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異世界探偵 京二郎の目糸録  作者: 水戸 連
終章:執念と情熱の讃美歌
57/96

1 空席

 羅針盤の針が天を目指してチクタクと回っている。


 グランブルト王国の一角。

 雨風を防ぐには十分だろうが、市街地の一軒家を名乗るにはあまりにも古びている、と言わざるを得ない住宅。


 中には、少年が一人。

外観に見合わず新調されたと思しき椅子に腰かけ、古びたハードカバーの本を読んでいる。

 息遣いと、ページをめくりこすれあう紙の物音だけが部屋に響いていた。


 しばらくして、屋外から足早な靴音が近づいてくる。周囲の民家は足音が聞こえるほど近くにはない。少年は意にも解せず、といった調子で首をうつむいたまま。

 外の気配が玄関先でぴたりと止まると、こんこんこんこんこん、と規則的に五度、扉をノックする音がする。


「開けてもいいかな」


 ドアの向こうから、やや高く、芯のある声が聞こえてくる。少年はようやく顔を上げたかと思うと、本をぱたんと閉じて小さく口を開く。


「どうぞ」


 扉が淡く、青色にぼう、とまばらに輝いたかと思うと、こん、と一度たたく音がし、それらを規律させ、六芒星の軌跡を映し出す。

同時に、古びた家の扉が軋みながら内へと開く。


 視界に入ってきたのは、全身を顔に至るまでフード付きのローブで覆い隠した小柄な影のような人間だった。


「お久しぶりですね」

 あやしげな風貌、としか称せない影に対して、少年は親しげに声をかける。


「やあ、久しぶり。お邪魔してもいいかな、ロビン君」

 応じる影の声もまた、上機嫌な色を隠しきれないような、ほんの少しだけ上ずったものだった。


 ロビンと呼ばれた少年はもちろん、と言いながら席を立ち、

「そうだ、淹れすぎて余っていたんです」

 机のポットを少しだけ掲げてみせる。


「コーヒー飲みますか、クルビエさん」

「ああ、いただこう」


 客人――クルビエは手慣れたように手荷物を片隅に置くと、音も少なにゆっくりと腰かける。

 ロビンはそれを見てクスリ、と笑いながらコーヒーをポットからカップへと注ぐ。

「なんだ、何かいいことでもあったのかい?」

「久々に友人に会えました」


 クルビエはふうん、と返事にもなってないようなうなずきを返すと、

「キミも昔と違って軽口をたたくようになったなあ」

 などと、感慨深げにつぶやいた。


 ロビンは微笑んだまま、クルビエの前にカップを置く。

「どうぞ。砂糖はそちらですよ」

「ありがとう。そのあたりは変わってないね」

 クルビエは戸棚に手を突っ込むと、白い陶器を取り出し、机に置き、中から砂糖を二杯取り出し、くるくるとかきまぜる。


「最近は忙しいと聞いていましたけど、今日はどうされたんですか」


「冒険仲間の方は大陸外に大物を狩りに行っちまったし、研究仲間は別プロジェクトが忙しいとかで暇になってね、サボりがてら友人二人に会いに来た――つもりだった」


 二人は同じ方へ目線を向ける。そこには、空白の席が一つ。


「それはありがたいですが、期待には半分しか答えられませんでしたね」

「君が気に病むことじゃない。だが理由は気になるな。この家の主、我らが『探偵』殿はどうした?」

「最近は帰ってきてませんね」


「どれくらいだ」

「一か月は顔も見てません。ずいぶんとあわただしいな、と感じたのはもっと前からですが」

「何かあったのかね」


「ただの事件の調査、という感じでもないですけどね。なんせ行く先が広すぎるんです」

「どこに行ってるんだ」

「グランブルト王国が支配する領土の端から端ですよ。ズーニマナーカとか、カクテンシアとか」


 クルビエはおいおい、とため息交じりの声を出す。

「そんなの行くだけでも馬で五日はかかるところだろう」

「別にこの街には転移魔術があるんですから、どこまで行こうと一瞬でしょう」


 ロビンの不思議そうな声に、クルビエはいやいや、と首を振る。

