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√トゥルース -020 初夏祭?



「あ~、やっぱりここは美味いし、落ち着くなぁ」


 ウチとルー君は今、無事に峠を下りて宿のある町の食堂で早い夕ご飯を頂いている。ここはザール商会の常務であり商隊長のエスピーヌさんたちに初めて声を掛けられた食堂。

 この食堂でサフランさんとも知り合ったんだよね、あれから二ヶ月か...サフランさん元気かなぁ。

 それにこの食堂にはバレット村に帰る(・・)際にも立ち寄ってるから、約二週間振り。懐かしいなんて言葉を使うには最近過ぎるんだけど、、その間色々あり過ぎて遠い昔に思えてしまう。


 ...もう孤児院のみんなとは会う事もない...んだよね?捕まっちゃったみんなには悪いんだけど、ルー君のお仕事であの町を通らなくちゃいけないから、とっても憂鬱だったんだけど...あの人たちがいなくなって教会には新しい牧師様が来るって言ってたし、孤児院は暫くお休みするって...

 それもこれもみんなルー君のお陰。あんな所で待ち伏せされちゃって、ウチはまた連れ戻されそうになったのに、ルー君の機転で無事に乗り切れただけでなく駐在さんたちまでも味方してくれた。

 ...あの時のミール(ラバ)ミーア(白猫)ってば、イキイキしてて楽しそうだったな。


 膝の上でウチがあげるご飯を美味しそうに食べるミーアを見て思い出し、クスリと笑みが出ちゃう。

 ルー君もここのご飯を気に入ったのか、パクパクと凄い勢いで食べちゃったかと思ったら、店長さんのところにお話を聞きに行っちゃった。


 あと半日ほどでフェマちゃんの家に辿り着く予定。でも今日は時間的に日暮れまでには辿り着かないから、この町で一晩泊まってから向かう事になった。フェマちゃんが野犬に襲われるかも知れないって言ってたから、野営はしない方が良いだろうって...

 って、あっちでルー君と話してる店長さんが、野犬の心配は無くなったって言ってる。でも、この先では空き巣が多くなってるって...ウチたちは関係ないと思うけど、ルー君の荷物には大事な物が入ってるから、ちょっと心配。

 それにしても、やっぱりここのご飯、美味し♪ここで食べるって事は、またあの素泊まりの宿なのかな?



 でもウチのその予想は大ハズレ。何だか安い宿じゃなくて高い宿に泊まるって...勿体無いよ?ルー君。

 何でも今夜、この町で初夏祭があるんだって...初夏...祭?

 ウチ、お祭りって行った事ない。知ってはいる(・・・・・・)んだけど、どんな感じなんだろ。

 何でも、そのお祭りのせいで町以外の人も来るから信用出来る宿でないと危ないかも知れないってルー君が...えっ!?お祭りって危ないの!?


 目を丸くするウチを笑いながら、店長さんに聞いた宿に着く。

 ...何だか本当に高そうな宿だよ?ウチ、こんな高そうな宿は王都でアガペーネさんに連れてかれたザール商会のお向かいさん(王宮の目の前!!)しか泊まった事ないよ?あの時だってウチ、ほんのちょっとのお酒に酔っちゃって、ルー君に裸で抱き付いて寝ちゃったって過去がぁぁぁあああ!思い出しちゃったぁぁぁぁああああ!!は、恥ずかしいっ!!


 この宿にはお風呂があるって言うので、ルー君がお祭りに行く前に入って汚れを落とそうって。そういえばここ最近、手拭いで拭くだけだったから、土埃と汗で臭っちゃってるかも。

 じゃあって事でお風呂に行こうとすると、着替えはいつものではなく、王都でサフランさんに選んで貰った服の中でも、いつ着ようか迷うくらいの良い物をってルー君は言う。ウチの恩人であるルー君の頼みなら何でも聞くつもりだけど、どうして?と思ったら、お祭りに着ていく為だって。あれ?お祭りって危ないんじゃ...

