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√トゥルース -022 香草焼きの屋台



「女性を口説くなら、こんな所でやらずに会場にまで足を運びな。ここでやられちゃ商売の邪魔だ」


 慣れない視線に気恥ずかしさを感じていると、立ち止まっていた目の前の屋台のオジサンがジト目を向けている事に気付いた。ふぇ!?ウチ、今のって口説かれてたの!?

 慌てて屋台の前から退くウチとルー君。はうぅ...今のずっと人に見られてたのね。恥ずい...

 それにしてもこの屋台、何か良い匂いがする。お肉を焼いている様に見えるんだけど、そのお肉に何か葉っぱのような物が...


「ああ、香草焼きだよ。うちのは香りだけじゃなく薬効だってある特別製さ。お腹を整えて肌も艶っ艶になるんだ。どうだい?一本」

「...口説いてた訳じゃないんだけどな。でもそれ美味そうだな。一本...いや、ニーも食うか?じゃ、二本頼むよ」

「おう!ありがとよ!」


 いつもより早い夕食から時間が経ってたので、少しお腹が空いてきていたのに今気付いたんだけど、ルー君ウチの返事を聞く前にオジサンに注文しちゃった。ウチ、そんなにも欲しそうにしてたのかな?恥ずい...けど、美味しそうなのには勝てなかった。

 焼いたばかりのそのお肉を受け取ると、ルー君と一緒に口にする。はうっ!!ルー君と一緒に旅に出てからよく口にする様になった鶏肉の香りとは全く違う豊かな香りがお口の中にいっぱいに拡がった後、鶏肉の肉汁の甘さで頬が緩む。そしてそれは噛む度に甘さを増すんだけど、遅れて爽やかな香りとピリッとした刺激が鼻腔と舌を襲ってきた。何コレ~!!一度でいくつもの味や香りが楽しめるよ!?

 それはルー君も同じだったらしく、ほう!と小さな声を上げて目を丸めていた。


 二人でホフホフとそのお肉を屋台の前で食べていると、いつの間にかその屋台の前が人だかりに。ふぇっ!?さっきまで人がいなかったのに!

 ウチたちが邪魔になるかと思って離れようとすると、屋台のオジサンがそこにいて良いぞ?と言ってくれる。何で?とウチが首を捻っていると、ルー君が肩を竦める。


「俺たちは体の良い宣伝役みたいだな。ったく、宣伝費でも取ってやろうか」


 美味いから良いけどさ、と愚痴るルー君。ええっ!?ウチたちが食べているのを見てみんな並んだの!?そう言えばさっきも食堂の店長さんの屋台でお客さんが次から次へと来ていて、クリームが売り切れなのを謝っていたっけ。何でもクリームは手に入る量が少ないので、早い者勝ちだって...食べる事の出来たウチたちは運が良かったみたい。

 そして、最後の一口をあ~んと口に入れた時に、声を掛けてくる人が...

 

「おっ!良い姉ちゃんだな~」

「へぇ、本当だ。別嬪だな~」

「なぁ、この後オレ達とご一緒しないか?」


 もぐもぐごっくん。ふぁっ!?何?この人たち、もしかしてウチに言ってるの?ビックリしつつ、ルー君に助けを求めようとしたら、あれ?ついさっきまでここにいた筈のルー君がいない!?

 ウチに声を掛ける人なんて顔の痕のせいでまずいないだろうと思ってた。いえ、文句は山のように言われてきた。

 なのにこうして言い寄って来る理由は思い付くのが三つ。


 ひとつ目は、この灯火による薄暗い灯り。たぶん暗くてウチの顔はあまり見えてないのかも。

 ふたつ目は、この服。サフランさんに選んで貰ったこの服は良くも悪くも人目を集めているみたい。だって王都の人たちですら参考にしようとしていたんだもん。

 みっつ目は左側からウチを見ているから。ウチの顔の火傷のような痕は額から右の頬に掛けて。なので、左側は比較的にだけど綺麗には見えていると思うし、ひとつ目と被るけど、灯火の明かりも左側から...


