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√真実 -004 夏の大会 地方大会1



「おっ!いたいた。あの青いユニフォームがウチの学校か」


 7月27日。

 夏休みに入って一週間、今日は陸上部の夏の大会、地方大会の日だ。

 俺たちの学年にとっては中学三年間の集大成を遺憾なく発揮する大事な日だ。今日負ければそれで終わり、勝てば中日本大会、更に残れば全国大会へと進む事が出来る...らしい。智樹に聞いて知った。

 どうやら少し遅かったみたいで、競技は既に始まっていた。ま、あいつらならこの地方戦は通るだろう、あんなに頑張ってたからな。


      ぉ~ぃ


 周囲を見ると、学校指定のジャージを着ている者もいる。たぶん一年生だろう、まだ大会に参加すら出来ないのかな?あ、あっちにウチの学校のジャージを着た集団がいるな。うん、近付かないようにしよう。どうせ知ってる顔はないだろうし。


     お~い


 さて、どこに陣取ろうか?全体を見るなら真ん中の上段かな?よく見たいなら競技をしている直ぐ傍の下段だろう。でも人気のありそうな競技の前には他所の中学の女子たちがキャーキャーと黄色い声を張り上げているから、やはり近付きたくはないなぁ。

 さて、どこにしよう。



「ちょっと!飛弾!」

「うひぇっ!ビックリした~!」

「何で呼んでるのにこっち見ないのさっ!」


 後ろから肩を叩かれてビクッとした。てか、変な声が出た!恥ずいぞ!この聞き慣れた声は...


「...綾乃ぉ、ビックリするから後ろから声を掛けるの止めてくれよぉ」

「ずっと遠くから呼んでたわよ!飛弾が気付かなかったからいけないのよ!」


 いや、この喧騒の中それに気付くのは無理だろ。先程の黄色い声や応援のダミ声、選手同士の掛け声に部の顧問教師からの指示の声等、かなりの張り声が飛び交っている中でそれを聞き分けるなんて。ん?今、俺の名前を呼ばれたような...ああ、上の方に黒生が...

 小さく手を振る黒生に、おう!と軽く手を挙げて返すと、目の前の智下が顔を顰める。


「...何であたしの声には気付かずに、光輝のあんな小さな声には気付くのよ。あんたの耳っておかしくない?」

「いや、気にしてるかしてなかったかの違いだろ。お前らはバスか何かで来たのか?」

「...誤魔化したわね?あたしはバスだけど、光輝は自転車よ。ってか、何であたしより遠いあんたと光輝が自転車なのよ!」

「何でって...お金が勿体無かったからだろ?」


 何を当たり前な、と憤慨しながら黒生の方に移動する。いくつか手荷物があるから黒生は席を離れられなかったのか。手提げバッグからは大きめの水筒の頭が見えるが、他にも沢山持って来ているだろう大きな荷物だ。


「...おはよ、真実くん」

「おう、早くから来てたんだな。それにしてもその荷物...持ってくるの大変だったろ?」

「...ん。ちょっとだけ大変だった」

「あたしはバスだったから平気よ?」

「いや、そもそも綾乃は荷物少なかったんだろ?そっちの小さな手提げと...傘?今日は雨の心配はないって言ってたぞ?」

「何言ってんのよっ!それは日傘よっ!!日中、座りっぱなしじゃ暑くて倒れるわよ?それに日に焼けちゃうじゃない!」


 おおう、運動部の連中とは違って日焼けが怖い口か、智下は。その横でハッとした顔をする黒生は大荷物のせいで日傘どころでは無かった様だ。日陰を確保するか智下にくっついているしかないな。


「ところで競技の方ってどうなってんの?」

「ああ、それなら華子が高跳びで順調に進んでるわよ?ほら、あそこ。次の次に飛ぶみたいよ?」


 智下の差した方に高跳びのバーが設置されていて、何人かが並んでいた。ふむ、今助走に入った娘の後に足をペチペチと叩いて軽くぴょんぴょん跳ねているのがそうかな?それにしても結構な高さだな。お、今飛んだ娘、クリアしたけど、際どくなかったか?確か徐々に高さが上げられていくんだよな。さあ、和多野が手を挙げたから今から飛ぶんだな。

 ゆったりとした助走からスピードを乗せて...おおっ!!余裕でクリアしたんじゃないか?