「さては君、ロクにグランブルトから遠く離れたことないだろう」

 ロビンはムス、と不満げに口元をとがらせた。

「なんですかその嫌味な言い方」


 クルビエは一段声の調子を落とし、

「すまない、そう聞こえたなら反省しよう」

 すい、とカップのコーヒーを一口含み、ふう、と息をつく。


「最近はどうもろくでもない奴の相手が多くてね、口が悪くなっていけないな」

「別に責めるつもりはなかったんですが」

 申し訳なさそうにするロビンを見て、クルビエはふむ、と一度うなずくと、


「じゃあ反省終わり」

 と言って机に肘をつき、小さく欠伸をする。

 あまりの変わり身の早さに、ロビンはじと、とした目線を向ける。


「いいんですか、それで」

「そりゃあいいだろ。とりとめもないことで遠慮しあうよりは、さっぱりしてる方が」

「それはそうですけど」


 ロビンは、謝る側が言うセリフではないだろう、と言う言葉を喉の奥に飲み込んだ。

「それより、どうして僕がグランブルトからあまり出たことないって思えるんですか」

「簡単な推測だよ」


 クルビエは、彼の真似事じゃあないがね、とつぶやきながら、空の席をちょんちょんとつつく。

「このグランブルトから遠く離れるなら転移魔術を使わない手は多くないし、頻繁に使う人間は君みたいにたやすい移動手段とは思わない」


「何度かは使ったことありますよ。気分のいいものじゃなかったですけど、便利な乗り物じゃないですか」


「あれ、乗るモノと表現してもいいのかは疑問だけどね」


 クルビエはカップをおろしながら、『利便性に関してはキミの言うとおりだ』、と笑う。


「馬なんかと比べると君を移動する時間はずっと短い。だが、君が移動そのものにかける時間を考えると、馬を使った方が早く行けるかもしれない」


「とんちですか?」


「違う。ロビン君、少し講義といこうか」

 クルビエは机の上の羽のついたペンを手に取りながら、袖の下から一枚の紙を机に放り投げる。

「転移魔術にかかるコストというのを考えたことあるかい」


「そりゃあ、魔力でしょう。必要な魔力は並みじゃあありません」

「一つは間違いない。街と街の間を転移する、となれば出先、そしてそれの受信先である『ポータル』が必要だ。大規模な魔力を供給する装置が必要――つまり、限られた場所でしか使えない」


 クルビエがペンを滑らせ、紙の上部に二つの円を描き、その中心に『空間』と大きく記す。

「もう一つ。時間が必要だ。膨大な魔力を扱うには、大規模な魔法陣か、長時間の詠唱もしくはその両方がなければ難しい」


 さらに、下部に小さく精緻な円と、その内部に毛を生やすように複数の棒が描かれる。

 円の中心に向かうような線が無数に書かれた幾何学的な文様。

 ロビンは思わず首をかしげた。


 ――黒くてとげとげした、海の生き物にこんなのいたような気がするが、何の比喩だろうか。

 クルビエはその様子を視界の端に捉えると、『時間』と付け足すように文字を足した。

 ――時計の絵か。

「悪かったな、絵が下手で」


 ロビンが思うに、細かいところから書きすぎなんじゃあないか。

 つまるところ、描くのが下手なのではなく、要所を抜き出すのが下手なのでは――とは、はっきりと口にせず。

「――いや、いや。時計ってことはホントに分かってましたよ? ただそれが意味するところはなんだろうなあって考えてただけで」


「……時間と空間と言う概念が魔術においても、この世界においても重要だ、なんてことは初歩の初歩だろう、知らない奴がこの世界にいるもんか」

 クルビエの声が少しぶっきらぼうに、不満をありありとあらわにしていた。


 ロビンは余計なこと言ったかもしれない、と内省しつつ、「それはともかく、気になるんですが」と少し声を大きめに話題を切り戻した。


「いくら転移魔法といってもグランブルトの中心街からなら、国内のどこへ行っても詠唱に一時間もかかりませんよ。待ち時間まで含めたって午前中に出て正午を回るまでにはすべてが終わってます」


