表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/80

√真実 -001 週明けの教室

本日、二話目です。

ご注意ください。

夕方にもう一話を投稿予定です。

よろしくお願いします。



「おう、真実(まさのり)! おはよう!」


 そう手を挙げたのは、クラスメイトの秦石(はたいし)智樹(ともき)。今日も何とか遅刻せずに済んだな、と鞄を机の上に放り投げ、智樹におはようと返す。

 俺は飛弾真実(ひだまさのり)、中学三年生だ。


「……何だよ、相変わらず酷い顔だな~。また眠れなかったのか?」

「……いや、たぶん寝てはいると思う。けど、寝た気が全くしないんだ」


 机の上に横たわる学生鞄を力なく机の横のフックに掛け直すと机の上に突っ伏す。う゛~と唸っていると、智樹が後ろの席の俺に体を向けて椅子の背もたれに乗りかかり、本格的に聞く体勢になる。コピペのようなやり取りに辟易しながら、ああ、また話さなくては駄目かと溜め息を吐くと、嫌々ながら顔だけを上げ腕の上に顎を乗せた。



「で? 昨日はどうだったんだ?」

「ああ、行きに一日しか掛からなかった道程が三日掛かってもまだ辿り着かないんだ。歩きよりは速いけど、もう少し速い移動が出来ないと買った意味がないよ」


 中学三年になって同じクラスになった智樹は、俺の夢の中(・・・)の話に興味を持ち毎日のようにこうして聞いてくる。小学生の頃、それが当たり前だと思っていた俺は、学校で夢の中の出来事を毎日のように話してしまったのだ。それにより虚言を吐く嘘つきとして学校中に知れ渡り、一気にイジメの的となってしまった。

 中学に上がる頃には夢の話は決して口に出さないようにしていたのだが、極一部の者たちからのイジメは小規模ながらも続いていた。

 それが三年生に上がると、学年でもトップクラスのさわやかイケメンで知られる智樹に、夢の中の話が聞きたいと毎日絡まれるようになり、結果的にイジメはパタッと止まった。

 智樹様々だが、こんな得体の知れない俺の話に毎日時間を使う智樹の事の方が心配になる。

 事実、二年生までは智樹を中心にグループが出来ていたそうだが、三年になって俺に絡むようになってからは寄り付く者はいなくなった。

 いや、最近はそうでもないな。



「何言ってるんだ? 昨日だよ。結局道場には行ったのか? 智下や黒生が通いだしたんだろ? 真実は土曜か日曜のどちらかしか通って無かったけど、あの二人が通いだしたから真実もそれに付き合って両方行くようにするのかと……」

「いやいや、テスト週間で掃除とかを少しサボってたから、二日続けて道場に行ったら家の事が終わらなさそうだって事に気付いたのと、自分の稽古が出来なさそうだったから……」

「ほらみ~、今の聞いた? こいつって薄情よね。昨日てっきり来るものだと思ってたのに来ないんだもん。おかげであのロリコンチョンマゲを相手にする事になったじゃない!」


 俺と智樹の会話に入り込んで憤慨しているのは智下綾乃(ちげあやの)。2週間ほど前に街で男達に襲われかけていた所を俺が割って入って一緒に逃げたのが切っ掛けで、俺の通う護身術の道場に通う事になった。


 そして、その後ろには黒生光輝(くろはえきらり)。彼女もまた、智下と一緒に襲われそうになっていた所を助け出した形で、同じく道場に通う事になったのだが、それと同時に俺の料理の先生にもなってくれた。学校で黒生が喋っているのは極稀だったという話を聞くが、ちゃんと?普通に俺に料理を教えてくれているので、吃音症とかではなさそうだ、少し口数は少ないが。

 って、智下も学校では口数は少ない方だった筈なんだけど……


「……ロリコンチョンマゲ? 何だそれ」

「あ、秦石君、おはよ。聞いてよ秦石君。こいつ、あたしと光輝に幼妻を娶ったロリコンでチョンマゲ頭のオッサンの相手をさせといて、自分は知らないフリして家で寛いでいたのよ?」

「いやいやいや、俺って只の道場の生徒であって、お前らを教える立場じゃないんだからさ。何で自分のペースを崩してまで態々教えに行かないといけないのさ。ってかさ、それ昨日もやり取りしたよね!? 俺は家で家事をしていて、ちょうど一区切り付いたから一休みしていたところだったって言ったよね!?」


 何で朝イチからこんなに声を荒げないといけないのさ!