 それにしても...ウチ、こういう人ってどうしたら良いのか分からない。全く経験が無いんだもん...免疫がないよ。ルー君がいないし、どうしよう!周りの人たちは見て見ぬ振りだし、屋台のオジサンはお客さんを相手にしているからこちらに気付いていない。

 ホントにどうしよう!このままウチ、連れてかれちゃうの?ルー君と離ればなれは嫌!!


「その服は王都で今流行しつつある物だろ?お洒落さんなんだね。それにその首の飾り...服の中に隠してないで見せてくれないかな?」


 ふぇっ!?このネックレスはひとつはルー君が作った物。それともうひとつは司教様からいただいた物で、人に渡しちゃ駄目って言われた。どちらも大事な物だから、肌身離さず身に付けていたのだけども、この服だと首回りが開いているから隠していても見えちゃうんだ。ううっ!どうしよう...



「それにしても、珍しい首飾りだな...ちょっと見せてくれや」


 しかし、ウチが一言も返さない事も意に介さず、その人たちの内の一人がウチの首元に手を伸ばしてきた。ひぃっ!

 すると、に゛ゃ!という声と共に、手を伸ばしてきたその男の人がギャ!という声を上げて手を引っ込めた。


「ガハハハハ。猫に引っ掛かれるなんて馬鹿だな」

「いくら若い女だからって、そうがっつくな」

「痛ってぇ...うっ!うるせぇ!ってか、その首飾り...何だそれ?」


 手を抑えながらも尚ウチに言い寄ってくる男の人たち。でも今のって...


「おい、俺の連れに何か用か?」

「...ぁ」


 ルー君!それに足元には男の人たちに毛を逆立ててるミーアも。さっき助けてくれたのはミーアだったのね!?ルー君たちは直ぐ向かいの屋台を覗きに行ってたみたい。


「ん?お前...昼に峠に来た...何だ、お前。あの醜い女は何処かに捨ててきて、今度はオレ達が先に声を掛けた女を掻っ攫おうってのか?」


 良いご身分だな!と言うその人たちには何となく見覚えが。峠の茶屋でうっかりお化粧してなかったウチの顔を見て顔を顰めていた何人かの内の三人組だと思う。あれ?まだウチの事が分かってないの?でも、これだけ近いと暗いって言っても普通は直ぐにバレちゃうよね?


「はぁ~。嘘は言ってねぇよ。そっちは俺の連れだ。嘘だってんならそこの屋台のオッチャンにでも聞いてみろよ」

「はんっ!だからって、お前が女をとっかえひっかえしてんのは変わらんだろ!」


 男の人の言葉に、ルー君はやれやれと肩を竦める。


「てか、何だ?その首飾りの青い石は。そんな色合いの石なんて、ここいらじゃ見ないな。」

「宝石...なのか?どこで買ったんだ?」

「それにもう一つは...もしかして姉ちゃん、教会の信者か?」


 ふぁ!?言われてネックレスがふたつとも露わになっていた事に気付いた。ミーアが飛び掛かった時に男の人の手がネックレスに触れたのか、ウチが咄嗟に身を翻したからなのか...何れにしても、どちらのネックレスも普段はあまり人目に曝してはいけないって事はウチにも何となく分かる。


 ルー君が作ったネックレスに嵌まる青く見える石は、ルー君の商材でもあるれっどないとぶるぅ(レッドナイトブルー)。昼間のお日様の光を当てると赤く見え、夜の灯火や月明かりでは青く見える石。特に月の光に(かざ)すと透き通ったような光り方をする大きい石を前に見せて貰ってる。でも今日は月はお日様と並んで浮かんでいたのを見たので今はもう沈んでしまっていて見る事はない。なので、青くと言っても少し濁ったような青色。知らない人が見たら変わった色の石ころにしか見えないかも...ウチもそうだったし。


 そしてもうひとつは王都から来た司教様から頂いたネックレス。それはパッと見て教会に関係した物だと直ぐに分かる形をしている。教会のシンボルである丸の中に星印の刻まれたプレートが付いているから。でもこれ、司祭様は勿論、司教様ですら持っていなかったと思うの。


 どちらもウチには勿体無いくらいの物だと思う。こんなのをウチが持ってても良いのかな?

 と言うか、こんなのを持ってるからこんな人目を惹いちゃうんだよ!どうしよう、ルー君!助けて!!





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