√真実 -021 入院四日目-2 (あんっ♥ じゃないよ!)
「「ひぃっ!!」」
突然の恫喝とも言える抗議に、ミサと一緒に震える俺。情けない。
とは言え、人のいる病室で騒いでいたのだから、文句のひとつくらいは仕方ないのかも知れない。しかし、その男のは明らかに高圧的過ぎだ。カーテンの隙間から顔を覗かせた男に、俺もミサも思わず小さな悲鳴が溢れた。
「...チッ!何だ、胸のデカいババアか」
「ええっ!?ババア!?ねぇ、真実君。ババアって、私の事?ねぇ、私ってそんなに老けてる!?」
「いや、そんな事はないよ?ミサさん、痴漢に遇うくらいだし?」
「だよねだよね?って、何で疑問形なの!?やっぱり私、老けてる!?」
男の一言にミサが反応するが、胸が大きいと言われたのは否定しないんだな。てか、いつもの間延びした口調じゃない辺り、ガチで衝撃を受けているみたいだ。
「ふんっ!ミサって名前を聞いたから、どんなちっこい天使たんかと思ったんだけど...まさかの垂れ乳ババアとはな。僕ちゃんの天使なミサたんとは雲泥の差だ」
「なっ!!垂れ!?私、垂れてなんか無いわよ!?ね、そうでしょっ?真実君!」
「いや、俺に聞かれても...見た事ないし」
服の上から触らされたりは何度もしているけどな。それより手で胸を強調しないで欲しい。なんて考えていたら、ミサが真剣な...と言うか切羽詰まった顔をこちらに向け、血迷った行動に出た。
「真実君!確かめて!今すぐ!!垂れてなんかないって証明して!」
「わわっ!ちょっ!!ミサさん!だ、駄目だって!どわっ!!」
「...あんっ♥」
Tシャツをガバッと捲り、たわわな実を包んだ精巧な刺繍の施されたブラジャーが目の前に露に。俺は慌てて捲られたミサのTシャツを元に戻すけど、ベッドの上なので体勢が悪くてそのままミサの胸元に倒れ込んでしまった。あわわ、これは事故なんです!故意なんかじゃ無いんです!って、いや、そんな色っぽい声を出さないで欲しい。
「...おいおい、何をしているんだ?」
開けっ放しだったドアから病室内を覗き込んでいたのはスキンヘッドの厳つい...と言うか怖そうな目付きのスーツ姿の男の二人。げっ!危ない人に見られていた!?どうしよう、ミサが拐われて変なトコロに売り飛ばされたり、変なビデオを撮られたりしたら!俺が守らないと!
...ゴメンナサイ、よく見たら刑事さんだった。でも怖いよ、スキンヘッド。ガタイも良いし。
刑事という言葉に、同室の男はカーテンをピシッと閉めてとじ込もってしまった。やれやれ、これで文句言われずに済むか...と思ったら、ミサと刑事たちが睨み合っていた。な、何で?
「ま~た君か。君は飛弾君の同級生...には見えないな。いくつなんだ?飛弾君とはどんな関係なんだ?」
「ちょっと、待って下さいよ。ミサさんは歳上ですけど、道場での稽古仲間なんです。別に怪しい人なんかではないですよ!」
「それは分かっている。でもな、過ぎたる行為が見受けられれば条例違反や刑法に引っ掛かる事もある。それが同意であろうと飛弾君はまだ中学生、駄目な事は駄目なんだ。分かるね?君も、歳上であれば節度ある行動を頼むぞ?」
刑事に釘をさされる俺たち。う~ん、何か解せない。元はと言えば同室の男の口の悪さから、ミサが暴走しかけたんだよなぁ。俺とミサがカーテンの閉じられた病室の一画を恨めしそうに見ていると、遅れて女の刑事が入ってきた。
女刑事は病室内の異様な空気を感じ取りつつも、ミサに視線を向ける辺り、ミサを敵認定してでもいるのだろうか?