 兎に角、お風呂に入ってサッパリした後は、服に合わせてお化粧をいつもより少し頑張ってみた。だって、ルー君に恥は掻かせられないんだから。



「...何か変かな?」

「いや。似合ってるよ、ニー」


 ウチがお風呂から出ると、そこで待っててくれたルー君。待たせちゃったかな?ちょっと自信が無かったから聞いてみたけど、似合ってるって言ってくれた。良かった~♪

 以前、王都のザール商会でドレスなんていつ着るのか分からない物を買って貰っちゃった時に店員さんたちにお化粧を教えて貰ったんだけど、あのお化粧はウチにはもう一度出来るのかちょっと疑問...いや、たぶん出来ないかも。でもこの位のお化粧なら今のウチでも何とかなってる。うん、ウチ頑張ったんだから!



 それからウチを連れ出してくれたルー君。お祭り会場は宿から直ぐそこだった。通りがお祭り会場になっていて、凄い人が右に左に歩いている。ふぇっ!あんなにも人がいるなんて!!

 そう怖気付くウチの手を取って握るルー君。え?え?


「...ルー君?」

「あれだけの人はニーは初めてだろ?もしはぐれたら宿に戻れば良いけど、それこそ時間が勿体ないからな。さあ、祭を楽しみ尽くすぞ!」


 そう言うとウチの手を引いてその人だかりの中へと入っていくルー君。ちょっと恥ずかしいけど、怖がりなウチの手を引いてくれるルー君マジ王子様っ!そして...

 ふぁああ...凄い!こんなにも人がいっぱい。なのにみんな楽しそう。既に灯されている通りの脇の灯火の光が、今にも沈みそうな黄金色に輝くお日様と相まって、とても綺麗。何だかみんなの笑顔が輝いて見える...

 ゆったりした流れに身を委ねて祭の会場を歩くけど、小さな子からお年寄りまでみんなニコニコしてる。こんなの、ウチ初めて!夢でも(・・)行く事のなかったお祭りって、こんなにも輝いて見えるんだ!



 通りに並ぶ屋台は馴染みある食べ物や見た事もない遊び場などが並んでいて、ひとつひとつの屋台に目を輝かしていたらしいウチをルー君が苦笑いして見ていた。ルー君は1000ウォルを出して自由に使って良いと言うけど、そんなのウチには選べないよ!

 食べ物の屋台はお肉の焼き物が一番多いけど、それぞれで味付けが違うみたいで漂ってくる匂いが様々。中には更に餡が掛かっていたり、衣が付いていたり...ふぁぁぁ、何だろあれ!


 そして果物やお菓子等の甘味類...食べた事のない物が目白押しなの!

 孤児院でも教会に差し入れられた果物を見た事はあったけど、それをウチが口にするのは身ではなく切って取り除いた種子や皮に付いたほんの僅かな実の(かす)。それでも口の中で芳醇な甘さが広がり、貴重なおこぼれだった。

 ルー君と旅をするようになって、初めてまともな実を口にした時は感動して涙が出たんだよね。それを見たルー君が焦っていたっけ。


 そんな思い出を浮かべてニヤついていると、ルー君がある甘味の屋台の前で足を止めた。それは甘煮した杏に透明な物が添えられている。あれは何だろう...

 そしてふと顔を上げると、そこには夕方に見た顔が...食堂の店長さんだった。



「どうです?初夏祭は。中々な賑わいでしょう。何か良い物でも見付かりましたか?」

「いや、これ程とは思ってもなかった。まだ見始めたばかりだけど、興味を惹かれる物が多くて目移りしてばかりで...」


 ルー君が苦笑いしつつ、店長さんの屋台に並ぶ杏の甘煮に目が行き、それを二つ注文する。うん、ウチもこれ気になったんだよね。だってこの店長さんが作る物なんだもん、美味しいに決まってる。ところが店長さんは更に美味しい食べ方があるって言う。


「残り三つ分しかないんですがね、乳脂...クリームを乗せると更に...後は実際に口にしていただいた方が良いでしょう」


 店長さんの提案に即答でそれを注文するルー君。あんなに言われて食べないって選択肢はウチにもルー君にもとれないよねっ!