 智樹は今のやり取りで昨日の出来事を察したようだ。

 智下の後ろにいた黒生は、俺と智下のやり取りにオロオロしながらも智下を抑えようとしてくれている。


 土曜日に道場に行った俺は、いつも通り日曜の昨日は家の洗濯や掃除、布団干しなど朝から慌ただしく働いていたのだ。それを何やらプンスカ怒りながら約束もなく家まで突撃してきて、何が何やらである。黒生は律儀にもそんな智下を止めるべく家まで付いてきたのだが、ついでにと予定外の個人料理教室を開いてくれたのだ、マジ天使。褒めても何も起こらないが。



 そうこうしている内に良い時間になっていたのか、周りの級友たちが席に着く。

 この中学では、授業の前に毎朝読書の時間が設けられていて、各々が選んだ本を読む事になっている。その時間を利用して勉強するのも例外として認められており、俺たちは先週あった一学期の期末テストのテスト週間からこの時間を勉強に充てていた。

 これは智樹が提案した事で、中学三年である俺たちは高校受験を控えている為だ。少し早くないか?とも思ったけど、学力に多少不安がある俺にそれを却下して遊び呆ける勇気が持てず、智樹の主張を受け入れた。



「で? 夢の方は何か面白い話はあるのか?」

「……良いのか? 読書の時間だぞ? ったく、しょうがないなぁ。そろそろ宿を探そうとしてたんだけど、休憩中に川で水汲みしてた子供の手伝いをしたら、その子の家で泊まる事になったんだけどね、体調の悪いお婆さんと二人暮らしで、そのお婆さんがどうやら呪い持ちみたいなんだ。食べ物の味が分からない呪いだって」

「病気じゃなくて?」

「うん。一緒に住んでいる子が病気じゃなく呪いだって」

「……子供がそう言い切ったのか? 本人じゃなく。大人でも呪いを認識している人は少ないんじゃなかったか?」

「あ、そう言えば…… 老い先が短いだろうから呪いが解けて欲しいって言われてね。それが切っ掛けで彼女(シャイニー)が俺たちの呪いの事を喋っちゃったんだよ」


 その後、追及される事は無かったけど、懇願するような目が居たたまれなかった事もあって早々に床に就いたのだ。

 そんな夢の中の出来事を休み時間も使って智樹に話す。中三になってからほぼ毎日の事なので、周りの皆ももう気にしたりしない。最初の頃は、智樹(イケメン)がどうして(あんな奴)を構うのかと騒然としたものだが、そんな周りの声を気にもせず俺に毎日声を掛けてきたのだ。俺が言うのもなんだが、一言で言えば物好きである。




「で? あの計画で問題無さそうなのか? トモ(智樹)

「ああ。パソコンで調べてみたけど、京都の方はお土産を見て歩く時間もあるくらい余裕があるな。流石に奈良の方は時間が限られるから山の麓で我慢しておかないと昼を食べる時間が無くなりそうだけどな」


 給食の時間、土曜日に俺の家に集まって決めた修学旅行の自由行動の計画が、時間的に問題ないか智樹に家のパソコンで調べて貰っていた。それを同じ班になった、智樹と陸上部仲間の布田裕二(ふだゆうじ)が気にしていたのか聞いてきたのだ。

