√トゥルース -035 夜盗親子-3 (夜盗たちの処遇)
「みゃ~」ぺしっ
朝、ミーアの猫パンチで目が覚める。あれ?いつの間に帰って来てたんだ?てか、よくここが分かったな。
時間はいつもより早いらしく、空が明るんできたところだった。ミーアの声で起きたのか、シャイニーやフェマももそもそと起き上がった。って、二人とも寝ぼけてるのか、はだけてるっ!
「みゃっ!?みゃーーー!!」べしっべしっ!
い、痛い、痛いよミーア。分かったから。あっち向いてるから!って、なんて人間らしい猫なんだよ!
先にサッと着替えて廊下に出ると、所長が官吏たちに何やら指示をしている所だった。いつ寝てるんだ?この人は。
「や、もうお寝覚めか。それともちょっと騒がしかったかな?」
「いえ、ちょっと猫に叩き起こされて...」
「そうそう、あの白猫は君たちの猫かい?いや、お手柄だったよ」
「...は?お手柄?」
「ああ。昨夜、君たちが就寝した直後に、例の逃げていた女が捕まってね。居場所を捜索に当たらせてた官吏を導いたそうだ」
はぁぁぁぁあああ!?なんだってぇぇぇ!?確かにミーアは逃げた女を追い掛けていった。野盗を続けていく内に闇に慣れた女を追い掛けるなんて芸当、闇夜でも目の利く猫なら難なくこなすだろう。
とは言え、官吏を導いて捕まえさせた?猟犬なら兎も角、気紛れが当たり前な猫だぞ?鼠を捕らえる訳じゃないんだぞ?ますますミーアが分からなくなった。
そもそもミーアは人の言葉が分かっている節がある。ラバのミールとメーラを買う切っ掛けになったのもミーアの存在が大きい。馬を買いに牧場に行った際、人の心の中の言葉を読み取れる呪いを持ったエスピーヌが、ミーアの言葉を拾い出したのだ。これにしろ、と。
それに、そのラバたちをけしかけて、あの野盗の男をとっちめたのもミーアだった。そのお陰で俺たちは助かったと言って良い。ミーア様さまである。シャイニーがミーアに分け与えるご飯が最近グレードアップの一途を辿っている。いや、シャイニーもちゃんと食べようよ。
ま、空気を読んだフェマがシャイニーに分けているから、それ程は食べる量が減っている訳では無さそうだけどな。
「早速取り調べをしているが、先に父子が色々と喋っているから、言い逃れが虚しく聞こえるな」
本人曰く、自分は盗み等はしていない、父子が勝手にやっているだけだと主張しているが、実際のところは女が指示をして二人を動かす司令塔の役目だった。それも子供には嘘を吐いて、夫には脅しを掛けて。
当初から言い逃れ出来るように自分では手を下さないという念の入れようだったけど、そんな言い訳は官権には通じない。罪を認めるのも時間の問題だろう。スピード解決である。
また、ここ最近のこの町での泥棒被害の大半はこの親子の仕業である模様。子供と女の二人だけの時は宿に近い場所で細々と盗んでいたのでコソ泥だろうと騒ぎは大きくならなかったが、宿が潰れてからはこの町に移動して大々的に盗みを働いていたそうだ。
王都は夜でも人が出歩くし夜警も少なくないから近寄らなかった。それに引き換えこの町は、それなりに潤っていたしその割に夜警は少なく仕事がし易かったという。
ま、父子は嫌々やっていたので、態と音を立てたりして失敗する(させる)事も多かったようだが。
そしてあの夜、俺たちのいた家に忍び込んだのは、元々宿をやっていた祭りのあった町に戻ろうとしたのだが、馬を換金してしまった為に移動に要する日数が予定よりも掛かってしまい、途中で引き返す際に丁度良い馬を見付けたと。それであんなにも騒がせたのか。残念だったな、あれは並大抵の者は受け入れないのだよ(ニヤリ
相変わらず女は無罪を主張しているらしいが、主犯として扱うと言いきっていた。対して父子の方は、大層反省しているといい、騙されたり脅されてやったという主張を信じるに足ると判断されそうだと言う。それでも刑を免れる事は出来ないが、何年もという事はなさそうだと。更生して早く社会復帰して欲しい。勿論女には厳しい処分が待っているだろう。反省の色が無ければ当たり前だ。
「そういえば夜盗の男はどうしたんだろ?官憲では聞かなかったな」
「おお、あの骨を砕かれておった方か?あ奴はどうやら大物だったようでのぅ、早速官憲の王都本部へと送られおったわい。方々の国で人を殺めておったそうじゃ」
詰所を後にし、近くにあった医者先生の診療所に来ていた。背中の傷の当て物を新しいものに変えて貰いながら医者先生に知っているか聞いてみると、そんな答えが返ってきた。詰所での厳しい取り調べに耐えられなくなり、男が口を割ったそうだ。恐るべし所長の本気!
