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√トゥルース -009 キナ臭い話と伝承


                     

「「は?どういう事?」」


 思わずニーフが俺を睨むが、声が揃ったのは仕方ないと思う。それに対して師匠は驚く事もなく、俺たちの様子を静かに見ていた。

 ...師匠は知っていたみたいだけど、何で教えてくれなかったんだ?


「一応それが村の掟だからな」


 父さんの言葉に村長も頷く。

 俺たちはついさっき、石の卸し値の値上げを宣告されたのだ。それも一気に約八割増し。俺たちが声を荒げるのも無理はないだろう。

 話を聞けば、石の値段はこの家の次男の初めての行商で決まると言う。ある一定の量を持たせ、自由に売らせて、いくらで売れたかでそれを元に一定の儲けが出るよう算出する。その計算はこの家の家長と村長にのみ明かされ、他の者には誰であろうと知る事は出来ないという。今回は実に約二十年振りの価格改定らしい。


「逆に言えば、今までが安過ぎたんじゃ。五年しか行商をしておらんニーフでさえ、かなり儲けたじゃろう」


 村長にそう言われ、ぬぅ...と言葉を詰まらせるニーフ。その様子から、既にしっかりと儲けは出しているようだ。


「くそっ!やっぱりトゥルースに関わると録な目に遭わないっ!」


 それこそ言い掛かりだ。俺のせいではない。

 それに俺の方が実害は大きいと思う。大きな儲けは今回こっきり。五年間も儲けて歩いたニーフとは土台が違ってくるのだ。


「飯も不味かったし、もう少し早めに教会を出ていれば...寄付をあんなに弾むんじゃなかった」


 おおう?メシマズな教会?もしや下の町の?ニアミスしていたのか。危ないところだったな。それにしても...余所者にはあの教会の裏の事は分からないだろうけど、寄付は(とど)まる事はないのだろう。それはアイツらが飢える事がない事を意味する。何だかもどかしいな。




 その後、昼を過ぎていた事もあって昼食を先にとる事になった。ニーフは項垂れながら村長と共に家へと一旦帰っていった。

 外は強風はある程度治まっていたが、雨はまだ勢いを弱める気配はない。激しく鳴り響いていた雷だったが、今は雲が遠ざかったようで落ち着きを取り戻している。

 石の採掘の連中も、雨が降りだす前には作業を中断し帰宅したとここにいた村長に報告されていた。無理をしてまで石を掘る必要もないくらいは在庫はあるようだし、卸すのは村出身の者だし一度に卸せる量も年齢で決められているので、採る量も程々で良いのだ。その少ない産出量が石の価値を高めてもいるのだから。それに携わる者は皆、村の人間であり、全て親戚でもある。無理をして事故を起こす訳にはいかない。


「たんとお食べよ?シャイニーちゃん。遠慮は要らないからね?ルースは自分で装いなさい」

「...扱いが違い過ぎないか?」

「何?ルースもお客様になるつもり?」

「...いえ、良いです」

「あ、あの...ウチもお客様扱いじゃなくても...」

「駄目よ?あなた、自分でだと少な目に装うでしょ。もっと栄養つけないと丈夫な赤ちゃんを産めないわよ?」


 母さん...本当に遠慮なしだな。ここは俺は聞いてないフリだ。てか、やっと普通に見えるまでに栄養が付いてきたシャイニーだが、以前は栄養不足でもっと細かったのに気付いているっぽいんだけど...

 それから昼食を食べながら道中の話をしていく。たぶんシャイニーがいなければ、こんな話はしなかっただろうな。今は人見知り全開で口数の少ないシャイニーだが、所々で俺の話に補足を入れてくれる。師匠は父さんと何やら難しい話をしながらもガツガツと食い散らかしていた。


 それにしても今日はある意味凄い日だな。滅多に帰って来ない村出身の売人が俺を含めて三人も帰って来るなんて。五年目のニーフは年に二~三度程の頻度で帰省するが、二十年目の師匠は一~二年毎の帰省だ。

 これは歳によって卸して貰える石の量に依るところが大きい。年齢が高くなる程、卸す量が増えるのは信頼度の現れでもあり、経験の浅い者が無理して遠くまで行ってしまうのを防ぐ為でもあった。成人しているとは言え、親心が働いて心配なのだ。だからこそ、元気な姿を見せに定期的に帰って来いと。

 もっと年上の人になると、家庭を余所で持つ事もあって五年や十年帰って来ない者もいる。中には職を変えている者もいるのかも知れない。石の取り扱いは小遣い稼ぎ程度にでもしているのだろう。


「何?また東の国は戦争を始めるのか?」

「ああ。今でも小競り合いは続いているんだけどな。俺が通り掛かる時に国軍が装備を馬車に詰め込んでいるのが見えた。ありゃ大規模にぶつかる気満々だな」

「ふぅむ。流石に国境付近に近付こうとする村の者はいないと思うが、一応注意喚起はしておかなくてはいかんな」


 師匠が何かキナ臭い話を始めた。戦争だって?そんな所は近付きたくないな。とは言え、昔から仲が悪く、何度も戦争を続けていると言う二国は、山脈を越えた先の隣国を挟んだ先だ。それにそちら方面は山脈が壁になっていて、結構迂回しないと行けない地形だ。

 って、師匠...もしかしてその山脈を越えて?