 しかし、智樹の返答を聞いて異を唱える者が。同じく陸上部の和田野華子(わたのかこ)である。


「え? 何? そんなに余裕があるなら、計画を詰めればアヤノ(智下)の言っていたところのひとつやふたつ増やしても行けるんじゃない?」

「馬鹿だな~、ワタ(和田野)は。そんな詰め込んだら見て回るだけで気の()く強行軍になるのは目に見えてるぞ」

「は? 馬鹿とは何よ! フダ(布田)こそ、時間に余裕があるからって居眠りとかしないでよ!?」

「はぁ? 流石に修学旅行で居眠りなんてする筈無いだろ!」

「分からないわよ? 何せ休み時間はずっと寝てばかりいるじゃない!」

「何を~!!」

「……待って! かこちゃんも布田くんも喧嘩はしないで! ね?」


 布田と和田野がいつものように言い争いを始めたが、学校では滅多に口を開かない黒生がそれを止めるのは最近の定番になりつつあった。今まで喋る姿すら見せなかった黒生が止めるものだから、二人もそれには素直に従う。他の誰もがこの二人の争いを止めるのは至難の業なので普段は放置する傾向にあったのだが、あっという間に二人を止めて見せる黒生はクラスの中でも注目を集める程だった。


「やっぱり黒生が止めに入るのは効果が高いな。出来れば陸上部に一人欲しいところだ」

「くぷぷっ! 今や名物だものね、華子と布田君の争いは。でも光輝は一人しかいないからね~。最近はあたしと飛弾が独占しているし。勿論、あげないから。ね、飛弾?」


 智樹の冗談に智下が笑って返すが、何だかその言い方は誤解を招きそうだ。幸い周囲の者たちはそこまで聞き耳を立てている訳では無さそうだが。


「そう言えばキラリ(黒生)もアヤノもヒダ(飛弾)の家に慣れた感じだったけど、そんなに入り浸ってるの?」

「いやいやいや、そんな事は無いからな!? テスト週間になってから一緒に勉強しがてら黒生に料理を教えて貰っているだけだからな!? 和田野さんだって一緒に勉強してたじゃんか!」

「……ふぅん。でもアヤノがヒダと二人でキラリを独占しているってのはどうしてなのかな?」


 何だか喋れば喋る程、何かと突っ掛かってくる和田野。これだから和田野とはあまり関わりたく無かったんだよな。相手の気持ちまで考えずズケズケと踏み込んでくる。一から十まで聞き出さないと気が済まない。そんなところが嫌いとまでは言わないけど、苦手なのだ。だからこそ今まで距離を置いていたけど、修学旅行で一緒の班になった為、そうも言っていられなくなったから仕方ない。

 やいのやいの言い争っていたら、またもや黒生が止めに入ってきた。顔を真っ赤にして。

 あ~。自分が絡む事で言い争われては、そうもなるって事だな。済まん、黒生。


「まぁ、智下と黒生は学校が終わったらまた真実の家で勉強をするんだろ? そういう意味で言ったんじゃないか?」


 智樹がフォローするように言ってくれたのを聞いて、和田野は眉を顰める。どうやら本当に受験勉強するのか?と嫌悪感を持ったみたいだ。勉強するより身体を動かしていた方が好きな和田野らしい反応だ。是非とも夏の大会で良い成績でも納めてスポーツ特待生の推薦でもゲットして欲しいところだ。

 まぁ話を聞く限り、最も良い成績を出せそうな智樹ですら特待生は無理だろうって事だから、和田野の身に天変地異が起こる事に期待だな。


 陸上部の智樹、布田、和田野は、今年の夏休みが中学最後の大会なので、間近な事もあって気合いが入っている。

 対して俺や智下、黒生は文化系の部活で活動もほぼ皆無と言って良い程だったので、比較的に時間に余裕がある。まぁ俺やたぶん黒生もだが、仕事でいない親の代わりに家事を行わないといけないので、暇ではないんだけどな。それもあって黒生から料理を教えて貰う事になったんだけどな。



 俺、智樹、布田、智下、黒生に和田野。今まであまり接点の無かったこの六人。切っ掛けは修学旅行の班決めで残り者となったからだが、今まで虐められながらボッチだった事を考えると、悪くはないなと思える。


 さあ、一学期の期末テストも終わってもう少しすれば夏休みだ。徐々に戻ってくるテストも、いつもよりも良い点数が取れている。今年の夏は何か良い事があると良いな。






本日、二話目です。

ご注意ください。

夕方にもう一話を投稿予定です。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