「そりゃあ、グランブルトは転移魔術を扱える人間が多い。複数人で同時に詠唱することで時間の短縮に努めてるんだ、だから、待ち時間だって短いし、発動回数だって多い。だが、田舎は違う。さっき言ってたカクテンシアなんてグランブルトからだって週に一回しか出てない」


「そんなに少ないんですか」

「面で見る方が分かりやすいかな、こういうのは」


 クルビエがポケットから雑多な魔石を机に放り投げる。

「首都を黒い魔石、青い魔石をポータル、紅い魔石を転移魔術が扱えるチームとしようか」

 手際よくより分けられた魔石のうち、青いものは魔力を込めて机に手際よく配置されていく。

 ロビンはその状態を見て、地図こそないが、グランブルトの主要な街を模しておかれたものだ、と理解する。


 しかし、そう考えると、おかしな点がある。

「赤い方の数が足りませんよ」

「いやあ、これでいいんだ。主要な街のポータルが26、そして現実的なサイクルで転移魔術を扱えるチームは――現状、10しか機能していない。それも、グランブルトとの双方向のみで、他の町同士を結ぶような経路は常備されちゃいない」


 紅い魔石をいくつかの街に配備したあと、パチンと指を鳴らす。

 首都と街を結ぶように、紅いラインが浮かび上がる。

 転移魔術によって結び付けられた町同士の交通網の概念図。

「グランブルト内の主要な街はすべて瞬時に転移ができる……と思っていました」


 むしろ、今テーブルの上の意思の関係を見れば、転移魔術が使えないかのような街の方が多く見える。

「移動先の数に対して転移魔術を扱える人間の数は足りない――転移魔術を使える人間の育成不足と、国家の政策の見切り発車が招いた結果だ」

 クルビエはそこまで話してから「……ま、そんなつまんない話はいいか」とつぶやき、咳払いをした。


「ともあれ、普段はそんな流通の少ないところに転移魔法を扱える人間を配置できない。だが、客は居る。ポータルを引いたってのに、転移はできない、ってんじゃあまさしくただの無駄だ」

 ペンを手に取ると、紅い魔石しか置かれていない場所を線でつないでいく。


「そこで受け取り専門の転移魔術を使えるチームを別途用意して、各地の転移駅をぐるぐると物理的な手段で回らせることで定期的にポータルが起動できる状態にしたんだ」

 ぽい、と放り投げられたいくつかの赤い魔石が引かれた線の上に落ちる。


 パチン、とクルビエが指を鳴らすと、紅い魔石は線の上を転がりだす。

 ころころと回った先で、青い魔石と衝突する。

 同時に、首都の黒い魔石と、街を結ぶ紅いラインが浮かび上がる。

 数秒後に赤い魔石はまた街を離れ、線を辿って転がっていく。


「転移魔術を使うために馬車を使って転移魔術師を移動させる、なんて妙なことをしているわけだ」

「乗合馬車みたいなものですか」

「そう。決められた時刻表の間だけポータルが起動し、受け取り部隊がその駅に到着したときだけ、その駅との転移魔術が使えるようになる、という仕組みだ」


 クルビエはペンとインクを横に避けてから、とんとん、と机の上に出来上がった転移魔術の概念図を指し示す。

「つまるところ、簡単な旅行程度に使うにしては日程調整なんかが面倒でね。調べもの程度の理由でひょいひょい使うにしては結構不便なんだ」


 ロビンは感心したようにため息をこぼしながら、クルビエに視線を戻す。

「しかし、詳しいですね」

「すまない、しゃべりすぎたかな」


 クルビエはばつが悪そうに眼を背けつつ、魔石をしまい込んだ。

「いえ、むしろすごいな、と驚いていたくらいです。こういう、魔術と直接関係しないことにまで詳しいと思ってなかったので」


「社会学の概論みたいなものだが、魔術が関わるからね。たまに臨時で教えることがあるんだ。キミが熱心に聞いてくれるもんだから授業でもないのについ教鞭をふるってしまった」

