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√真実 -026 出校日-3 (戻らない黒生)



 教室に戻り席に着くが、階段ではまるで見世物だった。

 平坦な廊下はそれ程痛みも出ないし、松葉杖の布田も平坦な廊下は寧ろ速いくらい慣れたものだった。が、階段では二人とも途端にスピードダウン。まるでシケインのようにみんなの邪魔者となり、俺の包帯に気付いた者たちが俺をジロジロと見ながら追い越して行った。はぁ~、溜め息しか出ないわ。

 教室に戻った俺たちだが、保健室に行った三人はまだ戻って来てなかった。ん?体調の悪い黒生は仕方ないとして、付き添いの智下や和多野が帰って来ないってどういう事だ?

 と思ったら、担任と共に和多野だけ戻ってきた。あれ?智下は?


 次の時間は宿題の提出やチェックだ。この数日間、宿題の出来ない環境にいたが、それ以前に多少なりとも進めていたので何とか問題なく提出出来た。そして新たに増える宿題の山。いらねぇよ!!休ませろ!!

 ふと布田の方を見ると、和多野が布田のサポートをしている。周りの男子が何人かニヤニヤしながらその様子を見ていたが、本人たちが相手にしないので飽きて自分たちの遊びの話に移って行ったようだ。あれって、布田の怪我をした原因が自分のせいだと思っている和多野が、責任を感じてしているだけじゃないような気がするな。


 それから宿題関係が粗方終わって教室内の雰囲気が和らいできたところで、布田が和多野に何か聞いているのに気付いたのだが、和多野は横に首を振った。見ていた俺の視線に気付いた布田は、手の平を横に広げ首を横に振った。どうやら戻ってこない二人については聞いても答えて貰えないらしい。気になるなぁ...後で直接聞いてみるか。



「よーし、次の時間は大掃除だ」


 うちのクラスはいつもの教室と廊下、特別教室、トイレの他に、北門から南側の角までの校外が担当だ。特に外は側溝の溝浚いや草取りがあるから、人数は多目に割り振られた。個人的には教室や廊下、トイレの近い所が希望だったけど、席で割り振られた。当然?外になった。布田や和多野は席が離れているので別のグループになった。


 てか担任のヤロウ、布田が松葉杖なのを考慮して布田のいるグループを教室周辺の担当にしたのに、俺は考慮に入れてくれなかった。布田のグループになった連中は布田に感謝の言葉を投げ掛けていた。くっそ~!せめてトイレ掃除くらいが当たれば良かったのに!二年生の時に俺の班がトイレ掃除当番だった時、校内で一番綺麗なトイレとして話題になっていたんだけどな。


 愚痴りつつ、階段を降りて外に出る。クソ暑い。何だよこの罰ゲーム。草取りにしゃがんでも背中や足が痛むし、溝浚いで力を込めても肩や腕が痛む。クソ~!担任め、覚えていろよ~!!


「まぁ程々にして手を抜けよ?真実」

「いや、やる事はやっとかないと。それにサボってるとあいつらが黙ってないだろ?」


 少し離れた所で浚った泥を他の男子に投げ付けている男子三人組み。それにその脇でケタケタと笑っている女子三人組み。

 去年まで俺を標的にしていた奴らだ。学校側も何であの連中をバラけさせずに同じクラスにするんだ?普通は悪さをする連中を別々のクラスにするものじゃないのか?

 ま、今年は近くに智樹がいるからか、あいつらは俺に絡んで来なくなったけど。智樹様々だな。その分、他の男子に無差別でああしてちょっかいを出しているんだけど。


「その心掛けは感心するけど、あいつらの事はそんなに気にしなくて良いと思うけどな」


 絡まれる心配の全くない智樹がそう言うけど、長らく絡まれてきた俺としては心配でならない。俺がその言葉に顔を顰めていると、智樹は苦笑する。


「もうそんな心配はないと思うぞ?今回の事件の噂と同時に、前に智下と黒生を助け出した時の噂も出回っているから」

「は!?な、何で!?」

「そんなの情報源は同じに決まっているだろ。ただ、そっちは眉唾物の情報として出回っているから、あいつらも本当かどうか分からずに手出し出来ないってところかな?」


 マジか!?本人の知らないところで噂が広まっているとか!何の罰ゲームだよっ!!それにあの時は相手三人の内二人がド素人だったのと、もう一人が逆上してて動きが読み易かったからであって、逃げ果せれば良かったからこその結果だ。それに対してこっちの三人はいつでも待ち伏せ可能で対処できるかどうか分からない。流石に三人纏めて来られたら俺ではひとたまりもないぞ?


