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√真実 -022 入院四日目-3 (ゴメンナサイ)



 看護師の言っていた、入院する程でもないと言うのは本当のようだ、肉体的には。が、別の意味で入院が必要じゃないのかと心の中で突っ込む。

 目がイっているのだ。やべぇ、こいつ本気(マジ)だよ。本気で俺に危害を加えようとしているぞ?不気味な笑顔で俺に向かって手を伸ばしてくる男を、俺はどこか他人事のように眺めていた。


 が、いつまでも見ている訳にはいかないと、俺はスローモーションのように迫ってくるその手を咄嗟に掴むと、そのままベッドの上で横に転がった。

 腕を掴まれたまま巻き込まれた男は、そのまま体勢を崩して俺の上に乗り掛かったと思ったら、声を上げる間もなく勢い余ってベッドの反対側に落ちていった。

 ベシャっと鈍い音が病室に鳴り響く...って、わあああぁぁぁ!大変だ!頭から落ちないように腕は途中まで掴んでいたけど、そのお世辞にもスリムだとは言えない体格のせいで支えきれなくなって手を離してしまった。あわわ、ゴメンナサイ!


 慌ててナースコールを押すが、直後に入ってきたのは刑事の一人だった。うげっ!まだいたんだ!って早すぎないか?

 ツカツカと詰め寄ってくる刑事に、捕まるのは俺か!?と目を瞑るが、刑事は床で呻く男の方へと。


「はぁ、仕事を増やしてくれたな。まあ仕方ないか。寧ろ現場に立ち会えただけやり易くなったな。あんた、暴行の現行犯で逮捕な。おい、記録しろ」


 刑事は俺...ではなく、男に対して言い放つ。いつの間にか病室に入ってきていた女刑事が、十時五十分と落ち着いた声で言いながらパソコンを開いてカタカタと打っていた。うわ、ナニコレ。


「ってぇな!僕が何したって言うんだ!コイツに怪我を負わせられたのは僕の方だぞ?そうだ、訴えてやる!この状況なら100パーセント僕の方が正しいからなっ!」


 うげっ!それは色々と不味い!学校に知られれば高校進学を目の前に転校をしないといけなくなるかも知れないし、話によっては高校進学を諦めなければならなくなる。更に言えば、この病院は母さんの職場だ。母さんが仕事を続けられなくなるかも!俺としてはそれが一番怖い!それを理由に母さんに何を強要されるか...


「何か勘違いしてないか?お任せには今のとは別件で傷害の被害届が出された。それに今のは充分正当防衛が成立するし、それが気に入らなければ殺人未遂でも良いんだぞ?ぶっ殺してやるよ、だっけか?言い逃れ出来ないように録音もしてあるぞ?ん?どっちが良い?暴行と殺人未遂、どっちも現行犯だ。さあ!さあ!」

「むぐっ!そ、そうだ!これは芝居だ!芝居の練習なんだ!」

「ほう?何の芝居だ?お前は今、外に出ない引き籠りの筈だが?一体何の芝居なんだ?」


 俺の横になっているベッドの脇で、俺に落とされて這いつくばっている男に刑事が詰め寄るけど...何でこうなった?思わずベッドの下に落としちゃった俺の方が立場的にタイーホされちゃうんじゃないの?どうなってんの?コレ!

 俺は先程、一瞬だけど男が俺の上に乗っかる状態になった為、若干痛みが走る体を起こしてベッドの反対側へと立ち上がる。あたたた。すると、パソコンを打っていた女刑事がこっちへおいでと手招きするので、隣のベッドに手を突きながら女刑事の脇にまで移動した。


「ええっと...これってどういう...」

「ああ、君には説明して無かったわね。あの男、家庭内暴力が酷くてね。随分前から相談されてて何とか証拠を残せない物かと親御さんと色々と調整していたのよ。で、漸く証拠が残せる態勢になった所だったんだけど、その証拠を提出して貰って逮捕状を取るまでの間、これ以上親御さんに怪我を負わせられないという事で男と離れさす苦肉の策が親御さんを入院させると言うものだったんだけどねぇ。家に男一人を残すと何をしだすか分からないのと、偶然にも男が親御さんに投げ付けたグラスが割れたのを自分で踏んでしまって、ね。丁度良いからって病院に協力して貰ったのよ」

