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√真実 -025 出校日-2 (気になりマス)



 騒然とする教室内。

 みんなの視線は入口でへたり込み泣く黒生に。駆け寄った智下と和多野が黒生の背中を擦って落ち着かせようとするが、今度はお腹を押さえだした黒生。

 俺は叩かれた背中がまだ痛かったが、何とかして立ち上がると黒生の方へと行こうとする。しかしその前に、寄り添っていた智下と和多野が黒生を立ち上がらせると、保健室に連れていくと言って教室を出ていった。 

 後に残された黒生のカバンは、碌に動けない俺や布田ではなくて智樹が黒生の席に掛けていたが、ちゃんと戻って来るよな?大丈夫だよな?立ち上がった時の黒生の顔色がかなり悪かったように見えたけど...


「...男子は来ないで欲しいってよ。やっと顔を見れてホッとしたのに...ちょっと心配だな」


 智樹の言葉に、俺も相槌を打って顔を顰める。心配ってもんじゃねぇよ。あの後、知らない間に病院から黒生が帰ってしまってから、まだちゃんと話せてないんだから。



「おはよ~、みんな席に着け~。ちゃんと揃って...ないな。誰々がいないんだ~?」

「黒生が今さっき、女子二人に保健室に連れてかれましたー」


 担任が入って来て、席に着いた生徒たちを見渡して三人もいない事に気が付くが、先程の出来事を級長が即座に報告する。担任はそうか、と返事をして他に欠けた生徒がいない事を確認すると、松葉杖の布田に大丈夫か声を掛ける。


「他に休み中、何かあった者はいないだろうな~?」

「先生~、飛弾が喧嘩(・・)で大怪我だそうで~す!」


 あんのヤロウ!さっき背中を叩いた事と言い、俺を嵌めようって事か?


「何?本当か?飛弾...お前、帰りに職員室な」


 ブンブンと横に顔を振る俺だったけど、俺の包帯まみれの姿に説得力はなく...はいワカリマシタ。


 その後、担任は今日の予定を黒板に書き出した。げ。いきなり全校集会で体育館に移動かよ!階段、嫌だなぁ。それに宿題の提出が終わった後は外の大掃除って...何度俺を階段地獄に突き落とすつもりなんだよ?

 それにしても...黒生は大丈夫かなぁ。全校集会が終わった後に保健室に様子を見に行こうかなと思ったけど、男子は来ないで欲しいって言ってたんだよなぁ...う~ん、智下か和多野、どちらか早く戻ってこないかなぁ。



 という願いも虚しく、俺たちは体育館へ移動する。移動が遅い俺は、同じく松葉杖で他の者より階段を降りるのが遅い布田と、俺ら二人のサポートにと残った智樹と共にゆっくりと向かった。


「...なぁ、マサ(真実)クロ(黒生)があんなんなるって、お前何したんだ?お前を見てああなったように見えたぞ?」

「いや、俺に聞かれても...たぶんだけど、俺の怪我がここまで酷くなったのは自分のせいだと感じているのかも知れないな。気にするなって言ったのに」

「マサの怪我がクロのせい?何だそりゃ。って、そういやクロと帰る途中だったって言ってたな。その話の冒頭にしか出て来なかったからすっかり存在を忘れてたけど、その時ってクロはどうしてたんだ?」

「それが...」

「足が竦んで見ているしか出来なかった...って所か?」


 布田と話しているのをずっと聞いていた智樹が、俺が口籠ったのを見て聞いてきた。俺は溜め息を吐いてそれに頷く。


「一応、病院で手当てをして貰った後に光輝には気にするなって、これから道場で稽古を繰り返して出来る様になれば良いって言ったんだけどな。やっぱりそれを引き摺ってるのかなぁ?」

「それにしてはちょっと...本当にそれだけか?他にも何かなけりゃ、あそこまで取り乱したりしないだろ」


 布田の指摘に、俺はそれもそうだよなと首を捻る。そもそも黒生は人に対して怖がり過ぎのように思う。最近になって俺たちには打ち解けて表情も豊かになってきたように思うが、他のクラスメイトにはまだ言葉少ないどころか返事も首を振るくらいしかしない。況してや今日の取り乱し方は普通ではないように感じた。あれほど気にするなと言っておいたのにも拘わらずに、だ。