「面会中に悪いけど、早めに話を聞きたいんだ。飛弾君、良いかな?」
「話は昨日聞いてますけど、今日じゃなきゃ駄目なんですか?」
「それが情けない事になぁ。情報が思ったより集まらないんだ。当事者からの情報が頼りだから、記憶が曖昧になってしまう前に話を聞きたい。明日は学校なんだろ?学校での外からの情報は膨大だから、他の情報と混ざってしまう前に、な」
新聞にも載ったのに、目撃情報が集まって来ないという。人って他人事だと本当に関わろうとしないのな。
俺は溜め息を吐いて、その要請に応じる事にしたんだけど、納得出来ないのはミサだ。先に面会に来たのに追い出されようとしているのだから。
が、早々に白旗を上げるミサ。女刑事の睨みに怯んでしまい、そのまま圧し切られてしまった。回復して道場に復帰したら相手をするからと約束したけど、いつになるのかまでは分からないからな?それにいきなり全力は出せないからな?分かっているよな?な?
刑事たちには一昨日に犯人の特徴は話していた。見た目年齢が高校三年である十八歳くらいから二十歳くらいで、背は俺と同じ165cmくらいから俺より一回り大きい185cmくらい?の三人。背の小さいのは小太りしていて他の二人はスリム型。三人とも髪は明るい色に染めていた...というくらいか。それよりも詳しい情報となると...
ミサが大人しく帰っていった後、他には無いのかと聞かれ困っていると、もう一人の刑事がそう言えば...と口にする。
「君は以前にも男たちと関わりを持っているそうだね?今回が二回目。倉楠さんから聞いているよ」
「倉楠巡査部長から?そうだったのか。じゃあ前は何か気付かなかったかい?」
そう言われて思い出すが、間に期末テストがあったし、夏休みにも入って記憶が曖昧になっている。成る程、だから早めが良いのか。
「あ、そうだ。あいつら、受け身が取れなかったな。師範曰く、この辺りの高校なら体育で柔道をするから、この辺りの人間ではないんじゃ?って言ってました」
「受け身が?フム。確かにこの辺りの高校は柔道の授業はほぼ必須だったな。すると柔道の他に剣道も選択できる高校から当たるとして、市外や県外にも捜査範囲を拡げる事になるか」
「それと、仕事で余所から入ってきた人間も、か。嫌な流れだが、少しは絞れるな。未成年の可能性が大きくなってくるから、少年課も巻き込まないとな」
俺の一言で捜査の相談を始める刑事二人。へぇ、こんな風に捜査してくんだ。
「他には何かないかい?」
「と言っても...一人は喧嘩に慣れているのかパンチが少しは速かったかな?でも大振りだったから避け易かったな。他の二人は喧嘩には慣れて無さそうだったな。ふにゃっとしたパンチだったし。あ、そうだ。前はお金を出さない女子たちをどこかに連れて行こうとしてたな」
「何?そうだったのか?」
俺が思い出したのは、この位だ。が、刑事たちを焚き付けるには充分だったようで、俺の話を聞いた三人の顔は険しい。その後も細かい話をいくつかした後、三人は病室を出ていった。被害者がこれ以上増えない内に犯人を捕まえて欲しいところだ。
が、刑事たちが病室を出ていった途端、同室の男が激しい音を立てて吠えた。
「いつまでチンタラ話してんだよ!寝られねぇじゃねぇか!」
「えっ!?す、すみません」
「すみませんじゃねぇよ!僕は寝るって言ったよな!?何でここで話すんだよ!態とか?態となのか?」
「いや、業となんて事は...」
「お前、一度死ぬか?ん?人の睡眠を邪魔するんだから、そのくらいは覚悟しているんだろ?ぶっ殺してやるよ!」
激昂した男がいつの間にか俺のベッドの脇に立って、俺に掴み掛かろうとしていた。あれ?もしかして、俺ピンチ?