「現役の教師らしく、わかりやすかったですよ」


クルビエは茶化すなよ、と言ってそっぽを向く。

「そういえば、あの男にもこんな話を以前したな」

「先生ですか」


「ああ。今ここにいない『探偵殿』だよ。あの男はどうも魔術の話は呑み込みが遅いが、転移魔術の話はすぐにピンときた、という顔をしていたな」

「先生は別の――どこか遠いところから来た、と言っていましたからそちらではなじみ深いものだったのかもしれませんね」


「妙なやつだよ。それで、あの男は各地を回ってどんな情報を集めてるんだ?」

「物流とか、情勢とか、地理とか。なんというか、集められる情報をすべて集めようとしているんです。ほら、あっちの部屋に積んであるものは全部先生の集めた資料ですよ」


 ロビンが指さした先は、ぞんざいに資料が敷き詰められた部屋。

 クルビエはなるほどね、とつぶやく。

「目的は分からないが、手段は見慣れたものじゃないか」

「そうですか?」


「最初に資料を集めて、そこから謎を解き明かそうとする。いつもの探偵業じゃないか、彼お得意の」

「でも、おかしいでしょう。そんな国全体の情報が必要になることなんてありますか」

「なんだ、理由は聞いてないのか」


「ここしばらく顔も見ていないんですよ。無事と居場所を知らせる手紙が時折送られてくるくらいで、何のために動いているのかも教えてくれないんです」

 とんとんとん、とロビンは焦りを隠せないかのように机を指でたたく。


「キミを巻き込めないような理由があるってことだろ」

 クルビエは目を細めほほえみながら、コーヒーに口をつけた。

「なんだか、ずいぶんと落ち着いていますね。心配の一つもないんですか」

 まあね、と言いながらクルビエはカップを机に戻す。


「ボクからすると彼はどこからともなく現れていつの間にかいなくなる、風みたいなやつだからな。つかみどころもなければ心配のしようもない」

「でも、理由くらいは気になるでしょう」


「気にはなるけどな」

「推測できたりしませんか」

「この場でわかるくらいなら新しい探偵を名乗って事務所を乗っ取ってやるよ。推測するとしたらせいぜい、やましいことでもあったんじゃあないか、ってくらいだ」

「何ですか、それは」


「キミに理由を隠すなんてそのぐらいのことだろ」

「具体的には何だと思います?」

 クルビエはふむ、と考えるそぶりを見せた後、やや目を伏せてから口を開く。

「今、教えてくれるんじゃないか」


「誰がですか?」

 細く開かれた眼が、静かに滑る。

「外の奴」


 クルビエが玄関を指さすと、少し遅れてごんごん、と木製の扉をノックする音が聞こえてきた。

「知り合いですか」

「いいや。少し前から足音はしてたから、気になってただけだよ」


「話しながらでよく気づきますね」

「これでも冒険者だ。獲物の足音には敏感なのさ」


 二人が話し合う間に、扉はガチャガチャと騒がしくなる。

 岩でも落ちるような音、そして家全体が地震でも起きたかのように震える。

 クルビエは足を組んで座ったまま、ふん、と小さく鼻を鳴らした。


「野蛮な音だな」

「家でもひっくり返そうって音がしてるのによく落ち着いてますね」


 ロビンの首筋に、一本の汗が落ちる。

 対照的に、クルビエは背もたれに体重を預けて悠々としていた。


「この家にはボク特製の結界があるんだぜ? ドラゴン相手だって一夜は持つし、人間じゃあ鍵を知らないと数日かけたって開けられない」


 ドン、ドン、と丸太をたたきつけるような音が響くも、それでも扉は一向に開く気配もない。


「待ってればそのうちあきらめるかもな。とはいえ、あまり騒がしいのは嫌いだし、みすみす情報源を逃がすのももったいないか」


 クルビエは手に持っていたスプーンを布巾でよく拭くと、宙へ向かって放り投げた。


「ああ、ロビン君、少し下がるといい。危ないからね」


 パチン、とクルビエが指を鳴らすと、放り投げられたスプーンは意志を持ったかのように進行方向を変え、扉へと突き刺さる。

 パキリ、とガラスが割れるような音がすると、扉が一瞬だけ青く輝き、それと同時にくるりとドアノブがひとりでに回る。