「まぁ、あいつも色々とあったんだよ。それで酷く臆病になっているんだろうな。暫くは誰かが支えになってやれれば良いんだけど...」


 そう言って俺を見る智樹。ん?その役が俺だと?確かにここ最近は俺が黒生と一緒にいる時間が圧倒的に多いんだろうけど、それは智下とかの方が同性同士で良いんじゃないか?てか、色々あったって...一体何があったんだろうかと聞いてみようとしたが、智樹は本人から許可が無ければ話す事は出来ないと言う。何の事だか分からない俺と布田は顔を見合わせてお互いに首を捻るのだった。

 それにしても...保健室に連れて行かれる時に腹を押さえてたけど、マジで大丈夫なんだろうか...



 遅れて入った体育館は、高く昇った真夏の太陽の熱と全校生徒がぎっしりと入った熱気で、まるでサウナの様だった。サウナに入った事はないけど。

 遅れた俺たちは定位置にまで前に行く事はせず、クラスの一番後ろに着く事にした。こんな包帯まみれの姿を曝すなんて恥ずかしいわ!!


 間もなくして校長からの長々しい話が始まったが、ハッキリ言って長過ぎて何を話していたのか全く頭に入って来なかった。たぶんアレだ、遊んでばかりおらず、中学生らしく勉学に励めって話しだったように思う。30秒で終わりそうな話を10分も20分も延ばす事ないのにな。座ってなければたぶん何人も保健室に運ばれていただろうな。保健室の黒生は大丈夫かな。ああ、黒生が心配で何を聞いても頭に入って来ないわ。



 長々とした校長の話が終わってやれやれと思ったら、今度は警察の人からの話を聞く事になった。げ。こりゃ校長以上に長くなりそうだな。

 地元の警察署の署長だと言うご立派なオジサンは、被っていた帽子の金ピカに光るマークをみんなが見える様に演台の上に丁寧に置いてから話し出した。やっぱり難しい言葉で長々と話すので、みんなうんざりとした雰囲気だ。幸いだったのは座っていられる事。鬼暑い体育館の中、三割くらいの生徒がうつらうつらとしているのが後ろからだとよく分かる。たぶん、壇上からだともっとよく分かるんだろうけど、何とかならないのかなコレ。

 話の内容は、交通事故には充分注意しましょう、水難事故も多いので充分注意しましょう、夏休みは風紀が乱れがちなので不良の集まり易い場所には近付かないようにしましょう、誘われても断りましょう、etc...結局は羽目を外さず安全を心掛けて過ごしましょうって話みたいだ。3分で終わるだろコレ。


「最後に、それでも意図せず事件や事故に巻き込まれる事もあります。実際こちらの学校の生徒さんで、事件に巻き込まれて大怪我を負った者もいます。その生徒さんは妊婦さんが襲われそうになったのを助けに入ったとの事ですが、万一そんな場面に出くわした時は迷わず大声で大人を呼びましょう。事件を起こす者にとって、相手が子供だろうが関係ありません。くれぐれも怪我をしないように自分の身は自分で守る様にしてください」


 その言葉に、うちのクラスの目が一斉に一番後ろにいた俺を見る。そしてそれに引き摺られるように全校生徒の目が俺の方に向いてざわめいた。げげっ!!マジか!!慌てて包帯が露わになっている腕を隠そうとするが、半袖だから隠せる筈もなく...


「マサ、一気に有名人だな」

「冗談は止してくれよ、祐二。こっちは目立ちたくないんだからさ」

「まあ、悪い事をしたんじゃないから良いんじゃないか?」


 意図せず全校生徒の視線を集めてしまった俺に、布田も智樹も一緒になって囃し立てるが、先生たちの目が怖い事になっている事に、この時の俺は気付きもしなかった。






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