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√トゥルース -016 立ち塞ぐ者たち


                  

「もう少しで町だな」


 村から出立した俺たちは間もなく森を抜け出ようとしていた。

 村に行く時は登り道なのと間違いの無いようゆっくり進んだので一時(いっとき)半掛かったが、下りは行員さんが先導するのを追えば良いので随分と早く、たぶん半分程の時間で町へ出そうだった。流石は月に数度、それを何年も通い続けている行員さんだけはある。

 それだけ速いペースではあるが、全く喋られない程でもない。村を出て直ぐに、行員さんがすぐ後ろのシャイニーの首元に光る物を目敏(めざと)く見つけ声を掛けてきた。


「お嬢さん。それはもしや...」

「え?あ、これですか?」


 シャイニーが話して良いか、更に後ろの俺にお伺いをたててきた。


「ああ、それは俺が作った物ですよ。要らない石を貰ってコツコツと磨いて、師匠...じゃなく叔父に譲ってもらった(チェーン)を使った首飾り(ネックレス)です。石を売る時にニーの顔を見て石を偽物だと断じる人や安く見積もる人が多かったので、顔よりそれに目が行けば商談が楽になるかな、と」

「ほぅ、中々考えるものですね。良い案だと思いますよ?ただ、普段は服の中に隠された方が良いかと。それを見て良からぬ事を考える輩は少なくないと思いますので」


 それを聞いたシャイニーは慌ててそのネックレスを服の中に隠した。まぁ、嬉しくて誰かに見て貰いたかったのだろうが、それが行員さんで良かった。村に通っているだけあり、石は見慣れているみたいだし。俺もうっかり普段は隠しておくよう言ってなかったから、同罪だな。




「ん?なんだ?あれは...教会の?」


 先頭を行く行員さんが馬の歩を緩めて顔を顰める。俺たちが先ず目指していた町の入り口を塞ぐように、少なくない人数が立ちはだかっていた。


「いえ、あれは...孤児院のみんなです。でも何でこんなところに?」


 しかし物心つく前から長年孤児院にいたシャイニーは、それが何者なのかを瞬時に判別した。そこには7~8歳くらいに見える子供から、ブクブクと太った年配のシスターまで様々な年代の人間が15人程、それも中にこの前シャイニーに絡んできた女たちが混じっていた。

 ...何か嫌な予感がする。


 左右は木や草で囲まれているので来た道を戻るしかそれを回避する事が出来ないのだが、道が狭い為に馬が転回出来ない。従って俺たちが村の方へ戻る事は出来ないのだ。

 馬を手前で止める行員さんに続き、俺たちもラバを止めた。


「私たちに何かご用ですかな?あまり良い感じには見えませんが...」

「いやな、おれたちはそこの化け女に用があったんだがな...まぁ、その前にここの通行料を払って貰おうか。なあに、全額教会に寄付するからそんなに身構えなくて良いぞ?おれたちは教会の為に無料奉仕しようってんだ、中々良い話だろ?お前らも持っている荷物ごと寄付しろよ」


 一歩前に出た若めの男がそう言うと、後ろの者たちも口々に同じような事を口にした。うわぁ、よりにもよってこのタイミングでか。

 俺は仕入れたばかりの商品である大量の石を。そして行員さんは俺が下ろして村に持ち込んだ多額の現金と振込用紙を持っている。行員さんのは言うまでもなく、どちらも大切な物だ。俺の荷物に至っては、ほぼ俺の全財産になるし、今後の活動資金の元になる。そんなのをこいつらに渡せば俺たちは首を吊らないといけなくなるから簡単には渡せないし、渡したところで碌な使い方をする筈がない。

 ...渡す気はないけど...さて、どうしようか。


 俺たちが今、こいつらより有利なのは馬やラバに乗っている事なのだけど、このまま無理矢理押し通ろうとして怪我をしたとでも言われると、後々面倒な事になる。特にこの町で銀行業務をしている行員さんは傷害事件にでもなったら大変だ。

 何か良い方法は...


 ふと視界の隅の白い塊に目が行った。

 ミーア(白猫)がこちらに振り向いて何かを言いたげにじっと見つめる。

 ...何だ?何が言いたい?と思っていると、ミーアが前足を軽くトントンと叩いた。あ、そうか。でも上手くいくかな。ミーア次第か?



 「おい!早くしろ!そうしないとこいつら気が短いから何を言い出すか分からんからな。それとそこの化け女は教会で奉仕する事が決まってんだ。残ってもらうからな。言っとくけど、応じないって言うなら覚悟しろよ?教会本部が黙ってないからな!」


 更に理不尽な事を言い出した男。こいつ、とうの昔に成人しているだろ。どう見ても教会の人間ではなくて孤児院に留まって甘い汁を啜っているようにしか見えない。その上でシャイニーに孤児院で奉仕活動を強要しようって言う。当のシャイニーはメーラの上で震えている。そんなん絶対渡す訳無いだろ!

 俺はミールから下りると、ミールに積まれた荷物を下ろす。そんな俺を見て行員さんもシャイニーも狼狽えている。気にするなと伝えたいが、口に出したらビックリ箱にもならなくなる。ぐっと我慢しつつ、目の前のミールの上のミーアを見る。


「お?そうか、お前は寄付してくれるか」


 ニヤリとする孤児院の連中を見て、馬鹿で助かったなとホッとする。


「...おい、そこを塞いでいたら危ないぞ?」


 俺は連中にそう忠告した後に、頼んだぞ?とラバの上の白い塊にボソリと言うと、ミールがうに゛ゃっ!とひと鳴きする。


 さあ、やるぞ?

