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すいかの夢 

掲載日:2018/02/22

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と、内容についての記録の一編。


あなたもともに、この場に居合わせて、耳を傾けているかのように読んでいただければ、幸いである。

 ああ、つぶらやくん。今日は図書室で調べもの? 天気がいい日くらい、みんなと一緒に外で遊んだらいかが? 運動不足は身体によくないって聞くわよ。

 ――そういうお前こそ、外に出るべきじゃないか?

 ご忠告ありがとう。でも私、ドクターストップを食らって、運動するなって言われている身だから。話してなかったっけ? 

 それは悪かったわ。何度も色々な人に話をしていたから、誰に話したか把握してなかったかな。ごめんね。

 ――何を読んでいるかって? 占いの本よ。夢占いの本。

 つい最近まで引きこもらざるを得なかったから、ここぞとばかりに寝だめをしたわよ。おかげで興味深い夢を色々見られてね。その研究をしているってわけ。

 ――何か成果を聞きたいっていう顔。

 いいわ。私の夢のことじゃないけど、私が寝たきりだった時に、聞いた話をしてあげる。

 

 これは親戚のおばさんが、体験したこと。

 家の事情で都会から、地方に引っ越すことになり、新しい学校に通い始めて数週間が経った頃。おばさんはこれまで、取り立ててやりたいこともなく、親に言われるがままにダラダラと過ごしていて、今回の引っ越しも、たいして関心を持っていなかったみたい。

 おばさんのクラスでは、夢占いが流行っていた。クラスの女の子の一人が、空き時間にみんなを集めて、昨日見た夢を参考に、色々なアドバイスをしてくれるの。

 当たるも八卦当たらぬも八卦とはいうけど、彼女の言うことは、およそ7割がたは的中していた。クラスのみんなは、こぞって彼女に占いを頼んだらしいけど、おばさんはまだ、この学校に来てから、占ってもらったことがなかった。

 

 おばさんはこちらに来てからの数週間で、夢を見ていない。いや、誰でも夢は見ているらしいから、厳密には、寝ていた時の夢を覚えていなかったの。けれど、周りのみんなが彼女に占ってもらうたびに、「君は占ってもらわないのか」と、しつこく尋ねてきたんだって。

「覚えていない」と、素直に話しても、「この数週間、ずっとだなんて考えづらい。本当は彼女を、ひいては、この学校をバカにしているんだろう」と、ひどく突飛な言いがかりまで、つけてくる始末。

 これにはおばさんも、カチンと来たんだって。

 本当のことを話しているのに、信用してくれないのなら、でたらめを言って、黙らせてやる。そして、うその答えに満足する愚かな連中を、一人、心の中でほくそ笑んでやる、と思ったらしいのね。

 おばさんは彼女に、でっち上げた夢を告げる。


「私、すいか畑の中に立っていて、何となくすいかを探していたの。けれども、なかなか見つからなかった。気づいたら日が暮れかけていたけど、どうにか一つだけ見つけたの。ピンポン玉くらいの小さい奴を。そこで目が覚めたっけ」


 おばさんが話し終えた時、彼女は真っ青な顔になっていた。それだけでなく、周りのみんなもざわつき始めて、おばさんは大きな得意さと、少しの不安を覚えたの。

 彼女は静かに告げる。すいかの夢は、命のカウントダウンなんだと。


「大変な夢。そのすいかはね、何人もの夢を経て、どんどん大きくなっていく。そして、また自分のもとに戻って来るんだ。ボール送りリレーのように、いずれね。けれど、この夢はまた、『ロンドン橋落ちた』のゲームと同じで、時間制限がある。どんどん膨らんで膨らんで、いつかは弾け飛んじゃうんだ。その時、手元に持っていた。つまり、はじけ飛ぶ夢を見ちゃったのなら……死んじゃうよ」