「まだまだいけそうだな」

「そうね、県大会には行ける筈って言ってたから、大丈夫なんじゃないかな。あとは記録がどこまで伸びるかじゃない?」


 パチパチと控えめに拍手する黒生の横に座って日傘を開いた智下が答えてくれる。ほう?和多野って優秀なんだな。道理でスポーツ特待生が云々って言ってた訳だ。

 それにしても、何かカメラマンが多いような?スポーツ紙の記者か何かかな?あんな高そうなレンズを付けたカメラを持って選手を追ってるけど...


「あ~。あれ、エロい人たちじゃない?ほら、陸上の女子ってユニフォーム結構際どいし」

「はぁ?何それ。そんなの許されるんか?」

「まあ、駄目よね。だからほら」


 係員っぽい人が何人かで見回っていて、退場を迫っていた。だよね!でもさ、そんなんがあると親や部活の先生が撮ろうとするのもダメって事だよね?全く、害でしかないな、それは!


 一方でハードル走はもう終わったそうだ。ウチの中学からは男子は残念ながら一本倒してしまい、それが原因で失速してしまったそうだ。女子は決勝には残ったが最下位に沈んだらしい。むう、幸先が悪いな。和多野がそれを吹っ飛ばしてくれよ?

 トラックでは今、半周を使っての競技を行っている。あれは200mか。聞けばこの後、100mの予選が行われるという。入口にスケジュール表が張り出してあったそうだけど、どうやら見逃したようだ。


「じゃあ、智樹は次だな。」

「100mと400mリレーだっけ?県内でも上位だって...残る...わよね?」

「心配しなくても残るだろ。智樹だし」

「くぷぷっ!何その理由は。でも納得ね、なんたって秦石君だし?」


 智下が笑いながら答えるのに合わせ、黒生もクスクスと笑う。そう、なんたって智樹だし、な!布田の出る幅跳びは午後からの予定だそうだ。昼飯は抑えてしか食えないだろうから、余った時間を昼寝してしまわないように誰か見張ってないといけないだろう。まあ、たぶんその役は和多野だろうが。仲が悪そうでいて、なんだかんだ仲良いんだよな、あの二人。二人とも否定はするけど、教室では偶に夫婦漫才だと揶揄されてるくらいだし。


 プログラムは順調に進んでいき、200mが終わって100m予選が始まった。智樹は三番目のグループのようだ。

 その間にも高跳びは進んでいき、残り三人となっていた。当然和多野は残っている。

 智樹がスタートラインに付く頃、和多野の番になった。うわあ、どっちを見ようか迷うな。和多野には悪いが、やっぱり俺は智樹を応援だ。


 スターターのおじさんがピストルを上に向けると破裂音と共に一斉に走り出す選手たち。

 おおっ!良いスタートを切ったぞ!?いけー!智樹ー!!半分を過ぎた頃には一人だけ抜きん出ている。このままいけば楽勝だ!そしてゴールラインを走り抜ける智樹に遅れて他の選手もゴールを切った。


「凄いね、秦石君。めっちゃ速かった!」


 少々興奮気味の智下に、いつもより早いスピードでコクコクと頷く黒生。二人とも口が半開きだぞ?でも...


「あれ、後半は力を抜いたんじゃないかな」

「ええっ!?そうなの!?」

「何となくだけどね。タイムも...一組目や二組目と比べても遜色なさそうだから、リレーや決勝に力を温存したんじゃないかなぁ」


 それは俺の予想だったのだが、後の昼休憩で本人に肯定された。

 ...あれ?何かワスレテルヨウナ?






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