「うわぁーっ!?」


 外からの叫び声とともに扉が開き、せき止められた水があふれるように数人の男たちが流れ込み、次々に玄関口に倒れこんでいった。

 クルビエはほう、とつぶやく。


「これはまた、珍しい客人じゃないか」


 玄関に倒れている人間、そして奥に控えている者。そのすべてが、制服姿の警官ばかりであった。人数は十人ほど。


「ぐ、愚弄しおってからに」


 中でも、一番前で倒れていた男が吐き捨てながら立ち上がる。

 ロビンが小さく、悲鳴と呼吸の中間のような声を立てる。

 男の図体は頭が天井に届くほど。それでもなお、わずかに狭いといわんばかりに背筋を丸めている。二人との体躯の差はおよそ三倍。


「ふうん、獣人――しかも巨人種か。並の人間の突撃じゃ揺れもしないはずだし、そんなところとは思っていたがね」


 男はゆらり、と体を一度立て直して、二人を見下ろす。

その目は、鋭く、血走っていた。


「貴様、何をした」


 視線の合ったクルビエはくすくすと笑う。


「別に。入りたそうにしていたから入れてやったんだ、そう怒るなよ」

「何ぃ? 扉を開けるときは一声くらいかけるのが礼儀であろうが」

「人の家に来たのなら名乗りと要件くらいは言うのが礼儀じゃないか?」


 クルビエがからかうように言うと、男はぐぎぎ、と音でもしそうなほどに歯ぎしりをした。


「なんだい、声も出ないか」

「……私の名前はノイア。グランブルト警察の巡査だ」

「存外、最低限の礼節はわきまえてるようだ。それで、ノイア君はこの家に何の用があるのかな」


 ノイアは腹立たし気にふん、と鼻を鳴らす。


「この家ではない。家主に用があるのだ」

「なんだ、あの男をまたあてにしようっていうのか、それもずいぶん乱暴に。しばらく見ない間にグランブルト警察というのも粗悪になったもんだ」


 ノイアは、ずん、と一歩踏み込み大きく口を開く。


「私はあの男の今までの業績など知ったことではない」


 怒鳴り散らす大声が窓を鳴らす。

 ビクリ、とロビンの肩が震える。


「こんなところに来たのも今日が初めてだが、どうしてもあの男を引きずり出さねばならん。もし隠しているなら早く差し出せ」


 クルビエは肩肘をついたまま、青筋を立てているノイアに人差し指を向け、ぼそりとロビンにつぶやいた。


「なんかアイツむかつくな。そう思わないかロビン君」


 ロビンはそれを聞いても視線を背けるばかり。

 クルビエはそれを見て、ふむ、と小さくうなずくと立ち上がってロビンに近づき、ささやく。


「そう怖がるな。あの手の男は恫喝すればなんでも思い通りになると思ってるんだ。手出しはさせないよ」


 くるり、と紺黒のローブをひるがえして、ノイアに向かって向き直る。


「何をこそこそと話していたんだ」


 ノイアのいぶかしむような視線を、クルビエは気にも留めない。


「キミがむかつくなあ、って話をしてたんだよ。な、後ろの警察官君たちも思わないか」


 呼びかけられた若い警官たちはいっせいにうなずきを返した。

 それを見てクルビエは満足げに笑い声をこぼす。


「なんだ、後ろの若者は素直だな。よし、それに免じてちゃんと話は聞こうじゃないか」


 ノイアは音にならないほど小さな声でうめくと、チッ、と舌打ちをする。


「コケにしおって。おいケアド、アレを出せ」


 後方にいる警官たちに声をかける。


「へいへい、こいつですな」


やや猫背のやる気なさげな警官が、手持ちのカバンから一枚の紙をノイアに手渡す。


「何だい、その紙」


「言っていただろう、要件を伝えるのが礼儀だと。だからほれ、書面で見せてやる」


 ノイアはニヤリと笑うと、手に取った紙をぞんざいに机に置く。


「……なんだって」


 紙を見たクルビエは驚きを隠しきれない、といった声を漏らし。

 横から覗き込んだロビンもまた、目を見開き、声を失っていた。


「探偵を逮捕する。それが我々の目的だ」


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