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√真実 -014 母の正体



 ふと目が覚める。あ、知らない天井だ。


 よもや俺がこの言葉を口にするとは思わなかったけど、お約束だからな。

 朝...ではなく、廊下からの喧騒を聞くと夕方のようだ。周囲を見ると、点滴?の袋がぶら下がっていて、オシャレとはかけ離れた鉄パイプ製の柵のあるベッドに寝かされているのが分かった。部屋の中は真夏の割りにとても快適なんだけど、動こうとすると身体中にじんわりと痛みが走り冷や汗が浮かぶ。うぐぅ...


 ああ、そうだった。瑞穂が襲われそうになってたのを助けたと言うか庇ったんだ。それでメッタ蹴りされて病院に...瑞穂は無事だって言ってたよな?あれは夢じゃないよな?でなければこうまでしたのに一生悔いが残るぞ?あたた、それにしてもあちこち沁みるような痛みが...ちゃんと治療はしてくれたんだよな?パンツまで下ろされて前も後ろもじっくりと救急の先生や看護師のお姉さんたちに見られたんだから、これで出来てない所があったら恨んじゃうかも...あたたた。痛み止めが切れてきたのかな?


「あら、目が覚めたのね?ここは病院だけど、どうしてここにいるか、ちゃんと覚えている?そう、じゃあ君の名前と生年月日は言えるかな?今夜は念の為、入院だからね」


 巡回していた看護師のお姉さんに優しく聞かれて答えていく。うん、たぶん記憶が飛んだりはしてないと思う。夢が間に挟まっているから、ごっちゃになりそうだけど。


「まだ夕食に間に合うけど、食べられるかしら?少しでも食べておいた方が良いんだけど...そうそう、君の彼女だけど...気を失って倒れたから、私たちの仮眠室で寝てるわ」

「えっ!?倒れたって...光輝が!?大丈夫なんですか!?」

「たぶん極度の緊張から、君が無事と知って緊張の糸が切れたみたい。念の為、血圧とかも測ったけど異常はないし、新たな怪我もないようだから安心して」

「...そう、ですか...大丈夫なんですね、良かった。って、あの()は彼女じゃないです!」

「あら、そうなの?一緒にいたんでしょ?それにあの心配の仕方からてっきり...う~ん、勘が鈍ったかなぁ」


 彼女がいないならあの子は狙い目よ!とアドバイスしてくれるけど、余計なお世話だよっ!!

 が、どうにも先程より痛みが増してきた。あたたたた。


「あら、そんなに痛む?ちょっと身体を横にしようか」


 看護師に手伝って貰いながら、仰向けから横向きに体勢を変える。怪我を負った側を下にすれば痛くなるのは明白だから、してない側を下にして。あ、ちょっとマシになった。

 ホッとしていると、シーツを被せ直そうとした看護師さんが何コレ...と言葉を失っていた。何コレって、何!?何があった!?

 看護師が慌ててナースコールを押す。え?ええっ!?何があったんだ!?


 次第に四人部屋の狭い病室に看護師たちが集まってくるが、俺への説明が無いまま俺の背中を見て皆顔を顰めている。最初に俺に声を掛けてきた看護師に至っては深刻そうな表情だ。ちょっ、何があったんだぁぁぁ!!

 すると看護師とは違う白衣を着た人が病室に入って来た...のだが、その人物に俺は目を剥いた。


「えっ!?か、母さん!?」

「...成る程、ちょっと酷いねコレは。担当医は...鹿取先生か、暫く来れ無さそうね。仕方ない、取り敢えず包帯の交換がてら処置するから、生理食塩水や洗浄液、ガーゼ、被覆材と替えの包帯を持って来て。真実、病衣を脱がすわよ」


 ええっ!?どうしてここに母さんが!?しかも母さんの指示で看護師たちがテキパキと動き出した。これって...


「ああ、やっぱり血で張り付いちゃってるね。整理食塩水や洗浄剤で浮かすしかないか。真実、沁みるけど我慢なさい。良いわね?」

「えっ!?ちょっ!ひぎっ!!いででででででで!!」

「動くな!真実!あんたも男だろ!?ほら、見てないであんた達も病衣を剥がしなさい」

「「「は、はい」」」


 有無を言わせないその態度は、間違いなく母さんだ。俺は涙を浮かべながら言うなりになる。てか、何で血で張り付いてんだ?って、まさか...夢の中の?



「ふう、あとはこの下だけか」


 パンツ一丁で看護師のお姉さま方に見られながら治療を施される。いや、良いんだよ?俺だって男だからさ。最後の防波堤であるパンツは死守されてるからさ。救急で運び込まれた時に剥がされて素っ裸にされちゃったのは、この際気にしない。あは、あはははは(遠い目

 なんて冗談を言ってる場合でもなかったりする。救急車で運ばれた時にちゃんと治療された筈なのに、起きたらまた無数の怪我を新たに負っていたという、ある意味ホラーな出来事が起きて看護師のお姉さんたちにも動揺が広がっているようだ。真っ昼間に運ばれたという事もあって専門医にも見て貰っていた筈であり、治療漏れがあったという事は考えられないのに、だ。それも無数に。これがホラーでなくて何だと言うのか。自傷行為だったとして、どうやって背中の手の届かない所に傷を増やせると言うのか。傷の上に更なる傷を作るのがどれ程痛みを伴うのだろうか、と。

 傷が増えた理由については、もう俺も迂闊には口に出せない。分からないで通すしかないだろうな。実際、何で夢の中の出来事が俺の身体に反映されるのかよく分かってないんだから嘘ではない。

 ところで、今、あとはこの下だけと言ったよな?それってまさか...


