モテるアイツは
あいつは女子にモテる。確かに良い奴だし、顔がいいのは認めよう。
だけど、きゃあきゃあ言ってる女子達は、あいつを何も分かっていないのだ。寡黙でクールとは言うが、無口なだけだし、成績はいいのに時々天然だし、クラスの男どもが話すエロ話だって嬉しそうに会話に混ざる奴だ。
それなのに女子達は俺とは別の生き物の様な眼差しを送る。それは、憧れのあの子も例外じゃない。
……なんだか無性に腹が立ってきた。
いっそ、あいつ本当はこんな奴なんだよと言いふらしてやろうか。そうだ、そうしてやろう。
「おっす。何にやついてんの?」
驚いた。あいつが後ろから声を掛けてきたのだ。
「な、なんでもねえよ」
「ふーん、次の授業、体育館に集会なのは知ってるよな?」
「知ってるつーの」
「じゃあさっさと行こうぜ」
あいつは歩き始めたが、すぐ足を止め、振り向いた。切れ長の瞳が俺を捉える。
「お前がさっき考えていた事、当ててやろうか?」
「……えっ」
俺は焦る。まさかこいつ読心術が使えるのか?
奴の口角は不敵に上がる。まずい……
「今日発売する、奈々ちゃんの写真集の事考えてただろ」
「……は?」
予想外の言葉に、素っ頓狂な声が出る。
「にやつくのも分かる。清楚キャラだった奈々ちゃんがついに水着デビューだもんな」
奈々ちゃんとは今話題のアイドルである。胸が大きい。
「あ、ああ……俺は今日帰りに本屋で買うつもりだ」俺は適当に話を合わせる。
「多分本屋に行く頃には売り切れてると思うぞ? 俺はすでに、ネットで三つ予約してある」
こいつはこんな事を言ってるのに、クールな表情を崩さない。ふいに奴は静かな微笑を浮かべた。
男の俺でも、思わずドキリとした。
「一つはお前の分だぜ。お礼は8イレブンのレッドホットチキンな。」
「……おう! 感謝を込めて二個奢るわ」
「マジか、やったね。」隣にならんだこいつは、嬉しそうに頬笑む。
――やっぱりさっき考えた事はナシだ、言いふらすのは止める事にする。
こいつは変な奴だが、格好いい男だ。
こいつと付き合う女子は、可愛くて、こいつに負けないくらい変な奴なんだろうな。
そんな事を考えたら、可笑しくて、口元が緩んでしまうのだった。