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いつかあなたとあの海で心中したい  作者: 兎虎彩夜華
第1章 選択のその先
8/14

7星 意味がわからない

ピッピッピッ......

「ゆっくり目開けてー」


ピッピッピッ......

「月、わかるかー? 」


ブクブクッ......

「そろそろ起きろー」


月は呼吸用マスクで繋がれて水槽――療養液で満たされたカプセルに入っていた。


次第に液が抜かれていき、ぼやけていた視界がはっきりする。顔が液から出たくらいで廃液は止まり、呼吸用マスクも外された。


「ゆっくり呼吸してー」


「すぅー......って、康本先生⁈」


そこには、白衣を着た康本優連(やすもとゆうれん)


「なんや、ゆっくり呼吸してー」


「はぁーって、そんなことより、もがっ」


「俺は呼吸せえって言ったんや」


康本は、月の口に呼吸用マスクを押し付け、半ば強引に黙らせる。


「ふぁんふぇふぇんふぇえふぁふぉふぉふぃふぉふんっ」


「うるさいわ。俺は医師免許も持ってんの。それより、今から議会やから早く着替えてこい」


助手のような人たちにカプセルから引き上げられ、着替えやらなんやら、全て月は直立不動のまま行われていった。


10分後、月の頬は紅で満たされていた。


「いやいや、なんですかこのフリルは」


「すごく迷った俺にむしろ感謝してくれ」


「え、この服先生が選んだんですか?ロリコンだったんですか」


「ちげーし。お前を出席させるかどうかの話だよ」


なんて話をしている間も2人の足は長い廊下を進み続け、やがて目の前に巨大な扉が現れた。


「とゆうか、さっきから議会とか出席させるかとか、このでかい扉とかなんなんですか」


月は康本の足が止まるのに気付かずに、彼の背中に激突。ふげっとかゆう効果音とともに立ち止まった。


「行けばわかる」


たしかに彼はそう言ったが、月が鼻に走る激痛にもがいている間に忽然と消えてしまった。


どこからか、一声。


「陣の中央へ」


言われるがままに、床に書かれた円と五角形の中央に足を進める。




徐々に月の周りに光る蝶が集まってくる。眩しさに目を細めた瞬間、月の体を浮遊感が襲った。ジェットコースターに乗った時のような感覚が波のように断続的に押し寄せ、猛烈な吐き気が月を侵した。


「汝を虚無の民とみなし、ここに神聖なる議会への出席を認める」


体から離れかけた意識はこの言葉によって呼び戻された。


目の前にはさっきの陣。に、


「うげえぇー」


と月は吐かずに声だけで気持ち悪さを表現する。


「本当に吐かない人は久々ね」


透き通った鈴のような声に、鳥肌が立った。


「戻って来い。生きたいなら早くこっちへ」


更に筋肉が硬直する。

間違いない。今再現して聞かせた声は、白と黒の彼女らがいた、あの夢の中で聞こえてきた声だ。


「だ......れ?」


声の主は一息ついて言った。


「纈。纈冬志(ゆはたとうじ)だよ。やっぱり覚えてないんだね。」


見上げると、斜め上の方向にたくさんの顔が見えた。その中でも一際目立つ白い髪の少女が月にそう言った。


「貴方は、あなたたちは何者?」


「我々は地球救済連合。難しい言葉を使っているけれども、まあ君の姉の婚約者さんより地球を知っている集団だよ」


(地球救済連合......どこかで聞いたことがあるような、無いような)


「まあ、君も『目覚めた』のだし、私達が各学校で立ち上げている“地救部”に入りたまえ」


「意味わかんないし。なんでお姉ちゃんのこと知ってるのっ」


勢いのまま立ち上がると、目の前がふらついてこけてしまった。




気づけば元いた扉の前に戻っていた。

何が何だかよくわからず固まっていると、康本優連が蝶にまとわれて帰ってきた。


「あいつらもそろそろ帰ってくる。いくぞ」


「先生もあの中にいたんですか?」


あの中とは、纈冬志なる人物の周りにいた人達のことだ。


「おう」


手短に返答し、へたり込んだままの月を立たせる。


「もう何が何だかわからないんで、説明してもらっていいですか」


「わかった」


わかったと言ったものの、長い廊下を出るまで彼が口を開くことはなかった。


行きと同様に床を見て歩いていたら、いつのまにか真っ暗な部屋に着いていた。


「ここで話そう。俺の部屋や」


「え、自分の部屋に中学生連れ込むやばい男だったんですか」


「ちげーし。俺の診察室。」


照明を点けると診察室というよりはカウンセラー室のような、白で統一された部屋が現れた。


「確かに診察室」


月を手前の椅子に座らせ、透明のワイングラスに何やら液体を入れて持ってきた。


「これ飲んで」


「何ですかこれ」


「いいから早く」


なんて言われるもんだから一気に飲み干すと、甘いような苦いような変な味がした。


『どうや?聞こえとるか』


と、意味不明な言葉が飛んできた。


「何ですかそれ」


「ちょ、喋るなや」


『お前が飲んだやつ、テレパシーに使う液体や』


「あの、それどうやってるんですか」


月には康本の言う“テレパシー”が使えないようだった。


『この部屋での会話は音声記録されとるから、テレパシーにしようと思ったんやけど......無理そうやし地球模擬体験装置にするか』


そう言って、月を隣の部屋にある地球模擬体験装置に移動させた。


『俺は後から行くから、着いたとこでちょっと待っとって』


最後までテレパシーで一方的に話し、月に有無を言わせなかった。


本当にもう、何もかも意味がわからなさすぎて意味がわからない。


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