√真実 -017 入院三日目-1 (求めるはパンツ!)
「どうだい?小坊。まだ痛むかい?」
「...ねぇ、陽子さん。そろそろその呼び名、止めて欲しいんだけど?」
「ん?良いじゃない。私と貴方だけの呼び方だしね?」
「う゛~」
全く悪びれない陽子さんに、思わず唸ってしまう。道場では俺が小学校六年生の頃に入ってきた人で、その頃からミサと共に可愛がって貰っていた。稽古の後にお菓子をくれたり、飴をくれたり...って、あれ?もしかして餌付けされてた!?
起き掛けの体温に脈拍の測定。朝の看護師は忙しそうなのに、俺の様子をじっくりと観察していてくれる。
「ちょっと病着を脱いで貰える?また怪我が増えたりしてないか、飛弾先生に診とくよう言われているのよ」
「うへぇ。分かりました」
初日、運び込まれ手当てして貰った後に、謎の怪我増加をした俺。念の為にと追加の手当てをした母さんが入院延長を決めた。勿論、昨日はそんな怪奇現象は現れなかった。
でも、入院延長はちょっとだけホッとしたかな。昨日の内に帰宅していたら、痛みで家に辿り着いていたのかも怪しい状態だった。あ、タクシー使えば良かったのか。でも今朝は昨日程の痛みは感じない。今日は家に帰れそうかな?
「あらま、元気ね。ふふふ」
「...え?あっ!!」
そうだった!病着の下は未だパンツすら穿いていない状態。しかも中学生男子の朝イチと言えば、俺のシャウエ○センがワッショイワッショイな訳で...しくしく、見られてシマイマシタ。
「気にすんな、小坊。私たちは見慣れてる訳じゃないけど、偶に見る事もあるからさ。ま、中学ショタは希少だけどね」
「陽子さぁん、忘れてください、お願いですからぁ。てか、ショタって何なんですかぁ?」
「ふふふ。気にすんなって言ったでしょ?ま、この後、私は仕事が終わるから、治まんなかったら言ってね?仕事が終わった後、治めてあげるから♪」
「♪じゃないよっ!♪じゃっ!!」
「ふふふ。ちょっとからかい過ぎたかな?よし、背中は大丈夫そうね。お尻見せて。隅々まで診ろって先生に言われてるのよ」
「しくしくしく。もうお嫁に行けない...」
「大丈夫、大丈夫。もしそうなっても私が貰ってあげるわよ?な~んてね?」
完全に遊ばれているよコレ。良いネタを提供しちゃったよコレ。平穏な日常はもう戻ってこないよコレ!
ベッドの上で手玉に取られたようにコロコロ転がされた後、よし大丈夫、と小さく頷いた陽子さんは何事もなかったように病着を元に戻し、シーツを掛けてくれる。
「よし、異常なしっと。じゃあ後で朝食が運ばれてくるけど、今度は通常食だからよく噛んで食べてね。お腹がチクチクしたり痛かったら直ぐにナースコールを押すのよ?」
そう言って何事もなかったように出ていった。あれ?もっとからかわれるかと思った。知らない人でも恥ずいのに、知ってる人にくまなく、文字通りくまなく見られちゃったから、マジで恥ずかしかったんだけど。でも看護師ってみんなあんな感じで、あまり気にしてないのかな?いや、そうであって欲しい。
運ばれた朝飯を口に運ぶ。久し振りに顎を使う物を食べたなぁ。うん、病院食も悪くない。と言うか、結構美味いんだな。量は少なめだけど。
その後、診察室まで、それまで車椅子で押して貰っての移動から、自分の足での移動へとチャレンジ。うん、痛み止めのお陰か歩けない事もない。これなら家へ帰れそうかな。と思ったら、担当医から意外な言葉が。
「あ~、夕方にもう一度来てね。飛弾先生も立ち会うから」
「...は?母さんが?確か母さん、今日は休みだって...」
「そうだね。でも夕方にもう一度来てね。私の為にも」
...ワカリマシタ。やっとノーパン生活から解放されて退院できると思っていたけど、こりゃ黄信号が点ったぞ?
病着を脱いだ時にギョッとする事のなくなった先生や看護師さんから、憐みの目を向けられながら病室に戻る俺。決してノーパンは自分の意思じゃないんだからねっ!?俺の血まみれだったパンツは何処に消えたんだろうねっ!
その後、病室に帰った俺は暇を持て余す。着替えすらない事から察する事が出来るだろう、暇潰しどころか勉強道具すらないのだ。マジでやる事が無い。かと言って院内をうろつく程、身体が平気な事もない。
先程診察室に行き来した時も、病室に辿り着く直前に痛みを感じていた。エレベーターを使わず階段を使ったせいだろうか?それとも痛み止めが切れかかっているのだろうか...明後日の月曜日は出校日なんだよな。大丈夫かな?
その前に智樹たちに入院している事を知らせたいんだけど、電話番号とか家に帰らないと分からないし。母さんにはあの後、一度も会ってないんだよなぁ。この病院で働いているんならいつだって会えると思ってたから、頼めば良いやと思ってたら、そのまま母さんは仕事休みで帰宅したみたいだ。連れて帰れよ!!
昼飯を食った後、暫くして痛み止めが効いている事で気を良くした俺は、手元に帰ってきていた財布を手にする。院内の売店に行く事にしたのだ。パンツを買うのだ!誰が何と言おうとパンツを買うのだ!!
午前中、診察室に行っている間に、遂に同じ病室に患者が一人入って来たんだけど、挨拶したら、あぁ...しか言わなかった。それどころかカーテンを閉められた。うぇ!?いきなり嫌われた?で、でも、夕方までの辛抱だ、きっと!黄信号だけど!
でも、短い間だけどノーパンな事は知られたくない!だからパンツを買いに行くのだ!
俺はナースステーションに財布を入れていた引き出しの鍵を返し売店に行く事を告げると、エレベーターに乗って売店のある一階に降りた。
本来、現金は持ち込みが認められていないが、自己責任で鍵の掛けられる引き出しに仕舞っておける。その場合は鍵はナースステーションに預ける事になるのだ。財布は運び込まれた時に持っていた物で、他には家の鍵と、警察が預かっていた着替えの入ったバッグだけだ。当然、その中にパンツなんて入ってはいない。
一階には外来患者や付き添い、見舞いに来た人で一杯だった。ノーパンの俺だ、うっかり病着がはだけでもしたら大事故...いや、大事件に発展する。細心の注意を払わなければ!
身体の痛みが出ないようにゆっくりと歩く。病着を着ているから周囲の人も気を付けてくれ、先を空けてくれる。有り難や。
無事に売店に辿り着いたが、下着売場の前で俺は固まった。ナンジャコリャ!前がガバッと開くパンツに、股がパックリ開いたパンツ、尻の開くパンツ...口を開けてパンツの前で佇む中学生男子、お巡りさんは間に合ってます、呼ばないで。
いや、安いんだよ?安いんだけどね?違うんだよ、俺の求めている物と。普通ので良いんだよ、普通のが良いんだよ!
目的の物が見付からず、項垂れながら売店を後にした俺は、エレベーターの前で思わぬ人物に出会うのだった。




