√トゥルース -023 それ、自分の力じゃないよね?
「どちらにしても金持ちの家のご令嬢みたいだな。小僧じゃ釣り合わないだろうから、オレ達が相手してやろうってんだ」
「なに、悪いようにはしないよ。何ならこの町一番の宿に部屋を取っても良いぞ?」
「そうだな。あそこはちょっと高いが、貴族様も泊まるような所だからな。どうだい?オレ達と...」
再びミーアが男の人たちに爪を立てないよう、ルー君が救い上げながら間に入ってくれる。そして...
「...はぁ~。まだ諦めないのか。大した目利きなこって。そう言うあんたらは、余程"良い宿に泊まってる"んだな。兎に角、"良い朝を迎えられれば良い"けどな」
「ふんっ!今夜は祭りの屋台で腹を満たすつもりだったから素泊まりの宿に部屋を取ってるが、姉ちゃんが一緒なら宿を移るさ。さぁ、行こうか姉ちゃん」
未だ何か勘違いしながらもルー君の後ろに隠れたウチに言い寄ってくる男の人たち。この人たち、何だか怖い...けど、ルー君って今...
しかし、そこに屋台のオジサンが顔を顰めて出てきた。
「おい、アンタたち。うちの屋台の前で諍いしてんじゃねぇよ!客でもないんならどっか失せてくれ!商売の邪魔だ!折角嬢ちゃんのお陰で並んでいた客が寄って来なくなっちまったじゃないか!」
「あ?おう、そうか。そりゃ悪かった。んじゃ、そんな奴は置いて一緒に行こうか、姉ちゃん」
ルー君の後ろにいたウチを連れ出そうと手を伸ばしてくる男の人。ふぁ!?
「おい!待てよ!何を勝手に連れてこうとしてんだよ!」
「お前と一緒よか、オレ達と一緒の方が良いに決まってる。ほら、こっち来いよ」
「そうそう。こいつ、隣町の町長の息子なんだぜ?」
そして他の一人は町一番の商家の息子で、もう一人は町一番の農家の息子だって。そう言われても...
「最近、町の教会にいた司教が変わっちまったけど、オレたちなら教会にも顔が利くから、信者のあんたに便宜を図って貰う事だって簡単さ」
だから、と更に手を掴もうとする男の人たち。ひぃっ!!ウチ、この人たちになんて付いていきたくないよっ!
「おい。いい加減にしな。嬢ちゃんが嫌がってるだろ。それでも嬢ちゃんを無理にでも連れて行こうってんであれば...おっ!丁度良い。官憲!こっちに来てくれ!」
屋台の前を警戒しながら通過しようとして立ち止まった官憲さんに手招きする屋台のオジサン。呼ばれた官憲の官吏さんは呼ばれる前から問題があると感じていたみたいで、直ぐにこちらに来てくれた。
「こいつら三人が、こっちの嬢ちゃんを無理に連れてこうとしてるんだ。しょっぴいてってくれんか?屋台の前でやられちゃ商売にならねぇ!」
「ああ!?無理にじゃないだろっ!俺らは親切心で言ってんだ!こんな小僧に付いてっても苦労するばかりに決まってる!」
「そうだ、そうだ。昼に別の醜い女を連れ歩いていたのはこの小僧だ。女をとっかえひっかえしているこいつは碌でもない奴に決まってる!」
「それに!オレの腕を見てみろ!小僧の連れてる猫に引っ掻かれたんだ!しょっぴくなら飼い主のこいつだ!」
屋台のオジサンが官吏さんに訴えてくれたけど、男の人たちはそれぞれルー君を責める。そんな!何で!?
「...そうなのか?どうなんだ?」
「先ず俺はニーを無理に連れ回してはない。それと昼に連れていたのは、このニー本人だ。そして猫が引っ掻いたのは、そいつがニーの首飾りに手を伸ばしたからだ。それは周りの人たちも見てると思う」
官吏さんがルー君に確認を取る。うん。ルー君の言ってる事はみんな本当だよっ!!
「首飾り?む?その首飾りは...もしや!お嬢さん。それってもしかして...」
「おい、待てっ!直接聞いて気分を損ねるなってお達しだぞ!それによく見ろ。聞いてる特徴そのままだ!」
「む。そう、だったな。ふむ...間違いないようだ」
ふぁっ?官吏さんたちがウチのネックレスと顔を見て何かおかしな事を口にする。な、何?
