の俺なのだ、圧倒的に形が見劣りする。いや、見比べちゃ駄目だ。あれは王族級向けの超高級品、俺のは元はゴミ扱い...あはははは。


「ほう、するとそれは自作なされたと...」


 突如俺たちの後ろから声が掛けられて、二人ともビクッとなった。振り返るときちっとした格好の老齢の男の人。売り場の人?と首を傾げていると、その人は自己紹介をするが、やっぱりそうだった。それもこの売り場の責任者。

 あれぇ?ついさっきシャイニーが誰もいない事を確認してたのに。


「ふぉっふぉっふぉ。これはこれは、驚かせてしまいましたか。申し訳ありません。ひと月程前にもその石を見られておいででしたよね。その日にレッドナイトブルーが入荷したと伺ってましたので、もしやと思いましてお声を掛けさせていただきました」


 ...何か恥ずかしい。あの時も今も、ずっと見られていたなんてな。シャイニーは首飾りを胸元にしまおうかどうか迷って、俺とその責任者を交互に見やっていた。まぁ、今更隠したって仕方ないな。

 俺はシャイニーに首飾りを見せてやるよう頼むと、観念したのかシャイニーは首飾りをはずして俺に手渡した。う~ん、また人見知りを発症しているな。昨夜から今朝に掛けて官権の詰所でも極端に口数が少なく、俺の後ろに隠れていた。牧場では見知った人且つ人の良さそうなオジサンばかりだったからか、平気だったのにな。

 受け取った首飾りを責任者に手渡すと、責任者はそれをじっくりと見てもう一度唸った。


「むぅ。石の等級は低いし、仕上がりも荒削りではありますが、地方の宝石店に並んでいる物と比べても遜色なく出来ています。寧ろ流行とは違った形をしていて目を惹きますな。本当にこれをお一人で?」


 ...あの~。これ、俺が子供の頃から暇な時間にお遊びで作った物なんですが?勿論鎖は小遣いを注ぎ込んで師匠から分けて貰った物。村の女性からの要望で若者向けの意匠の物を仕入れて来たけど、思ってた物と違うからと買い取りを拒否された物を安く分けて貰った...事になっている。

 よく考えれば村の為だけに高額な鎖を仕入れてくる筈も、それを損をしてまで売る筈もないのだ。師匠は元々石と鎖を揃いで売る為に大量に仕入れていたのだ。でなければ、丁度良さそうな台座がポンと出てくる筈がないし、そもそも俺に損売りする事もない。薄利にはなったかも知れないけど、師匠はちゃんと儲けてはいるんだ。俺も見習わなくては。


「いえいえ、職人程の道具は持っておられないのでしょう?それでこの仕上がりは大したものです。中にはご自分で仕上げようと原石で買われて行かれるお客様も見えますが、大半が途中で挫折し、残りの方も大した加工は出来ずに原石の形を活かす方向性で仕上げてみえますね」


 成る程、形を整えずに原石の形のまま磨き込む手法か。特に原石でも値の張る変色石では大きさを優先してそのように仕上げる事もあるけど、あれって石の等級が良くないと夜の()があまり発色が良くないんだよね。特に月光じゃなく火の灯りだと。加工費をケチるなら石にお金を掛けないと。

 俺もこの石の等級は底辺だと分かっているので、こうして長い時間を掛けて磨き込んだんだ。職人なら専用の切断工具を使う所をひたすら削り込んで...


「成る程、愛情を込めて加工されたんですね?道理でこれだけの仕上がり...恐れ入ります。職人に最後の磨きを施して貰えば更に良くなるでしょうね。あ、今はうちですと何日か預からせていただく事になります。持ち込まれた石の仕上げが徐々に溜まってきてますので」


 いや、磨きはやって欲しいけど何日も足止めは...それにしても愛情を込めてってwwwいや、俺、そんな事考えてはいなかったからなwww俺ならこうしてこうだ!って凝ってはいたけどwww


「愛情を...込めて...?」


 手渡された首飾りをシャイニーに返すと、シャイニーが何やらブツブツと首飾りをじっくりと見て呟く。あれ?シャイニー?お~い、シャイニーさぁん?そんな素人作品じゃなく、直ぐ隣にある特上の石を見て慣れておいて欲しいんですが?


 ひと月前に持ち込んだ石は、小さな屑石は既に装飾品へと姿を変えて並び始めていると言う。展示棚を見れば他の首飾りや指輪でも値の張る物の方寄りにそれらが並んでいた。小さいのに立派な値段だ。値段の差は大きさと夜の色の発色具合なのだろう、小さくても良い値の物もチラホラと見られる。大きな石は貴族連中からの注文制作をしている最中だと言う。それが一通り捌けてから一般向けの加工が始まるそうだ。じゃぁ、今店先に出回り始めた屑石が元の装飾品は?と思ったら、それは職人の弟子が練習を兼ねて製作しているらしい。へぇ~。


「地図...ですか?それならば一階の売り場にございますよ」


 そもそも地図すら持たずに旅に出ようとしていたのだから恥ずかしい限りだ。目的地の地名は分かってもどの方向に向かえば良いのかまるで分ってないのだから。


 二階に戻ると、すっかり可愛らしい子供候のフェマが口を尖らせて睨み付けて俺たちを出迎えた。ま、そうなるわな。でも考えてみて欲しい。今まで村から出た事がなかった俺に孤児院でお古しか着た事の無かったシャイニー。俺たちが服を選んでも碌な選び方をしないのは目に見えている。それならば専門である売り場のお姉さん方にお任せの方が良いに決まっている...という事にしておいて欲しい。実際そうなんだけど、ここの人たちに関わり過ぎると、必要の無い物まで余分に買わされる可能性も高いから。

予算オーバー分は例の木札を見せたところお釣りが出た。そうか、ここの人たちは俺たちと商会長(アガペーネ)とのやり取りは知らないから木札を見て値引きを...てか、値引いて収まる様に選んだな?怖い連中だw


 買った服の入った袋を持って一階に降りると、先ずは地図を探した。すると直ぐにも見つかる。


「あったは良いけど...結構高いな」

「でも...地図が無いと迷子になった時に大変よね?ルー君」

「何じゃ、行き先が決まっとるのか?どこじゃ」

「ああ、実はニーの親の手掛かりを探しに帝国へね」

「む?嬢の?帝国のどこじゃ?帝国と言っても広いからの。闇雲に動き回っても時間を浪費するばかりじゃぞ?」

「浪費って...難しい言葉を知ってるんだな。てか、フェマは帝国の地名が分かるのか?」

「そうじゃの、知っておる所、知らぬ所がある。一度見せてみぃ」

「...ニー、あの手紙を」

「ふむ。ふむふむ。おお、これなら知っておる。帝国の中でも北端の随分と辺境の地じゃ」


 なんと!この歳で余所の国の地がどこにあるのか知っていようとは!!どちらにせよ地図は必要だろうという事で購入して直ぐに開いた。






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