 俺はおもむろにミールの尻をペシッと叩いた。それと同時にミールの上でミーアがに゛ゃあっ!と前足でペシッとミールを叩く。途端にミールがヴィ~~~ンと哭きながら両前足を上げた。

 さあ、演劇の始まりだ。


 ミールは途端に王都の牧場で見せた暴れラバと化した。跳んで跳ねて連中の方へと突っ込んで行く。

 あ。あの駄ラバ、喜んで暴れてるわ。もっとやれ!


 阿鼻叫喚に逃げ惑う孤児院の連中。

 舞い踊る駄ラバの上では、巧みにバランスを取ってぺしぺしとコントロールする白猫。あいつ、凄いな。あの状態で乗りこなしてやがる。

 例え連中が怪我をしたとして、道を塞いでいた連中に暴走したラバが突っ込んだ話なのだ。道を塞いでさえなければ、怪我をする事はなかったのだ。自業自得である。荷物を降ろしたのは単に揺すられるのが嫌だったのと、軽い方が跳び跳ねるのに都合が良いだろうと思ったからだ。


 それにしても...

 意外や連中は四散する事なく、俺たちから離れた一所(ひとところ)へとミールによって固まっていく。まさか、あれはミーアが意図して?

 一人も残さず道の端まで追い詰めて行く。その先は畑に引く用水路だ。逃げ場を失った連中が、血走った目のミールに怯え恐れ慄いて、ある者はぶつかり、ある者は押しやり、ある者は倒れ、行き場を失い唯一の逃げ場だった用水に身を投げていく。

 ドボンドボンと何本も水柱が立っていくのを見たミールが更に喜んで跳び跳ねる。すると残っていた者もそこが唯一の逃げ場と認識したのか、そこにいた全員が身を投げた。

 7~8歳くらいの子は大丈夫かな?と心配もしたが、辛うじて足は着くようだ。いや、ブクブクに肥えたシスターがバシャバシャと溺れかけているけど、誰も助けようとはせずに我先にと逃げ惑っている。誰か教えてやれよ。


 と、少し油断していた。

 気が付けば、あの男が直ぐ近くにまで迫っていた。


「このぉぉぉ!やりやがったなぁ!!」

「うわっ!っと、あれはラバが勝手に暴れただけだ。俺は関係ないぞ!?」


 半分嘘だ。けしかけたのは俺だ。しかし、半分は本当である。ミールは今でも俺たちの手を離れると、途端にあのザマである。村で雷に驚いて馬たちが逃げ出した際にも、最後まで捕まらなかったのはミールだ。最終的に餌で釣った。

 まあミーアとの組み合わせで、ああも踊ってくれるとは思わなかったが。ミーア、優秀だな。今夜はご馳走をあげよう。あいつ、人と同じ物を好むからな。


 と、今は目の前のこいつを相手にしないと。

 今まで甘い汁を啜っていたと分かる肥えた体型からか、動きは大した事は無さそうだ。しかし...


「ぬをっ!あっ、危ねぇ~。凶器なんて、もう犯罪だぞ!?」

「う、煩せぇ!!とっととそれを渡しやがれっ!でないと大怪我するぞっ!」

「まだ寄付が云々と言うつもりか!既に強盗になってるのに!」

「煩いっ!おれたちは教会に守られてんだ!そのくらい、何とでもなる!それよりこの事は問題にさせて貰うぞ!覚悟しろよ?」


 はぁ!?この期に及んで、まだそんな事を言うのか!こいつ、もう何を言っても無駄だな。メーラの上でブルブル震えて怯えているシャイニーの様子から、この男がシャイニーにどんな仕打ちをしていたのか想像も出来ないが、きっとかなり酷い事をしていたに違いない。そう思うと何だかメッチャ腹が立ってきた!


 荷物をメーラの方に放り投げ、また凶器(棍棒)を振り上げてきた男に向き合うと、その動きをつぶさに観察する。


「ひぃっ!ルー君!!」


 降り下ろされる凶器に、シャイニーが悲鳴を上げる。これまで受けてきた仕打ちを思い出しているのだろう、その悪意が今は自分にではなく俺に向いているのが恐ろしくて仕方ないようだ。しかし、鈍い。昨日まで師匠を相手に稽古していたのだから。

 俺は慌てずそれを寸でのところで避けると、凶器を持っていた腕に手刀を打ち込んだ。凶器を落とし、あがぁ!ともう片方の腕で押さえる。

 ...そんなに強く当ててない筈なんだけど。痛みに慣れてないのか?躊躇なく凶器を振り上げてきた事を見るに、それを人に向けるのに慣れているように見えるのに、だ。これまでシャイニーのような弱い者しか相手にしてなかったのだろう。本当に屑だな。


「こっ!この野郎!もう容赦しねえぞっ!」


 容赦しないのはこっちの方だ。

 殴りかかってきたところを腕を横に流すように掴んで引っ張り、足を払う。足の運びが丸でなっていない男はそのガタイから体が宙に浮く事もなく、その場で地面にダイブした。わぁ、痛そ。

 


「そこまで!一同、そこまでだ!」


 そこに乱入してきた者が多数、気が付けば周囲を包囲されていた。





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