「ええっと、お嬢さん。貴女としてはこちらの人の言葉に賛同すると。間違いありませんか?何か少しでも違う事があれば、遠慮なく言ってくださいよ」
「ええっと、ルー君の言う事は何ひとつ間違ってません。ウチから頼んでルー君に付いてきているので...」
そう答えると、官吏さんたちはフムと顔を見合わせて頷くと、周囲の人たちに猫が引っ掻いた経緯に間違いがないか聞いて回る。
「おう、官憲。おれからも一言良いか?少なくともこの二人はうちの屋台に来た時からずっと仲は悪くなかったぞ?それに茶々を入れてるのはその三人なのは明らかだ。さあ営業の邪魔だから、さっさと連れてってくれ!子女誘拐未遂の現行犯だ」
「フム。先程の三人の文言からも、それは明白だな。三人にはちょっと来て貰うぞ?」
「マジか...クソっ!」
「そんな事して、親父たちが黙っちゃいないぞ!」
「ああ、親父たちが教会に働き掛けてくれるだろうからな。官憲とは言え、覚悟しろよ?」
官吏さんが三人を連れて行こうとすると、三人が口々に汚ない言葉を官吏さんに言うけど...何だか良い結果にはならない気がする。
「お前らはこの町の者なのか?でなければ荷物は何処に置いている?余所者なら手ぶらで来たのではあるまい」
「荷物は宿に...名前は知らないが、東にずっと行ったところの素泊まりの宿だ」
旗色が悪いのが明白だったからなのか、あっさりと了承する三人。でも...三人の宿を聞いた官吏さんたちが顔を見合わせて眉をハの字にする。ん?
「その宿だがな。つい今しがた物取りが入ったと連絡があったぞ?荷物を置いて祭りに出ていた者の荷物は粗方ごっそりだそうだ」
「「「何だってーーー!!!」」」
ガックリと膝をつく三人。え~!?泥棒が入ったって事!?気の毒だけど、食堂の店長さんとルー君が話してた通りになっちゃった。食堂で夕飯を食べたからと素泊まりの宿に行ってたら、ルー君の荷物も無くなってたかも。
「気の毒だが、犯人はまだ捕まっておらん。が、それとこれとは別だ。覚悟しろ?ところで貴方たちは大丈夫ですか?」
「ああ。俺たちはあっちの先の角を右に曲がったところの宿を取ってるから。あそこは大丈夫だろうな...」
「そうですか。安くはない宿なのに...流石です。あそこなら大丈夫でしょう」
「祭りの時は危ないって食堂の店長に聞いてな。そうか。なら安心して祭りを楽しめるな」
ルー君の返しに、捕まった三人が目を見開く。さっきウチを連れて行こうとした宿に、もう部屋を取ってる事が意外みたい。でも王都でアガペーネさんたちに、時には高い宿に泊まらなくてはいけない事もあるからと注意されてはいたんだよね。特に人の多い所で。ルー君はその言葉と食堂の店長さんの勧めに素直に従ったんだ。
...良かった。ウチだったら勿体無いからって素泊まりの宿にしようとしてたかも。
「...なあ、嬢ちゃん。官憲の奴ら、その首飾り見て態度がコロッと変わったけど、それって...」
「...ウチも貰ったばかりなので、詳しくは無いんです」
「そうか。ま、それには得体の知れない何かがありそうだな。それをあからさまに使うも、隠しておくも、嬢ちゃん次第だな」
そう屋台のオジサンに言われると、ウチはそそくさとふたつのネックレスを胸元へと隠した。チラッとオジサンを見るとウンウンと頷いていたので、ちょっとホッとした。やっぱりこれは人に見せちゃ駄目なんだよね?
「オッチャン、助かったよ。ありがとう」
「おれは屋台の前で諍いをして欲しくないだけだ」
屋台のオジサンにルー君がお礼を言うので、ウチも頭を下げた。本当に助かっちゃったけど、オジサンはあくまで屋台の為だって...ふふふ。
「...なあ、オッチャンって店を持ってるんか?」
「おお、持ってるぞ?この通りを真っ直ぐ行って街道に出た所の角さ。元は薬草を売ってたんだが、それだけじゃ食ってけれないからって香草や今は魚や肉も扱ってる」
「そうなんだ...明日の朝ってやってる?」
起きられればな、とのオジサンの答え。これで明日の朝イチの行動が決まったね。