「...ガラスを踏んでって、入院する程の酷い怪我だったんですか?」

「馬鹿ねぇ、何を聞いてたの?大した怪我じゃないわよ。ちょっと血が流れる位の。救急隊と一緒に駆け付けたんだけど、まあみっともない程騒ぎ立ててね。お陰でこうして親御さんとは離れさせられたし、確実な罪状で逮捕する事が出来たしね。君には感謝してるわ」

「...って事はずっと外で?」

「偶々よ。ナースステーションで男の様子を聞いている間、一人が扉のすぐ外で待機していたの。危なかったら直ぐに飛び込めるようにはしてたのよ?という事で、調書と被害届を作っちゃうから、またサインをお願いね」


 謀ったな!?糞野郎!と騒ぎながら病室から連れ出される男を見送りつつ、また被害届を書かされるのか!?とウンザリとする。外からはサイレンの音が聞こえてきた所を見ると、早々に応援を呼んでいたみたいだ。これで入院している人たちも夜は静かに寝る事が出来るだろう。昨夜は本当に酷かったしな。


 結局、昼間際まで調書と被害届け作りが行われたが、例のカッコ良いプリンタが不調になってしまい、午後にまた出直すからと帰って行った。物静かだと思っていた女刑事だったけど、意外と色々と教えてくれたな。最後には警官にならないか?とお誘いを受けた。え。その選択肢は頭の中には入ってなかったな。てか、将来についてはまだ何も浮かんでないんだけど...




「...ゴメンナサイ」

「...何で謝るんだ?」

「...ゴメンナサイ」


 そして昼食後すぐ、病室に智樹が現れた。入って来るなりジトっと睨まれて、思わず謝ってしまった。


「ハァ~。話は智樹から聞いたよ。とんだ災難だったな」

「まぁ...でも知り合いに怪我が無かったんだから良かったよ」

「そうだな。でもまさか新聞沙汰に真実が巻き込まれていたとは思わなかったよ」

「俺も、まさか新聞沙汰になっているとは思わなかったな」


 智樹は深刻な顔で話してくるが、俺は出来るだけ明るく返す。そうでもしないと余計に心配させそうだ。


「で?怪我は?」

「一応は動けるようになったよ。そもそも骨折とかは無くて、打撲や擦り傷ばかりだったから」

「そうか...良かった。それこそ重傷だって新聞に出てたし祐二からは昨日退院だって聞いてたから、何かあったのかと心配したぞ」

「ああ、ごめんごめん。母さんが担当医を脅して入院を延ばさせたんだよ。今日の晩飯食ったら退院。この身体で重い物を持つのはまだ早いからって、直ぐにでも買い物に行きそうな俺に

ストッパーを掛けたんだ」

「...真実の母親かぁ。確かにあの人なら担当医を脅しそうだな」


 クククっと思い出し笑いをする智樹に釣られて俺も苦笑する。それにしても入院が延びたのがよく分かったな。それを智樹に聞いてみると...


「祐二から昨日退院だろうって聞いてたのに、今日は朝から昼まで何度も電話しても連絡が着かないから、もしかしてと思って、な」

「ああ...ゴメンナサイ」

「...はぁ、何で連絡しなかったんだよ」

「家に帰らないと連絡先が分からなかったんだよ」

「...学校に連絡して言付けて貰うって手もあっただろうに」

「あっ!そうか!その手があったんだ!」

「...その様子だと学校にも知らせてないだろ」

「う~ん、ワカンネ。取り敢えず母さんがあちこち手続きに走り回ってくれてたみたいだけど...」


 そう言えば学校の事は言ってなかったな。市役所や保険屋へは回ったとか言ってたけど、何の事やら分からないからお任せだ。


「ったく、知らないからな?明日どうなっても」

「明日って、出校日の事?何かあったっけ?」

「全校集会があるだろ。そこにその包帯まみれで行けば注目の的だろ。それに...」

「...それに?」

「親が警察関係の人間が何人かいた筈だから、生徒間でも噂が広まるぞ?」


 うげぇ、ヤだなぁ。噂なんてものは尾ひれはひれ付いて得体の知れない化物に変化してしまう事が少なくないからな。

 俺は早くも明日の出校日が憂鬱になるのだった。






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