「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。今のところ噂半分って所だろうし。あの時の事は調書を取られた訳じゃないんだろ?それなら情報として回っているだけで詳細までは知られていない筈さ。それにそれが丸っきりの嘘じゃないって事はクラスの奴らなら薄々勘付いていると思うぞ?」


 智樹の言葉に俺は頭の中にクエスチョンマークが飛び交っていた。何で?どうして?


「そりゃあ今まで誰ともつるもうとしてなかった女子二人が急にオレたちとつるむようになったんだ。何があったんだ?って誰でも思うだろ」


 況してや今日の黒生のアレ。何もない筈が無いと。わ~。これって既に噂に尾ひれはひれが付いて俺のイメージが直に化け物になってそうだ。どうしよ、街の不良たちが校門前で木刀持って待ち伏せ...なんて事にまで発展でもしたら...って、無いか今時そんなの。でもでも、あいつらに体育館の裏に連れてかれて...って体育館の裏はみんな大好き駄菓子屋さんだけど、あそこのお婆さん、そういった暴力が大嫌いで見付けると散々叱り付けた挙げ句に学校に問答無用で通報するって噂だから、誰もそれを実行しようとはしないんだよな。


 ふと周囲を見れば、夏休み期間中という事もあって真面目に掃除に没頭している者は殆どいなさそうだ。何となく気が抜けた俺は、智樹の勧めもあって草取りのペースを落として木陰に逃げる事にした。流石に直射日光は暑い。他の者もある程度草をむしったら同じように木の陰に避難するのだった。



 苦行が終わり教室に戻ると智下が保健室から戻っていた。何だかスッキリした顔になっているような...


「凄い汗ね。外ってそんなに暑かった?」

「日に当たって草抜きしてたから...綾乃は掃除には参加したのか?」

「途中からね。トイレ掃除が終わってなかったからそっちに応援で入ったわ。水が使えるからそれ程厚くはなかったわよ?」


 うわぁ、卑怯だなぁ。掃除は途中から、それも日陰で水が使えて...やっぱりトイレ掃除が良かったなぁ。みんな嫌がるけど、俺としては一番綺麗に出来る自信があるから好きなんだけどな。

 っと、そうだ。それより...


「光輝は?まだ保健室なのか?」

「ああ、光輝は掃除中に帰ったわ。ちょっと辛そうだったし、先生も宿題のチェックだけ出来れば問題ないって言うから、保険の先生がクルマに乗せて送ってくって」


 えっ!?帰った?そんなに体調が良くなかったのか?と顔を顰めていたら、それ程大した事ではないけど光輝は初めてだったみたいだから...と言って口を噤んだ智下。ん?初めて?


「あ~。そこはあまり深く聞いてやるなよ、マサ。兎に角、大した事はないんだろ?」

「あ、フダは姉妹がいたんだっけ?なら何となく分かっちゃうか。黙っててあげてよ?」


 了解~と智下に布田が返事をし、智樹も何だか納得した顔をする。何だろう、俺だけ蚊帳の外だ。でも大した事はないって言うんだから、それを信じるしかないな。

 この後、担任が来るまで散々智下と和多野に文句を言われた。報せが無いまま炎天下にどれだけ待たせれば気が済むんだ!と。

 和多野は智樹や布田がいたから早々に方向性を決めて布田の家に移動したけど、智下は一人で待ち惚けを食らい智樹の携帯に電話しようとして電源が入っておらず(前日に散々電話を掛けまくって充電し忘れていた。布田は検査で病院、和多野は気晴らしに買い物)、やっと出た黒生は泣いてしまって中々聞く事が出来ず、やっと聞き出せたのは通話制限時間をフルに使いきる直前だった。オーバーすれば親に携帯を取り上げられる可能性もあっただけに、その怒りは相当なものだった。ゴメンナサイ。


 それにしても担任が来るの遅いな。キッチリたっぷり怒られてしまったじゃないか。






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