 真剣に語る彼女。おばさんは話の不気味さが気にかかったけど、それ以上に、彼女も周りの連中も、ウソでかき回してやった、という快感が勝ったみたい。

 さんざんバカにしておいて、いざ、それらしいホラを吹けば、それを信じて青ざめる。表に出さなかったけど、腹がよじれそうなくらい、こっけいな様子だったんだって。

 おばさんの心の中での上機嫌は続いた。実際に夢の中で、すいかと出くわすことになる、その日の夜までは。

 

 おばさんが夢の中で見たすいかは、テニスボール並みの大きさを持っていた。そして3日後にも同じ、すいか畑の夢。そこでは野球ボールほどの大きさ。すいかは少しずつ大きくなっていた。

 目が覚めた時からずっと、かすかに胸が痛い。一回脈を打つたびに、一粒の砂が心臓の壁の内側に溜まっていくような、錯覚すら覚えた。

 おばさんは急に不安になってきたの。本当に彼女の言った通りに進んでいるかも知れない。

 ウソを語っていた時の余裕はどこへやら。おばさんは焦りを隠さず、彼女にすがりついたけど、彼女は「私の力じゃ、どうしようもできない」と首を振った。


「いつ爆発するかは、誰にも分からない。次かも知れないし、ずっと先かも知れない。けど、眠ることはやめないで。寝ずにいると、あなたのところでリレーが止まる。それは時限爆弾を抱え続けるのと同じだから。寝て、起きて、初めてリレーは回るのだから」


 彼女はそう告げると、またいつものように、みんなの夢占いを始めたんだって。


 それから、おばさんはすごく悩んだ。

 寝ずにいれば、爆弾は確実に爆発しない。でも、寝た瞬間が命の切れ目かも知れない。

 かといって、何回も眠ったとすればそれだけ、爆弾を手にする機会を増やすことになる。それは自分から死にに行くことと同じ……。

 

 私は死ぬんだ。いつかは分からないけど、絶対に死ぬんだ。

 おばさんは急に怖くなってきた。安らかな死に顔とか、フィクションではよくあるけど、実際はどうなのだろう。息を永遠に止められるというのは。

 どれだけ苦しいのだろう。どれだけ苦しめば楽になれるのだろう。

 いや、楽になれるなんて、天国があるなんて、生まれ変われるなんて、全部全部、生きている人から聞いたことばかりじゃないか。逝って戻ってきたと話す人がいても、それが本当だと分かるすべなんてない。

 怖い。分からないことが、怖い。このままずっと、立ち止まっていたい。眠ることをどこかに置き去りにしたい……。

 けれど、彼女は言った。「眠ることはやめないで」と。「寝て、起きて、初めてリレーは回る」とも。

 眠らなければ、待っているのは、数日間の確実な生と、確実な死。でも眠れば、待つのは伸び続けるかも知れない生と、避け続けられるかも知れない死。

 私は死にたくない。だったら、選ぶものは決まっている。

 

 それからも、おばさんの夢に、しばしばすいかは現れて、じょじょに大きくなっていった。だけど、おばさんはそのことを彼女に相談することは、二度となかったみたい。

 いつかは死んでしまうのに、じっとしていることなど、目に見えない遠くにある、死の影を引き延ばして、自分にくっつけることと同じ。

 死の延長線上に立つ。これこそが「死」なんだ、とおばさんは思ったんだって。

 だからおばさんは、流されるのをやめた。人の意見は聞く。その上で、自分の意見を貫こうと思ったんだって。

 結局おばさんは、親が望んだ名門校への進学を蹴って、国際コースのある学校に進むことを決めたみたい。自分のやりたいことは、実は日本でないところにあるのかも、と考えたらしいの。


 おばさんは今でも、世界中を飛び回っていて、めったに会うことはできないんだ。でも、今でもすいか畑の夢を見る。

 もうすいかは、おばさんの身体より、ずっとずっと大きく育っているんだってさ。



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