「そう言えば、この国でもキナ臭い話があるって聞いたな。一時期、国軍が大勢で移動していたとか、王宮内で何かあったとか...王都に行ってたトゥルースは何か聞いてないか?」

「え?ああ、そう言えば。軍の大型馬車が何台も走って行ったって話を聞いたけど、後から殆んどが戻って来たって...戦争の準備とかじゃなかったらしいよ。王宮は...あれ?何だっけ。石を買って貰えそうにないとか何とか?」


 虚覚えだった俺が首を捻ると、それならとシャイニーがフォローしてくれた。


「ええっと、れっとらいとぶるぅ?でしたっけ、そのルー君から買い取った石をアガペーネさんが王宮に見せに行ったら、その石が好きな筈の王妃様が興味を持たなかったって...それに王女様に至っては姿すら見せなかったって言ってました。王女様が行方不明になっているって...王族の呪いなんじゃないかって...」

「...れっとらいとぶるぅじゃなくて、レッドナイトブルーな。ってか、王族の呪いねぇ。それって昔から言われているけど、作り話じゃないのか?」


 師匠がシャイニーの間違いを正しつつ、その話に怪訝な顔を向ける。勿論、シャイニーの話を疑う訳ではないのだが、最後の王族の呪いだという話に引っ掛かったのだ。それは他の者も同じで、一様に難しい顔をしていた。


「ああ、思い出してきた。確かその王女を探しに軍が動いたんじゃないかって話だったんだけど、国境近くの史跡の方に行った後、大半が直ぐに帰ってきたって」

「国境近くの史跡?それって西のか?竜の伝承のある...」


 俺が思い出した話を話すと、師匠が眉を顰めた。

 は?何だって?竜?あの昔話の?ああ、そういえばそんな話も聞いたな。昔話だと、村の者がその竜と友達になったけど、最後は竜と共に村の者も死んでしまうという悲しげな話だった

 しかしアガペーネたちの話では、その史跡が街に竜が降りてこないようにする為の防衛ラインだったのでは?と。



 しかし師匠曰く、作り話のような昔話が広がっているけど、遺跡近くの小さな村には少し違った話が伝わっているとの事だ。


「昔話の中の村の者は実は死んでなかったって話だ。しかしあまりにも悲しくてか、その者は村から姿を消したという。それ以後、その地には時々その者がその当時の姿で現れる、と」


 うぇっ!?何その最後はっ!?御伽(ファンタジー)からいきなり怪談(ホラー)になったよ!思いっきりゾワリとしたよ!

 ほら、シャイニーも膝の上に乗せていたミーアを抱き上げてぷるぷる震えて...って、あれ?ミーアまで震えてるよ!?


「まあ、そんな伝承もいつまで続くか...その村の過疎化が激しくて、な... 若い者は皆王都へ移り住んでしまっているから、残っているのは老い先短い爺さん婆さんばかりだったからな。もう何年も前の話だ。今ではあと何人残っているやら...」


 やはり特産も無ければ名勝も無い地方の片田舎にしがみつくような人は少ないのだろう。唯一、史跡があるという話だが、それも由来等がハッキリせず見栄え的にも大した事はないという。

 そんな所に観光しに向かう者は先ずいないだろうから、自給自足がやっとだろう。


「今では国境の検問所が史跡の近くにあるが、その道はかなり険しくてな。検問所も小さいから、せいぜい犯罪人の流入を防ぐのが仕事だろうけど、本来の徴税は愚かそれすらも出来ているのか怪しいくらいだ」


 出入国に於いて、その人数や持ち込む品物により課税されるのはどこも同じ。道なき道を行けば税は免れるが、下手をして遭難でもすれば命に関わる。 そこまでして納税を免れようとする者も多いが、流石にそこまで取り締まろうとする事はないという。人員を割けばそれだけ人件費が掛かるし、取り締まる側も危険に晒されるからだ。

 検問所のある道はある程度の安全性は国が保証しているので、ある意味では通行料であろう。しかし、そこを通る道の険しさは折り紙付きなので、その検問所での徴税はあまり積極的ではないという。

 因みに西の隣国とは、その更に西にある帝国へのルート上という事で友好な関係を保っているので、余程の事がない限り攻め込んで来る事は無いだろうとの事だ。


 結局、軍が動いた話、王女が行方不明になった話、史跡の歴史、その村の竜にまつわる伝承...どれをとっても何も分からないと言う他なかったが、この国での戦争の兆しは無いだろうという結論に至り、石の仕入れの話へと戻る為、場所を移すのだった。





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