 真っ白なそれの乗った杏を手にするウチとルー君。ふとルー君と目が合った。先に食べてみな、と。

 鮮やかな橙色に真っ白な山が乗り、その横に透明な物が寄り添う様は見ているだけでも飽きない。でもこれ、食べないと...


 そっと口を付けると、今までに味わった事のない甘さが口の中で踊りだす。ふわぁぁぁ!なにこれ!

 杏の強い甘さを、真っ白なクリームの柔らかな甘さが包み込んで落ちそうになるほっぺを何とか繋ぎ止める。美味しい!美味しいよ!これ。それにこの透明なのは控え目だけど別の甘さと弾力で美味しくて歯応えも違うから、口直しになってる。杏ばかりだと甘過ぎかもだけど、クリームとこの透明なのが調和させている。

 聞けばこの透明なのは葛粉を固めた物で、蜂蜜と少しだけレモンが入っているって...本当はこの葛粉を固めた物の中に杏を浮かせるつもりだったけど、上手く浮かせる事が中々出来ず時間がなかったって...それも美味しそう!


 その話を聞いていたルー君も杏に口を付けようとした時だった。


「おじさん!そのお姉ちゃんと同じのを二つください!」


 銅貨をいくつも握り締めた小さな子が店長さんにウチが持ってるのを指しながら注文してきた。でも...


「あ~、ゴメンね。あの白いのが乗ったのはあとひとつしか出来ないんだよ」

「ええ~!?そうなの?どうしよう...」


 あと三つって言ってたのをウチとルー君で二つ貰っちゃったから、残りはひとつ。その小さなお客さん、男の子の後ろには幼い女の子が。兄妹かな?大事なお小遣いを握りしめてお祭りに来たんだ...

 う~ん、どうしよう。ウチのはもう口を付けちゃったし...


 するとルー君が男の子に食べようとしていた白いクリームの乗った杏を差し出す。

 男の子はえっ?とルー君の顔と差し出された杏を見て、良いの?と。更にルー君は店長さんに最後のひとつを注文すると後ろの女の子に手渡した。


「これは君たちで食べてよ。俺は甘い物はあまりたべないからさ」


 ...ウチは知ってる、半分本当で半分嘘だ。

 ルー君、甘い物は好きなんだけど、沢山は食べないんだよね。

 すると、小さな二人は満面の笑みでルー君にお礼を言うと、それを口にして美味しい!と顔を綻ばせた。ふふふ。


 でも、それだとルー君がこの美味しさを知らないままなので、ウチのを分ける事にした。するとルー君は何故か躊躇したけど、それを口にすると目を丸めた。


「これはっ...完成形が楽しみだ」

「ははは。仕事の合間に色々試していますが、直ぐには完成しないでしょうね。まあ、秋の収穫祭には形になればと思っていますがね」

「収穫祭...か。来れるかな?今回は半年くらい帰って来られないかも...」

「完成したら店でもお出し出来るようにしておきますよ」


 うわぁ、それは楽しみ♪でも、今は四角く切ってある葛だけど、丸く出来ればもっと綺麗で可愛いんじゃないかな?そう口にすると、店長さんがそれだ!と声を上げる。わわっ、ビックリしちゃった。

 今まではバットという四角い大きな容器に流し込んで固めていたので、入れる杏が片寄ったり向きがバラバラになったりしていたみたい。切り分けようとしても杏が入っている入っていないが出てしまって売り物にならなかったそうで、葛の量を減らして杏を剥き出しにすると杏の甘さが勝ってしまいバランスが良くない。しかし、それを一個いっこ個別の容器で固めればみんな同じ量に出来るし、同じように固まるかもと。

 わわっ!これは本当に楽しみだね!!丸く固めた葛の中に浮かぶ杏...綺麗なんだろうなぁ...






活動報告の方にこの話のボツ原稿を上げます(ました)

良ければ読み比べてみてください。

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