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加賀くんシリーズ

モテるアイツは

作者: 椎名 幸夢

挿絵(By みてみん)

 あいつは女子にモテる。確かに良い奴だし、顔がいいのは認めよう。

だけど、きゃあきゃあ言ってる女子達は、あいつを何も分かっていないのだ。寡黙でクールとは言うが、無口なだけだし、成績はいいのに時々天然だし、クラスの男どもが話すエロ話だって嬉しそうに会話に混ざる奴だ。


 それなのに女子達は俺とは別の生き物の様な眼差しを送る。それは、憧れのあの子も例外じゃない。

 ……なんだか無性に腹が立ってきた。

 いっそ、あいつ本当はこんな奴なんだよと言いふらしてやろうか。そうだ、そうしてやろう。


「おっす。何にやついてんの?」

 驚いた。あいつが後ろから声を掛けてきたのだ。

「な、なんでもねえよ」

「ふーん、次の授業、体育館に集会なのは知ってるよな?」

「知ってるつーの」

「じゃあさっさと行こうぜ」


あいつは歩き始めたが、すぐ足を止め、振り向いた。切れ長の瞳が俺を捉える。

「お前がさっき考えていた事、当ててやろうか?」

「……えっ」

 俺は焦る。まさかこいつ読心術が使えるのか?

 奴の口角は不敵に上がる。まずい……

「今日発売する、奈々ちゃんの写真集の事考えてただろ」

「……は?」


 予想外の言葉に、素っ頓狂な声が出る。

「にやつくのも分かる。清楚キャラだった奈々ちゃんがついに水着デビューだもんな」

 奈々ちゃんとは今話題のアイドルである。胸が大きい。

「あ、ああ……俺は今日帰りに本屋で買うつもりだ」俺は適当に話を合わせる。

「多分本屋に行く頃には売り切れてると思うぞ? 俺はすでに、ネットで三つ予約してある」

 こいつはこんな事を言ってるのに、クールな表情を崩さない。ふいに奴は静かな微笑を浮かべた。

 男の俺でも、思わずドキリとした。


「一つはお前の分だぜ。お礼は8イレブンのレッドホットチキンな。」

「……おう! 感謝を込めて二個奢るわ」 

「マジか、やったね。」隣にならんだこいつは、嬉しそうに頬笑む。

  ――やっぱりさっき考えた事はナシだ、言いふらすのは止める事にする。

 こいつは変な奴だが、格好いい男だ。

 こいつと付き合う女子は、可愛くて、こいつに負けないくらい変な奴なんだろうな。

 そんな事を考えたら、可笑しくて、口元が緩んでしまうのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・*)すごい!とても短い話なのに奥ゆきが深い!そしてすごく青春!かなり好きな作品かもしれません。 [気になる点] ∀・)ずばりモテるこの男……! [一言] ∀・)椎名様の文章表現力が何気…
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