6星 彼女たち
何かにクスクスと笑われている。
高めの話し声が目の前を通り過ぎて行く。人が寝ているというのになんなんだ。
あれ。なんで寝てるんだったっけ?
ああ、急に優奈ちゃんが倒れて、私も気を失って。その後、康本先生が来て......
「月」
その声は私を呼ぶ声。
目の前の“黒”に隠れたさっきの彼女らの声。
「月、おいでよ!」
なんだか安心できる優しい声。
白いベールに隠された彼女はまるで花嫁のよう。赤子を抱く母のように腕を広げてやってきた。
「月、おいでよ?」
今度は後ろの“白”から彼女の声が聞こえてくる。
振り返ってみると......黒いベールにくるまれた彼女がゆっくり近づいてきた。まるで母に歩み寄る子のように。
自分に触れる直前、今度は黒と白が混ざった曖昧な空間から声が広がる。
「月、まだ行くな」
「戻って来い」
どこに?てゆうか誰......誰。
聞き覚えはあるけど誰の声?
「生きたいなら早くこっちへ」
そう言って誰かわからないその声は何処かへ消えていった。生きたいならって、何?
そう思った瞬間、前後から右手と左手を優しく掴まれた。
「「おかえり」」
そう言って彼女らに手を引かれ、ゆらめく灰色に足を踏み入れた。
途端、まばゆい輝きがまぶたをかすめ、反射的に目をつむる。
「「起きてっ」」
空気だったはずの背後に柔らかい感触。
土の匂いに空の匂い。
ゆっくり目を開けると、そこには虹色の空が広がっていた。夜の紺、夜明けの白群、朝露の緑、夕暮れの黄、夕焼けの橙、日没の赤、そしてまた......思わず見入ってしまう美しい光景。
気づかぬうちに頭の左右に白と黒。
彼女らが座っていた。
「私たちのこと、忘れちゃった?」
「私たちのこと、覚えてる?」
未だベールに隠れて見えないが、その顔が微笑んでいるのはわかった。
「もう時間切れかぁ」
「もう時間切れだぁ」
交互に喋る彼女らは、徐々に下から透明になって空に薄れて行く。
「「いってらっしゃい。私たちのこと、今度こそ忘れないでね」」
そう言って彼女らは、虹の彼方に消えていき、自分の存在も風化する。
機械音の混ざる水槽で目を覚ましたのは、運ばれた1週間後だったそうだ。
更新、遅くなって申し訳ありません。
今後もよろしくお願いします!