「...やっておしまい!」

「「「アイアイ!マム!!」」」


 あっーーーー!!

 お許しください、母さん。俺は今、貞操を失いました。って、命令したの母さんだし!!

 てか、こんなに大勢の女の人に大事な所をジロジロと見られてシマイマシタ。看護師さんにだけど。そこ、何だ普通ねとか言わないで。地味に大きなダメージ。普通のどこが悪い!そこのっ!ポークビ○ツって言うな!!ハーフサイズながらシャウエ○セン位はあるわっ!!たぶんだけど。並べた事はないから自称だ、自称。どちらにせよ料理した事ないんだろ!!って、マジでみんな揃ってそんなに一点に集中しないで欲しい。しくしく。もうお嫁に行けないわ。特に若そうなお姉さまばかりだし。何でそんなに嬉々としてるんだよっ!



「よし、もう無いわね。新しい病衣は...え?無い?貰って来て頂戴」


 ええっ!?それって...俺、暫く素っ裸のままなの!?うぎゃあああぁぁぁ!!包帯もぐるぐるに巻かれたけど、アレの周りだけ器用に避けないで欲しい。血まみれのパンツも回収されてしまったので、ついでに包帯で隠しちゃって欲しかった。てか、先程までのホラーに怯えていた看護師のお姉さま方の目が輝いているんですが?どういう事ぉぉぉぉ!?


「シーツにも血が付いちゃったわね。仕方ないから隣のベッドに移るか。真実、自分で歩ける?」

「ぅぅ...ちょっと痛くて無理かも」

「ならみんな、手伝ってやりなさい。仕事サボって集まって来ちゃってるから、人は余ってるしね」


 ジトッと周囲を眺める母さんに、看護師のお姉さま方が視線を外すケド...それって...やっぱりぃぃぃぃ!俺のハーフサイズシ○ウエッセンを上にして手足や尻を持って担がないでくれぇぇぇぇぇ!!怪我の部分を避けるならうつ伏せで持ってくれよぉぉぉぉぉ。ってか、あちこちに柔らかいモノを押し付けてませんかコレーーー!!俺のハーフサイズシャウ○ッセンがフランク○ルトになっちゃうぅぅぅぅぅ!!いや、フラ○クフルトは言い過ぎましたゴメンナサイ、フルサイズシャウエッセ○です。お姉さま方も、あらあらと口を押えてどこか嬉しそうな顔をしてらっしゃるぅぅぅ!!


「コラ!うちの息子で遊ばないでくれる?真実も!それくらいの事で反応しないっ!」


 無理言うなーーー!!

 てか、やっぱり母さんって、この病院の医師だったのか。今更だけど初めて知ったよ。今まで聞いた事なかったし、教えてもくれなかったからな。


「で?どうしてこんなにも傷が増えたの?また例の夢の話?」

「う...俺だってどうしてこうなるのかよく分かんないんだよ!」

「...まぁ良いわ。でもこの怪我の具合だと、もう一晩様子を見た方が良いわね。家に帰してからまた傷が増えたら私の休みが無くなるし。手続きはしておくから」


 って、明後日は母さん休みなのかよ!!息子の身より自分の休みの方が大事なのかよ!!


「ああ、明日、警察が事情を聴きに来るそうよ。その様子なら口は動かせるでしょ。ちゃんと答えてやりなさい。それと仮眠室で寝てる...黒生ちゃんだっけ?手を出さないようにね。分かった?あなたたちもよ?ほらっ!看護師長に怒られたくなかったら仕事に戻りなさい!」


 母さんに言われて散っていく看護師のお姉さま方。何か不穏な言葉も混じってたような気がしたんだけど...あ、やっと病衣を持って来て貰えた。もう隠さなくて良いかな?とは言え、痛みで体を動かせないので、持って来てくれた看護師に着させて貰う...けど、俺のフランクフルト(自称)をガン見しないでぇぇぇぇぇぇ!!綺麗に化粧された顔が涎で台無しだよーーーー!!


「ところで、何でこの部屋は真実だけ?」

「それなら一人は午前中に退院、一人は個室に移動。一人は集中治療室に、あと一人は...」

「ああ、亡くなられたんだったわね。どのベッド?」


 ええっ!?亡くなられた!?しかもその視線は...さっきまで俺の寝ていた血塗れのベッド。ちょっ!マジ勘弁してーーー!!


「ま、気にしなくて良いから。夕食食べて寝ちゃいな。寝なきゃ治りが遅くなるからね」

「分かった。けど、何で母さん、医者だって教えてくれなかったのさ」

「ん?言ってなかったっけ?ま、そんな些細な事を気にするより、今は治す事が先よ」


 そう言って病室を出ていく母さんと、夕食を取りに行ってくると言って出ていく看護師さん。ふぅ、何かどっと疲れが。あ、急に眠気が...飯を食べないといけないのに。ちゃんと起こしてくれ.る..かな...

 まだ外が明るい中、俺は微睡みに落ちていくのだった。






作者注


「...やっておしまい!」

「「「アラホラサッサー」」」

 

 ...なんて看護師が言う筈ないよな~

 それに「サー・イエッサー」は男の士官等に言う言葉。女性に言ったら激ヤバだそうで。ここは「アイアイ、マム」か、「イエス、マム」でしょう。

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