詳しく話を聞けば、泥棒に入って住民に見付かると、その住民を人のいない所にまで連れ出し、殺めて埋めてしまった上で金目の物はごっそりと持って行くという手口で、まるで夜逃げしたようだったので発覚が遅れ犯人が分からないままだったようだ。それを複数の国でやって回り、俺たちが襲われる前には祭りのあった町で手薄な宿を中心に漁っていたらしい。あ、あの安宿の方に入った泥棒ってあいつだったのか。
罪状が数えきれないほどあるという事で、逃げられないようにする為にも怪我の治療は行われず(うわぁ、エグいなそれは)に送られたそうだが、複数の国をまたがる殺人鬼なので極刑は免れないだろうと。特に教会から守られし首飾りを受け取ったばかりのシャイニーが被害に遭いそうだったという事もあり、普段は温厚な教会が黙っていないだろうと。え?守られし首飾り?って、ああ、あの教会から受け取った首飾りの事か。
医者先生曰く、守られし首飾りは、文字通り教会が守るべき対象の者に送る首飾りで、大陸内でも持つ者は100人もいないだろうと言う。そしてそれを持つ者には教会は全力を持って守るし、万一危害を加えよう者がいれば、世界の果てまで追い詰めるらしい。ナニソレ怖い。勿論それを持つ者の特徴は全教会が把握する為、偽物を持ったり本物を奪ったりすれば、たちまち教会に捕らえられ世にも恐ろしい仕打ちが待っているそうだ。ナニソレ怖い。もし万一にもその男が逃げたとしても、官憲だけでなく大陸中の教会関係者が男を追い詰めるだろう。
それを聞いたシャイニーは首飾りが納まっている胸元を手で押さえプルプルと震えていた。本人にとっても過ぎたる力に感じるのだろう。
「それにしてもこの療法は大したものじゃ。深かった傷ももう塞がっておるわい。まだまだ勉強不足じゃの」
医者先生が俺の怪我の具合を見ながら唸る。手当てをして貰う時に夢で見たシツジュン療法とやらを試して貰ったのだ。以前、山道で怪我を負った時に似たような事をしてうっかり数日そのままにした事があり、治りが早かったように感じたのも迷いなく頼めた要因だ。あの時はサックリ切れた患部を薬草の葉を貼り付けてグルグル巻きにして出血を止めようとしたのだ。それなりに深く切れたので、血の出る量が多くて怖くなり、いつまでもそれを解く気になれなかった結果であった。文字通り怪我の功名である。
「ふむ、テム坊。これなら坊の怪我はあとどれくらいで完治となりそうじゃ?」
「む...そうじゃのう...切り傷の方は長くても五日もあれば心配なかろう。打ち身や痣はそれよりは長くなるじゃろうがの。ま、痛みが取れるまでは無理はせぬ事じゃ」
フェマが医者先生に向けた問い掛けが何とも子供らしからぬ言葉使いだが、それに対しては医者先生は気にしてなさそうだ。しかしここへ来てからというもの、チラチラとフェマを見やる。そう言えばフェマの家でもそんな感じだったような気もするけど...なんだろ?




